頑張ったご褒美
『ぐおおおおおおおおおおっっ!?!?!?!?!?』
「うぅ……っ!! いたい……いたいっ!!」
響き渡るウルサの声と、必死に痛みを堪えるフィアの声が聞こえる。フィアの体を覆っていた鎧は既に溶け落ち、その体も頑丈ではあるが焼け爛れて目を逸らしてしまうほどの光景だった。
「……ノアぁ……ノア……っ」
「フィア! 頑張れフィア!」
段々とフィアの声が弱くなっていく。
俺はそんな様子に最悪の未来を見てしまった。普段は凛々しく、けれども頭が外れれば幼くなってしまう不思議なデュラハン……まだ出会って少しだけど、フィアと過ごした時間はそれなりにあった。
「……ノア……お願いが……ある」
やめてくれ……そんな諦めたような声で言うのだけはやめてくれよ。
ニアも少し焦りが出てきたのか、魔法を緩めようとしたが首を振った。リリスもサンもルミナスも、みんながもうやめてほしいと目で訴えるが……ここでやめてしまったらウルサが消えることはない。だからこそ、ニアは攻撃を止めないんだろう。
「キス……してほしい……そうすればフィア、頑張れる……から」
「っ……分かった。唇で良いのか?」
「うん……お願い……して」
キスくらいなら何度だって……いや、キスが大切な行為だとは分かっていても今のフィアがそれを望むならそんな言い方にだってなってしまう。涙を流し続けるフィアの顔に近づき、俺は唇を合わせた。
「っ……えへへ、ありがとうノア。大丈夫、フィアは勝つぞ……っ!」
「……頼む。勝ってくれ……俺の傍から居なくならないでくれ……っ!」
「任せろっ!」
体から伝わる苦痛は凄まじいはずなのに、それでも涙を流しながらフィアは精一杯の笑みを浮かべた。そして、大きな声でこう叫ぶのだった。
「ウルサ! お前とフィアで我慢勝負だ! ノアが抱きしめてくれている、想ってくれるから勝てると思うなよクソ雑魚ナメクジ!!」
『きさまぁああああああっ!? っ……ぐぅうううううっ!?!?!?』
そこで一つの変化が起きた。
段々とフィアの体から何かが実体化している。まるで何かに耐えられず引きずり出されるかのようだった。
『そんな馬鹿な……この私がこんなことで……っ! 魔王おおおおおおおお!!』
「……あ」
気の抜けたようなフィアの声が聞こえた。
その瞬間、フィアの体から完全にウルサが分離した。奴は真っ直ぐにニアに向かって襲い掛かる。しかし奴がニアの体に辿り着くことはなかった。
「失せなさい」
『っ……おのれええええええええええっ!?!?!?』
ウルサに向かって手を翳すと、奴は爆散するように破裂した。しかし元から死んでいるのもあってか血が噴き出ることもない、ただ風船が破裂するようにパンと音を立てるだけだった。
「ノア!」
「あぁ!!」
俺はフィアの頭を抱えたまま倒れた体の元へ、当然近づくと焼け爛れた臭いに思わず顔を歪ませてしまう。だが目を逸らすことはせずに、俺は手を翳して内側の力を捻り出すように声を出した。
「パーフェクトヒール!」
フィアの体に光が集まり、そしてすぐに光が晴れて体は元通りになった。
俺は安心して大きく息を吐いたが、回復したはずのフィアが何も喋らないので焦ったけど……どうやら寝ているだけだった。
「むにゃ……あっぷるぱいぃ……おいしぃ」
「……全くこの子は」
「……ふふ」
取り合えず、これで安心していいんだよな。
「えぇ。もう大丈夫よ……リリス、一応強めのサーチをお願い」
「分かったわ」
「手伝います!」
リリスとサンが魔法を使って完全にウルサの気配がなくなったことを確認してくれた。俺は眠り続けるフィアの頭を撫でながら体に戻すのだった。すると……こんな時で申し訳ないが、ちょっとおかしな光景が広がった。
「……っ! っ!!」
「おっと」
フィアの頭は眠っているのに体が起き上がって俺に抱き着いてきた。何も喋らないということは今は体だけが意思を持っていることになるけど……本当にどういう仕組みなんだろうか。
「……はは、本当に良かったよ」
「♪♪」
