ミイラになっちゃう

「……サキュバスはやっぱり怖えよ」

「うふふ~♪」


 サンと結ばれた夜のことだった。

 いつの間にか気を失うように眠っていたのか、俺は自分よりも小柄なサンの胸の中で目を覚ました。しんどい思いをさせるつもりはないとサンは言っていたのだが、どうやらタガが外れたらしい。


「ごめんねぇ? 必死に抑えようとしたんだけど、ノアを求めることを我慢できなかったわぁ」

「……まあ大丈夫だ。俺が情けないだけさ」


 疲れ切った俺とは違ってサンは肌を艶々とさせていた。ただでさえ綺麗だったのに更に魅力に磨きが掛かったような……それこそ、情事の後のニアとリリスを思わせる感覚だった。


「……あ~サンぅん!!」

「きゃん♪」


 なんだかこうしていると途端に甘えたくなるんだよなぁ。サンの豊かな胸に顔を埋めて甘えると、サンは仕方ないわねと言って頭を撫でてくれた。何というか、こういう部分もリリスに似ていた。もしかしてサキュバスって異性を安心させるプロなのでは?


「う~ん、というか愛した者限定かしら」

「そうなのか?」

「えぇ。契約をしたということはその人にそれ以降の一生を捧げるほどの愛を抱いたということ。つまり、その人のことを愛したくて仕方ないの。サキュバスが吸精するのって生きるための義務であることが多いから……まあ、その行為に愛が加わったらタガが外れるってものだわ」

「……なるほどな」


 それは……やはりとても嬉しいものだった。

 サンの胸元から顔を離そうとすると、何故かダメよと言われて再び腕で押さえつけられる。俺よりも小柄なのは当然だが、やはり人外ということもあってその腕力は凄まじい。


「もう少しこうしてるの。この幸せな感情、まだまだ感じていたいんだからぁ♪」

「……分かった。それじゃあ俺ももっと堪能する」

「してぇ、もっともっとしてぇ!」


 ……あくまでこのまま堪能するわけでこれ以上はしないぞ絶対にな!

 そんな風にサンと抱き合っていた時だった。何か俺の中に温かなモノが溢れてくるような感覚があった。それはまるで、二度に渡って失われた回復スキルが再び宿った時と同じ感じだったのだ。


「どうしたの?」

「……あぁいや、何でもない」


 ……まさかな。

 それにしても、やっぱり元の世界のこととこのスキルに関してはサンでもやはり読めないらしい。首を傾げるサンが可愛くてつい、俺はさっきと逆のことをするようにサンを思いっきり胸元に抱きしめた。


「……はふぅ♪」

「めっちゃ蕩けてるな」

「当り前じゃないのぉ! だってだって、私はノアのことが本当に大好きで仕方ないのよ? それなのにこんなことされたらこうなるに決まってるじゃない♪」


 あぁ本当に、この子は喋れば喋るほど可愛い女の子だった。

 夜にはニアのところへ戻る約束なので、後しばらくしたら戻らないといけない。俺はサンにキスをして立ち上がるのだが、やっぱり胸元が温かいもので濡れていた。


「……これぇ、制御できるようにならないとマズいわね。水浸しになっちゃうわぁ」

「……おぉ……これは」


 小さな噴水……とまでは行かないが、止めどなく溢れるソレを見てついついムラムラして来そうになったが何とか抑え込んだ。


 サンと共にシャワーを浴びて服に着替え、二人でニアの屋敷に戻るのだった。


「お帰りなさい二人とも、その様子だとサンも上手く行ったみたいね?」

「はい。とても素敵な時間を過ごさせていただきました♪」


 はは、そう言ってくれるなら俺も嬉しいよ。むしろ、俺も幸せしかなかったようなものだし。そう思った考えはやはりサンには筒抜けで、彼女はニヤニヤとずっと頬を緩めたままだった。


「……なあニア、何かあったのか?」

「あ~……まあノアにはいいかしら話しても」


 それからニアは話してくれた。

 昼過ぎに起きた出来事について、魔族幹部の二人がライガルの手によって殺されてしまったことを。その原因はヨクを害そうとしたあまりライガルの逆鱗に触れ、彼らは無残にもライガルに殺されてしまったのだと。


「そんなことがあったのか……」

「色々と大変だけど、まあどうにかするしかないわ。幸いにも彼らは自分の領地に住む民たちも苦しめていたことが分かったし、どちらかと言えば歓迎する声の方が大きいのだけどね」

「……そうなんだ」


 まあでも、それでニアの立場が悪くならないのならば俺は……っと、そこまで考えて俺はハッとした。誰かが死んだことは間違ってないのに、それに対して何も思うことがないなんてな……はは、俺ってこんなにドライだったか?


「ほら、そんな顔をしないのよノア」

「あ……」


 ギュッとニアに抱き寄せられた。

 彼女は俺を安心させるようにその慈愛の込められた瞳で見つめながら、優しい声音で言葉を続けていく。


「これは私たちの問題だしノアは何も気にする必要はないの。どうしても気になるのなら甘い時間で忘れさせてあげようかしら?」


 耳元で囁かれ急激に心臓の鼓動が激しくなった。

 ニアとリリス、サンとそういうことをしたというのにまだまだ俺は慣れそうにないみたいだ。まあそう簡単に慣れてもそれはそれで困るけど……。


「ねえ魔王様、それなら私もご一緒していいですかぁ?」

「あら、疲れてないの?」

「サキュバスの体力を舐めてもらっては困りますぅ。まだまだ行けますよぉ!」

「ふふ、流石ね。それならリリスも一緒に――」


 やめてください死んでしまいます。

 割とマジでそう思ったのだが、流石にニアとサンは揶揄う意味での冗談だったらしい。安心するように息を吐いた俺を見て、ニアがごめんなさいと謝った。


「流石にそこまで無理をさせるつもりはないわ。もちろん、ノアがしたくなったらいつでも呼んでいいんだからね?」

「そうよぉ? 見かけたときに襲い掛かかってくれたら喜んで相手するからぁ」


 ……ぐうぅ、とてつもないほどの悪魔の囁きが襲ってくる!!

 再びムラムラしてきた自分に節操のなさを感じてしまうが、こんなにも魅力的でエロい体つきの二人に抱き着かれて冷静で居ろというのが難しい話だ。しかし、何とか俺は耐え切った……しかし、最後の襲撃が残っていた。


「あら、魔王様とサンだけズルいわ。ノア君~~!!」

「わぷっ!?」


 エロの化身こと、リリスが止めの抱擁をかましてくるのだった。

 とはいえ、こんな幸せの中に居ても気になることはあった。


 俺のスキルは一体、何をトリガーにして使えるようになるのだろうか……俺はそれをずっと考え続けていた。

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