子供たちは希望、出来れば成長するな
今日もおにぎりを鞄に詰めて街へ向かう。
しかし、今日は少し……いや、かなり大きなハプニングがあった。鞄を背負って街に入った俺はいつものようにモンさんにまず声を掛けられたのだ。
「よう兄ちゃん、今日もありがとな」
「いえいえ、こちらこそですよ」
モンさんが俺に気づいたことで常連さんたちも俺に近づいて来た。
いつものように二つで一組のおにぎりを売り出していたのだが、そこに見覚えのない冒険者が近づいて来たのだ。
「なんだ? 飯でも売ってんのか」
男二人、女一人のパーティだった。
新しいリピーターになってくれるのかな、そんな俺の淡い期待を先頭を歩いていた単発の男が裏切った。
「おにぎりかよ。おい寄こせ」
「……え?」
男はそのまま三つ分を乱暴に取った。
それぞれの仲間に手渡し、その場で食べ始めた。本来ならおにぎりを渡す段階でお金をもらうところだけど、いやいやまさかタダで食ってそのままさよならってわけはないよな?
「おいお前ら――」
モンさんが声を掛けようとしたら三人は俺たちに背を向けた。
……なるほど、そういう連中か。というか今まで見たことがなかったけどもしかしたら他所から来た人か? 何はともあれ、流石に見逃すわけにはいかない。
「すみません、お金を払ってください」
「は? なんでだよ。俺たちはBランク冒険者だぞ」
「関係ないでしょ。どんなランクだろうと人から物を買ったらお金を払う、それは常識じゃないんですか?」
「生意気だなクソガキ」
生意気もクソガキもないと思うんだが。
俺に詰め寄ろうとした男だが、俺を守るようにモンさんが立った。
「お前ら見たことない顔だが他所の人間か? 流石に礼儀がなってねえだろ。それでBランク冒険者とはギルドも見る目がねえな」
「んだとクソ雑魚が」
数々の依頼を熟した冒険者に比べれば、門番であるモンさんを下に見る人も居るだろう。それでも俺に良くしてくれた人をそんな風に言われるのは気分が悪い。俺たちのやり取りに何事とか視線が集まる。
歩いて来る男とは別に、女が矢をつがえた……ってそこまでやるのか!? モンさんも気づいて身を固くするが、その女の矢が放たれることはなかった。
「……え!?」
いつの間にか女の握っていた矢が腐っていたのだ。
ボロボロになり粉となって空気に溶けていく。何が起きているのか分からなかったが涼し気な女性の声が響き渡った。
「一部始終は見させていただきました。Bランク冒険者パーティのみなさん、流石に看過できませんが?」
現れたのはショタ食いのレイス……こほん、ゾナさんだった。
いつもと変わらない受付嬢の服に身を包み、相変わらず目元は見えないのでその表情は窺い知れない。
「王都ギルドより多くの問題行動により左遷、こちらで問題を起こせば冒険者の資格すら剥奪もあり得なくはありません。それを分かっての行動ですか?」
「……ちっ」
男は舌打ちをしてそのまま二人を連れて行ってしまった。
「……行っちまったな」
「はい。でもモンさん、流石に無茶では?」
「バーロー。逆に兄ちゃんを助けることが出来るって内心燃えてたぜ?」
「……はは、そうですか」
その割には足が震えてましたけど、とは言わなかった。
それにしても本当にそのまま歩いて行かれてしまったな。銀貨三枚程度だしああいう人たちも居ることを知れた授業料と思えばいいか。
「全く困ったものですね。ギルド長にも報告しましょうか。彼らはいずれ必ず問題を起こしそうですし、そうなる前に消えてもらった方が良いですから」
おうふ……結構ハッキリ言うんですねゾナさん。
冷たさを帯びた声でそう言ったゾナさんは俺に振り向き、懐から銀貨を五枚を差し出した。
「彼らの分と私、そしてギルド長の分をお願いします。以前に頂いたイチゴのタルトというものもそうですが、このおにぎりの具も興味深い。是非ともギルド長にも食べてもらいたいと思ったのですよ」
「あ、そういうことならどうぞ。ありがとうございます」
「いえいえ。それではノア様、モン様も失礼します」
ゾナさんは頭を下げて歩いて行った。
正直ショタ食いレイスと言われてもその現場を見たわけではないし、何よりニアたちから話を聞いただけだ。こうして接していると本当にしっかりした女性にしか見えない。そう言う部分ではルミナスと似ているのかな。
「他所の人間は礼儀がなってねえのが多すぎるぜ」
「あはは、確かにこの街の人が温かすぎますからねモンさんを筆頭に」
「……照れくせえぜ兄ちゃん」
「顔が赤いですが~?」
「うるせえよ」
お互いに笑い合い、俺はモンさんと別れ家に帰るのだった。
「……ゾナさんって本当にショタ食いなのか? 永遠の謎になりそうだ」
Bランク同士でパーティを結成している三人組、先ほどまでノアのおにぎりの件で揉めていた三人だ。
「クソが、どいつもこいつも俺たちを敬いやがれよ」
「本当よね。あの門番ぶっ殺してやりたかったわ」
「俺の方はあの突っかかってきた雑魚だな。俺たちが買ってやったってのに生意気にも文句を言いやがって」
よくある調子に乗った集団だった。
Fから始まり最高がAランクの上のSランクになるので、Bランクというのはかなり高ランクの冒険者だ。彼らも必死に駆け上がってきた誇りを持っているはずなのだがどこで道を間違ったのか、こんなにも他者を扱き下ろすようになってしまった。
「こんな田舎臭い場所で何が出来るってんだよ」
次から次に口から出てくるのは現状への文句だった。
そんな彼らの前に遊んでいる子供たちが走ってきた。四人で遊んでいる元気のある子供たち、だがその騒がしさが彼らの……先頭を歩いていた彼――カマーセの怒りを買った。
「うるせえんだよガキがあああああ!!」
カマーセは男の子の腹に蹴りを入れた。
Bランク冒険者の蹴りは凄まじい威力を持っており、吹き飛ばされた男の子は死んではいないまでも辛そうに息をしている。残った三人の子供たちは恐怖で動けないのかその場にへたり込んだ。
「ちょ、ちょっと流石にマズいわよ!?」
「……バレたら面倒だな。やるか?」
本当にどこまでも腐った連中だった。
だが、そんな連中がこの街で野放しにされることはない。何故なら彼女が、ギルドの裏の重鎮とも呼ばれる彼女が居るからだ。
「やれやれ、まさかここまでのことをするとは」
「っ!?」
音もなく彼女は……ゾナは現れた。
死を運ぶ雰囲気を持って現れた彼女がレイスであることを知っている者は誰も居ない。カマーセたちはその雰囲気に圧倒されるように一歩退いた。
「子供たちは世界の希望、特に男の子は無限の可能性を秘めているのです。こんな可愛い子でも後数年すれば立派に成長してしまう……そんな可能性滅びればいいのに」
ゾナは倒れた男の子の元に向かい回復薬を飲ませた。
するとみるみるうちに回復し、動けるようになるとゾナの指示に従って走り去っていった。
「さて」
ゾナはその鮮血のように真っ赤な瞳をカマーセたちに向けた。
そして虚空から鎌のようなものを取り出した。
「覚悟しなさい。あなたたちが傷つけた子はこの街で六番目の私のお気に入りですから……五体満足で終われると思うなクズが」
その日、三人の冒険者が引退することになった。
どうしてそうなったのか、それはずっと闇の中だったそうな。
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