フィアとサン
「ここがノアの家なのね!」
「こらサン、あまりはしゃぎすぎないようにね」
サキュバスとスケルトンのハーフでもあるサンと知り合ってから数日後、早速彼女がリリスと共に我が家にやってきた。魔王であるニアと親しい関係でもあることを彼女は知らなかったのか、仲良く話す俺たちを見てかなり驚いた様子だった。
「魔王様とルミナスは忙しそうでね……ってフィア、あなたも来てたの?」
「当たり前だ! 暇なときは基本的にこっちに来てるぞ!」
今日ここに来ているのは彼女たちだけでなくフィアもだ。ただ、フィアに関しては俺が目を覚ますよりも早くに来ていた。俺に抱えられてニコニコとご満悦のフィアに少し言いたいことがあったので言っておく。
「フィア、流石にあの起こし方はやめてくれ。心臓が止まるかと思ったから」
「うぅ……ごめんなノア。でも、それだけノアと引っ付きたかったんだ!」
くぅ……こう言われると弱いなぁ俺は。
何があったのかを説明すると、目を覚ました俺の眼前に居たのが首だけのフィアだったのだ。フィアの体はその隣で俺を覗き込むようにしており……首から上がないので覗き込むというのはおかしいが、まあそういう光景が広がっていたわけだ。
「フィアも変わったわね。あなた頭だけになるのは嫌いだったでしょうに、よっぽどノア君が好きなのねぇ」
「当たり前だ! ノアだけだぞフィアの頭を預けるのは!」
それは光栄なことなのか?
フィアが頭だけになるのを嫌っているのは知っているが、基本的にこっちに来たら甘えるように頭を差し出すんだよな。ちょっと怖い光景だけど、頭だけになると心から甘えることが出来るかららしい。
「……むぅ」
そして、そんな俺とフィアをサンが面白くなさそうに見つめていた。
目が合うとツンとそっぽを向かれたが、俺はそうだと思って一旦フィアの頭から手を離す。
「アップルパイ作ってたんだ。みんなで食べようか」
「アップルパイ!?」
「何それ……」
大好物の名前を聞いてフィアが歓喜の声を上げ、反対にそれが何か分からないサンは首を傾げている。
「サンもこっちに座っててくれ。リリス、手伝ってくれる?」
「もちろんよ」
サキュバスの女王であるリリスを手伝わせるのはどうなんだ、そう少し前まで思ってたけどこうやって進んで用意とか手伝ってくれるんだ。それはニアも同様だけど慣れてきたようで動きに迷いがない。
「リリス様? それくらい私が……」
「いいのよサン、こうやってお手伝いするのも楽しくてね」
そう言ってくれると俺も本当に嬉しいよ。
それから皿に四人分のアップルパイを乗せてテーブルに置いた。フィアは言わずもがな今すぐに齧り付きたそうにしており、サンも匂いが届いたのか興味津々に見つめている。
「食べていいよ」
「……うん」
どうやって食べればいいのか分からないみたいだ。
リリスを見てもクスっと笑うだけだ。俺はお手本を見せるように、アップルパイを手に取ってフィアの口に近づけた。
「あ~む!!」
パクっと大口を開けて噛みついた。
そのままもぐもぐと噛みしめ、いつものように瞳をキラキラさせたような仕草で大きな声を上げた。
「美味しいぞノア!!」
「あぁ。ありがとうフィア。ほら、あ~ん」
「あ~ん♪」
やっぱりこうしてると小さな子供にしか見えないな。
フィアの食べ方を見たサンは恐る恐るアップルパイを手に掴み、そのままゆっくりと噛んだ……そして、カッと目を見開いた。
「お、美味しい!! なにこれすっごく美味しいだけど!?」
「はは、お気に召して何よりだ」
サンは止まることなく一気に完食した。夢中になって食べたらしくハッとするように俺を見て恥ずかしそうにしたが、そんな風に喜んでもらえたなら作った側からすれば凄く嬉しい。
「ほら、これもあげる」
「いいの!?」
恥ずかしそうな顔から一転、鼻息を荒くしながらサッと顔を寄せてきた。その拍子に小柄な体躯に似合わない大きな胸がぷるんと揺れた。人間と違う魔族だからこそサンの年齢は俺よりも遥かに上だが、それでもやっぱり小さな子供にしか見えないからなぁ。
「おいノア! フィアも欲しいぞ!!」
「はあ!? これは私にくれるって言ったのよぉ!?」
「やるのかサキュバス!!」
「いい度胸じゃないデュラハン!!」
睨み合う二人、暴れでもしたら大変なことになりそうだけどやっぱり小さな子供のいがみ合いにしか見えない。というかサンはともかく、フィアの体の方は力を貸す気がないのか優雅に紅茶を首があった場所から体の中に流し込んでいた……体だけだとそうやって飲むの!?
「二人とも、ノアを困らせるのはやめなさい」
「……でも」
「フィア?」
「……ごめんノア」
素直に謝ったフィアの頭を優しく撫でた。怒られると思ったのかビクッとしたが嬉しそうに目を細めて俺の手を受け入れている。そして、やっぱりこうやっているとサンから鋭い視線を向けられた。
「……サン?」
「ふん!」
そっぽを向いたサンにリリスが近づいた。
「この子、ノアに会いたいって言って付いてきたのに素直じゃないんだから」
「リリス様!!」
「先に帰る?」
「……帰らない」
あはは、なんか二人が親子……あるいは姉妹にしか見えないな。
でも確かにあの日、サンと知り合った日はそれなりに話をしたけどあれから会ってはいなかった。俺よりも背丈が低いし我が儘な部分もあって……何だろうか、妹が居るとこんな感じなのかな。
「隣に座る?」
「……うん」
またそっぽを向かれるかと思ったがサンは俺の隣に腰を下ろした。
「……えへへ♪」
肩をくっ付けるように引っ付いたサンを見てリリスも満足そうに頷いた。
それからはフィアと喧嘩をすることもなく、俺を挟んで仲良く話していた。リリスはテーブル挟んだ向こう側に座っており、俺たちのやり取りをまるで母親のように見守っている。
しばらくすると、元気の燃料が切れてしまったのかフィアは眠ってしまった。
体の方に頭を預けると、そのまま首に戻さずに頭を抱えたまま体も動かなくなった。
「そこはちゃんと戻して寝ればいいのにぃ」
どうやらサンも同じことを思ったみたいだ。
「……ノア?」
「どうした?」
サンが見上げてきた。
こうして近くで見ると本当に綺麗な顔立ちをしている。幼さを前面に出しているがやはり、その美貌は大人顔負けのモノだった。
「……………」
サンは何も言わずに左腕を隠す布を取った。
皮膚に守られてない露出した骨が姿を現し、それを俺の手の平に置いた。何も言わず不安そうに見つめてくるサンに苦笑し、俺はゆっくりとその骨の手を握った。当然骨なので硬く、俺としても変に力を入れてボロッと崩れないか気になってしまう。
「この間ぶりの握手だな?」
「あ……ふん、人間のノアと握手してあげてるんだから泣いて喜んでよねぇ?」
「そういう割には目がハートになってるけど?」
「リリス様!?」
目がハートってどういう感じなんだろう。
そんなことはないとブンブン頭を振ったサンは握られた手を見つめた。
「……ざあこ♪」
とても機嫌が良さそうにサンはそう口にするのだった。
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