何でも収納できる鞄をプレゼント

 魔王に忠誠を誓う騎士の一人、フィアは人間界のとあるダンジョンの中を歩いていた。そこは巨獣の巣窟と呼ばれるダンジョンで、以前ノアがニアたちと共にナンデモナオース草を取りに来た場所でもあった。


「……この奥だったか。ふふ、ノアは喜んでくれるだろうか」


 今回フィアが一人で人間界に赴き、このダンジョンに足を踏み入れたのには理由があった。それはナンデモナオース草が取れた階層よりも更に奥の部屋に、とあるマジックアイテムがある噂を聞きつけたからだ。


「……あぁ……ノア」


 人間界のことになど興味はない、それでもノアのことを想えばなんだってしてあげたいという気持ちになる。

 フィアは頬を紅潮させ、その硬い鎧に守られた体を抱く。あの時、頭だけが分離してノアの元に導かれた出来事、あれはフィアにとって正に運命だった。


『よしよし、良い子だな』


 あの優しく頭を撫でてくれたこと、優しい言葉で話しかけてくれたこと、優しい瞳で見つめてくれたこと、その全てがフィアの脳裏に刻まれていた。頭が離れることで少しだけ弱くなった自分を優しさで包み込んでくれたノアにフィアは心底惚れてしまったのだ。


「……私も、魔王様たちみたいに見てくれは良いと思うのだが」


 女性的な彼女たちに比べ、フィアはやはり中性的な顔立ちが良く目立つ。しかしその鎧の中身はとても女性らしかった。動くたびに揺れる大きな胸は邪魔だと思っているし、胸と同様に同族の視線を集める足腰は誰もが認める美しさだった。


 そんな風にどうでもいいと思っていた女の部分が疼いてしまうのだ。ノアと一緒に居ると戦士というものを忘れ、ただただノアに愛されたい雌に成り代わる。頭が外れて出てくるもう一人の自分も、ドロドロに彼に可愛がられたいと心の奥で常に叫んでいるような状態だ。


「さてと、早く終わらせてノアに甘えねばな」


 男装すればさぞ麗人としてもてはやされるであろう美貌は一転して女としての表情を見せる。ノアのことを考えると頬に赤みが差し、常に笑顔になってしまうほど……だがそれでいて近寄ってくる魔物たちを槍の一振りで沈めていく姿は正に羅刹そのものだった。


 そうして歩いていると辿り着いたのは大きな部屋、神秘的な輝きを放つ鞄を守るように巨大なゴーレムが鎮座していた。


「あれか、早速持って帰るとしよう」


 ノアのプレゼントを見つけたことでフィアはランランとスキップをするようにその台座に近づくが、当然トラップが発動し守護神たるゴーレムが覚醒の咆哮を響き渡らせた。


「ゴオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」


 フィアよりも圧倒的にデカい図体、しかしそれでも彼女は表情を変えなかった。

 拳を振り上げてフィアに攻撃の姿勢を取ったゴーレムだが、直後にフィアの姿が消えた。それはゴーレムも当然見失ってしまう。


「雑魚が。私とノアの未来の為に死ね――ヘルスラッシュ」


 獄炎を纏った槍による一閃がゴーレムの体に入った。

 その瞬間、綺麗にその場所からズレていき……ゴーレムは存在する力を失ったようにバラバラに砕け散った。


 守護者を失った台座は解放され、目当てのマジックアイテムでもある鞄はフィアの手元に収まった。


「よし、これでノアは喜んでくれるはずだ」


 早く帰ろう、そう言ってフィアは目にも留まらぬ速さでダンジョンから出てそのままノアの家まで転移するのだった。





「なあなあ、フィア頑張ったんだ! 褒めてくれノア!」

「あぁ。本当にありがとうなフィア。よしよし」

「えへへ~♪」


 いつかの再現のように、頭だけとなったフィアを抱えていた。

 本体は隣で俺の腕を抱くように座っていた。最初はフィアが気に入らなそうにしていたが頭を撫でるとこの通りだ。


「それにしても何でも収納できる鞄か……漫画とかで見るマジックボックスみたいなやつだな」


 お土産だからとフィアが持って来てくれたマジックアイテムはその中に何でも入れることが出来る鞄だった。以前に俺が向かったダンジョンの更に奥で取れるものらしく、わざわざ取りに行ってくれたと聞いた時には……まあ嬉しくはあったけど困惑は当然した。


『ノアの為に取ってきたんだ……もらってくれないか?』


 おそらく、この鞄そのものは恐ろしいほどの値段になるはずだ。それをもらうことは気が引けたけど、フィアの表情を見たら断れるわけもなくありがたく受け取ることにした。


「これでおにぎりだったか? それもいっぱい詰め込めるからな! 他にも買い物とかしても全然余裕だぞ!!」

「はは、そうだな。本当に助かるよ」


 何かをお返しをしたい、そう言ったらフィアは甘えさせてくれればそれでいいと言って来たのだ。そうして自ら頭を取って今のような光景になったわけだ。


「ふわぁ……フィア眠くなってきたぞぉ……」

「寝ても大丈夫だぞ。こうしてるからさ」

「本当に? それじゃあちょっと寝るぅ」


 うつらうつらとするフィアの表情はとても可愛かった。

 頭と体は離れているが、所謂魂が繋がっているのか体の方も俺に寄りかかって眠りそうな感じだ。

 デュラハンのそれぞれ頭を抱え、体に抱き着かれているこの構図は写真に収めたいような光景でちょっと勿体ないな。スマホがあれば保存とか出来るのに。


「……あ、そうだフィア」

「どうしたぁ?」

「最近、リリスを見ないけどどうしたんだ?」


 そう、最近リリスの姿を見ないのだ。

 この間にここに来てからそんなに経ってないが、それでも数日顔を見ないだけで少し気になってしまう。


「リリスかぁ……フィアも分かんない。部屋から出てこないみたいだしなぁ」

「ふ~ん」


 何かしているのか、まあニアにでも聞けば分かるのかな。

 それから俺は眠りに就いたフィアの頭を体に挟まれ……挟まれるという表現はおかしいが、取り敢えず彼女たちを感じながら昼寝をするのだった。

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