どうにかするとニアは言った
その報せは突然だった。……まあ突然というよりも、何となく嫌な空気を感じてはいたがまさかそこまでのモノとは思わなかった。
「……戦争」
サンと共に家に帰って来た後、夕方くらいまでは彼女と過ごしていた。そして夕飯が近づいた頃を見計らってニアの私室に転移した。そしてルミナスが用意してくれた夕飯を済ませた後、その報せをニアから聞いたのだ。
「そう、戦争よ戦争。同族同士での戦いは珍しくはないけれどね」
つい先日のことらしいが、帝国が王都に宣戦布告したらしい。帝国の要求としては王都を属国として従うなら無益な血は流さないと言ったらしいが、国王がそれを拒否し戦うことが決まったとのことだ。
「勇者が私に敗れたことで均衡が崩れた部分もあるのでしょう。勇者の名に陰りが生じたのであれば帝国側が人々を主導する立場として動こうと考えた……ってところかしらねぇ」
「……なるほど」
やっぱり勇者って存在はとても大きいんだなってことが理解できた。
あの時、俺がニアを救ったことでここまで発展したってわけか……。まあでも今となっては当然後悔してはいない。そこに幾ばくかの犠牲があるのは分かっているが、もしかしたらニアやみんなに会えない世界があったかもしれないから。
「ノアぁ? あまり考えすぎないでね?」
「……あぁ。ありがとうサン」
隣に座っていたサンにそう言われ、俺は笑みを浮かべて言葉を返した。
さて、取り合えず帝国が王都に戦争を仕掛けることは分かった。となると、その間にあるアバランテは当然中継点なので巻き込まれざるを得ないだろう。
モンさんや多くの人たちの顔が脳裏に浮かんでしまう。
ただ巻き込まれるだけか、それとも戦争に駆り出されるのか……いや、アバランテは確か王都に属してないから徴兵などはないのか。だとしても、今回に関しては明らかに場所が悪かった。
「大丈夫よノア君」
「え?」
俺の表情を見ていたリリスがそう言った。リリスがニアに目を向けると、ニアが笑顔を浮かべて頷きこんなことを口にするのだった。
「アバランテの近くにはノアの家もあるし、私たちもあそこに住む人間たちのことはある程度気に入っているわ。変態レイスも気に入っている場所だし、それならば魔王として何もしないわけにはいかないでしょう?」
「ニア?」
ニアは一体何を考えているのだろうか……取り合えず今日の話はここまでで解散することになった。最近は夜を一人で過ごすことも少なくなり、家に戻る俺にリリスが付いてくることになった。
サンが悔しがっていたが、朝から一緒に居たからという理由でリリスに丸め込まれていた。
「……ふぅ、人間界は滅多に来ないけど嫌いじゃないわ。空気は綺麗だし、ここはとても静かだからね」
「まあ街から離れてるしなぁ」
街の中ならある程度の喧騒は仕方ないが、ここみたいに離れている場所なら本当に静かで過ごしやすい。その分何かが近づけばすぐに気付く、なんて怖さも若干あるけれどニアやリリスの加護を受けているからこそ安心できる。
「ノア君はもう寝る?」
「いや、まだ起きてるけど……リリスは?」
「私はノア君に合わせるわ。あぁでも、少し外をお散歩しない?」
「いいよ」
リリスから散歩のお誘い、もちろん断る理由はなかった。
家から出て街道に向かうと当然暗くもあったし、何より獣の遠吠えや満点の星空が俺たちを待っていた。
「リリス」
「ふふ、ありがとう」
リリスが腕を組みやすいように隙間を開けると、リリスはすぐに俺の腕を抱きしめるように身を寄せてきた。ぷにぷにとしたこの感触が本当にクセになりそうで、リリスもそれが分かっているのかもっと強くするように押し当ててくる。
「ノア君も男の子だもんね。こういうのが好きなのは分かってるわ」
「今更な気もするけど……」
「ふふ♪ サキュバスは欲望に忠実な男の子は大好きよ? それが自分の愛する男性ならもっと強く……あら?」
「? ……あ」
呆気に取られたような声を出したリリス、俺も気になって目を向けると……いつかサンが見せたような異変を見せていた。水着同然の服の上にはマントを羽織っているがそれでも露出はあまりに大きく、そしてその胸に起きた異変はすぐに分かった。
「……それ、リリスは制御出来るみたいなのを聞いたんだけど?」
「あ~……そのはずだったんだけど、もしかしたらさっきご飯を食べた時に飲んだお酒の影響かしら。それで少し気分がフワフワしているのかも」
「なるほど……」
リリスが飲んでいた真っ赤な飲み物から独特な香りがすると思ったけどあれはお酒だったのか。まあ確かにアルコールが体に入ると頭がフワフワしてくるって聞いたことがあるからなぁ。
「まあいいじゃない。どうせ私たちの姿を見る者は誰も居ないわ。ノア君のことを考えて出てくる幸せジュースを垂れ流しても誰にも見られないから♪」
「それはそれでかなりエッチなんですが……」
「うふふ♪ 夜は長いわよノア君、帰ったら愛し合いましょう♪」
耳元で囁かれたその言葉には途轍もない色気が込められていた。
やっぱりサキュバスクイーンの魅力というか、醸し出される色気は本当に凄まじいと思わせられる。
「なあリリス」
「どうしたの?」
さて、そんなリリスに俺は一つ聞きたいことがあった。それはサンが絡んできた男に対して使ったチャームに関するもので、具体的にどれだけの出力が出せるのか気になったのだ。
……正直、聞かない方が良かったと思った。
「う~ん、全力でチャームを使うと廃人に出来るわよ? 相手の脳内に入り込んで無理やりに弄るわけだから、ただ精気を吸うための置物タンクにすることだって可能だもの。質の悪いサキュバスだとそうやってエネルギーを確保する子も昔は居たわね」
「……うへぇ」
聞くだけで恐ろしかった。
まあただ廃人になるわけではなく、サキュバスから与えられる快楽に体は反応するらしいが……それでも置物タンクってのは嫌だな。
「雰囲気を重視する子も居るし、ただ単にエネルギータンクとしか見ていない子も居るのは確かよ。さっきも言ったけど昔にはそんな子が居てね? 男は精気を供給するだけの置物として生きればいいって」
「……なんかチョウチンアンコウみたいだな」
「なに? そのチョウチン……アンコウって」
あぁそうか、流石にこっちの世界には居ないのか。
まあ元居た世界で生きる生物なんだが……その生殖の仕方が何とも悲しいというか切ないというか、説明すると少し気持ち悪いのでリリスには黙っておこう。
「そろそろ戻るか?」
「そうね――ノア君」
「うん?」
「魔王様はちゃんと考えているわ。決してアバランテの街を見捨てたりしない、だからノア君は安心してこちら側に居ればいい」
「……あぁ。分かった」
「えぇ♪」
その言葉が何よりも心強く、任せなさいと胸を張るニアの姿が簡単に想像出来て俺はリリスに言われたように途轍もない安心感に包まれた。
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