お勉強24 人のフォローは大変

「お気をつけてー!」

「はーい!」


 シルフィードの大陸に無事(?)着陸した俺達。


 貨物船は滞在していると領民達に襲われかねないので、食糧荷だけを下ろしてコールドワークに戻ることとなった。船員達はコケコットが襲ってきた理由を聞いた上で、彼等は笑って困った時はお互い様だと取引せずにタダで渡してきたのだ。

 さすがサハギンに嫌がらせされても反省文で許す住民性。大らか過ぎて頭が上がりません。


 そうして送り届けてくれた貨物船を見送って、ロープグルグル巻きから解放したゴリラ達を振り返る。


「領地まではどれくらい掛かります? ゴリータさん」

「日が出て沈むまでには着ける距離だ」

「じゃあ運びますか」

「ああ。お前ら、やるぞ!」


 おおー!と気合いを入れる下っ端領民達。

 ちなみにゴリータとはゴリラの名前である。俺の第一印象は間違っていなかった。


 取り敢えず勇者パーティとしては、まずは現状として実際の様子を把握するためにコケコット村に向かうことに。彼等の話を聞く限りでは大分治安が悪そうなので、荷運びの護衛も兼ねる。


 領民達はほぼ若い男衆でサハギン船にて戦闘力を鍛えられたこともあり、皆重そうな木箱をひょいと持ち上げていた。長旅になるなら体力をつけた方がいいかと思ったので俺も一番軽い木箱を持ち、ついでに周囲の様子を見る。


 遠くに見える山肌は茶色が目立ち、緑なんてほとんどない。今踏んでいる道も枯れ草に覆われて、本当に恵みも豊潤も失われているんだなと一目瞭然な光景だった。


<勇者よ>

(ん?)

<どうにかせんのか?>


 思念で問われたことに思わず遠い目をしてしまう。

 言わずもがな、どうにかと言うのは勇者パーティのことを指している。


 現在一列となって歩いている集団の先頭に、カインとエミリア。ビルは中頃にいて、俺とクリストファーは後尾という陣形。


 頭を冷やすと言って出て行ったエミリアだが、戻って来た時は確かにニコニコ笑顔に戻っていたものの、クリストファーが姿を見せたらすぐにカインの背中に隠れてしまった。カインは黙ってクリストファーを見つめるだけだし、クリストファーは素知らぬ態度を取っている。


 何なん? 本当この三人何なん?

 カインとクリストファーが険悪になったらエミリアは黙っていたし、エミリアとクリストファーが変な感じになったらカインも黙るって何なん? もうヤダ。


 自慢になるが、俺はこれまで幼馴染達とケンカをしたことはない。大体のことでは泣かされていた俺だが、それでも皆基本的には優しいのだ。


 更屋敷くんはいつも俺の手を引いてくれるし、瀬伊くんは見捨てず勉強見てくれるし、野村くんは一緒に寝ようって誘ってくれるし、神風くんは泣いた俺を大体慰めてくれている。

 そんな感じで十九歳まで成長した俺は、基本的に人のフォローはする側じゃない。される側だ。


 苦手分野やん。事情も分からないのにどうやってフォローしろと。


 王族として見過ごせないというエミリアの考えも何となく分かるものの、優先順位を考えたらクリストファーの言うことは最もである。俺もそう考えたし。


 ……立場とか身分が絡むいざこざは本当口出せない。無理だわ。こんなこと考えるのもストレスです。


「はぁ……」

「……私が持ちましょうか?」


 思わず深い溜息を吐いたら、荷物を運ぶのに疲れたと勘違いされた。クリストファーを見る。


「……あの、クリストファーさん。こんなことを言うのもアレですけど、貴方が大人になりましょう。多分エミリアさんは王族で普段注意とか怒られることがないので、ねているだけだと思います。幾つなのか知りませんけど、でもクリストファーさんの方が年上ですよね? 大人の包容力を見せてください!」


 これがフォローになっているかは知らんが、もう俺には口八丁で説得するしかない。エミリアがカインの傍を離れないので、俺がクリストファーに言うしかなかった。


「……私は別に、嫌われるのならそれで構いません」

「え?」

「彼女もいい加減現実を見なければ。変わらないものなどないのだと。聖女が王族である以上は、彼女だけが持つ責任もあります。何かを切り捨てなければ大事など為せない。まだ大人ではないからと、それで許される立場ではないのです」

「……」


 何か。何だかなぁ。


 指摘してもいいものかどうなのか。

 突き放す言い方をしているけど、普段の行動が伴っていない気がする。


 だってエミリアの無茶ぶりブラックに彼はいつも応えている。そう言うのなら、普段のブラックも突き放して断らないとおかしいだろ。

 魔防具や海に潜るための魔具は必要だったからあれは除外するけど、でもエミリアのお願いで髪も結ってあげてるしシチューも作ってあげていた。


 多分、幼い頃は話の通り三人とも仲が良かったんだろう。

 それがある日クリストファーに賢者の印が発現したことで離れ離れになり、その間で何かこじらせちゃって再会しても素直になれず、本音で言えないっていうことなのかなと現状推測する。


 ヤバい。コミュ障はカインだけじゃないかもしれない。

 人とどう接すればいいのか蹴ることでしか図れない明らかなコミュ障カインと、無茶ぶりブラックするしかクリストファーと交流が図れないエミリアと、言動矛盾クリストファー。


 え? 俺、こんなコミュニケーション障害満載なヤツらとずっと一緒にいなきゃなんないの? どうすんの? 勉強できないストレスじゃなくて、人間関係のストレスでうつになったらどうしよう。


「サトー」

「え?」


 胃がキリキリしてきたところで呼ばれたので顔を向けたら、クリストファーがいた筈の場所にカインが出現していた。何だ。俺がお前らのことで悩んでいる間に何が起こった。


「顔色が悪い。一番軽い木箱も運べんのか、この軟弱勇者め!」


 コイツ超蹴りてぇ。


「何でカインさんがこっち来てるんですか。クリストファーさんどこやったんですか」

「クリストファーなら」


 あごをしゃくられてそちらを見れば、何とカインがいた場所にクリストファーがいて、エミリアが困り顔でこっちを見ている。


「え、大丈夫なんですか?」

「私から進言した。聖女さまがああなった場合、ずっと私の背中に隠れてどうにもならないのは幼少の頃から把握済みだ。サトーも言っていただろう、魔王を討伐することを念頭に考えろと」

「ああ、なるほど」


 カインなりの荒療治って訳か。


 見ていたらエミリアは前を歩いている紫ローブをおずおずと引き、クリストファーに何事か話し始めた。顔だけ振り向いた彼のフードが頷いたのか縦に揺れ、そうして二人は隣に並んで歩き出す。


「……仲直りできたんですかね?」

「さぁな。しかし先程聖女さまとも話したが、事態はかなり深刻化している。以前に訪れた時は緑豊かな山々が見えていたのだが」

「やっぱり穢れの影響が……あっ」

「人のことを心配するのは構わないが、サトーは自分の心配をしたらどうだ。一番軽い木箱を持たせてもらっても碌に運べんとは。その軟弱さをどうにかしようと思わないのか」


 くそコイツ絶対いつか蹴り入れ返す!


「だからそう思って運んでたんだろうがよ! 返せや! いてっ!」

「フン」


 木箱を奪われて抗議したら鼻鳴らされて蹴り入れられた! コミュ障とオカンでパワハラのいじめっ子も追加! くそ!!



 ――異世界人の人間関係はとても俺の手に負えそうにないです、誰か助けて下さい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る