貴重な捕食シーン

(……はぁ、今頃リリスたちはノアと楽しくしてるのかしら)


 心の中で溜息を吐きながら、ニアールは会議の行く末を見守っていた。

 リリスが居ないことに対しての問いかけが飛んできたが、彼女には予め休みを言い渡しているので居ないのは当然だった。傍にルミナスを控えさせ、どうでもいい話に耳を傾ける。


「早く人間どもを根絶やしにすることこそが重要ではないか!!」

「その通りだ! 奴らを皆殺しにしてこそ我らの意義が証明される!!」


 そう人間たちに対して攻撃的なのは二人の部下……正直ニアールにとってこの者たちを部下と呼びたくはない。何故なら人間界に対して攻撃をするつもりは一切ないのに、頑なに人間は殺さなくてはと言い続けているのだから。


「魔王様もそれをお望みだ!!」

「然り! 火を見るより明らかである!!」


 勝手なことを言うなとニアールは舌打ちをしたい気分だった。

 多くの種族が集まる会議の中で熱を上げるのはメンドとウルサという部下である。二人ともいい年をした魔族だが……やけに新しいことを嫌い古いものに縋る性格をしている。


「二人とも、黙りなさい」

「っ……」

「魔王様……」


 だが、ニアールはいい加減このやり取りを見るのも面倒になった。

 漆黒のドレスに身を包む姿はいつもと同じ、その美しすぎる肢体を存分に披露するニアが纏う雰囲気に全員が体を強張らせた。


「何度も言っているでしょう? 現時点で人間側に攻めるつもりはないわ。魔界だけでも食料は潤沢だし、若い世代も順調に育っているのだから。というかあなたたちはただ破壊し殺したいだけでしょう?」


 ニアールにそう言われメンドとウルサは下を向いた。

 その姿こそが答えなのでニアールは大きな溜息を吐く。とはいえ、魔界の勢力も一枚岩ではない。ニアールがこうして悩むように、彼らもまたニアールの思想とはかけ離れた信念を持っている。


(……小娘が)

(忌々しい女風情が)


 なんてことを思っているのでしょうね、そうニアールは苦笑した。

 いずれ何か問題を起こしそうだが、それはその時に対処すればいいかとニアールは答えを出した。決して自分の大切な存在が巻き込まれないように細心の注意は払うつもりだが、どうせなら勝手に自滅してほしいとさえ思っている。


「これにて会議は終了よ。全員解散」


 会議というが中身は何もない。いつものように件の二人が人間界云々の話をしただけだ。会議室を出る直前、背中に突き刺さる視線を感じたニアールは振り向いて口を開く。


「何か言いたいことがあるのなら言いなさい」


 もちろんさっきの二人だ。

 ニアールから発せられる重圧に膝を折りそうになった二人だが、どうにか耐えて会議室を出ていった。


「……ったく」

「魔王様、気持ちは分かりますがあまりイライラなさらぬように」

「分かってるわよ」


 ストレスが溜まるとお肌に悪いし、そう笑ってニアールはルミナスと共に自室に戻った。威厳ある魔王としての姿は一瞬で消え、ソファに寝転がりながらニアールは愚痴を溢す。


「魔王……やめよっかな」


 そんな零れ落ちた言葉にルミナスが今度は溜息を吐く。


「魔王様、そういうことを言うのはおやめください。あなた以外に魔王を務められるものなど居はしません。仮に彼らのようなものがなった時、それは魔界の終わりを意味しますよ?」

「……分かってるわよ。でもね、隠居してノアと静かに暮らすのもありなんじゃないかって思うのよねぇ」

「……………」

「それもいいかもしれない、そう思ったでしょ?」


 ルミナスは素直に頷いた。

 まあそうは言っても魔王を辞めるつもりはない。ニアールが魔王を辞めればそれこそ魔界の終わりは目に見えている。けれどやっぱり、ノアの方が大事だと思ってしまうニアールだった。





「……………」


 温泉、それはとても素晴らしいものだと思う。

 家で体を温めるよりも少し特別な気持ちになれるし、その場の雰囲気もあって本当に気持ちが良いのだ。

 だが……俺は今戦っている。何と、それは己の煩悩だ。


「気持ちいわね」

「そうですねぇ」


 温泉に浸かるのは俺だけでなく、リリスとサンも一緒だった。

 肩にお湯を掛ける仕草もエッチだし、湯面から見える立派な肢体も更にエッチだった。思えばこうして誰かとお湯に浸かるのはこちらに来て初めてで……まさに目の前に広がるのは天国と地獄だった。


