ノアとみんなで一緒

「……ここは」


 瞼をゆっくりと持ち上げてフィアは目を覚ました。

 覚醒しきっていない頭で状態を起こすと、何かがお腹の辺りに抱き着いてきたため視線を向けた。


「……あ♪」


 一瞬にしてフィアの頭は覚醒した。

 フィアに腕を伸ばしているのは間違いなくノアで、寝る前に気持ちを伝えて愛し合った男の姿だった。起き上がったフィアと違い、まだノアは夢の中だがそんな彼のあどけない寝顔にフィアは頬が緩む。


「昨日はとても良い時間だった。まさか、私があんな風になるなんてな」


 クスッとフィアは苦笑した。

 恥ずかしくもあり幸せだった記憶は完全に脳に刻まれている。ニアとリリス、サンを相手にした経験があるからかノアはそれなりに慣れていた。頭と体でノアの取り合いをしながらも、彼の手によって気分を高められ愛撫されていく快感をフィアは忘れることは出来ない。


「……しかし、よもや体の交わりがこんなにも幸せとは思わなかった。所詮男なんぞ必要ない、そう生きていた私が馬鹿に思えるくらいだ」


 フィアはとにかく戦士として生きてきた。

 その槍を持たせれば一騎当千、条件次第ではニアにすらその矛先を突き付ける実力を発揮することも出来る。そうして戦いの中で生きてきた彼女が初めて異性を気になり、二つの感情を交代させながらノアと接し気づけば好きになっていた。


「ノア、私は女らしくなどない……だが、ノアの前でだけ私は女になれる」


 ニアやリリス、サンのように女らしい部分があるとフィアは思っていない。可愛らしいよりも凛々しい、男物の服が似合うような顔立ちだ。フィア自身は別に何とも思っていないが、こんな顔の自分がノアの隣に居て良いモノかと悩みもあった。


「……ったく、体だけは立派に女性なんだがな」


 大きく実った胸と大きなお尻、それは戦いにおいて邪魔と思っていた。しかし、そんな女らしい部分に照れてくれるノアの表情にフィアはこんな体で良かったと思えるようになったのだ。


「ノア、好きだぞ? 大好きだぞ? 愛している……愛しているぞ♪」


 昨日の夜にノアと共に交し合った数々の言葉を伝えるが、いまだ愛おしい彼は夢の中に居る。そんな姿に頬を膨らませたりはせずに、彼女はただただ眠り続けるノアを愛おしそうに眺めていた。


 そんなノアとフィアが居る場所はニアの部屋、つまり二人は本来の主人が居ない中で一夜を明かしたのだ。


「……はっ!?」


 当然、フィアもそこに考えが及んだ。

 友であり敬愛する魔王であるニアの私室にてノアと愛し合い、あまつさえそのベッドを使わせてもらったのだから。

 ガタガタと体を震わせて汗を流すフィアだが、無論ニアはそんなことでは怒らないしむしろそうなるように仕向けたようなものだ。


「おはようフィア。ノアは……寝てるわね」


 ちょうどいいタイミングで部屋の扉が開いてニアが入って来た。

 フィアはどんな言い訳をしようかと必死に頭の中で考えているが、そんな様子もニアは察しているのかクスクスと笑みを浮かべた。


「慌てないでフィア、怒ったりはしないから」

「……ですが」

「それよりも……どうだった?」

「あ……」


 その言葉は当然、ノアとの時間はどうだったかという問いかけだった。

 フィアは今一度眠るノアに目を向け、そしてニアに向き直って答えるのだった。


「……幸せでした。私も女なんだなと実感したほどです」

「何を言っているのよ。十分に女でしょうに」


 ベッドに腰かけたニアは手を伸ばしてフィアの胸に手を添えた。女同士なので特にフィアは何も思わず、モミモミと揉んでくるニアの手を受け入れていた。


「ふふ、こんなところにキスマークなんて付けられちゃって」

「……っ!?」


 え、そう思ってフィアが目を向けると確かに赤い痕が付いていた。思えばノアは良く胸を触っていたがなるほど、ノアは胸が好きなのかとフィアは笑った。これからは事あるごとに触らせてあげようと考えノアの頭を撫でる。


「……あれがノアの力、なんですね」

「そうよ。どんな傷も病気も治す奇跡の力ね。でもサンが拗ねてたわ。自分だけ仲間外れだって。その後にリリスに怒られていたけど」


 ノアに救われ、その魔力が体の内側に残ることにサンは憧れを抱いていた。しかしノアがあの回復スキルを使うということは絶対に治すことの出来ない傷か病に苦しむことを意味する。冗談でもそんなことは言うなとサンはリリスに怒られたのだ。


「……魔王様」

「なに?」

「本当に苦しかったです」

「でしょうね。ウルサを殺す勢いだったから当然でしょう」

「……そういうところ本当に魔王ですよ」

「当り前じゃない。清く正しく優しい魔王様よ?」


 それは魔王ではない、そんなツッコミは胸の中に仕舞っておいた。そんなやり取りをしているとノアもすぐに目を覚ました。近くに居たフィアに腕を伸ばして抱き着いてきたが、そんな仕草すら愛おしかった。


「魔王様、私はノアが好きです」

「見てれば分かるわよ」


 フィアの言葉にニアは笑みを浮かべた。

 しばらくするとリリスとサンにルミナスも合流し、ベッドの上で素っ裸の二人は四人に肌を晒すことになった。


「……フィアって本当にスタイルが良いのねぇ」

「サンだって十分にデカいだろう」

「私は背も欲しいのよ!!」

「……高くても困るぞ? 頭をぶつけたりな」


 フィアの背はかなり高く、ノアが生きていた世界で活躍する海外のバスケット選手くらい高い。そんな部分も彼女を凛々しく見せていた要素だが、背が高いからこその悩みもやっぱりあるようだ。


「……それにしても……う~ん」


 ニア、リリス、サン、フィアを眺めながらノアは考えていた。

 この世界に来て色んな事があって、こんなにも綺麗で素敵な女性たちと関係を持つことになったことを感慨深く思っていた。男なら誰しもが夢見るハーレムを実現させていることに調子に乗る……なんてことはなくて、ただこの繋がりを守っていきたいと強く願うのだ。


「みんな」


 ノアが声を掛けると一斉に目が向いた。

 サキュバスのリリスとサンはノアの股間を見て甘い吐息を零したが、すぐにそんな雰囲気ではないと考え視線を上に上げない。


「これからもよろしく!」


 ノアの言葉に四人は頷くのだった。



 魔界での一つの事件は決着し、まだ不穏分子は残るが概ね平和になったと言えるだろう。しかし、表の世界――つまり人間界では新たな火種が生まれようとしていた。


 それはノアの家が近くにあるアバランテも例外ではなく、新たな問題が足音を立てて彼らの前に現れようとしていたのだった。


 ……とはいえ。


「魔王様ぁ、四人でノアを相手するのはダメなんですかぁ?」

「あら、それはそれで楽しそうだけど流石にノアがしんどいでしょう」

「……………」

「ふふ、その顔は想像してるわねノア君」

「え!?」

「……私としてはどんなことをするのか勉強したいところだが」


 色んな意味で、ノアにとって大変な日々の始まりだ。

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