それからフィアの体は離れてくれないため、みんなが苦笑しながらも気を利かせて二人にしてくれた。ニアに関しては同じ部屋で俺たちを見守っており、ずっと優しい目で俺とフィアを見つめている。
「フィアとは昔とても仲が悪かったのよ」
「……え!?」
突然の言葉に俺は驚いた。
ニアはともかく、フィアはあんなに魔王様って慕っていたから仲というより関係性は昔から良いと思っていたんだが。
「私も若いころは魔王としてというより気ままに生きてたからねぇ。真面目なフィアはどうも我慢出来なかったんでしょう」
「……そうだったのか」
昔を思い出すようにニアは腕を組んで話を続けた。
そうやって出会った二人だが、時には模擬戦をすることもありそこでボコボコにしたのをきっかけに慕ってくれるようになったらしい。
「なんか……男と男の友情みたいだな」
「そんなものかしら? まあでも……この子は大切な部下なのは間違いないわ。だから絶対に助けたかった。ありがとうノア、またあなたのスキルが私の大切な存在を守ってくれたわ」
「いや……俺も助けたかったから」
本当に……本当にフィアを救うことが出来て良かった。
ニアと話をしていると、ようやく眠り続けていた麗人が目を覚ました。流石に鎧は着ておらず下着姿だが……まあそれは仕方ない。
「……ノア? 私は……っ!?」
起き上がったフィアは自分の姿を確認して毛布で体を隠した。
「……その、申し訳ない」
「あ、謝らなくてもいい! 恥ずかしいだけだ! 嬉しいだけだ!」
「嬉しい?」
「うむ。ノアに見られて嫌なものはないからな!」
……なんか、いつものフィアって感じで安心したよ。
俺たちを眺めていたニアも笑みを浮かべてこちらに近づき、手を伸ばしてフィアの頭を撫でた。
「よく頑張ったわね。信じてたわよフィア」
「……ふん! 私だぞニアール!」
「あ、アンタ起きてたわね?」
「……寝ていたぞ」
「ぷふっ!」
俺とニアは揃ってフィアの様子に笑うのだった。
それからニアは部屋を出て行き、残ったのは俺とフィアだけだ。フィアは俺を見つめて体を隠していた毛布を取った。
「……ノア」
「……おう」
応えた瞬間、俺はフィアに抱きしめられた。
そしてそのまま押し倒されるようにしてベッドに倒れた。
「私はノアが好きだ。その……自分で言うのも何だが私は非常に脳筋だ。だが、ノアを想う気持ちだけは乙女だと思う。すまない、自分でも何を言っているのか分からないが」
「……みたいだなぁ。まあでも、俺も伝えたいことがあるよ」
「うむ……聞く」
「フィアのことが大切で……傍に居てほしい。これからもずっと」
「あぁ。私はお前の傍に居るぞ。いつまでもな」
また一つ、大切な存在が増えることになった。
俺はフィアの目を見つめて一番伝えないといけないことを口にした。
「好きだよフィア」
「私も……あ」
そこで何故か頭がポロっと取れた。
俺は思わず彼女の頭を抱き留めたが、その瞬間元気な声が響くのだった。
「フィアはノアのこと大好きだからなああああああああ!!」
「……っ!!」
体の方もギュッと抱きしめてきてもう何が何だか分からない状況だった。それでも凄く幸せだったのは言うまでもない、色々あったけど……フィアを救うことが出来たのだと俺は実感した。
「……ところでノア!」
「うん?」
「フィアはエッチがしたいぞ! どうするんだ!?」
「……えっと~」
何だろう、この幼い感じのフィアを相手すると一気に犯罪臭が……。
「うん? こら何をする!? わあああああああっ!?」
「フィア!?」
フィアの体が頭を掴んで遠くに放り投げた。いきなり何をしてるんだと驚く俺に跨るようにフィアの体が位置取り、そして股を擦り付けて来る……かなりエッチな行為だった。
「こらああああああああお前えええええええ!!」
ゴロゴロとフィアが頭だけで転がってこっちに戻ってくる……やばいホラーだ。
っと、そんなこんなで色々とグダグダな時間だったと言っておく。
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