「顔が真っ赤じゃない? そんなに熱い?」

「……いや」


 しかも目の前にはアルミナが裸の状態だ。

 そもそもそれなら一緒に入らなければって感じなのだが、リリスとサンに引っ張られる形だったので断れなかったのだ。


「ほらノア君、もっと見てもいいのよ?」

「そうよぉ。ほらほら♪」


 二人がその豊満な胸を押し付けるように身を寄せてきた。ぷにぷにと肩に触れる柔らかさ、お湯に浮かぶほどの膨らみだからこそ気持ちが良くて……俺はもう正直逆上せてしまいそうだった。


「……苦労してそう。色々な意味で大変そうだね」

「……あぁ」


 どうやらアルミナは俺の気持ちが分かるらしい。サンに関しては俺の考えを分かった上でこれだからなぁ……ほら、またニヤリと笑って抱きしめる力が強くなったし。


「そうだ。ねえノア、気持ち良いことしてあげる」

「……うぇ!?」


 その言葉に当然俺は驚いた。

 アルミナは立ち上がって俺の背後に回り、そのまま俺を抱きしめてきた。しかしさっき抱きしめられた時と同じように、まるで全身がお湯のような温かいゼリーに包まれた感覚だった。


「ほら、全身をマッサージしてあげる。こういうことも出来るんだよ私は」

「……おぉ」


 首から下を全て包み込まれ、ありとあらゆる場所をマッサージされる感覚に思わず声が出た。


「……ノアの表情凄く良い」

「可愛いわねノア君……」


 あ、やめてあまり覗き込まないでほしい。

 でも……何だろうねこのマッサージは。気を抜いたら眠ってしまいそうなくらいには凄く気持ち良いのだ。少しでもあった体の凝りが一気に解されていくかのようだ。


「……不思議だね。あなたは人間で私はスライムなのに、全くの恐怖心がなくこうやって身を委ねるなんて」

「……あ~、まあこうしてみんなと接してたらね」

「なるほど……面白い子だ君は」


 頭の後ろからクスっとアルミナは笑った。

 しかし……改めて考えると全身をアルミナの体に包まれてるってことだよな? なんかすごくいやらしいことを思い浮かべてしまった。


「私たちも傍に居るのよ?」

「ノアったらエッチなんだから!!」


 いやだって……これは仕方ないだろ!!

 クスクスと面白そうにアルミナが笑う中、俺はリリスとサンから更に物理的な幸せ攻撃を食らうのだった。


「……?」


 さて、そこでアルミナが何かに気づいたように動きを止めた。

 リリスとサンも気づいたようで同じように黙り込む。すると、草木をかき分けるように五人ほどの男が現れた。


「おい、広い場所に出たぞ……って」

「うっひょおおおおおおおおおっ!?!?」


 なんとも小汚い姿をした男たちだった。

 以前に俺に絡んできたあの三人組みたいな装いだが……ともかく、彼らの視線にリリスとサンが晒されるのが嫌で無駄だとは分かっても腕を広げて二人を抱き寄せた。


「あ……」

「……ノアぁ♪」


 嬉しそうに抱き着いてくれたが……それよりもあいつらを――。


「餌が来たね。いただこうかな」

「うん?」


 おや、何やら不穏な言葉が聞こえたぞ。


「そこの人たち、どうぞ入ってきて? 一緒に素晴らしい時間を楽しみましょう?」

「はっはっは! 望むところだぜ!」

「野郎ども、美女たちがお呼びだぞ!!」

「うおおおおおおおおおおっ!!」


 そうして彼らは飛び込み……え?

 俺と同じようにこの温泉に入った瞬間、彼らは一瞬にしてその姿を消失させた。お湯に潜ったわけでもなさそうだし……どうなったんだ?


「食われたわね」

「え?」

「溶かしたのよ。アルミナが彼らを」

「……えぇ?」


 ……あれ、俺って大丈夫なのか?

 次の瞬間には骨も脳みそも全部溶けてしまわない? そんな心配を当然抱いてしまうのだった。




【あとがき】


スライム娘に全身を包まれてマッサージ……凄いエッチ

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