第四章 事件を解決したら、仲間との絆は強まるのか?
こんなヤツらと一緒にいられるか! 俺は自分の世界に帰らせてもらう!
お勉強21 海の上で揺れてぶらり旅
俺達は次なる穢れた地を目指し、現在港町コールドワークから船で海を渡って、他国であるシルフィードという国に向かっている。
貨物船に乗せてもらっているので他にも人はいるし、道中魔物が襲って来たりしてもいけないので、俺達は無事に国に到着するまでの護衛も兼ねているのだ。
「魔物、襲って来ませんねー」
「なー。やっぱサトーは海の魔物とは相性良いのか? 一応念のために八回くらい
「それもう俺の人間としての存在消されてませんか?」
ビルと一緒に
なるほど。船員達がビルには「どうもー」と挨拶してくるのに対し、俺だけ無視されるのは何なのか。異世界人差別かと思っていたが、それで納得。
そりゃ山であんなに俺だけ襲われたし、逃げ場のない海じゃそうされるのも仕方ないとは思うけど、一人だけ無視は悲し過ぎた。
そう。幼馴染の中に埋もれし俺は、まさに周囲の生徒からはそんな認識をされていた!
『あぁ? 影が薄いのかなって? ンだよ、ンなちっせぇこと気にしてんじゃねーよ。ヒロシには俺様達がいるんだから別にいいだろうが』
良くないよ更屋敷くん! 友達たくさん欲しいもん!と反論した俺の頭を、彼はベシッと叩いてきた。『テメェには友達なんかできねーよ!』って暴言吐かれて、本当あれは酷くて泣いた。
そして海の魔物とは相性が良いらしい俺は、船との相性はすこぶる悪い。
船旅の間は勉強に集中できると思って意気揚々と取り掛かったが、ものの数分後には船酔いした。揺れる船の中で細かい文字を目で追うのは俺にとって危険行為だったことが判明。俺はいつこの世界でまともに受験勉強できるのか。
けれどこのままただボーっと景色を眺めているのも
「はい! シルフィード国ってどんな国なんですか?」
「んー? んー……農業と畜産が盛んで成り立っている国って感じだな。あそこの地は森の聖域があるからさ、やっぱその守護水晶の恩恵で自然の恵みは
「へぇー。……ビルさんって、平民なんですよね?」
海原を眺めていた顔がこちらを向いて、目出し帽から覗く目が二度ほど瞬く。
「そうだけど?」
「いや何か輸出と輸入って知ってるし、色々情報持っているじゃないですか。カインさんから聞いた話で考えたんですけど、この世界って平民が学べるような施設とかってないんじゃないかって思っていたので」
「ああ、そういう」
恐らく平民は俺の世界のような教育水準まではないと予想しているので、そこまでの域となると平民でも商人か貴族くらいではないかと思ったのだ。
ビルも合点がいったようで頷いている。
「盗賊の印が発現して最初はさ、勝手に
「あ、何となく爆発っていう部分は分かります。あれですよね、自分の知らない言葉(英語)や考え方(公式)とか言われても、何じゃそりゃあ!ってなりますよね」
「だよな!」
そうビルと一般市民同士でキャッキャしていたら、「サトーさま、ビル」と声を掛けられたので二人同時に振り向くと、カインを
「お二人で楽しそうですね。どんなお話をされていらっしゃったのですか?」
「シルフィード国についてと」
「俺とサトーの勉強について」
「はぁ……?」
コテリと首を傾げた拍子に、エミリアの簡単に編み込まれたツインテールがプランと揺れる。
ん? いつも邪魔にならないようにシンプルに一つ結びなのに、珍しいな。似合ってるけど。
「それ、カインさんがやったんですか? 器用ですね」
そういうのはお城の侍女さんの仕事だろうし、自分ではできないだろう。カインはいつも大体俺を蹴るかエミリアの護衛をしている
俺の視線を辿って揺れる自分の髪を指先で摘まんだ彼女は、ふふっと嬉しそうに笑う。
「カインではなく、クリストファーにしてもらいました!」
「え、そうなんですか? カインさんは下手なんいって!」
「貴様、聖剣オルトレイスはどうした」
何でもかんでもクリストファーに無茶ぶりブラックするエミリアだが、この件に関してはそうだろうと思って突いて出た言葉がカインの怒りを買ったのか、単なる挨拶代わりなのか本日の初蹴りを食らった。どっちにしても暴力反対!
