お勉強2 異世界人と話が通じない
俺は佐藤 浩、十九歳!
偏差値おバカだったことで大学受験に失敗して、今やガリ勉の鬼と化した浪人生だぜ!
そんな俺の現状を聞いてくれよ!
頭脳派幼馴染・瀬伊くんとセンター試験を一ヵ月後に控えた最後の追い込み勉強合宿に彼の家へと向かおうとした瞬間に、訳分からん異世界に勇者召喚されちゃったぜ!
え? 瀬伊くんも浪人生しているのかって? そんな訳ないじゃん! 幼馴染の中で誰より頭が切れて、学校の試験は毎回首席に君臨し続けていたんだ。菅原 道真も裸足で逃げ出すほどの秀才だぜ?
彼は情報収集が得意な神風くんと進学せずに一緒に起業して、まだ学生だった頃から稼いでいるんだ!
幼馴染の縁で何の取り柄もないただのおバカな俺に手を差し伸べてくれて、勉強を見てくれているんだよ。本当に神のような存在だ。
ちなみに後二人の幼馴染は大学生かと言うと、そうじゃない。更屋敷くんと野村くんも進学せず、暴走緩々
アッハハ、マジで俺以外の幼馴染人生勝ち組強者だろ? しかも全員容姿整ってるんだよ。そりゃあ女子にはキャーキャーもてはやされ、男子には崇拝されるよな! マジで何なん俺。
その中に普通にいた俺マジで何なん?
モブ過ぎない? NPCじゃない?
いつも四人の誰かしらと行動していたから、身分不相応とか言って苛められたりしなかったけど。そんな俺が勇者召喚されるとかどうなってんの? 世の中おかしくない?
されるんだったら絶対あの四人の中の誰かだって。
つか誰かじゃなくて全員そうじゃない? ハズレなの俺だけだよ本当に。絶対に俺勇者じゃないから。間違い召喚だから。
銀の鎧騎士カインに
死んでも離すかと握っていた大学受験問題集入りのキャリーバッグは、恐れ多いことに王女さま自らが引いて下さっている。
「勇者さまのお荷物は、聖女である私が責任を持ってお運びしますので!」と言われたが学校の先生に、『よく知らない人に物を預けてはいけません』と教えられていたので一度は拒否したのに、カインに力ずくで強奪されそのまま担がれてしまったのだ。腹や胸に当たる鎧が硬過ぎて痛い。
「俺は元の世界に帰してもらえず、どこに誘拐されているのか」
「勇者であるかそうでないかをハッキリさせたいのだろう。ならば、祭壇で試すしか方法はあるまい」
「祭壇?」
何かあったっけ?と首を傾げたら、ニコニコと後ろを付いてきている王女が再度説明してくれる。
「秘されし祭壇に
「そうだ。だから勇者、大人しく聖剣を抜いてもらおうか」
「勇者じゃないので勇者と呼ばないで下さい」
「では何と呼べと? 名前も明かさないのでは勇者と呼ぶしかあるまい」
カインの真っ当な反論に、苦虫を噛み潰して渋々告げる。
「佐藤」
小さく呟いたら、王女がパッと顔を輝かせた。
「サトーさま? 勇者さまのお名前はサトーさまでございますか!」
「家名は? 勇者は平民か」
フンと鼻を鳴らすカインに更屋敷くん
「へーへー元の世界では平民ですよ。つか良く知らない人に名前は教えちゃいけませんって教育を受けているので、家名だけです。良く知らない人なので名前は言いたくありません」
「ではサトー、というのは家名なのですね……」
「なるほど。サトーの世界では、平民でもそれなりに学ぶ教育があるということだな」
淡々と確認するように言われ、鼻白む。
こう言うってことは、やっぱりこの世界はそういった身分制度がある中世ヨーロッパのような、RPG世界らしい。まぁ魔王とか王女とか騎士とかローブ着たおっさんが出てくる時点でそうか。
平民でもそれなりにと言うことで、貴族しか学べる教育機関しかまともな法とか施設などはないのだろう。多分カインは俺が王女に対して無礼な態度を取り続けたから、そういった学もないとレッテルを貼っていたと推測する。
残念だったなカイン。俺は偏差値ないおバカで、常識ないおバカではないのだ。俺は古典とか数学とか英語とか歴史の点数が壊滅的なだけなのだ。言っていて悲しくなってきた。
「勇者じゃないので親しくする義理はありません」
「あの、では勇者さまであった際には、仲良くして頂けますか?」
「は?」
「王女に向かっては?とは何だ貴様!」
いや言うだろ。勇者じゃないと価値ないって言われたんだぞ俺。いやないけど。
そもそも勇者であったとして、仲良くはおかしいだろ。そこは割り切ってドライな関係でいかないとおかしくないか? 仕事だろ? 最後には元の世界に帰るんだぞ? ……え、帰れるのか……??
