3章 レベルアップするには変態にかぎる

第27話 世界を救いたいと本気で思っている

 あれから三日が経った。

 まだ三日しか経っていないのだ。

 〇〇市は消滅して穴ぼこだけが残っている。

 復旧の見込みはない。

 復旧って何なんだろう? 意味は知っているけど、何となくアイフォンで調べてみる。

 壊れたり、傷ついたりしたものを元の状態に戻すこと、と書かれていた。

 それじゃあ一生復旧なんて無理である。どれだけ時間が経っても前の状態には戻らない。

 ミクは帰って来ないのだ。

 新庄かなのお母さんは帰って来ないのだ。

 ミチコのお父さんは帰って来ないのだ。

 ハイゴブリン達に殺された人は帰って来ないのだ。

 俺達は奪われた。

 完全に敗北した。

 俺達はYOEEEEE。

 ミチコと新庄かなは帰る場所を無くした。二人の家は〇〇市にあったのだ。

 だから俺の家に泊まってもらった。

 もしかしたらミチコは嫌がるかも、と思ったけど新庄かなが一緒だということで、俺の家に泊まることを受け入れてくれた。

 お母さんも快く二人を受け入れてくれた。

 それでも二人の事を考えると住む家を探さなくちゃいけない。

 俺達は冒険者である。ダンジョンに入ればお金を稼ぐことができる。それなりに稼ぐ冒険者パーティーでは事務所を作るのは普通のことだった。

 彼女達とパーティーを組んで、事務所を作りたい。

 そこに二人に住んでもらいたかった。そうじゃないとミチコが気遣いしすぎて死んでしまいそう。

 あまり広い家じゃあないので、二人はリビングに寝てもらっていた。


 〇〇市が奪われた日の夜に俺は何度目かの夢を見る。

 世界がダンジョンのゲードに覆われて消えてしまう夢。

 誰かの声がする。聞き慣れた声だった。

 いつも脳内で響いている声だった。

 神の声。


『成長する者よ。貴方は世界を守らなければいけません。ダンジョンを全て破壊して世界をお救いください』


 俺はYOEEEEんだよ。だって弱すぎて大切な人まで奪われてしまった。

 目覚めると心臓にポッカリと穴が空いていた。

 ミクのことを考えた。

 大好きな女の子。この気持ちがいつか消えてしまわないように、彼女のことで頭をいっぱいにしたかった。

 小学生の頃の思い出。同じ教室。席は彼女の隣。俺は居眠りするフリして彼女の横顔を覗いた。

 居眠りで先生に怒られて廊下に立たされた。

 休み時間、彼女が心配して声をかけてくれた。

 放課後、二人で帰った。

「光太郎。いいモノ見せてあげようか?」とミクが言う。

「いいモノって?」

「光太郎だけだよ」

 彼女が茶色い制服のスカートを捲った。

 まだ幼い布のパンツが見えた。

 もしかしたら先生に怒られたことを励まそうとしてくれたんじゃないか?

 そんな事でパンツなんて見せなくていいのに。

 ありがとうございます。ちゃんと拝見させていただきます。

 パンツを見せられただけで、この子を一生大切にしたい、と思った。

 彼女は恥ずかしそうにスカートを元に戻して歩き始めた。

 それでも何でパンツなんて見せてくれたんだろう? と思った。

 きっと俺のことが好きだから見せてくれたんだろう。

 いや、違う。彼女は神田英二と付き合ったのだ。


 神田英二の家に行ってみた。

 アイツは魔族だった。

 俺の見間違いかもしれない。

 だから彼の母親に英二について聞くつもりだった。

 聞いてどうするんだろう? それでも聞きたかった。

 もしかしたらアイツが普通の子だった、という証言を聞きたかったのかもしれない。

 あの魔族が英二に似ていたのは俺の見間違いだったんだと思いたかったのかもしれない。

 中学までは行き慣れた家だった。

 彼の家はそこまで大きくない一軒家。

 近所で見慣れているのに、何度も来たことがあるのに、チャイムを押すのを躊躇った。

 チャイムを押すと彼のお母さんが出た。

「はい」

「お久しぶりです」

「あら光太郎君?」

「英二の仏壇に手を合わせていいですか?」

 彼がダンジョンに飲み込まれてから、何度かココに来て仏壇に手を合わせた。

「英二? 何の話?」

 本当に困ったような顔を英二のお母さんがしていた。

「……」

「英二って、俺と同級生の男の子で、アナタの息子さんですよ」

 困って困って、俺はそんな事を言う。

「ハハハ。光太郎君なに言ってるのよ。私の家には息子なんていないわよ」

「えっ?」

 英二のお母さんは完全に英二のことを忘れていた。

「どうしちゃったの?」と中年女性が尋ねた。

 ごめんなさい、と俺は頭を下げて、逃げるように立ち去った。



 家に帰ってから母親にも英二のことを尋ねた。

 母親も英二のことを覚えていなかった。妹までも英二のことを覚えていなかった。

 この世に英二がいなかったみたいに彼のことだけがみんなの記憶から無かった。

 もしかして、と思って「ミクは覚えているか?」と尋ねた。

 ミクの事は覚えているらしい。

 英二だけが俺の記憶にしかなくて、もしかしたら英二なんていなかったんじゃないだろうか? と疑い始めたら、本当に存在したのかどうかもわからなくなる。

 魔族になったアイツ。

 もしかしたら始めから魔族で、人間のフリをして生活していたんだろうか?

『ま・ぬ・け』と英二が言った。いや、魔族が言った。

 アイツは何を思って、そんな事を言ったんだろうか?

 〇〇市が消滅した。

 いや、消滅じゃない。

 たぶん異世界に移転したんだろう。

 ハーピーは言っていたのだ。

 この場所(ダンジョン)を守りきれば領土を魔王様から貰える。

 ダンジョンを守りきれば貰える領土というのが地球の土地だとすれば、ダンジョンバーストというのは異世界に土地を移転させるための儀式みたいなものなのか? あるいは術式みたいなものなのか?

 もしそうなら、〇〇市は異世界に移転しただけで、消滅はしていない。

 もしかしたら、どこかでミクは生きているんじゃないだろうか?

 まだ取り戻す事ができるんじゃないだろうか? 


 俺は冒険者である。

 ずっと家に引きこもってもいられない。

 だからダンジョンに入りに行こう。

 強くなろう。

 もう2度とダンジョンに大切なモノが奪われないように。

 大切なモノを奪い返せるように。

 夢のお告げを信じているわけじゃない。

 だけど、出来るなら、この世にあるダンジョンを全て破壊して、世界を救いたいと本気で思っている。

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