お勉強20 次はどこに向かうのか
港町コールドワークが活気ある町へと復活して、数日後。具体的に言うと、復活して現在二日後。
住民達が復活した初日は盛大にお祝いが開かれ、宿泊している宿にてワイワイお祭り騒ぎとなった。
仕事をしていなかった筈なのにどこからそんな祭りができるお金が出てきたのか、まったく謎過ぎる。
俺達は最初断ろうとしたものの住民達の圧が掛かった厚意に甘えることになり、楽しく過ごさせてもらった。うん、俺に関しては久しぶりに温かい食事にありつけたので、勉強できなくても文句はない。
エミリアも女性達と楽しそうに会話をしていたし、カインは町長の息子と酒を酌み交わしていたし、クリストファーは俺の隣で黙々と食事をしていたし、ビルも俺の隣でバクバク食事をしていた。
何故か顔出し絶対ダメマンの二人に挟み撃ちにされて、食事を摂るしかなかった俺。うん、文句なんてない。聖剣は……別にいいや。
とそんな感じで初日を終えたが、翌日復活して一日目はサハギン捕獲に駆り出された。住民達が起きて騒いで動き回っていたことが余程嬉しかったのか、奴らは早速行動を起こしたらしい。
朝には町の至るところから「水が出ない!」と苦情が殺到し、ようやく勉強ができると問題集を開こうとした俺の首根っこをカインが掴んで引きずられ、現場に行かされる羽目になった。俺はこの時、更屋敷くんに山に引きずられて行かされたことをまた思い出す。
しかし朝近くまでお祭り騒ぎだったせいか、サハギン達も朝方に暗躍するしかなかったようだ。町の至るところを逃走するサハギンと、捕まえるためなのかロープ片手に追い掛ける住民。だが町にはまだ俺達勇者パーティがいることをサハギン達は失念していた。
ビルの
回想
~~~~~~
「あれ? あのキングサハギン、いなくないか?」
「まだ逃走しているのでしょうか?」
ビルとエミリアの会話を耳にした一匹のサハギンが、クックックと笑う。
「キングサマハ、俺達ノボス。ソウ簡単ニ捕マル御方デハナイ!」
「ではどこにいる」
「……船ノ、倉庫。ソコデ成果ヲ待ツト……」
カインの
「サトー」
「何すか」
「お前が適任だ。サトーの勉強時間を失わせたのはサハギン共であることを、
その言葉にカッと目を光らせ、俺は船着き場へと猛ダッシュした。そして俺とキングが乗った船をすぐに見つけ乗り込み、倉庫へと一直線。
開けようとすれば鍵を掛けているのか、何度ガタガタガタガタ!しても開かなかった。そして臭いで誰が来たか扉の向こうにいる魔物には分かったらしい。
「ムッ! 勇者ガ何故ココニ!」
「波動」
聖剣はこれまで無駄口など叩かずに来ている。
お前の感情は全部お見通しだぞ☆なので、今の俺の感情筒抜けで
手に掲げられた聖剣は何も言わず指示に従って波動で扉を木っ端微塵に吹き飛ばし、中に入って奥に座っているキングの前へと立つ。
「キング」
「ユ、勇者……何故……」
「波動であの扉のようになりたくなければ、大人しく反省文を書け」
「……」
この時俺は一体どんな顔をしていたのか。
キングはエメラルドグリーンの皮膚を青く染め、無抵抗で従ったのだった。
あとサハギン達の反省文の監督も務めさせられたので、完全に俺の勉強時間は木っ端微塵になった。イタズラの罪は重い。
回想終了
~~~~~~
ということなので、それで一日潰れたという訳である。
そして今、俺達は宿泊部屋に集まって、次に浄化する地に関しての話し合いを行っている。ビルが地図を広げて、とある箇所へと指を指した。
「ここから一番近いってーとなると、ここじゃないか?
近いと言っても見たところソルドレイクの国領からは外れており、別の国の土地にあるっぽかった。それも港町コールドワークとは真逆の位置にあり、これまで来た道を戻るしかないように思える。
またあの苦難の山越えをしなければならないのかとうげぇとしていたら、しかしそれにクリストファーが否を唱えた。
「……確かにここからは一番近い地ですが、経路を考えると海を渡ってシルフィード国領へ向かった方が良いのでは? そこから順に巡り、一周するような形で進んだ方が理に
「私はクリストファーの意見に賛成だ」
「そうですね。隣国アルガンダからは特に穢れの影響はないと報告を聞いておりますし、海を越えたシルフィード国の現状の方が気になります」
現地人の会話だけだと、異世界人の俺はチンプンカンプン。
成り行きを見守ろうと思ったが、あまりにも穢れの地やら最終目的地である魔王城の場所などが不明瞭なので質問する。
「はい! 穢れの地ってあと幾つあるんですか? あとどこがどこの国なのかも知っておきたいです!」
エミリアがニコリと笑った。
「では私がご説明しますね。まず穢れの地というのは、魔王が新たに生まれ発生した穢れによって、世界の秩序の
「……へぇ。あの、ノート取るのでもう一度いいですか?」
何かいっぱい言われたなってことしか分からなかった。
エミリアにもう一度説明させる無礼を働いたということでカインに蹴り入れられながらも何とかノートを取ったが、その中でとても嫌な情報が目につく。
森は山での集中砲火が思い出されるし、魔物が暴れて島分断したって何なん? そんなところに聖域あるなや。
しかしどうせ行かなければならないのなら、行く時にまた詳しく聞こうと思うので次に進む。
「国同士の関係ってどうなんですか? 行っても門前払いとかされません?」