そしてカインの質問通り、現在俺の腰元に聖剣はない。あの剣は今――
「アイツは――」
<勇者あああああぁぁぁぁ!!>
答えようとしたところで噂をすれば何とやら、切羽詰まった剣の悲鳴が思念となって頭に響いてきた。
(どうした!?)
<賢者が! 賢者が我の聖剣としての尊厳を奪おうとっ……ぬああぁぁっ!?>
「はあぁ??」
思わず思念でなく口から漏れてしまい仲間達に
「サトー?」
「いや、何か今聖剣から思念連絡ありまして。アイツ今クリストファーさんに預けているんですけど、何か聖剣としての尊厳どうたら言ってきまして」
俺は報連相をちゃんと行うことを推奨されている世界出身の人間なので、あの穢れの中で体験したことは皆に報告した。
それぞれ思案して聞く中で、外からの浄化担当らしいエミリアも静かに頷いて。
『私も、
固く、決意を秘めた眼差しをしてそう告げた。
俺も実際に触れて取り込まれそうになったから、その意見には全面的に同意する。魔物も人間と同じように善悪があると考えるが、穢れはダメだわ。あれだけは完全悪です。
そして報告後にシルフィードに着くまで
『……魔法でもない光属性の力。穢れの浄化以外にもどのような効果が生み出されるのか、非常に興味があります』とのこと。
俺としては宿と違って皆いるから安心なので腰に居なくても別に問題なかったし、聖剣は聖剣で、
<ふっ! 賢者といえども、我の全てを暴くことなど不可能である!>
と何かノリノリそうな雰囲気を
そういう経緯があるのだが、ここでカインがエミリアを見た。
「聖女さま。先程クリストファーに何かお願いしていたようですが」
「はい! 彼には髪を結って頂いている時に、シチューを作ってほしいとお願いしました!」
「えっ」
「先日サトーさまがクリストファーのシチューと仰られておりましたので、私も頂いてみたいと」
そういや寝ぼけて言った気がする。夢だと分かって心底ホッとしたやつ。
俺の脳裏に夢が正夢になる光景が
釜でグツグツ煮込まれるジャガイモとニンジン。
プカプカ浮かぶのはサハギンの頭部ではなく、白くドロリとした液体にまみれた聖剣。それを紫フードの下で濃いクマを目の下に
『……さぁ、お待ちかねのお食事の時間ですよ♪』
「サトー。俺、多分様子見てきた方が良いと思うぞ」
「しゃっす!」
ビルの助言を受けて俺はダッと調理場に向かって走り出した。ドキドキと心臓を高鳴らせながら、必死に祈る。
クリストファーが煮込んでいるのは、ジャガイモとニンジンだけでありますように! 釜の中にサハギンも聖剣も入っていませんように!
つかマジでエミリアはクリストファーに何でもかんでも頼み過ぎ!! 間接的に俺がまたブラック加害者になってしまった!!
『よく知らない人に物を預けてはいけません』って学校の先生が教えてくれたことは正しかった!
ドタドタ木の床板を踏み鳴らしながら船員の横を通り過ぎると、今誰か通ったか!?と驚く声が聞こえた。勇者なのに仲間にしか存在を認識されない俺ェ!
距離が近づけば近づくほど聖剣の甲高い悲鳴(※船員には聞こえない)が聞こえ……ってマジで何しとるん!?
何気に良い匂いのする部屋の扉をバン!と開け、俺は調理場へと飛び込んだ。
「クリストファーさ……ん!?」
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