ショタ食いのレイス
それは突然の事だった。
いつものように街におにぎりを売りに行った時の事、街に入った俺をモンさんと知らない女の人が待っていた。申し訳なさそうにするモンさんにどうしたのかと首を傾げていると、女の人が口を開いた。
「こんにちは、私はギルドで受付をしている者です。初めまして」
「初めまして……えっと?」
この街にギルドがあることは知っているけれど訪れたことはない。それなのに一体どうしてギルドの人が? それにモンさんのこの様子は一体……。
「少しお話を伺いたいのです。数日前、彼の奥さんが病によって倒れた際にナンデモナオース草を手に入れたそうですね?」
「はい」
「そのことについてお話を聞きたいのです。いいですね?」
「……そういうことか」
あの薬草は王都の近くにあるというダンジョンで採取されるものらしく、それをどうやって手に入れたのかが気になっているってわけか。まさか魔王と一緒にダンジョンに行きました、なんて言えるわけでもないのでどうしたものか。
「……すまねえな兄ちゃん。面倒なことになっちまって」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
モンさんは何も悪くないんだからそんな顔をしないでほしい。
俺はジッと見つめてくる受付嬢に続くようにギルドの建物まで向かうのだった。少し歩いて街の中心に向かうと見えてくる大きな建物、止めどなく人が入っては出てを繰り返しており賑わっていることが窺えた。
「こちらです」
抑揚のない声がちょっと怖いなこの人。
ガランガランと音を立てて中に入った。昔にやっていたゲームで見たような内装に心が躍るが、顔に傷のある人だったりいかつい顔付きの人ばかりであまり長いはしたくなかった。それでもいつもおにぎりが買ってくれる冒険者の人もちらほら居て手を振ってくれる。
「知り合いなのですか?」
「えぇ。おにぎりをよく買ってくれる人たちです」
「おにぎり? 料理人なのですか?」
「いえ、そういうわけではないんです。ただの小遣い稼ぎですね」
「なるほど」
そうしてギルドの奥に通された。
一際豪華な部屋の中、その中には一人の男性が居た。太って腹が見えているが筋肉もしっかりと付いており、俺なんかよりも遥かに強いんだろうなとすぐに分かる。
「よう、突然来てもらってすまねえな」
「……いえ」
ソファに促され俺は座った。
「俺はこのギルドの長を務めるオーバってもんだ。よろしくな」
「……ノアです。よろしくお願いします」
俺と向かい合うようにオーバさんが座り、その背後に受付嬢の人が控える。
早速本題だとオーバさんは言葉を続けた。
「用件は分かってるな? ナンデモナオース草の入手法はなんだ?」
真剣な空気なのにその名前のせいで笑いそうになってしまう。安直な名前だけど考えた奴マジで誰だよもう少し何とかならなかったのか? 緩みそうになる頬に力を入れて俺はオーバさんを見返した。
「その前に教えていただきたいのですが、あの薬草を手に入れたことはそんなに問題ですか?」
「まあな。俺としてはずっとこの街に尽くしてくれているモンの奥さんが助かったことは喜ばしい。ナンデモナオース草はダンジョンでしか採取出来ず、結構奥の方だから大金を叩いて高ランク冒険者を送り込むのが普通だ。仮に備蓄があっても全て王都が管理しており、誰に使われたかも記録される」
「……なるほど」
それだけレアアイテムってわけか。
「モンの奥さんを治療した医者がナンデモナオース草の使用を王都に報告したが、直近で備蓄から使われた形跡はなく、かといって王都のギルドに依頼がされたわけでもない……完全に何もない場所からお前さんが手にして現れたってわけだ」
「……………」
オーバさんは真っ直ぐに俺を見ているが、その目は別に犯罪者を見るような目ではない。問答無用に拷問でもされて吐けと言われるとあれだが……まあ何にしてもこの場合何を言えばいいんだろうか。
「ちなみに、王都のギルドに所属するAランクパーティの複数人がダンジョンから出てくる二人の女と一人の男を目撃しており、その中の男がナンデモナオース草を手にしていることが報告されている」
その言葉にチラッと顔を上げた。
俺の反応からオーバさんは察したのか、大きな溜息を吐いた。
「……なるほど、その時の男がお前さんってわけだ」
「……………」
ま、ここまで来ると無言は肯定か。
俺は頷き、その時の男が俺だと言った。ただし二人のことは伏せて。
「たった三人でナンデモナオース草がある場所まで行くことが出来る……それは王都からすれば喉から手が出るほど欲しい戦力だ。勇者パーティがボロボロになった今だからこそな」
それ、原因の一端は俺にあるって知られたらどうなるんだろう。
絶対に言わないでおこう、俺はそう固く誓った。
「ギルド長、モン様にお聞きしたところノア様は遠い故郷からこちらに来られたそうです。それならばこちらの事情を深く知らないのも仕方ありません。何とかこちらで話を合わせるのが良いかと思いますがどうですか?」
「そうだな。モンの奥さんには俺も世話になったことがある。さてと、昔は盗賊として馬鹿ばっかやってた頃を思い出して騙し切るとするか」
「……えっと?」
俺を置いて話は纏まったみたいだが結局どうなるんだ?
困惑する俺を見て二人は苦笑し、何をするかを簡単に教えてくれた。まあ一言で言うとそれっぽいことを言って騙すとのことだ。捏造なんていくらでも出来るし、嘘を並べても王都にあまり余裕がない現状だからこそ通るのだとか。
「それではノア様、お時間を取らせてしまい申し訳ありませんでした」
それから受付嬢に連れられて建物の外に出た。
そこで別れるものとばかり思っていたが、街の外れまで見送りに来てくれた。
「大方こういう理由ではないか、そう結論は出ていましたが形としてお話を聞く必要があったのです。再三になりますが申し訳ありませんでした」
「あぁいえいえ、色々と俺も知れましたし勉強になりました」
そう言うと受付嬢はニコッと笑みを浮かべた。
長い前髪で目元は見えないが、一瞬見えたその瞳は綺麗なルビー色をしていた。
「それでは失礼します。こちらに敵対の意思はないと、どうかそちらのお方にもお伝えください」
「え?」
それだけ言って受付嬢は去っていった。
俺はその背中が見えなくなるまでジッと見ていたが、そちらのお方ってどういうことなんだろうか。そう思っていると俺の影が蠢き形を成した。
「やっほノア♪」
「ニア!?」
まさかのニアが現れた。
あぁそうか、そう言えばニアって影にも潜めるって聞いたことがあった。影から現れたニアは俺に抱き着き頬をスリスリとさせてきた。そして、こんなことを口にするのだった。
「まさかあの子がここに居るなんてね。魔界から去って大分経つけどなるほど、受付嬢をしているなんて誰も思わないでしょうに」
「知り合いなの? ってそうかあのお方ってニアのこと?」
「でしょうね。あの子はゾナ、レイスの種族よ」
「……へぇ」
それは驚きだった。
でも……魔族は基本的に人間と相容れないと思ったけどそうでない魔族もやっぱり居るみたいだ。
「あの子、人間の幼い子を性的に食いたいからって理由で魔界を去ったのよ」
「……………」
「……驚きよね」
「うん。ねえニア」
「なに?」
「そっちの人たち癖ありすぎじゃない?」
「……それね」
ニアも十分癖あるけどね……。
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