スライムの本領発揮

「リリス様ずるぃ!!」

「ふふ、許してサン。これもノア君の望んだことだわ」

「……私だってしてあげたいのにぃ」


 アルミナによって五人の男が美味しく頂かれた後のことだ。

 ニアと一緒に冒険をしたことである程度のそういった残酷なことに関する耐性が出来たと思っていたのだが、跡形もなく溶かされた男たちのことを考えてしまい少し吐き気を催したのだ。


 それで言葉に出さなかったが、当然心を読むことに長けているサンに隠し通せるはずもなく……まあそれでサンが俺に声を掛けたところでリリスに抱きしめられたわけなんだけど。


「……落ち着くぅ」

「好きなだけこうしていていいのよ? それこそノア君が満足するまで」

「……むむむぅ!!」


 背後でバチャバチャと湯面を叩く音が聞こえてきてしまい、振り向こうとしたらリリスにダメよと優しく耳元で囁かれた。


「しばらくこうしてるの。魔王様にはよくしてあげてるんでしょ? それなら私にもこうやってしてくれないと」

「あれは甘えさせてもらっている方なんだけど」

「あら、じゃあ甘えてちょうだい。母に甘えるように……ね?」

「……それじゃあ」


 ダメだ。

 この世界の女性は本当に包容力がありすぎる。といってもここまでしてくれたのはニアとリリスだけだが、本当に嫌な気持ちを全て洗い流して幸せにしてくれる温もりを彼女たちは持っているのだ。


 しばらくそうやって甘えているとアルミナが傍にやってきた。


「サンが不貞腐れて……ってリリスもそんな優しい顔をするんだね」

「当り前じゃない。ノア君の前だとなおさらね」

「ふ~ん」


 どうやらサンが不貞腐れてしまったらしい。帰ったらまた作り置きしているお菓子をあげないとかな。それにしても、こうして温泉に入っている状態でリリスに抱きしめられているのに全く逆上せる気がしない。どこか空気も涼しいし、もしかしたらリリスが何か魔法を使ってるのかもな。


「あらら、蕩けた表情をしちゃって」

「……ねえリリス、本当に何があったの? 気になるんだけど」


 アルミナの問いかけにリリスはあのことを話した。

 マナロストを患ってしまい、もう少しで死にかけたことを……そして俺の回復スキルによって救われたことを。


「マナロストを治した!? そんな魔法があるの? ノアがそれを使えるって?」

「えぇ。ノア君の力で私は回復した。でもその力は今は失われていて……ねえアルミナ、ノア君ったらなんて言ったと思う?」


 ……あれ、いつの間にか俺が聞くと恥ずかしい話になってしまったぞ。

 俺の頭を優しく撫でるようにしながら、リリスは落ち着いた声音で話を続けるのだった。


「私を助けるためなら構わない、そう言って力が失われることを厭わずに私を救ってくれたの。話を聞いてすぐに飛んできたって……私の手を握ってそう言ってくれたのよノア君は」

「……………」


 信じられない物を見るようにアルミナが俺を覗き込んだ。


「……信じられないなぁ」


 ……まあ俺もアルミナの立場なら同じことを言うと思う。

 マナロストという絶対に治せない病を治癒したのが俺みたいな人間だしな。しかも今はリリスの胸に頬を預けて絶賛甘え中なのだから。


「信じてくれなくてもいいわ。でも、だからといってノア君のことを見下すようなことはあなたでも許さない」

「分かってるよ。確かに信じられない、でもリリスが嘘を言うとは思ってないしね」

「ならいいわ」


 既に使えないしまたいつ使えるようになるか分からない。それでもあの力がまた誰かを……それこそ、身近な人を救うことが出来るのなら嬉しいことだ。


 それから温泉を出た俺たちは改めてアルミナの家に戻った。


「……ノアのくせに生意気……生意気よぉ」

「悪かったって。ほらほら」

「……ふふん、許してあげる♪」


 そして、さっきからずっと俺の腕を抱いて離さないのがサンだった。

 どうも温泉でリリスとばかり話していたのが気に入らなかったらしく、ここに戻ってからずっとサンはベッタリだった。


「リリスの時も思ったけど、サキュバスに好かれるってのも本当に面白いな」

「サンの場合はアレを受け入れてくれたことが大きいわね」

「なるほどね。それなら納得は出来るかな」


 ちなみに、今のサンは風呂上りということもあっていつも隠している手足は晒されていた。抱かれている腕にゴツゴツと当たる骨の感触はあるが、それでも甘えるように笑っているサンを見ると俺としても微笑ましくなる。


「……あれ、なんで私が甘えてるの?」

「最初からそうだったけど……」

「……まあいいわぁ。とことん甘えちゃうんだから」


 サンは俺の正面に回ってグリグリと額を押し付けてきた。

 こうしていると本当に小さな子供を相手しているような気分になる。ってサンに対してそう思うのはマズイんだった。


「子供じゃないわよばかぁ!」

「すまんすまん!」


 心の声ばかりはどうしようもないんだ勘弁してくれ!

 そんな風にじゃれつく俺たちをリリスとアルミナは笑いながら見つめ、そんな二人の視線を受けてサンは隠れるように俺の体に引っ付くのだから色々と大変だった。


「……久しぶりに賑やかで楽しいね」

「こんな森の中に居たら寂しいでしょうに」

「まあそれはいいんだよ。私はこの静けさも好きだし」


 リリスと話をしていたアルミナがそうだと何かを思いついたように立ち上がった。

 そのままアルミナは俺に近づきこんなことを口にするのだった。


「温泉でのマッサージはどうだった?」

「気持ちよかったけど」

「そう。ならもう少し過激なことしてあげる」

「……え?」


 そう思った瞬間、アルミナの体が液状に弾けた。

 近くに居たサンが悲鳴を上げるように俺から離れた瞬間、その弾けたアルミナの体が俺に纏わりついたのだ。


「ちょっと!?」

「大丈夫、気持ちいいと思うよ?」


 どこから声が聞こえたのかは分からないが、俺の傍ということは分かった。

 シャツとズボンの隙間からまるで液体が意思を持ったように俺の内側に入り込んでくる。それは当然……その、大事な部分すらも纏わりついた。


「ねえノア、このままノアの全部を気持ちよくしてあげる。どう? この服の中すら私の体で包まれている感覚は。このままモミモミしたらとても気持ちいいよ?」


 ……あのアルミナさん、凄くエッチすぎて色々大変になりそうなんですが。

 結局その後すぐにリリスとサンに助けてもらった。引き離されたアルミナは面白そうに笑っており、すぐに揶揄われたことが理解できた。


「それじゃあ三人とも、今日はありがとう。また来てくれると嬉しいよ」

「えぇ。また来るわ」

「それじゃあねぇ」


 そうしてアルミナとの出会いは幕を閉じた。

 いつかアバランテに遊び行きたいと言っていたけど……それはそれで大変なことになりそうな気もするよ。

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