第三章 訪れた町で事件発生したら?

だが断る…………俺は忙しいんだ!

お勉強12 町の様子がおかしい

 俺以外の仲間の手によりマッドトレントを撃破した俺達は、無事に最後の山を越えて最初の目的地である、港町コールドワークに辿り着くことができた。


 険悪空気をき散らしていたカインとクリストファーだが、俺の話を聞いてそれぞれ思うことがあったらしく、険悪さは一旦引っ込められた。仲直りしていないし、魔王討伐までは普通に仲間というスタンスを取っていると見ている。

 二人の仲を心配していたエミリアだが、何か事情でもあるのかこの事にずっと口出しはしてこなかった。


 まぁ俺も魔王友好相談計画という壮大な秘密があるので、人の秘密は暴くまい。



「通行手形です」

「……はーい」


 エミリアが通行手形を提示したものの、関所の門番はそれをチラと見ただけでやる気のなさそうな顔と声で、呆気なく通してくれた。心なしか姿勢が猫背になっている。


 マジでやる気が欠片も見られない。

 俺がこんな態度をカインに取ろうものなら、確実に蹴りを入れられる。


「これも穢れの影響ですか?」

「そのようです。実際に穢れの地へ訪れるのは初めてですが、通行を取り締まる関所の人間がああでは……。恐らくこの地の人達は皆あのように、やる気を削がれてしまっているのでしょう」


 表情を曇らせるエミリア。


 確かに皆あんな感じでは、攻め入られた時に抵抗する間もやる気もなく瞬殺されることだろう。それは確実に問題である。


 関所を抜けて町に入った光景としては、住宅と屋台が立ち並んでいるだけで人っ子一人歩いていない。ガランドウとしていて、ピュー……と木枯らしでも吹き抜けていきそうだ。


「まさか、人で賑わっていたコールドワークがこの有様とは……。しかし妙だな」

「何がですか?」


 呟きを漏らしたカインに話を促すと、淡々と教えてくれる。


「視界に映る範囲では屋台も、船着き場も無人だ。人の気配はする。動いていないがな。もし日々の暮らしがほとんどこうだとすれば、取り決められた税を納めることなどできない筈」

「はい。ですからやる気は削がれていても、暮らしていくために仕事は少なからずおこなっているものと考えていたのですが」

「ということは、関所に門番がいたのはまだマシって感じなのか!」


 何てこった!

 仕事しに来ているだけで優秀だったとは!


「……そうすると納められた税金は、一体どこから調達され、誰が手続きを行ったかが気になりますね。誰も動く気がないのでしたら、貨幣も発生しないでしょうし」

「だよな。んじゃどうする? 取り敢えず他にどっか異常発生してないか見て回るか?」

「そうしましょう。町長からお話も伺いませんと」


 ということで、町の様子を窺いながらり歩く俺達。


 店にも入って見たが、店主どころか店員もおらず商品だけが陳列されている状態。誰もいないのなら扉に鍵を掛けて閉めればいいのに、これでは泥棒が入ったとしても文句は言えないだろう。


 緊急性は低いと言われていたが、実際に目にすると異様さが半端ない。穢れの影響ヤバい。

 どこの店も、試しに住宅にもノックをしてドアを開けようとしても簡単に開く。コールドワークの防御が紙過ぎる。


 そうして町の一番大きな屋敷まで歩くと、ここが町長の家だそう。ビルの探知能力のお告げである。


「しかし見事に門番いませんね。この町に来てから未だに関所の門番さんしか人、見てないんですけど」

「……ここも鍵は掛かっていません」


 ギィと錆びついた音を鳴らして開いてしまった門扉もんぴに、そう呟くクリストファー。


 住宅は中まではさすがに入らなかったが町長には話を聞かなければならないので、ここには入るしかない。

 カインを先頭に家のドアを開けて町長を探し、暫くすると。


「皆ー、町長っぽいのいたー!」


 二階からビルが声を出したので向かうと、何と寝室のベッドで町長と奥さんが寝込んでいるのを発見。皆普通に中に入って行くが、人様の寝室に押し入るのは気が引けたので俺だけ廊下に待機した。

