第28話 パーティー結成!!

 三人で冒険者ギルドに来ていた。

 パーティーを組むためである。

 四角い建物の中には、病院の受付のように座り心地が悪いソファーがズラリと並んでいる。

 市役所のように幾つかの受付がある。

 パーティー結成や解散などをする窓口まで行くと受付のお姉さんにココに記入してくれ、とA4サイズの紙を渡される。

「今時、紙かよ」と俺。

「仕方がありません。こういうところは遅れていますので」とミチコが言う。

 俺達は座り心地が悪いソファーに座った。

 俺の隣にはミチコが座り、その隣にはお嬢が座る。

 真ん中に座るミチコがランドセルから下敷きを取り出した。

 彼女は学校もないのに、ずっとランドセルを背負っている。

 ミチコの学校は消えた。編入とかしなければいけないのだろうけど、まだそこまでしていない。

 ランドセルの中には筆記用具などが入っている。さすがに教科書は家に置いてきていた。

 使っていないリュックをあげると言ったのに、「小林さんにはお世話になりすぎているので、そこまでしていただいては気が引けます」と言って受け取らなかった。

 だから学校もないのに茶色いランドセルを使い続けていた。

 ミチコは前髪につけていたヘアピンを取り、下敷きと紙をヘアピンで挟んで落ちないようにした。

 少女の髪型は相変わらず綺麗な三つ編みが二つ。

 ヘアピンを取ったことで前髪が眉毛までかかった。

「それじゃあパーティー名から考えましょう」とミチコが言った。

 パーティーと言えば答えは一つしか思いつかない。

「マ◯オパーテォーでいいんじゃないか?」

「なにをテレビゲームを楽しもうとしてるんですか? 却下です」

「それじゃあパジャマパーティーとか?」

 お嬢が真剣に考えて答えた。

「夜寝るまでがパーティーだよね、じゃないんです。却下です」

「わかった。たこ焼きパーティー」

 と俺が言う。

「大阪の人が家でたこ焼きする時、なぜかパーティーってつけますよね。却下です」

「わかったわ。お鍋」とお嬢が言おうとした。

「もう結構です。私が付けます」

「ちょっと待った」

 と声が聞こえた。

 その声には聞き覚えがあった。

 振り返ってはいけないような気がした。

「君達、パーティーを組むのか?」

 田中中である。

 太った男が俺達が座るソファーの前まで来ていた。

 なんでコイツがここにいるんだよ?

 つーか、生きていたんだな。

「ミチコは何かパーティー名を考えているのかよ?」

 目の前のデブを無視して尋ねた。

「こんなのはどうですか?」

 紙にミチコが書く。

『子どもの終わり』

 ミチコが小さな手で書いた綺麗な文字を見ていた。

 両親が死に子どもではいられなくなった女の子が考えたパーティー名。

「自己紹介してなかったっけ?」

 と田中中が言う。

「いえ、しております。サトウ○ケルさん」

 とミチコが言った。

「僕の名前はキングア◯ドプリンス。五人を一人でやっております。キ◯プリと呼んでくれ。これをパーテー名にしよう。キ◯プリ。いい案じゃないか」

「私はミチコが付けたパーティー名でいいわ」とお嬢が言う。

「俺も賛成」

「それじゃあ名前を記入して提出しましょう。小林さんの住所を書いていていいですか?」

「俺ん家の住所もう覚えたの?」

「もちろんです」とミチコが言って、俺の住所を書き始める。

 田中中が土下座した。

「どうか、どうか僕をパーティーに入れてください」

 ミチコは黙々と住所を書いている。

 俺は田中中を黙って見る。

 お嬢もデブのことを見ていた。

「誰も僕をパーティーに入れてくれません。パーティーに参加してダンジョンに入ることも断られ始めました。だから次のダンジョンに入ることができません。仕方がないのでココで直談判をしているのですが無視され続けております。防具でお金を使ったので罰金を返すこともできません。みんなもご存知だと思いますが、罰金の額が莫大すぎるのでダンジョンに入るしかありません。両親に迷惑はかけたくありません。どうが僕をパーティーに入れてくれませんか?」

「可哀想な人ですよ」

 ミチコが俺を見る。

「ミチコはどうしたい?」

「スキルによります」

「スキルは回復でございます」と田中中が答える。

「どこまで回復するの?」

「将来的には」と田中中が言う。

「将来の話を聞いているんじゃないです。今の話を聞いています」

「かすり傷を治せる程度でございます」

「……かすり傷」

「これから頑張って力を付けていきます。ヒーラーがいればパーティーも安定すると思うんです」

 ミチコが俺を見る。

 可哀想、と思っているのかもしれない。

 可哀想だけでペットは飼えないことは言わなければいけない。

「一度飼ったら、死ぬまで責任を持たなくちゃいけないんだよ。ちゃんとご飯をあげれるか? 散歩ができるのか? それが出来れば飼ってもいいよ」

「条件を付けます」とミチコが言った。

「条件?」と俺が首を傾げた。

「一ヶ月以内に、骨折を治せるぐらいのヒールができるようにならないとクビです」

「ありがとうございます。ミチミチ様。私に一度でもチャンスをお与えいただきまして」

「私も条件を付ける」とお嬢が言い出す。「私のことを見ないで」

「かしこまりました」

「仕方がないですね」

 とミチコは言って、メンバー名の欄に『サトウ○ケル』と記入した。

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