ナンデモナオース草
巨獣の巣窟、それなりに強い魔獣が生息するダンジョンらしい。冒険者の中でも高ランクしか奥には進めないらしく、ここで取れるアイテムはやはり結構価値があるらしい。
「ノア、こういうところに来るときは私を呼びなさいね?」
「そうよノア君。絶対に私を呼ぶこと、約束よ?」
「同じことを言うんじゃないわよ」
「同じことを言わないでください」
俺を挟んでバチバチするニアとリリスに俺は内心で溜息を吐いた。
一応ここについての説明はされ、一人で侵入することは高ランクであっても自殺行為であると教わった。基本的に四人以上は絶対、それがここに入るためのルールだったりするらしいのだ。
「シャアアアアアアアアアアッ!!」
「ガアアアアアアアアアアッ!!」
「うるさい!」
「うるさいわ!」
蛇のような、或いは犬のような魔獣が無数に襲い掛かってくるがその度に二人が腕を振るうだけで跡形もなく消え去っていく。まるで能力値を全部引き継いでの二週目かと思わせる爽快さだ。
「ナンデモナオース草は分かりやすい見た目をしているからすぐに見つかるわ」
「だからちゃちゃっと奥に進んでしまいましょう」
……ヌルゲーってこういうことを言うのかな。
俺は一切の戦う力を持たないけど、それでもカバーして有り余る能力が二人にはある。だからこそ、道中が驚くほどに余裕なのだ。
「二人とも、凄く強いんだなやっぱり」
分かっていたことだ。
魔王とサキュバスの女王、強くないはずがないのは当然である。俺がそう言うと二人は頼りになる笑みを浮かべ、再び俺の手を握ってくれた。
「体が震えてるわね。ちょっと寒いかしら」
「いや……ちょっと怖いかもしれない」
如何に二人が居たとしても、やはりこういう場所は怖かった。
二人の振りまく魔力に恐れて魔獣の出は少し弱くなったが、それでも命を刈り取る魔獣たちが蔓延っているのは変わらない。
薄暗さの中にある冷たさに体が震えるのも間違いではないだろう、けれど一番シンプルに少し怖いんだと思う。
「それならいい方法があるわ。魔王様、ちょっとノア君の手を離してください」
「? 分かったわ」
首を傾げたニアだがリリスに言われたように手を離した。
すると、リリスは一気に俺の体を抱き寄せるのだった。元の世界ではお目に掛かったことがないほどの大きな胸に顔が包まれ、困惑を通り越して一気に恥ずかしさが襲い掛かってきた。
「ちょっと!? 何をしてるのよアンタは!」
「おかしいことはしていませんよ? ノア君の恐れを軽減するために、こうして落ち着かせているわけです。どうですかノア君、怖くないでしょう?」
確かに怖くはない……ただそれ以上に心臓が痛いほどドキドキしているのだが。
「大きなおっぱいは包容力があるのですよ。安心させるのに最適です」
「そ、それは……ってそれなら私でもいいでしょうが」
「私の方が大きいですから」
「……むむっ」
いや、十分ニアも大きいけれど。
それからしばらくリリスに抱きしめられていたが、いい加減進もうとニアが暴れ出したので離れることに。そしてまた二人にそれぞれの手を取られ歩き出した。
「それにしても、まさか私が人間のためにこうして動くなんて思わなかったわ」
「そうですね。まあその人間というよりも、ノア君という特別のために動いているわけですが」
「……二人とも、本当にありがとう」
一人で何も出来ないからこそ、こうして手を貸してくれることには最大限の感謝をしたいのだ。
「別にいいわよ♪ あぁでもそうね。帰ったら何かお菓子を食べさせてちょうだい」
「いいですね。ノア君、何か美味しいものがご馳走してください」
「分かった。是非ご馳走させてもらうよ」
以前にアップルパイを美味しく食べてくれたのもあったけど、やっぱりどこの世界も女性ってのは甘いモノが好きなんだろうな。よし、イチゴのタルトでも作ってご馳走することにしよう。
迫りくる魔獣の群れを片付けながら俺たちは奥に進んでいく。
そんな中、巨大な大蛇のような魔獣が現れた。その魔獣はカッと目を見開き、その不気味な光を放つ瞳に俺たちを移した。
「バジリスクか……雑魚ね」
バジリスク!?
それの名前は元の世界でも聞いたことあるけど、蛇の王っていう伝承が残る化け物じゃなかったっけ。バジリスクと聞いて驚いたが、ニアが雑魚と言ったことでちょっと緊張感が解けた。
「シャアアアアアアアアアッッ!!」
雑魚と言われたことが気に入らなかったのか、バジリスクはニア目掛けてその巨大な尻尾を振り上げた。しかし、ニアはただ手を翳しただけだ。
「失せなさい」
その瞬間、大きな音がしたと思ったらバジリスクの体が消し飛んでいた。血液すらも一切残さないニアの魔法……まるで体が潰れたように見えたが、重力に関する魔法なのだろうか。
「片付いたわ。あれが目的のモノよ」
「あ、それが!」
バジリスクの体が消えた奥に見えた青色に輝く草、なるほど……これがナンデモナオース草なのか。俺は慎重に土から引っこ抜いた。よし、これでモンさんの奥さんを助けることができる。
「良かったわねノア君」
「あぁ!」
よし、これでここに用はなくなった。
再び二人に連れられるように来た道を戻った。帰りも迫りくる魔獣たちは無残にも二人に殺されていき、スムーズに入り口まで戻ることが出来た。
外に出た時、ちょうど俺たちの視線の先から十人ほどの冒険者と思われる姿が見えた。
十人となるとかなり大勢のパーティになるわけだけど、それくらいの人数でダンジョンに入るのも普通なのかな。俺はともかく、人外の美しさを持つ二人に彼らは視線を向けていた。女の人もいるけど、二人に見惚れるのは例外ではないらしい。
「お菓子♪ お菓子♪」
「楽しみですね」
ただ、そんな視線を受けても二人は全く意に介さない。俺はそんな二人に苦笑しつつ、離れないように付いていった……その時だった。
「え? ナンデモナオース草……三人で?」
信じられない、そんな目を向けられた。
俺が手にする薬草に目を留めた彼ら、その先頭を歩く屈強な男が近づいて来た。
「君、まさかそれを取ってきたんじゃ――」
なんだか面倒なことになりそう、そう思った時には家に帰っていた。
「……あれ?」
「はい。帰ってきたわよ」
「お疲れ様ノア君」
「あ、はい」
……えっと。
あれは気にしない方がいいのか? 二人は全く気にしておらず、こちらに近づいていた人が最初から居ないかのような反応だった。
それからまず、モンさんの所に転移してもらい薬草を渡した。かなり驚いた様子だったが、奥さんが助かることを実感したのか泣きながらお礼をされた。
「すまねえ……本当に感謝するぜ兄ちゃん!!」
俺は何もしていないんだけどね。
それでも、嬉しそうなモンさんの表情を見れて嬉しかったのだ。
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