 そしてガサゴソ、ガサゴソと音がしたと思ったら町長を肩に担いだカインが出てくる。


 その人町長だよな? そんな扱いして大丈夫か。


「起きる気が起こらんと言うのだから、こうするしかないだろう」

「俺何も喋ってないのに何で分かるん」

「仲良しさんですね!」


 ニコニコとエミリアが放ったそれに真顔になった後、町長を担いだまま一階に戻ってリビングらしき部屋のソファに座らせた。町長は秒で寝そべった。


 こんな状態の町長に聞いても有益な情報は得られないと思うのだが、エミリアは真剣な顔をして町長の真向かいのソファへと座り、ついでに勇者の俺も座らされて話を聞く。


「リカッシ町長。私達は魔王を討伐すべく、ソルドレイク王都より旅をしております。私は聖女のエミリアと申します。そしてこちらが勇者サトーさまです」

「どうも、佐藤です」

「…………はぁ」

「このコールドワークには、間違いなく魔王が生み出した穢れが発生しております。私達がお聞きしたいのは、穢れの発生源となってしまっている土地の守護水晶。それが鎮座するダンジョンのが知りたいのです」

「え? ダンジョふごっ」


 またしても聞いてない話が出てきたが、今は黙れとばかりにカインに口を手で塞がれた。


 ダンジョン? あるの?? 俺てっきり、町の真ん中で「えいやー!」って感じで浄化するんだと思ってたんだけど? マジで本当に事前に何も教えてくれない。どうしよう。


 ドキドキしながら町長を見るも、ぼへーとしている。腕だらーんしている。町長はもうダメっぽいぞ。


「…………はぁー……」


 町長はもうダメだ。


「ひょうひょうはんはひゃくへ、ほふはふはふふひひはほうははふぁひほへは?」

「何を言っている」

「ほほへほははひへふへはへふはへ!?」


 手を放せと言ったら外してくれ、皆に思いついたことを話す。


「この町で一番しっかりしているのって、関所の門番さんじゃないですか。仕事してたし。門番さんに聞いた方が良くないかって言ったんですけど」

「俺もそう思うわ。ま、門番がダンジョンの在り処を知ってるかっていう問題はあるけどさ」

「土地の守護水晶の在り処は、その地を現地で管理している家系の人間にしか伝えられません。ですからリカッシ町長から聞き出さないことには。……手段は選んでいられませんね」


 ボソッと呟いたかと思ったら、パッと彼女はクリストファーを見て。


「クリストファー、土地の浄化のためです。今すぐやる気を出させるような魔具を――」

「エミリアさん! 何でもかんでもクリストファーさんに頼むの良くないと思います!」


 またブラック発注しようとしやがった!


 クリストファーは王家に対して多分良い感情持ってないぞ! これ以上王家が嫌われるような言動すな! 周囲の人間関係で精神的ストレスを俺が受ける!


 と、腕だらーんとしていた町長の手の指先がピクリと動いた。


「…………関所……門番……。……私の息子です……」

「え?」

「…………あの子は……将来の町長です……。……門番などではありません。人一倍責任感が強く、誰もやる気が出ない中……あの子だけが、重要な場所だからと……代わりに仕事を……」


 そう最後に話して、町長は喋らなくなった。

 彼は眠りに落ちたのだ。


 いや、マジで寝落ちした。イビキかいてる。


「……なるほど。やる気がない分無理に動かそうとすると疲労をより感じることになり、回復するために眠るのでしょう」


 クリストファーが淡々と考察を述べた。


 だとしたらやはりあの門番、いや町長の息子はマジで優秀な人間である。現代でアレだったらお客さんからクレームの嵐だけど。


 カインが再度町長を担いで寝室へと戻し、屋敷を出た俺達はまた関所へと舞い戻った。そこにはまだちゃんと息子が起きて立って仕事をしている。


「優秀!」

「さすがに町長のあの姿を見た後だとね」

「あの、すみません」


 俺とビルが言い合う中でエミリアが声を掛け、緩慢かんまんな動きで息子が振り返る。


「……さっきの? 何ですかー?」

「町長の息子さん、ですよね? 私達は魔王を討伐すべく、ソルドレイク王都より旅をしております。この地の穢れを浄化するために、土地の守護水晶が鎮座するダンジョンの在り処を教えて頂きたいのです!」

「……あー。おかしいと思った。……余所よそから来る人間は、皆入る前にやる気なくして……帰るから」


 息子の顔が徐に上がって、船着き場へと視線を向ける。


「……あそこ」

「あそこ?」

「……海の中」

「海の中!?」


 どうやって行くんだそんなところ!


「……水の守護魔力を練ったもので魔具を作れば、海中だとしてももぐることは可能です」


 クリストファーが自分で受発注した!


「えと、大丈夫なんですか? クリストファーさん」

「……まぁ、倒れない程度には頑張りますよ」


 これは確実に倒れるフラグだな。


 思えば山越えの時から彼は常時魔力を使いっぱなしだ。トイレも風呂もない山の中では、常に水魔法の恩恵を受けて清潔にしてもらっていた。


 どういう原理か神秘的なものなのでちゃんと理解するには難しいが、人間の体内に保持している水分や空気中の水分を神秘的な力でどーたらこーたらしているようだ。

 ほらweb小説でよくあるアレ。洗浄とか、リフレッシュみたいな。深く考え出したら古い勉強知識が流れて行くので、そこら辺はあまり考えないことにした。


 うん、魔法のある世界ってそんなものだよな。



『まぁ一理あるよね。俺は取り敢えず、郷に入っては郷に従えっていうことわざに従うよ。ほらヒロシ、火を点けないとご飯食べられないよ』



 かつて中学二年生だった時、彼等と山にキャンプに行った際に神風くんに言われたことだ。


 火起こし係になった俺は飯盒炊飯はんごうすいはんのために火を起こそうとしたが、チャッカマンを取り上げられてその場にあるものでやれと無茶ぶりをされた。更屋敷くんに。


『もし緊急時に道具とか何もない状態で何もできなかったら、ヒロシなんて簡単に死ぬぞ!』と言われた。


 いつもなら俺の味方をしてくれる神風くんは何故かそれに同意し、そんなことを言われて落ちている枝を使って無い頭を使いクルクル回して火を起こそうとしたができず、手の平が痛くて俺は泣いた。


 それを小川から魚を獲ってきた瀬伊くんに、


『何をやっているんですか貴方達は。またヒロシ泣かせたんですか』


 と呆れられて無茶ぶり条件下の元、彼は比較的乾燥している枯れ草や小枝を集めてテントで寝ていた野村くんを引きずってどこかへ行き、種類の違う石を二つ持って戻って来た。そしてその二つの石を打ちつけることで火花が出て火起こしに成功し、俺は尊敬の眼差しで瀬伊くんを見た。


苦土橄欖石くどかんらんせき赤鉄鋼せきてっこうです。燃えやすいマグネシウムと火を起こしやすい鉄を打ちつけることによって~~~~』


 言っていることはよく分からなかったが、さすが頭の良い瀬伊くん!と俺はキラキラした眼差しで彼を見ていた。

 何で野村くんを引きずって行ったのかは謎である。



 だから魔法で簡単にボッ!と火をたきぎに点けられたのを見た時、「あ、考えちゃダメなヤツだ」と俺は考えることを放棄して郷に従ったのだ。


 そんなことを思い出しながら、俺達はひとまず息子に別れを告げ、クリストファー魔具制作のために宿泊施設を訪ねることにした。

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