お互いに漏れて止まらない

「……ごめんねぇ二人とも、せっかく連れてきたのに大しておもてなし出来なくて」


 謝るサンに俺は気にしないでくれと頭を撫でていた。

 結局あの後、色々と話をしたのだがいつまで経っても二人はイチャイチャしていて俺たちが逆に邪魔者みたいなもんだった。


『ノア君、サンをよろしく頼む』

『あの子は色々なものを抱えているけれど、そこまで懐いているのはきっと、あなたがとても素晴らしい方だからでしょう』


 会って間もないのに過大評価されている部分もあったが……それでもサンの両親からは信頼されていた。きっとサンが心を読める力を持っているからこそ、疑う余地はないとでも思ってくれたのかもしれない。


 そんなこんなで、再びおっぱじめようとした二人から逃げるように俺たちは家から外に出たというわけだ。


「全く、まだ日も明るいというのにけしからん」

「……ごめんな」

「だから何でノアが謝るんだ!?」

「ふふ、何でかしらねぇ?」


 サンはそりゃ分かるよなぁ。

 それから三人で過ごしていたのだが、フィアはこれから用事があるのかどこかへ行ってしまった。


「それじゃあ少しその辺を歩きましょうかぁ」

「あぁ」


 サンの実家が近いということもあって、やはりスケルトン……アンデッドと言った方がいいのかな。それっぽい存在が多いみたいだが、もちろんそれ以外の者も少なからず居た。


「あそこに座りましょ~?」

「分かった」


 道端に置かれたベンチに座ると、近くの店でサンが飲み物を買ってくれた。透明なカップに入れられたそれは真紅の飲み物で……完全に血を連想とさせるが一体?


「飲んでみて? 結構美味しいんだから」

「……おうよ」


 そこまで言われるなら……俺は思い切って一口飲んでみた。

 すると……思ったよりも酸っぱかった。しかもこの味には覚えがある……たぶん元の世界で言うグレープフルーツジュースみたいな感じだ。色が真っ赤なので少し見た目は慣れが必要そうだけど。


「美味しいなこれ」

「でしょう? 私の方も飲んでみてぇ?」


 ……そっちは真っ黒だな。

 前も思ったけど、魔界の食べ物であったり飲み物はまず色がおかしい。とはいえ俺の価値観がこちらからすれば変なだけだろうし……いざ行かん!!


「……美味い」


 サンのジュースも普通に美味しかった。しかも驚くんだけど、この色で味はメロンみたいな味だった。


「ふふ、間接キスねぇ?」

「……嫌だったか?」

「いいえ、嫌じゃないわぁ」


 そう言ってサンはストローの先を舌先でペロペロと舐めた。やっぱり見た目が幼いサンではあるが、その雰囲気もあって本当にエッチだ。リリスほどではないにしてもやっぱりサキュバスの妖艶さは隠しきれない。


「ねえノア」

「なんだ?」

「魔王様とリリス様……二人とそういう関係になったのね?」

「……まあな」

「ふふ、人間がまさかねぇ……って、少し前の私は思ったんでしょうけど今はとても納得できるわ。だってノアだもの、一緒に居たら心が温かくなるから」


 サンは一旦ジュースを置いて俺に抱き着いてきた。


「私の骨の部分を受け入れてくれたこと、ノアにとっては特に思うことじゃないかもしれないけどとても嬉しかったのよ? 長年接していれば慣れてくる、けどノアは正真正銘私と出会ってすぐに受け入れてくれた。それがとても嬉しかったし……後は単純に心が優しかった」


 いつもの間延びする喋り方ではないのが新鮮だった。その小さな体、細い腕を必死に伸ばすように俺の背中に腕を回すサンの姿が本当に愛らしかった。


「私はサキュバスだし攻める時は攻める女、でもいざそういうことになると頭が沸騰して倒れてしまうこともしばしば……ほら、ノアが凄くいやらしいことを思い浮かべたことがあったでしょう? あの時みたいなものね」

「あぁ……あの時は申し訳ない」

「いいのよ。でもちょっと興味はあったわね……あんな風にドロドロにされるのも案外……ま、相手はノアに限定だけど♪」


 いや、あれは俺の世界でもかなり特殊な趣向なんですわ……かなり人気のある作品ではあるけどね。


 でもそうか、この口ぶりだとやっぱりサンも俺のことを想ってくれてるのか。俺がこう考えたと同時にサンが頷いた。顔を上げた彼女は頬が赤くなっており、すぐにまた視線を下げて俺の胸に顔を押し付けた。


「私ってちょろい女なのよぉ。あんな風に揶揄っていたけど……ほら、好きな子にちょっかいを出すのと同じね」

「はは、サンみたいな子ならむしろ光栄みたいなところはあったかも」

「……もう馬鹿ぁ♪」


 マズイ、さっきからサンが可愛すぎて辛い

 この思考も筒抜けなのだとしたら……ったく、サンには何も隠し事は出来そうにない。というか、ニアもリリスも勘が恐ろしいくらい鋭いからそっちも隠し事なんて無駄そうだけど。


「……フィアより先を越すのはちょっと心が痛いけど」

「え?」

「だってあの子、ノアを好きだけどそれが恋愛だとまだ気付けてないみたい。頭だけの状態の求愛行為もただ親に甘える子供みたいなものだしぃ?」

「……そうなのか」


 確かに結婚するとか色々言われたけど、それはあくまで頭だけの状態だけだったもんな。でもそれならそれで良いとサンは言ってニコッと笑みを浮かべた。


「魔王様とリリス様みたいに愛してとは言わないわぁ……ただ、ノアの傍に居させて欲しいの。ノアの家畜としてでもいいから……私はノアの傍に居たいわ」

「家畜なんて言わないでくれ、つうかそんな風に思えないの分かってるだろ?」

「……ふふ、そうね。だってノアはとても優しい人だから」


 ……俺にだってこの腕で支えられるものには限界がある。

 でも、ニアのおかげで自信をいうものを付けることが出来た。まだまだだし考えだって及ばないことがある……それでも、俺は彼女たちを愛したい。


「……わざわざ言葉に出さないで。もう十分だから――」

「サン、傍に居てくれるか?」

「……待って、お願いだからそれ以上は――」

「傍に居てくれる君のことが愛おしいんだ」

「嬉しさで出ちゃうからぁ!!」

「……えっ!?」


 その日、新たに俺の記憶に凄まじいものが刻まれた。

 サキュバス特有のモノかと思ったがそうではなく、あくまでサンの体質らしいのだが……幸せの感情が限界突破するとその、胸から出るらしい。


 ……やっぱりサキュバスはエッチだ。

 俺は真っ赤になって胸に手を当てるサンから目を逸らした……もちろん、鼻血はバッチリと出ていた。

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