第29話 再ステータス検査
受付のお姉さんにミチコが書いた紙を手渡す。
「それではステータスの再検査をお願いします」
「どうしてですか?」とミチコが尋ねた。
「身分証明と記録の確認のためです」
ニッコリと笑ってお姉さんが言った。三十代前半ぐらいのOLである。
お姉さんが丸い球体を手で示す。
前もやったステータス検査だった。
「それでは道端ミチコ様から」
丸い球体に小さい手が置かれる。
「前回とお変わりありませんね」
「はい」とミチコが呟く。
「次は新庄かな様」
丸い球体にお嬢が手を置く。
「レベルが上がっていますね。新しくステータスプレートを発行します」
銀の小さなプレートがすぐに出来上がる。
お嬢はお姉さんからステータスプレートを受け取った。
「どれぐらいレベル上がったの?」
俺が尋ねると小さい銀のプレートを俺の顔に近づけた。
名前:新庄かな
称号:炎で焼きつくす者
スキル:炎
ランク:D
レベル:9
「あれ? 俺にはレベルの表記が無いんだけど?」
ネックレスみたいに首にかけていたステータスプレートを取り出して見る。
「Fランクだったんでしょ? レベルが無かったんじゃない?」と新庄かなが言う。
「私にもありません」とミチコが言う。
ミチコもネックレスのようにステータスプレートを付けている。
少女のステータスプレートを覗き見た。
名前:道端ミチコ
称号:重力を調整する者
スキル:万有引力
ランク:F
たしかにレベルの表記が無かった。
「そう言えばミチコのスキルって強そうだな」と俺が言う。
「そうですね。レベルを上げて熟練度を上げれば、かなり多様性があるスキルだと思います。Sランク冒険者にも同じスキルの人がいますし」
「激レアスキルね」とお嬢が言う。
俺達の会話を待ってくれていたお姉さんが咳払いをした。
「それじゃあ小林光太郎様」
丸い球体に手を置く。
「前回からレベルが凄く上がってますね。こんなレベルの上がり方をした人は見た事ありませんよ。ステータスプレートを発行しますね」
お姉さんから小さい銀のステータスプレートを受け取った。
名前:小林光太郎。
称号:成長する者。
スキル:???
ランク:C
レベル:15
「凄いじゃない」とお嬢が言った。
「小林さんがうちの要ですね。小林さんの能力は、もっと研究しなくちゃいけませんし」
とミチコが言う。
「無能のくせにレベルが15だって」と田中中が驚いでいる。
そう言えばコイツの前で魔物を倒したことが無いんだっけ?
「下級戦闘員のくせに。ムーバのくせに」と田中が呟く。
ムーバというのは無能のバカの略らしい。ムカつく。
「コイツ仲間から外そうぜ」と俺が言う。
「嘘嘘。ごめん。光太郎さん。アナタがそんなに強いって思っておりませんでした。ステータス検査の機械壊れているんじゃないか?」
「そんな事はありません」と受付のお姉さんが言う。
「それではサトウ◯ケル様」と受付のお姉さんが紙を見ながら言った。紙にはサトウ◯ケルと書かれている。「お願いします」
「我の力を見せる時が来たか。汝、闇に眠れる力を示せ」
余計なことを言って、田中が球体の上に手を置く。
お姉さんが画面を見て、「ん?」と首を傾げる。
「僕もすごいレベルが上がっていただろう」
「レベルは前回とお変わりありません」
「えっなんで? すごい激戦をくぐり抜けてきたのに」
「くぐり抜けて来ただけじゃないですか? 魔物は倒しましたか」
「一匹も倒しておりません」
「名前が田中中となっておりますが、紙に書かれたサトウ◯ケルというのは偽名でしょうか?」
「田中中と書いて、サトウ◯ケルと読みます。もしくはキ◯プリと読みます。腹筋はシックスパックに割れています」
「偽名は使わないでください」
「しゃみせん」
「誰も腹筋のことなんて聞いてないじゃないですか」とミチコが言った。「そんなお相撲さんみたいなお腹に腹筋が割れていたら奇妙ですよ。それに田中中って名前だったんですか? なんで私に偽名を使ったんですか? 意味がわかりません」
お嬢は田中中の発言を聞いて立ちながら貧乏揺すりをするぐらいイライラしている。もう少しで田中中は殺されるだろう。
「冒険者ネームでしたら別に登録可能ですが?」
「いえ、結構です」とお嬢が言う。
「えぇーー、なんで? 今から冒険者ネーム考えようとしてたのに」
「邪魔臭いことしないでよ。殺すわよ」
鋭い目でお嬢は田中中を睨んだ。
