ライガルは甘いものがお好き

「……あ」

「……む?」


 それは突然の出会いだった。

 フィアの頭を腕に抱えながらニアの屋敷を散策していた。何だかんだ部屋からあまり出たこともなかったし、リリスの屋敷に行った時は転移でそのまま飛んだからだ。


「ライガル何してんだぁ?」


 呑気な様子でフィアが口を開いた。

 ニアの屋敷のドアを開けたのはライガルであり、ヨクが思いっきりアプローチを掛けているドラコだった。人間を見下しており好戦的、そんな話を聞いていたが俺を見る彼の視線に敵意はなかった。


「……何故人間がニアールの屋敷に……あぁそうか。お前がヨクが言っていた心優しき人間か」

「……うん?」


 ライガルからそう言われたのはともかく、どうやらライガルは俺のことをヨクから聞いていたらしい。知られていたのに今までアクションがなかったのは気になるけど妙に物腰は柔らかいな。


「ニアールは居るか?」

「あぁ……今お菓子を食べてるけど」

「休憩中か。それならまた来よう」

「……分かった」


 ……本当にどうしたんだ?

 俺はついその背中に声を掛けた。


「なあ、アンタは俺がニアの傍に居ることを何とも思ってないのか?」

「……あぁ。まあな……俺もどうやら本気の恋とやらはしていなかったみたいだ。それに気付かされるとは思わなかった」

「へぇ?」


 少しそこで話をしよう、そう言われ俺はライガルの傍に近寄った。

 いつの間にかフィアの体も傍に控えており、守りは万全だと言わんばかりに槍を手に携えていた……それなら頭を戻してもいいと思うんだが、まあいいか。


「俺は聖女と……ヨクと結婚する」

「おぉ」

「おぉ!!」


 いきなりの発言に驚く。

 ニアから近況を聞いていたわけではないが、まさかライガルがヨクと結婚すると言うとは……人間を下に見ていると聞いただけに本当に驚きである。


「最初は鬱陶しかったはずだった。だが……ヨクは本当に健気だった。いつも俺を癒そうとしてくれるし」


 それは単純にエッチなことに猛進していただけでは?


「宝石や服、金を渡すと目を子供のように目を輝かせてな……本当に可愛いんだ」


 それは……うん、何も言わずにおこう。

 サンを通してヨクの内心を知っているからこそ俺は苦笑した。とはいえヨクがライガルに惚れているのは嘘ではないため、それで上手く行っているのならそれはそれで良いことなのかな。


「そんなヨクと話をしていると人間を見下していた自分が恥ずかしい。結局人間は脆弱な生き物だと、滅ぼすべき存在だと俺は決めつけていたんだ。ヨクのような人間もいるし、そんな彼女が君は素晴らしい人間だと……そして首なしさえもお前を気に入っているようだ」

「? フィアはノアが大好きだぞ!!」

「あはは……」


 ヨクにはお菓子をあげたくらいだけど……絶対に自分の印象を良くするために色々と盛ったなあの人は。まあそのおかげでライガルの視線が柔らかいし感謝はしておくべきかもしれない。


「ニアールは……まあ、今となっては分かる。俺は相当にめんどくさいと思われていただろう。客観的に見てようやく気付けるとは情けない限りだ」

「……ふむ」

「ふむ? ふむ!」


 ……あぁ、フィアが和む。

 それに、フィアの体もいつの間にか俺の背中にガッチリ抱き着いてるし。


「はは、こうして見てみるとなんとも首なしの間抜けなことだ」

「間抜けだと!? 貴様フィアを馬鹿にするのかぁ!?」

「っ~~~~!!」


 大声で可愛く怒鳴るフィアと、親指を下に向けるフィアの体だ。

 そんな二人……二人? フィアの頭と体の動きに苦笑した俺をライガルが改めて見つめてきた。


「改めてライガルだ。よろしくしてもいいか?」

「もちろん。ノアだ、よろしく」


 そうして俺はライガルと握手をした。

 俺なんかよりもずっと大きな手、これが歴戦の猛者の手かと驚く。握手をしたライガルはニカッと笑い、そして何かを思い出したのか頬を掻きだした。


「そういえば……ノアはお菓子を作ると聞いたんだが」

「あぁ。ヨクにも以前にあげたことがあるな」

「そうそれだ。とても美味だと聞いていた……なんでも不思議な見た目をしているが触感も素晴らしく、何より味も甘くてクセになると聞いた」


 アップルパイのことか……。

 ちょうど二つあるし、これもお近づきの印というやつでヨクの分も一緒に持って帰ってもらおうかな。


「フィア、また今度作るからいいか?」

「……うん。残念だけどノアが決めたのならいいぞ!」

「ありがとう」


 首を傾げるライガルにアップルパイの入った紙袋を渡した。

 するといきなりスンスンと匂いを嗅ぎだし、まるで体に電気が走ったように尻尾がぴーんと伸びた。


「なんだこの素敵な香りは……っ!?」

「二つあるからヨクと一緒に食べてくれ」

「分かった! このお返しは必ずさせてもらう! 待っていろよ我が嫁、今すぐ帰って一緒にこれを食べるぞおおおおおお!!」


 目にも止まらぬ速さでライガルは飛んで行ってしまった。


「速いな流石に」

「あれで腕っぷしもあるからなぁライガルは。あぁでもフィアの方が強いぞ!」

「分かってるよ。フィアは強い強い」

「えへへ~♪」


 取り合えずライガルとのファーストコンタクトは全然良いものだった。

 それからはフィアと一緒に再び散歩を再開し、そうして俺は家に帰った……のだが予想外なことが起きた。


「ほらノア、気持ち良い?」

「……あぁ」

「本当に? もっとしてあげるわ♪」


 何故かニアが付いてくることになり、一緒にお風呂に入ることになってしまった。

 そもそもの発端はリリスとサンの二人で温泉に入ったことだ。まだ裸の付き合いをしたことがないと言ってニアが一緒にお風呂に入りたがったのだ。それで今日は屋敷ではなくこちらに泊まるという話になった。


「ごしごし……ごしごし♪」

「……………」


 背中を洗ってもらう感覚がとても気持ちいい。

 だがそれ以上に、後ろには楽園のような光景が広がっていることだろう。まあリリスとサンの裸で慣れたと言っては失礼かもしれないけど、少しは耐性が出来ていた。


「それじゃあタオルはおいてっと。ボーナスタイムよノア♪」

「はうあ!?」


 背中にぴったりとニアは抱き着いた。

 ニアの豊満な胸の感触を背中に感じ、彼女はそのまま上下に体を動かす。むにゅむにゅと形を変え、中心の僅かな突起すらも分かってしまう。


 ……俺は今、異世界に来て一番大変な瞬間かもしれない。

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