ルミナスの甘え方
回復魔法がまた使えるようになった。
結局一度しか使えないのは変わらないらしいので欠陥魔法に変わりはない。女神もどうしてまた使えるようになったかは分からないらしい。
「……ふぅ」
「どうしましたか?」
俺の前に座るルミナスさんが首を傾げた。
今日はルミナスさんだけがこちらに来ている。ニアや他の誰かが一人で来ることは珍しくなかったが、ルミナスさんが一人でこちらに来るのは初めてだ。ルミナスさんにしろリリスさんにしろ、フィアもそうだけど玄関みたいな扱いでニアの部屋を通ると思うと何とも言えない。
「魔王様はお茶会です。本当はそんなもの放り出したいって言っていましたがこれも付き合いなので行かせました」
「そうなんですね。ルミナスさんは傍に居なくても良かったんですか?」
「フィア様が傍に居るとのことでお休みをいただきました」
なるほど、それで一人でこっちに来たってわけか。
ルミナスさんと二人っきりというのは初めてだが、落ち着いた雰囲気のせいか空気が柔らかい。優雅に紅茶を飲むルミナスさんに俺は以前にご馳走したイチゴのタルトを差し出した。
「……そ、それは!?」
「変わり映えはないですがどうぞ」
「いえいえそんなことは! それではいただきます!」
このルミナスさん、かなりの甘党なのかお菓子に目がないらしい。
まあこの世界では決して口にすることがなかった甘味だからこそ、この味にハマったのかもしれない。
「美味しいですぅ♪」
ニアの側近としていつも凛々しく控える彼女に似合わない……いや、ニアたちに並ぶ美人だからこそ似合うのか。何はともあれ、俺が作ったものを美味しそうに食べてくれるのは嬉しい限りだ。
「ところでノア様」
「なんです?」
「……何故私には敬語をずっと使っているのですか?」
「……なんでだろ」
なんでかな……今になって疑問に思った。
ニアとリリスには敬語はいらないって言われたし、フィアに関しては出会いが出会いだったからそもそも敬語を使っていない。ルミナスさんの場合は……もうこういうものだって部分がある。
「私も他の皆さまのようにしていただきたいです。何といいますか、私だけ距離を感じる気がして少し嫌です」
「……そうですか。それじゃあ――」
距離を感じる、そう言ったルミナスさんは耳がしゅんと折れ曲がった。
俺はそこまでいわれたらということで、彼女にも他の人と同じように接することを決めるのだった。
「ルミナス、これでいい?」
「あ……はい! それでお願いしますね♪」
折れ曲がっていた耳がピンと伸びた。
まるで元の世界のテレビで見ていた人懐っこい犬みたいで可愛らしい。
「ノア様、今日はフリーなので好きに過ごしてもよろしいですか?」
「全然良いよ。俺も一人で退屈してたし、ルミナスが来て助かった」
「そうですか。それではそちらに行きますね」
「うん?」
綺麗にタルトを平らげたルミナスさんは俺の隣に座り、体を横にするようにして俺の膝の上に頭を乗せた。
「ルミナス?」
「……ふふ、実はこうしてみたかったのですよ。どうか私のことはペットだと思って可愛がってください」
可愛がってくださいって……そんな風に真顔で言われるのも中々に破壊力が高い。
体を丸め、俺に全幅の信頼を寄せているかのように体を預けている。ピクピクと動く耳もそうだし、スカートから覗く尻尾もフリフリと動いている。
「……それでは失礼して」
取り敢えず、俺はルミナスの頭を撫でた。
美しい亜麻色の髪を撫でるととてもサラサラして気持ちが良い。ルミナスも目を細めて気持ちよさそうにしており、俺は本当に犬をあやすように撫で続けた。
その結果がこれだ。
「……気持ちいいですぅご主人様ぁ♪」
完全に人が変わったようになってしまった。
ただ頭を撫でるだけではなく、耳も優しく撫でると本当に気持ち良さそうな反応を返してくれるのだ。ただ耳を触った時に漏れる声はちょっと色っぽ過ぎて変な気持ちになりそうだが、そこはリリスという最強のエロの化身が居るせいか耐性が出来ていた。
「ほれほれ」
「わおおおおおんっ♪」
……あかん、ルミナスのイメージが崩れていく。
そんな風に撫で続けていると、ルミナスさんからこんな提案がされた。
「どうか尻尾もぉ……尻尾もモフモフしてください♪」
「……分かった」
撫でろと意思を持つように腰に優しく尻尾が打ち付けられる。俺はルミナスの要望に応えるように手を伸ばそうとしたところでニアとリリスが現れた。
「来たわよ……ってあらあらルミナスったら」
「完全に発情してるじゃない」
「いらっしゃい二人とも……え?」
発情ってどういう……そう考えたところでルミナスが起き上がり俺を押し倒した。
突然のことで驚く俺を他所にルミナスはペロッと下唇を舐めた。
「尻尾を触ってと言ったじゃないですかぁ。いいですよぉ……それなら私の方があなたに――」
「てい!」
「あいたっ!?」
ニアがルミナスの頭を叩き、それでどうにかルミナスは正気に戻ったようだ。
周りを見渡してようやくニアたちの存在に気づき、ハッとするように俺から離れるのだった。
それからルミナスは顔を赤くして喋らなくなり、それを見ていたニアがクスクスと笑う。
「ルミナスも打ち解けているようで何よりだわ。堅物気質だけど、この子も甘えられる相手がいるだけで気持ちに余裕が出ると思うから」
「そうですね。いつも魔王様に扱き使われていますから」
「は?」
「いやん魔王様が怖いわノア君~!」
全然怖そうにない様子でリリスが抱き着いて来た。
たぶん、おそらく、きっと、メイビーみたいな感じで観測した推定三桁を優に超える柔肉が襲い掛かってきた。
「ちょっとリリス……っ」
「あん♪ ふふ、ちょっと服がズレてしまったわね♪ ほら、ノア君を想ってこんなになってしまって――」
リリスが言ったように、下着と言っても過言ではない少ない布地がズレてしまい見えてはいけないモノが見えていた。リリスが退くどころか、更にそれを俺に近づけようとして、そこでニアがパシンとかなり強くリリスの尻を叩いた。
「痛いじゃないですか魔王様!!」
「アンタは昼間から何をするつもりなのよ!!」
「何って喉が渇いてるんじゃないかって思ったんですよ。ほら、私はサキュバスなので出るじゃないですか?」
「知らないわよ! 全くアンタは本当に油断も隙も無いんだから……!」
ニアには悪いけど、出るって何がと気になった俺はダメかもしれない。
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