勇者の消えた後
今日、目の前で一人の男が死んだ……元勇者のユウカンという男だ。
リリスたちとお茶を楽しんでいた時、いきなり声が聞こえたと思えば奴が剣を抜いてこちらに向かってきていた。ビックリしたけど当然不安はなくて、気付けばニアの手によって奴は消え去っていた。
「……ふぅ」
目の前で一人死んだというのに、少しすれば何も感じることはなくなった。まあ単にサンから奴が考えていたものを全部聞いたからだ。
元々ニアを手中に収めようとしたこと、リリスやサン、フィアも同様に自分の女にしようとしたこと……そして、そんな彼女たちと親しそうにしていたことが気に入らずに俺を殺そうとしたことを。
まあここまで聞いてしまえば、哀れみなんてものはとうに消え去りざまあみろとも思ってしまった。俺の大切になってくれた彼女たちを奪おうとしたこと、当然そんなのを許せるわけがない。
「ノアぁ?」
「……っと悪い、起こしたか」
ベッドで目元を擦るようにしながらサンが目を覚ました。
結局、勇者が消えてから色々と問題は当然起こった。とはいえ、ゾナさんが王都の報告に関しては任せてほしいと言っていたので彼女に後は託した。ニアという魔王の手によってユウカンが消えたことは闇に葬り去られた事実だが、護衛たちも困惑しながらも消えたユウカンのことを喜んでいたのは意外だった。
『彼らも彼らで元勇者を鬱陶しく思っていたのでしょう。これから王都に戻っても戦いが待っている運命ですがそれはすでに受け入れているようです。まあそれだけ、あの元勇者は好き勝手しすぎたのですよ』
王都では貴重な戦力が失われたことで混乱は起きるだろうが、その混乱を収拾するよりも目先のことに集中しなければならない。つまり、アバランテに調査が入る余地はないとのことだ。それこそ、万が一にでも王都が勝利し情勢が落ち着かない限りは。
「お昼のことを気にしてるのぉ?」
「……気にはしてないつもりだけど、ちょっとな」
「ふ~ん」
まあ、そんなこんなでドタバタした昼から時間は経ち今は夜だ。サンがこちら側に残り一緒に夜を過ごしている。サキュバスであるサンとリリスに関しては本当に夜が色んな意味で大変だが、あまり気にしすぎても仕方ない。
「そうよぉ。まあ人としての感性だから仕方ないわぁ。でも、あれは正真正銘の屑だったから気にしなくていいの」
「だな。サンたちを奪おうとしたんだから」
「それね……すっごく気持ち悪かったわぁ。何というか、周りの目を気にせずに吐きそうになったもの」
「そんなにか……」
サンは心を読めるからこそ、ユウカンの心の内をダイレクトに全て見えてしまったんだろう。欲望に染まり切った奴の内心、それは声としてでなく映像としても見えるようで随分嫌な思いをしたみたいだ。
「ま、それも寝る前にノアに愛してもらったから気にしてないけど♪」
「……最近はサンやリリスを相手にする前に覚悟が必要になって来たよ」
「でも死ぬほど気持ち良いでしょ? でももちろん死なせないわ。サキュバスだものその辺りの加減はお手の物よぉ♪」
そう、死にそうになるほど気持ち良いのだ。
こう……上手く言葉に出せないのだが、どうしてこんなにって思えるほどにリリスやサンとする時は凄まじい。よくエッチな漫画でオーバーな表現を見ることはあるけどそれが納得できるほどだ。
「ちなみにぃ、アルミナもたぶん凄いわよ? ノアのことは気に入っているみたいだしあの子を落とすことがあったら凄いことをされるかもね?」
「……ないから」
「分からないわよぉ? だってノアだもの」
アルミナか……あれから大分日は経ったけど彼女はずっとあの樹海に住んでいるらしい。滅多に外に出ることはないので閉鎖的な性格と言っていたが……まあ俺からすれば濃い性格をしていたのは違いない。
……それに、スライムだからこそサンの口にした理由が良く分かる。俺が色々と想像すると、サンが僅かに顔を赤くした。
「さ、流石にそこまでのプレイは知識ないと思うわよ?」
「……だよな」
すまん、俺が元居た世界のエロい作品が先を行き過ぎているだけなんだ。
そこでサンが昔を思い出すように話してくれた。アルミナとの思い出、それもかなりエッチな思い出を。
「昔にアルミナと勝負をしたことがあって、それで負けたのよねぇ。それでアルミナが面白そうだからって私にしたことがあるの」
「ほう」
「あの子スライムだから色んな形に変化出来るのは知ってるわよね? それで私の服になったのあの子」
「……ふむ」
あ、ちょっと察した。
「上も下も変身したあの子が引っ付いてて、それで住民の中を歩くの。とはいっても服の役割をしているから問題なかったけど……あの子、肌に当たる布の内側から色々と悪戯をしてきてね? それはもう大変だったわぁ」
「……エッチすぎるだろ」
「だからそれをノアにもやると思ってね? 絶対にバレないから歩きながら抜き抜きされたりするんじゃない?」
「……………」
もうね、この世界の魔族はエッチな人しか居ないのかもしれない。
まあそういうことを抜きにしてもアルミナとはまた会ってみたい気もする。何だかんだ楽しかったし、あの温泉も気持ち良かったしな。
「ねえノアぁ、眠くなってきたから寝ましょ?」
「そうだな。悪かったよサン」
「いいわよぉ? その代わり、思いっきり抱きしめてちょうだい♪」
それが望みならと、俺はベッドに戻ってサンの体を抱きしめた。
小さな体に似合わない大きな胸の圧迫感が気持ち良く、小さいからこそこうしてちょうどく抱きしめられる。サンは甘い吐息を零すように俺の胸に額を擦り付けた。
「今日のことはもう忘れましょう。明日……ううん、明後日くらいには帝国の侵攻が始まるみたいだし」
「だな。本当に大丈夫かなぁ」
「大丈夫よぉ。何があっても私たちがノアを守るわぁ。もちろん、この街のことも魔族ってことが分からない範囲でちゃんと守るから♪」
……本当に、どれだけ頼りになるんだか。
ニアもリリスも、フィアもルミナスも……そしてサンも本当にこんなにも力を貸してくれる。彼女たちと出会ったことは俺にとって本当に大きなことで、ああもう! 大好きで仕方ないってことだよ!
「そういうことは口で言いなさいよぉ」
「サンだからこそ分かってくれると思ってな」
「うふふ。正解ぃ♪ 大好きよぉノア!」
ぎゅうぎゅうとお互いに強く抱きしめ合った。
さて、サンが言ったようにすぐに帝国の侵攻が始まることになる。果たしてどんな結末を迎えるか……アバランテに何も起こらないことを祈ろう。
『ノアさんは考えすぎですよ。私が言うのもなんですが、魔王様だけでなくリリスさんたちが味方に付いているというのは反則技なんですよ。今の人類では逆立ちしても勝てない戦力が並んでいるのだからドンと構えていてください』
そうゾナさんは言っていたけど……うん、本当に安心してきたな。
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