第21話 道端ミチコ
下にはハイゴブリン達が大量にいる。
少女が大きなため息をついた。
「アナタ達はBランク冒険者じゃないのですね」
たぶん彼女は政府の会見を見たんだろう。
そして俺達のことをBランク冒険者だと勘違いしたんだろう。
「Fランク」と俺。
「Dランク」とお嬢。
「バカですか? アナタ達ではレベル不足です。なんで外に出歩いているんですか?」
「大切な人を助けに行くため」
と俺が言う。
「バカですか? 死にに行くみたいなもんですよ。まったく」
「君こそ、どうして外に出歩いているんだよ?」
「逃げて来たんです。小学校が〇〇市にあるんです。ちょうどゲートの下です。たぶん魔物を全て倒さないかぎりゲートの下にある土地は消えます。でも政府が外から出るな、って会見したことで、みんなシェルターに立てこもりました。私だけ逃げて来たんです」
「それじゃあ〇〇市がどうなっているのか知ってるの?」
と俺が尋ねる。
「大量のハイゴブリンが徘徊してます」
「君はどうやってココまで来たんだ?」
「車を使ったんです」
と少女が指差した。
彼女が指差した先には木にぶつかった車があった。
盗んだ車で走り出すことが流行っているらしい。
「とりあえず自己紹介しよう」
と俺が言った。
「小林光太郎。17歳。高校一年生」
「新庄かな。17歳。高校一年生。よろしくね」
「道端ミチコ。9歳。小学三年生。冒険者です。よろしくお願いします」
「あっ、やっぱり冒険者だったの?」
「戦えないです。強くないです。能力は重力の調整です。期待しないでください。熟練度もレベルも低いので自分の体重のコントロールしかできません」
「だから軽かったんだね」
「もっと言えば体重を軽くするのは得意だけど、重くするのは苦手です」
「そうなんだ」と俺が言う。
「アナタ達のスキルも聞かせてください。ココから脱出する鍵になるかもしれません」
「それじゃあ私から。炎系。得意なのは剣に炎をまとわすこと」
「ありきたりですね。それで赤髪ならよかったのに」
「うるさいわね。ガキ。殴るわよ」
「お嬢、ミチコにそんな事を言っちゃダメ」
「ミチコって気安く呼ばないでください」
「殴ってやろうか?」
「小三に暴力ですか? DV男ですね」
「お前、友達少ないだろう?」
「決して多くはありませんが、アナタみたいな薄い関係の友達はいません」
「なんで俺の友達関係が薄いんだよ」
「そんな顔してます」
「当たってるじゃない」と新庄かな。
「薄くねぇーよ」と俺。
「それじゃあ俺のスキルを説明しよう」
でも俺のスキルってなに?
全部できる事を言っていけばいいのか?
「銃弾を撃てる。植物を操れる。自動回復。好色。あとは吸収」
「ちょっと待ってください。幾つスキルを持ってるんですか? スキルは一人一つでしょ? ごく稀にAランク冒険者やSランク冒険者の中にスキル二つ持ちの人間がいるっていうのは聞いたことがあります。そんな嘘をつかないでください」
「嘘じゃないわよ」と新庄かなが言う。
「攻撃されたら攻撃スキルが手に入るんだよ。成長する者の称号のおかげ? あと吸収したら魔物の固有スキルも手に入る」
ミチコが目を丸くさせている。
「固有スキル……」
ミチコが何かを考えている。
「小林光太郎さんって言いましたっけ?」
「はい」
「アナタは魔族なんですか?」
「俺が魔族? そんな訳ねぇーだろう」
「だって固有スキルっていうのは魔物や魔族にしかないんですよ? その称号っていうのも固有スキルじゃないんですか? それだったら筋は通ります」
魔族か。
実は魔王の生まれ変わりでした。
カッコいいじゃないか。
「バレたか? 俺の隠れた設定。実は俺は魔族なのだ。魔王の生まれ変わりなのだ。ひれ伏せ。ひれ伏せ」
「魔族じゃないみたいですね」とミチコが言う。
「ただの突然変異よ」とお嬢。
「ちなみに魔物の声が聞こえる」
「やっぱり魔族じゃないですか?」
「俺は魔族なのだ。ひれ伏せ。ひれ伏せ」
「やっぱり魔族じゃないみたいですね」
「ただのバカよ」
「そうみたいですね。ちなみに、どうしてそれほどのスキルを持っていて、ゴブリンを倒せないんですか?」
「レベルも熟練度も足りねぇーんだろうよ」
「さっき銃弾を撃ってましたよね? ただの銃弾を撃ったんですか?」
「ただの銃弾だよ」
「魔力を込めないと、闘気をまとってる魔物には効かないですよ?」
「闘気?」
俺はずっと筋肉が硬いから銃弾が効かないと思っていた。
闘気? 新情報がココでくる。
「バカですか?」
「さっきからミチコは俺のことをバカにしすぎだろう?」
「小三でも知ってることですよ?」
「仕方がねぇーだろう。俺は頑張って勉強をしなかったんだから」
「頑張って勉強をしない、ってどういう状況ですか? やっぱりバカですか?」
「いいから教えろよ」
「わかりました。ある一定の強さがある魔物は闘気でバリアーを張っているんです。そのバリアーを破壊するには魔力が必要なんです。仮に闘気が10なら、魔力が11以上の攻撃じゃないと魔物には効果がないんです」
「それじゃあ先生。核爆弾とかも効かないってことですか?」
「バカですか? 効くに決まってるでしょう? 冒険者レベルの攻撃なら、ということです。ちなみに実験をやった海外の大学があります。実験対象はCランクの魔物です。魔力を宿っていない攻撃では銃弾は無傷。グレネードランチャーで、ようやく傷を負ったらしいです。死ななかったみたいですけど」
それじゃあ俺がいくら攻撃してもダメなわけか。
だって魔力をまとわす、ってやり方を知らないから。
「どうやって魔力をまとわしたらいいんですか?」
「まだ私もわかりません。重力調整というスキルなので魔力をまとわすことは難しいのかもしれません。新庄かなさんみたいな炎系のスキルなら、目で見て魔力をまとわしているのがわかるんですが」
炎の剣。
あれは魔剣だったのか。
魔剣で斬るから、ハイゴブリンが切れるわけか。
『女、女、女』
下にいるハイゴブリン達が俺達の登っている木を叩き始めた。
ハンマーで叩かれているから木が揺れる。
「ゴブリン達は何かを言ってるんですか?」
「女、女、女って言ってる」
ミチコが新庄かなを見る。
「私?」
「お嬢が目的みたいです」
「絶対に嫌だからね」
剣を持っているハイゴブリンの登場。
女、女、女と言いながらハイゴブリンが木に攻撃を始める。
徐々に木が削れていく。
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