「前に少し口に出したが、国同士利害が一致している。それに聖女であらせられるエミリア王女とその護衛で聖騎士の私は、王侯貴族には顔が知られている。問題ない」
「なるほど」
じゃあそこら辺は大丈夫なのか。
問題なのは魔王討伐後の話……。
何か思ったよりたくさん行かないといけない場所が多い。真面目にどこかで勉強時間確保しなければ。
「それで皆さんが次にどこに行くかって話しているのが、大地の聖域か森の聖域ってことですよね?」
「そうそ! でも三人の意見が合ってんなら、俺は別に森が先でもいいぜ? 任せるわ」
あっけらかんとして言うので、ビルは本当にどっちでも良いらしい。
今後の行き先は森の聖域……いやもうダンジョンか。守護水晶(緑)の穢れ浄化のために海向こうの国・シルフィードへと旅立つことに決まった。
その後は船旅のために移動船を借してもらいたいと、エミリアとカインがリカッシ町長を訪問しに行き、ビルは備蓄のため買い出しに行き、俺とクリストファーが部屋に残る。
待つ間やっと勉強ができると問題集を開いて、ノートに問題を解いていく。今日やるのは数学だ。
公式と応用の仕組みさえ理解しておけば、数字が変わるだけでやり方は一緒。と瀬伊くんが言っていた。
「えーと、直線ℓ:y=(a2-2a-8)x+aの傾きが負となるのは、aの値の範囲が――」
「……詠唱ですか?」
口に出して言った方が頭にも入るためブツブツ言っていたら、クリストファーが気になったようでこちらに来て聞いてくる。
「え? いやこれ詠唱じゃなくて、問題解いているだけです」
そう言う間にも、開いている問題集をクリストファーが見てきた。言葉の意味は訳分からん勇者の力で通じるかもしれないが、文字まで通じはしないだろう。
そんな高を
「……サトー殿の所持品は便利な物が多いですね。一体これはどうやって作られているのか」
「っていや、え!? クリストファーさん何書いて!?」
「解けました」
「え!?」
信じられない気持ちで書かれたものを見つめると、見たことのない文字の
答え合わせをしたら合っていた。マジで!?
「クリストファーさんすっげぇ! というか、これも訳分からん勇者の力!?」
<そうであろう。文字にまで影響を与えるとは、勇者の力は強大であるな!>
「嬉しくないけど現地で先生確保できたし複雑! クリストファーさんお願いします! 時間があったらでいいですので、俺に勉強教えてください!」
パンっと両手を合わせてお願いしたら、
「……まぁ、その程度であれば」と頷いてくれた。俺の勉強その程度!
「どこか魔法力の解析と似ています。文字や記号の羅列、組み合わせや関係性。見たところ全て計算し、答えを求めるということでしょうか。仕組みさえ理解すれば、文字記号が変化するだけで方法は同じでしょう」
「瀬伊くんと同じこと言ってる!」
「……セイクン?」
これが灯台もと暗しかと衝撃を受けていたら、聞き返された。あ、感動して思わず名前言っちゃったな。
頭をかいて、俺が家に来るのを今も待っているだろう、元の世界にいる彼のことを話す。
「俺の世界にいる幼馴染です。彼は勉強ができて、とても頭が良いんです。……彼の家に勉強を教わりに行こうと家を出たところで、この世界に召喚されてしまいました」
「……そうですか」
何となくブラック被害者の彼には責めるように言えず、ただ事実を言ったらそう呟いて、クリストファーは俺の真正面に腰を下ろした。
「……こちらも想定外のこととは言え、サトー殿にとっては迷惑でしかないことも重々承知しています。魔王討伐までの間、罪滅ぼしには足りないかもしれませんが、私が可能な範囲でサトー殿に勉学をお教えしましょう」
「本当ですか!? やった!」
「サトー殿は勉強が好きなのですか?」
「いえそんな好きじゃありませんけど。しなくちゃいけないっていうか、していなくて親悲しませたし。もう一度やり直そうと思って、今頑張っているんです」
今も忘れられない。元々期待値低かったのに、それでもかけてくれていた僅かな希望も打ち砕いてしまったこと。
だからこんな状況になっても勉強することだけは止められない。俺自身のためにも。
シャーペンを返してもらって次の問を解こうと、ペン先をクリストファーが書いた下に走らせる。自分でやって答え合わせをして、間違っていたら見直してそれでも分からなかったら聞く。
そんなやり方で行こうと問二の公式を書き出していたら、ポツリと。
「……こういう勉強は私よりも――……」
「クリストファーさん?」
「……いえ。続けてください」
何か言い出して止まったため疑問に思って訊ねたら、そう素っ気なく返された。何だ?
とまぁそんな感じで、俺はクリストファーという数学の現地先生を手に入れた。
◇+◇+◇+◇+◇+◇+
シルフィード国領の町へ貨物する船に乗せてもらうこととなった俺達は陸からはたくさんの住民達、海からはたくさんのサハギン達に見送られて、新たな地へと旅立つ。
「世界が平和になった時、また遊びにでも来てくださーい!」
「サハギンノ住処ニ観光ニ来テモ、歓迎スルゾ!」
うん。港町コールドワークは守護水晶(紫)が正常のままであれば、何も問題は起きないだろう。しかし海面に顔出しサハギンは、やっぱ風景的にアレだな。気持ち悪いな。
「――皆元気で!!」
さようなら、ソルドレイク国領港町コールドワーク!!
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