第25話 ミチコの両親は娘をダンジョンに入れたくなかった
ミチコは両親について語ってくれた。
語らなくては田中中と一緒に避難所に行かされると思ったんだろう。
ミチコの母親は冒険者だった。
俺達と似たようなモノである。
親が冒険者で、その遺伝子を引き継いで冒険者に選ばれる。
冒険者に選ばれるのは遺伝だけではないけど、遺伝することが多い。
だけど彼女は小学生三年生だった。
小学三年生で冒険者に選ばれる事例は、ほとんど無い。
なぜなら冒険者に選ばれるというのは、その時点でダンジョンで戦えるから神様に選らばれた、という事になっている。
ほとんどの日本人は無宗教である。
神様、って言ってもピンと来ない。
だけど選ばれた時、声は聞こえた。
それで政府は押し切っているのだ。選ばれたのだからダンジョンに入れよ。
だから子どもが冒険者に選ばれた時の法律は無い。つまりダンジョンの免除は無かった。
しかも日本は先進国でもダンジョンへの対応はワーストワンと言われている。
それは兵役法というものが無いから、と偉い人が解説していたのをテレビで見た事がある。
急に難しい言葉が出てきたよ。
簡単に説明すると何歳になったら軍に入りましょうね、っていう法律が日本には無いのだ。もっと言えば作る事ができないのだ。なぜかはググってください。俺だって賢くないんだ。難しいことを説明することはできない。
世界各地ではある一定の年齢になると男女問わず軍に入り訓練をする。冒険者の血縁がいたら特別訓練もしたりする国もあるらしい。
日本では冒険者になる前の訓練は無い。
義務教育として知識と体育程度の訓練活動があるだけだった。
厳しい訓練が無い日本だから冒険者は死ぬ。
死ぬから冒険者の保有人数も少ないし、高ランク冒険者も育たない。
高ランク冒険者がいないから海外から冒険者を呼んで来ないといけない。
海外の冒険者を呼んでこないといけないから報奨金が高い。
報奨金が高いから、ダンジョンから逃げる冒険者に罰金を課せた。
ダンジョン対策は後手になっている国なのだ。
そして小学三年生の非力のミチコがダンジョンに入れるわけがなかった。入ってしまったら死んでしまう。
だから母親は頑張った。自分の娘をダンジョンに入れないために頑張らなくてはいけなかった。
もしかしたら自分の責任だと母親は感じていたのかもしれない。自分が冒険者だから娘が冒険者になってしまった。そんな風に感じていたのかもしれない。
彼女の母親はミチコの罰金を稼ぐために、無理してダンジョンに入った。
そして冒険者の結末は同じなのだ。
ダンジョンから帰って来なくなった。
母親はミチコがダンジョンに入らなくても済むように、数年分のお金は用意していたらしい。
だけどいつかはお金も尽きる。
そしてお父さんの話になる。
自分の娘が将来、ダンジョンに入らなくてはいけないのだ。
ダンジョンを免除できる数年分のお金があるだけ、と父親は思っていた。
働いて働いて働いてミチコがダンジョンにできる限り入らなくていいようにお金を溜めていたらしい。
普通のサラリーマンがダンジョンの罰金を稼ぐことなんて無理に決まっている。
その無理を通そうと仕事を掛け持ちして体を壊して倒れた。
ミチコは自分のせいで、お父さんが倒れたと思った。
ミチコは自分のせいで、お母さんがダンジョンから帰って来なくなったと思った。
全ては自分のせいだと思ったのだ。
家の近所にダンジョンができた。それはFランクのダンジョンだった。そのダンジョンは攻略されることはなく、日に日に大きくなった。
それがダンジョンバーストしてゴブリンが溢れ出したダンジョンである。
ミチコは日本の政治の犠牲者なのかもしれない。
最弱ランクのダンジョン。
ランクを上げるだけの報奨金は無い。
Dランクまで上がったんだっけ? Cランクまで上がったんだっけ? 低ランクのままのダンジョンだった。
だからランクの低い冒険者が入り、ゴブリンの繁殖に使われた。
俺の親友の神田英二も、そのダンジョンに入って帰って来なかったのだ。
本来なら、もっと高いランクの冒険者が入るべきダンジョンだった。
このまま家にいたらミチコは危険だと思った。だけど家を引っ越そう、とは言えなかった。
父親には今まで無理をさせすぎている。それに今は倒れて休養中だった。
ここにいるのは危険だと父親も思っていた。
お父さんは娘に通帳を預け、もし何かあったら一人で逃げなさいと何度も言っていた。
父親は仕事の合間に色んな冒険者の資料を読み漁っていた。
お父さんは得た知識を娘に語った。
その知識の中に、とある小さな島国が消えた話があった。ダンジョンがバーストした時、魔物を全て倒し切らなかったら消滅する可能性があるかも。
だから父親は、たとえ一人になっても、ダンジョンがバーストしたらできる限り遠くに逃げなさい、と娘に教えていた。
だから少女は学校のシェルターに入らず、車を盗んでココまで来たのだ。
父親のことを置いて逃げたくはなかった。
助けられるのなら父親を助けたい。
「だから小林さんが強くなったのなら、私も行きたいです」と彼女は言った。
ミチコはアイフォンのマップを見ながら最短ルートを考えた。
「お〜い」と木の下で田中中が叫んでいた。
「早く行こうぜ避難所」
と田中中が言う。
「なんで無視するんだよ。もしかして怒っているのか?」
ここからは田中の一人喋り。
「太ってあだ名が気に食わなかったのか?」
「別にムーバでもいいんだぜ」
「ムーバっていうのは、無能のバカの略でムーバね」
「ハハハ、ぼくってあだ名つけるセンス良くない? 天才かも」
「ねぇムーバ、こっち向いて」
「ハハハハハ」
「そういえばムーバ、さっき君が植物を操っているように見えたんだけど気のせいかい? もしかしてミチミチも冒険者なのかい? ミチミチが植物を操っていたのかい? そんな訳ないか。だって小学生の冒険者なんて聞いたことないもん」
「なんで無視すんだよ。ねぇムーバ、こっち向いて」
ここまでが田中の一人喋り。
「すげぇームカつくだろう?」と俺が言う。
「小林さんの友達なんですか?」
「まさか」
そう言えば田中ってミクと同じ高校だったよな?
「お前の高校ってどうなってるの?」
俺は聞きたくなかったけど、田中に尋ねた。
「そんなのハイゴブリンの餌食に決まってるだろう。僕がいても、あの量のゴブリンは倒せなかった」
心臓がドンと鳴った。
ミクは無事なのか?
早く行かなきゃ。
「俺達は〇〇市に行く」
「なんで?」
と田中中が驚いている。
「大切な人を助けに行くんだ。田中だけ先に避難所に行ってくれ」
「もしかしてムーバは高田っちを助けに行くの?」
高田っち? 田中中と喋る時、そんなところに引っかかってはいけないだろう。
「そうだよ」
「僕の高校に行くってこと?」
「そうだよ」と俺が言う。
「高田さんって誰なの?」とお嬢に尋ねられる。
「幼馴染」と俺は答える。
「ふ〜ん」とお嬢が白い目で俺を見る。
「女?」
「なんだよ?」
「なんでも」
田中中が木の下から去って行く。
「よし田中も去ったし、助けに行こうか?」
俺達は一万文字以上の時間を乗り越え、ようやく木の上から動き出そうとしている。
お嬢がミチコを抱いて地面に降り、俺も降りた。
停車していた車の陰からデブが登場。
「道案内は僕にまかせろ」
ずっとお前はお呼びじゃねぇーんだよ。
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