「しゃみせん」
「田中さん、さっきから謝るフリして三味線って言ってるでしょ?」とミチコがツッコむ。
お嬢が田中の足を思いっきり踏んだ。
「痛っ」と田中。
「三味線って言ってみただけじゃん」
「それじゃあ登録はコチラでよろしいでしょうか?」
サトウ◯ケルを修正して田中中に手直し、お姉さんが紙を差し出した。
「はい。これでいいわ」とお嬢が言う。
お姉さんがパソコンでパチパチとキーボードを叩きながら俺達をパーティー登録してくれている。
「お前のステータスプレートを見せろよ」と俺が言った。
「嫌」と田中が言う。
「なんでだよ?」
「嫌なもんは嫌だもん」
お嬢が田中のポヨンとした腹を殴った。
ウゲェボ、と田中が変な声を出す。
「田中さん。私達はこれから一緒に戦うんです。アナタのことを把握しなくちゃいけません」
とミチコが言った。
「嫌です」と田中が言う。
お嬢が田中の腹を殴る。
ウゲボ、と田中が変な声を出す。
「わかったよ。見せればいいんだろう。見せたからって返品はできないよ」
田中中もステータスプレートをネックレスにしているようで、首からステータスプレートを外して、ミチコに手渡した。
少女は先にウンコがついた棒でも触るように、ネックレスを摘んだ。
そのせいでステータスプレートがクルクルと回っている。
「そんな汚い物でも触るみたいに触るなよ」
「汚い物なんです。本当は指で摘むのも嫌なんです。なんで私に渡したんですか?」
ステータスプレートの動きが安定して、書かれている内容が読めるようになった。
三人で田中中のステータスプレートを見た。
名前:田中中
称号:逃げきる者
スキル:ヒール
ランク:F
「称号が逃げきる者だって」
とお嬢がクスクス笑ってる。
「だから見せたくなかったんだ」
と田中中が大きな頬を膨らませている。
「これは最弱の称号ですね」
とミチコがクスクス笑っている。
「これは誰にも見せたくないよな」
俺はクスクス笑った。
「逃げきり、そして魔物を死滅させる者。それが僕の称号なんだ。それが僕の使命なんだ」
「どこにも魔物を死滅させる者なんて書いてないじゃないですか」とミチコが言う。
田中はステータスプレートをミチコから奪い取り、首にかけた。
「凡人には見えないの」
「そうですか」とミチコが言う。
「パーティー登録できましたよ」とお姉さんが言った。
「師匠制度を受けるためにはどうしたらいいですか?」とミチコが尋ねた。
俺達は冒険者ギルドにパーティー登録と師匠制度を受けにきた。
ゴブリンバーストから数日が経った。
日本政府は自分達の失態をリカバリーするために新しく制度を設けた。それが師匠制度である。Bランク以上の冒険者が弟子をとる制度である。
日本は冒険者を育てないといけなかった。
師匠制度は根本から解決できる制度ではない。無いよりはマシ、という絆創膏のようなモノだった。
冒険者の教育は緊急性があった。
緊急性がある教育、というのは日本オワタ状態であることを示している。
時間をかけてやるべきものが明日にでもどうにかしないといけない状態に日本は追い込まれていた。
ゴブリンバーストから数日しか経っていないのに世界でもダンジョンバーストが起きている。
もしかしたら〇〇市のバーストがトリガーになって、ダンジョンが活発化しているのではないか? と言われている。
世界ではバースト状態でダンジョンが出現したことも報告されている。
もしかしたら日本でもバースト状態でダンジョンが出現するのではないか?
だから冒険者の教育は、明日にでも対応しなければいけない問題になってしまった。
今までやってこなかったツケが回ってきたのだ。
「師匠制度はコチラで登録しておきます」とお姉さんが言った。
「ただ高ランク冒険者が師匠になってくれるかはわかりません。もし師匠になってくれる人がいたらコチラから報告させていただきます。小林様の電話番号にかけたらよろしいでしょうか?」
「はい。お願いします」とミチコが言う。
「なんで俺なんだよ?」
「リーダーにしときました。嫌でしたか?」とミチコ。
「別にいいけど」
「僕がリーダーでしょ?」と田中が言う。
「黙れデブ」とお嬢が言う。
「お嬢も俺がリーダーでいいのか?」
「別になんだっていいわ」
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