暇を持て余したアルミナ
「……凄いなこれ」
今俺はニアの魔法で帝国の行軍の様子を見ていた。
全員が同じ動きをして同じ方向に歩いている姿、元の世界でもパレードのようなものでこのような光景は見たことがあったが……これから戦地に向かうということもあってこちらにも緊張感が漂う。
「雑魚ばかりね」
「魔王様からすれば当然のことですよ」
ニアの言葉にルミナスがツッコミを入れた。
確かにニアからすればこの世界のほとんどの存在は雑魚になるんだろう。というよりも俺は一つ気になったのだが、どうして彼らは転移魔法を使わないのだろう。それを言ってしまうと何のために山を退けたんだって話だが、転移が出来るならすぐにでも王都を攻めることが出来るのに。
「なあニア」
なので早速ニアに聞いてみた。
「魔族では割と使える者は多いけれど人間だと単純に魔力の保有量が足りないのよね。仮に魔力が足りたとしても正確に使えなければどこかに飛ばされるし、転移の途中で体が分解されることもおかしくないから」
「うへぇ……」
つまり一歩間違えたら肉塊に変わった状態で目的地に辿り着くってことか。そうなると転移魔法は確かに便利だけどリスクも伴うらしい。ニアやリリスたちは片手間のように使っていたから改めてその危険性を知った。
「ノアは何も心配する必要はないわよ? 私たちの転移魔法は完璧だし、快速の馬車に乗ってると思えば良いのよ♪」
「余裕で馬車以上だけどな」
でもそうか、人間であまり転移魔法を使えないのはそう言う理由があったのか。
「あの子、ヨクほどの実力を持つ聖女でも無理ね。後は先日消した元勇者も同じ。まああの勇者は脳筋っぽいから魔法は使えなさそうだけど」
「なるほどな」
ふむふむ、つまり転移魔法は本当にチートってことだな。自由自在に使えれば奇襲も撤退も思うがままだし、軍単位で使えるのなら帝国も簡単に王都を落とせるか。
「まあそれでも人間の魔法への探求心は止まることを知らないわ。きっと今もどこかで転移魔法を研究する人間は居ると思うわ」
それは俺が居た世界で言う科学への探求みたいなもんか。それが起こせると分かっているのならどうにかして実現させることを目指す。魔法馬鹿というか、魔法の研究に命を費やしている人もこの世界にはそれなりに居そうだ。
「ちなみに、魔王様は幼い頃に転移魔法を失敗して地面に頭から埋まった過去がありますよノア様」
「ルミナス!?」
え? 何それ凄く面白そうなんだけど。
地面に頭が埋まるその光景が容易に想像できた。ギャグマンガみたいだけど転移の危険性を知った今となってはやっぱり怖さが先立つ。
「ち、違うのよノア! あれはまだ私も幼かったのよ。覚えたての魔法を使いたい年頃だったのよ!」
「……ぷふっ!」
「笑うんじゃないわよぉ!!」
いやだってニアにもそんな瞬間があったんだなって微笑ましかったんだ。今はこんなにもクールでエッチな見た目のお姉さんだけどやんちゃな時期はあったんだなぁ。
「……お願いだからそんな微笑ましそうな目で見ないで」
「可愛いって思ったんだよ。なんか……良いな」
「可愛い? なら良いわ♪」
ぴょんと飛んでニアが飛びついてきた。
途中から帝国軍の様子に興味がなくなったが、この様子だとあと二日程度で本格的に戦争は始まるらしい。果たしてどうなるか分からないが、まあどっちが勝つにせよ物流やら何やらもそうだし周辺諸国への影響も大きいだろう。
「一日一回……ううん十回、ううん百回……違うわね。数えきれないくらいにノアとこうしないと満足できない体になってしまったわ」
スリスリと体を擦り付けて来るニアに苦笑する。ルミナスも微笑ましそうにニアを見つめており、外とは裏腹にここには平和な空間があった。さて、そんな風にニアとイチャイチャしていた時だった。
「?」
「……おや?」
「二人とも?」
ニアとルミナスが扉に目を向けたのだ。
どうしたのかと思っていると、最初にルミナスが扉に向かった。俺とニアを交互に見て頷いた彼女はゆっくりと扉を開けた。すると、聞き覚えのある声が響いた。
「やあルミナス、久しぶりじゃないか」
「……アルミナ様?」
「え?」
アルミナ?
以前に訪れた樹海に住むスライムの女性だけど……どうしてアルミナがここに?
