子どものノア
ニアとゾナさんと共に皇帝の部屋に侵入にして……まあニアがこれでもかと脅しを掛けた翌日のことだ。
朝から当然ニアが消し飛ばした山脈についてアバランテではかなりの騒ぎになったのだが、何が起きてどうしてああなったのかを解明することは無理だった。そもそも誰も目撃していないし、あそこまで非常識な力を持った存在の目星は付くがそうする理由が分からないためというのが大きい。
『ま、これでも言うことを聞かなければ分かりやすく潰すだけよ。ライガルもノアの力になりたいからってやる気満々だし』
まさかライガルまでが力を貸してくれるとは思わなかった。まああれからライガルとヨクにもお菓子をあげたりするが、本当にライガルとは仲良くなった。まさか彼と俺を繋いだのがお菓子なんて……はは、今でも少し笑ってしまう。
「……笑ってるノアが可愛い」
「うむ……おいリリス、お前だけズルいぞ!」
なんて、昨日のことやライガルのことを思い出して笑っていたら目の前に居たサンとフィアに見つめられていた。
「うふふ、体が小さくなったのなら不安に思うこともあるでしょう。それならば私がノア君をキッチリ守らないとね♪」
背後でそう言ったのはリリスで、俺は今日ずっとリリスに抱きしめられていた。
その理由は単純でさっきリリスが口にした体が小さくなったというものだ。ゾナさんに飲まされた若返り……ではないか、単純に体が小さくなるポーションの効果は今朝になっても消えていなかった。
「……はぁ」
ゾナさんが三日はそのままと言っていたけど本当にその通りみたいだ。
とまあそんな風に万が一のゾナさんの襲撃から守るためにニアが一日泊まり、今朝になって仕事があるからとニアと入れ替わるようにリリスたちが来たというわけだ。
「ノア君~♪」
「……………」
いつもよりも体が小さくなったからこそ、すっぽりとリリスの腕の中に俺は収まっている。サンとフィアが不満そうな顔をする中、俺はリリスから齎される高級ソファ以上の柔らかさを背後に堪能していた。
「……あぁ、幸せな感触」
「ふふ、もっと味わいなさい」
……体が小さくなったからか、どんどん甘えたいって欲望が出てくる。
実は昨日ニアと一緒に寝る時も、俺はずっとニアに抱き着いたまま離れなかった。まるで子が親の温もりを求めるように、俺はニアから離れず彼女も俺を決して離そうとはしなかった。
「……なあリリス」
「どうしたの?」
ていうか、今思ったけど声も当然高くなっていた。
俺の呼びかけに声が返って来たのを合図に、俺は立ち上がってそのままリリスの方を向いた。キョトンとしたリリスが俺を見つめる中……俺は全く恥ずかしがることなくこう言葉を伝えた。
「……お母さんに甘えるように……リリスに甘えてもいい?」
「っ……!?」
あ、リリスが鼻を抑えてそっぽを向いた。
う~ん、俺もなんでこんなことを口にしたのか分からない。ただ、さっきから甘えたくて仕方ないんだ。とにかく甘えたい、温もりに浸りたい、抱きしめてほしいそんな感情が次から次へと溢れてくるんだ。
「わ、私に甘えろノア!」
「私よぉ! 私に甘えなさいノア――」
「お黙り!! ノア君が甘えたいと言ったのは私よ!」
リリスの一喝に二人が黙り込んだ。
実を言えば、フィアとサンにも物凄く甘えたいんだが本当になんだこの感覚。俺自身の考えというか、意志みたいなものはいつもと変化はないのにどうしようもなく甘えたくなるこれは何なんだ本当に。
「……リリス……母さん」
「あ……あぁ……♪」
ブルっと体を震わせたリリスは目をトロンとさせながら腕を広げた。俺はそのままリリスに正面から抱き着いた。両腕をこれでもかと使いリリスに抱き着き、スリスリと胸に頬を擦り付けると大変気持ちが良い。
「……なるほど、これが母になるということなのね」
優しく抱き留められ、頭を撫でてくれるその仕草に母性を感じる。凄いなこれ、リリスにとことん甘えたくて仕方なくなってくる。そのまま抱き着いていたが、リリスが横になったことで俺もまた彼女と同じように体を倒した。
「さあノア君、ママとお昼寝しましょうねぇ」
「……ママ?」
「あぁ素敵な響き……ぅん……っ♪」
さて、そんな風にフィアとサンを放っていたからか唸るような声が背中に届く。俺は相変わらずリリスの胸に顔を埋めているのでそちらは見えないが、これは後でフォローしておかないと大変そうだ。
「二人とも、ノア君にいらない気を遣わせないのよ?」
「リリス様がそうされてるからいいですよねぇ!」
「……リリス、お前は敵だ!」
「うふふ~♪ 母は強し、今の私は魔王様すら凌駕する存在よ!」
……なんかヒートアップしてきたな。
トントンとリズム良く背中を優しく叩かれると眠くなってきた。そのままリリスに抱き着いたまま眠る……っと、そこで俺は体が浮く感覚を感じた。
「?」
「の~あ~さ~ま~♪」
「ひっ!?」
敵襲!! 敵襲!!
リリスの胸の中に居ると思ったら、いつの間にか俺はゾナさんに押し倒されていてビックリした。場所もどこか分からないそんな場所、唯一分かるのはここがどこかのベッドの上ということだ。
「……ぐふふ……あぁ美味しそう……ノア様、いただきますね? いいですよね。良いに決まっているので参りま――」
涎を垂らしながら顔を近づけてきたゾナさんだが、彼女の体がいきなり吹き飛んでいった。そのまま壁に激突し、彼女は涙目になりながらお尻を擦って起き上がる。
「全く、油断も隙もないんだから」
「リリス様……あなたそんな力ありましたっけ?」
そう、俺を助けてくれたのはリリスだった。
どうやらリリスと契約していることで俺の居場所もそうだが、リリスを呼び出す魔法が発動したようだ。というかこの契約、ゾナさんを危険と判断したのか……まあ分からないでもないけど。
「……ゾナ、いくらノア君が幼くなったからってそういうのはやめなさい」
「嫌ですぅ!! だってめっちゃ好みなんですよ!?」
「知らないわよ! ノア君が消えたのはあなたの魔法でしょうけど本当にビックリしたんだから!!」
ニアとリリスの察知すら抜け出すゾナさんの能力か……昨日少しニアに聞いたけどゾナさんは魂を腐らせる鎌による戦いが得意らしく、その戦いぶりは無手のニアにすら匹敵するらしい。そして気配を消す魔法を兼ね備えた身体強化魔法は魔族随一というのも聞いた……まあただ、その能力の全てを自身の欲望を満たすことにしか使わないというのもある意味安全な証か?
「ノア!」
「無事か!!」
あ、フィアとサンだ!
俺は一目散に二人に飛びついた。驚いた様子で抱き留めてくれた二人だが、俺はすぐに二人に甘えるように頬を擦り付ける。
「……これはっ」
「ヤバいわねぇ……」
あ、今度はリリスから凄い視線を感じるしゾナさんに至っては……もう何も考えたくない。
子供のまま過ごす三日間、これからずっとこんなドタバタになると思うとちょっと胃が痛くなりそうだ。
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