そこでハッと気づく。
待て俺。元の世界に帰れるかどうかの答えを未だもらっていないぞ!?
『あのさ、ヒロシ。ちゃんとそこ確認しとかなきゃダメじゃない? 目覚ましセットしたかって野村に昼寝前に確認しないから、寝過ごして門限破ってお泊りすることになるんじゃん?』
神風くんサーセン!
一体その秘されし祭壇とはどこにあるのか、ずっと俵担ぎ腹イタながらも今一番確認すべきことを再度王女へとぶつける。
「俺は元の世界に帰れるんだろうな!? 大体のパターンだと魔力溜めなきゃいけないそれには五十年くらいはとか言ってるけど、そんなことになったらマジで許さないぞ!」
「サトー! 無礼な口を利くな!」
「あ、だ、大丈夫です! サトーさまがカインに抱えられている間に、クリストファーに確認しました。彼が言うには、こちらの世界にいらっしゃる間は勇者さまの世界の時間軸は止まっていると言っても過言ではない速度とのことですので、ご安心下さい」
「違うそうじゃねぇ! 俺が聞いてんのは、今すぐ帰る手段があるのかないのかっていうことを聞いてんの! つか誰だクリストファー!?」
また知らん名前が出てきた。というか知りたい答えが返ってくる率低くないか? 瀬伊くんだったら一も二もなく真っ直ぐ返ってくるのに!
「クリストファーは魔法省から派遣されてきた魔法師だ。魔王討伐と勇者召喚のために助力を国が請うた経緯がある」
「俺がガチで知りたいこと教えてくれないストレス」
……だけど、時間は止まっていると言っても過言でないということは、召喚されてから俺の世界の時間はあれから動いてないも同然ってことだよな?
聞ける人間が今のところこの二人しかいない以上、何度も同じことを聞いて知りたい答えが返って来ないストレス溜めるよりは、答えてくれる質問をぶつけた方が効率的だと思われる。……魔法がある世界。
「国で騎士団とか、その、魔法師?って言うの? 自分達で抱えていたりしないんでしょうか」
「騎士団は抱えているが、魔法師は違う。魔力を宿して生まれてくる人間は希少な存在だ。各国で独占してはならぬと取り決めが行われており、魔力を宿す人間は魔法省に管理され、一様に魔法師となるように教育を施されると聞く。そこら辺の詳しいことはクリストファーに聞け。私が知っているのもそこまでだ」
「いない人間にどうやって聞けと。秘されし祭壇とやらはまだですか」
ずっと腹イタで揺らされて、いい加減気持ち悪くなってきたのだが。
「クリストファーにはいずれ会えますよ。一緒に魔王を討伐する旅の仲間ですから!」
「え」
「着いたぞ」
「え?!」
最早俺が一緒に討伐に行くことが当然みたいな言い方をされて抗議する間もなく、到着の言葉を耳にしたと思ったらヴォン!と視界が揺れて一瞬後、今まで見ていた石材の床ではなく草と苔の地面が映った。
そしてカインに地面へと転がされた。
「いって!」
「ほら、あれが聖剣オルトレイスだ」
どんな扱いだとムカっ腹立てながらも、辺りを見回す。そこは今までいた城とは完全に隔離されているような、青々とした木々や小花、ちゃんと空もあって日が当たり風もそよいでいる。
そしてカインが指を向けるその先、四段ある石階段の上には青水晶のようなものがあって、その中に刀身が半ばまで埋まった青銀の剣が刺さっていた。
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