「ノア様、よろしいですか?」
「え? うん」
まあ断る理由はないからな。
ルミナスが体を引くと、あの時の姿のまま彼女は現れた。相変わらずの特徴的な髪の毛だけど、本当に美人でスタイル抜群の女性だ。
「やあノア、それに魔王様はかなり久しぶりだね」
あぁそっか、前回はリリスとサンだけだったもんな。ニアとどれだけ会ってないのか分からないけれど、口振りからするに本当にかなり会ってないようだ。
「本当に久しぶりね。ってアンタ、腹から腕が出てるわよ?」
「え!?」
「おや、さっきのが消化しきれてなかったかな」
あ、なんかでっぱってるとは思ったんだ。
すぐには気づかなかったけど、どうやらお腹から人間の……男性っぽい腕が生えていた。それだけでもかなりエグイ光景なのに、ゆっくりと体に吸い込まれるように腕がめり込んでいく……うわぁ。
「中々にショッキングな絵だなこれ……」
「あ、ごめんねノア。確かに普通の人には見づらい光景だね。えい」
アルミナは手を使って腕を腹の中に押し込んだ。
ぴちゃっと水が跳ねる音、そしてじゅわっと溶けるような音が聞こえ完全に腕は消失した。
「どうしたのですかそれは」
「あぁ。ここに来る途中で男たちに絡まれたの。それでせっかくだからご馳走になっただけ」
「ふ~ん?」
どうやら無謀にもアルミナにちょっかいを出した人が奴が居たらしい。確かに襲いたくもなる美人だが、以前に温泉に入って来た男たちを溶かした場面を見ているからかご愁傷様としか言えない。
「それで、どうしてアンタがここに来たの?」
そうだそれが俺も気になっていた。ニアにそう聞かれたアルミナはすぐに答えた。
「暇だったから? 普段樹海の中から出ることはないけれど、リリスやサンがあんなにも気に入ったノアに会いたいと思ったの。私もあんな風に人間と接したことはなかったからね」
「ふ~ん」
「引きこもってばかりなのも健康に悪いから」
「アンタに健康もクソもないでしょうが」
それはどうなんだろうか。
まあアルミナも特に否定しないし、スライムとはそういうものなのかもしれない。さて、それからなんだがニアとルミナスは一旦魔界に帰ることになった。すぐに戻るとのことだが、それまではアルミナと二人っきりになる。
「二人になったね?」
「……捕食されます?」
「しないに決まってるでしょ。そんなことしたら次の瞬間には私が魔王様に消されるし……いや、魔王様だけじゃないね絶対」
っとそうだ。
アルミナがせっかく来たんだしアップルパイを御馳走しよう。皿に乗せて彼女に渡すと、無表情に喜びの感情が現れた。
「良い匂いだ……クセになりそう」
「アルミナ、顔が歪んでるぞ」
匂いだけでそんな風になってくれるのは作った側として嬉しいけど、アルミナの顔がドロッと崩れ出したのだ。結構ホラーだったが、すぐにアルミナはいけないと言って顔を固定させた。
「気を抜くとついね」
「スライム娘やな……」
「取り合えずいただきます……あむ……っ♪」
「だから顔!!」
それ、ちゃんと口の中で噛めてるの?
それからアップルパイを食べたアルミナは満足したように微笑み、お礼をしてあげると言われて浴室に案内させられた……うん?
「さあ服を脱いでそのまま浴槽に入って」
「……どういうことだよ」
あ~れ~と言わんばかりに服をサッと脱がされた。
タオルで股間を隠す間もなくアルミナの手によって何もない浴槽に入った。するとアルミナの体が液状に変化し、俺が入っている浴槽を満たしだしたのだ。
「……あれ、温かい」
「冷たくないよ。それくらいの調整は出来るから。ほら座って」
言われるがままに腰を下ろすと、液体が俺の体を包み込んだ。首から下を全て包み込み、全身に気持ちの良い弾力が襲い掛かってくる。あぁそういうことか、これはマッサージだ。
「……あぁ♪」
「どう? 気持ち良い?」
「最高……」
以前にもされたっけ、口にしたが最高に気持ち良い……いや気持ち良すぎる。
……でも、ある意味これって液状だけどこれ全部がアルミナなわけで……正に全身隅々まで包まれているこの状態……凄くエッチな気がする。
「……おや、ふふ……良いよそこも気持ちよくしてあげる」
「あ、ちょっと――」
まるで変な店に入ったような気分を味わうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます