サンの秘密

「これは……」


 顔を真っ赤にし、目を回しているメスガキ……こほん、サキュバス少女であるサンの左腕を見て俺は呆気に取られていた。


 本来ならそこにあるはずの筋肉や皮膚といったものが存在せず、その内側にある骨そのものが晒されていたのだ。他のサキュバスと違って片方の腕と足を隠しているそれはファッションのようなものかと思いきや、まさかこんな秘密が隠されているとは思わなかった。


「何かの病気なのか? それなら……」


 何かの病気なら治せるかもしれない、そう思ったが先日リリスに回復魔法を使ったので何も出来ない。失礼かと思ったが、俺は足の布も少しズラしてみた。するとやっぱり腕と同じようにそこから見えたのは骨だった。


「ただいま……ってどうしたの?」

「あ……えっと」


 取り敢えず俺は何が起きたのかを事細かに伝えた。

 別にこの子に揶揄われたことを不快とは思わなかったので、何かを呟いて目を回してしまったことを伝えた。


「なるほどね。もしかしてノア君、何かエッチなことでも考えた?」

「……あの、もしかしてこの子は心を読めたりするの?」


 俺が考えていたことを言い当てたのは勘の鋭さがあったかもしれないが、その後にかなり変態的思考になった時顔を真っ赤にした時点で、ある程度は確信を抱いたが念のため聞いてみた。


「その通りよ。この子は他のサキュバスと違って特別なスキルを持っていてね。それが相手の心を読むことが出来るものなの。もちろん、相手が自分より強い場合は読めないものだけど」

「へぇ……」


 やっぱり俺の思った通りだった。

 心を読まれるというのはちょっと嫌だけど、確かに異世界だからこそそんな能力があってもおかしくはないか。


「本来ならサキュバスは主に魅了系の魔法しか持たないんだけど、この子はサキュバスとスケルトンのハーフでね。それで異種族の血が混ざったことで発現したスキルなのよ」

「スケルトンと……ってスケルトンって子供が作れるのか?」


 スケルトンってあれだろ? 俺の想像が正しければ骨の化け物だったはずだ。そんな全身が骨で構成された魔物がどうやって子供を作るんだろうか、もしかして生殖器の部分だけ生えてるとか? ……それはそれで不気味だけど。


「サキュバスは体を使って性交しなくても、相手を夢に誘って吸精することが出来るのよ。それで妊娠して子を産むことが出来るの」

「……なるほど」

「この子の両親は凄いわよ? 片やサキュバスで片やゴリゴリのスケルトンで今でもおしどり夫婦って言われてるくらいだから」


 やばい、その構図凄く見てみたいんだけど。

 リリスは眠っているサンを膝枕をしながら、俺がずっと気になっていた骨の部分を撫でた。


「どちらかと言えば母の血が強かったけど、ある程度は父の血も継いでいる。その影響がこの足と腕ってわけ」

「そうだったのか……病気かなってちょっと思っちゃったよ」

「初めて見たらそう思うのも無理はないわ。でも安心して、他人に見せびらかしたりはしないけどちゃんと体として機能しているから」

「そっか……それなら良かった」


 ちゃんと生きるために機能しているのなら安心した。

 今日初めて出会って雑魚呼ばわりされたけれど、リリスと同じサキュバスというのもあるし、ニアが治める魔界の住人でもある……苦しい病気にならず、元気に過ごしてもらいたいからな。


「ノア君、この子の腕と足を見て思ったことはそれだけ? 気持ち悪いとか不気味だって思わなかった?」

「っ……」


 正直なことを言えば驚いたし、うわっと思わなかったわけでもない。

 でもそれは仕方ないと思うんだ。いきなり目の前に骨そのものが現れたら誰だってそんな反応をすると思う。


「実を言えば少しだけ思ったよ。でも……何て言うのかな、二次元……えっと、読み物とかでそういった骨の魔物とかは馴染みがあったからそこまでだったよ」


 漫画やアニメで骸骨の化け物なんて結構見たことがあったし、何より美少女の体の一部が骨って属性モリモリだけどちょっといいなって思ってしまった。


「ま、そんな部分を気にしないくらいメスガキみたいな性格が強すぎて気にならないよ俺には」

「メスガキ……ふふ、あははははは! 確かにそうね。この子ったら色んな人を挑発するけど怒られたりするとすぐにシュンとして落ち込むのよ。そんなところも可愛くてサキュバスの間では可愛がられてるわ」

「確かに可愛がられそうな性格をしてるよな」


 ポンポンとサンの頭を撫でるリリス、だが少しだけ表情を落としてこんなことも教えてくれた。


「でも、この子のスケルトンとしての部分を受け入れられない者たちもいる。主に他の種族になるけど、この子を気持ち悪いって貶す者も少なからず居るの。だからこの子はこうして父から受け継いだ部分を隠しているのよ」


 だからそんな風に他のサキュバスと違った感じなのか。

 外れてしまった布を腕に被せたリリス。俺はサンに近づいて、その被された布の上から改めて腕を撫でてみた。


「硬いな……でも、もう気持ち悪いとは思わないかな」

「みたいね。ノア君のそういうところが本当に大好きだわ私は」

「……ありがとう」

「ふふ♪」


 嘘でもなんでもなく、本当に俺はそう思ったんだ。

 そうこうしてるとニアがやっと目を覚ました。随分と長く寝て体力が完全に回復したらしく、すぐにルミナスの元に行ってお菓子を食べようと言い出した。


「私はこの子が目を覚ますまでここに居るわ」

「分かったわ。じゃあ行くわよノア」

「あぁ。またなリリス」


 リリスに挨拶をして俺はニアと共に部屋から出るのだった。

 ついでというわけではないが、眠っているサンにもまた会うことがあったらよろしくなと心の中で伝えておいた。


「ルミナス~! お茶の時間よ!!」

「存じております。既に用意していますよ」


 おぉ、流石はニアの側近だ準備が早すぎる。

 そのままルミナスに見守られる形でお茶とお菓子を食べて時間を潰した。それから一時間くらいが経った頃、リリスも再び合流するようにやってきた。


「いい香りね」

「いらっしゃいリリス……あら、その子も?」

「?」


 ニアがそう言ったので目を向けると、リリスの背にサンが隠れていた。

 サンはチラチラとこちらを見ながら様子を窺っている。リリスが何かを伝えるとサンは頷いて俺の前まで歩いてきた。


「……人間、ノアって呼んでもいい?」

「あぁ……それは構わないけど」


 それは全然構わない、そう伝えるとサンは布に包まれた手を差し出した。


「よろしくしてあげるから握手……出来ないの?」


 出来ないの、その声は少し震えていた気がする。

 まるで何か不安を抱えているような声音だった。俺はその手を握った……やっぱり硬い骨の感触が布を通して伝わってくる。でも、リリスにも言ったように気持ち悪いとは思わない。


「よろしくな、サン」

「あ……うん! よろしくしてあげる!!」


 こうして一人、また知り合いが増えるのだった。

 でも……やっぱりこの子の両親が凄く見てみたい。どんな絵面なのか非常に気になって夜しか眠れなさそうだ。

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