やり合うニアとリリス
「魔王様」
「何かしら?」
ニアールとリリスに挟まれ、悪戦苦闘しながらも眠りに就いたノアをニコニコとニアールが見つめていた。そんな彼女にリリスが声を掛ける。
「本気……なのですね。あなたはこの子を」
「えぇ本気よ。この子と出会ったのは運命だわ……反対する?」
「いいえ、私はしませんよ。ただの人間でありながら私の力に抗ったのですから」
ノアを一目見た時、リリスはニアールが熱を上げている男だと分かった。別に危害を加えるつもりはサラサラなかったし、弱めのチャームを掛けたのもほんの少しの悪戯心だった。
「普通の人間であれば間違いなく私に堕ちていたはず……ってその目をやめてください! すぐに解くつもりでしたから!」
「そうね。もしもそうなっていたら今頃あなたはここに居ないわ」
ニアールの言葉は決して嘘ではない。
危害を加えないとしても、ラインを越えた瞬間ニアールはリリスを殺していた。それだけニアールはノアを求め惹かれている。
「……魔王だなんて関係ない、目の前で傷ついていたから助けた。初めてそんな風に言われたわ。そして頼られ、あまつさえ美人だって……綺麗だって言われたらもうダメよ。魔王だからって恋愛経験の無さがここで出てしまったわね」
幼い頃より次代の魔王として教育を受けた。
その結果、歴代最強の魔王として君臨することになったのだ。ニアールもその立場を疎んでいるわけではなく、魔王としての立場に誇りを持っている。
そんな中で出会った運命の相手、本来なら死んでいたはずの命を繋いでくれたノアのことが気にならないわけがない。
そんなニアールの言葉を聞いてリリスは悔しさに唇を噛む。本来ならニアールを守る立場に居るリリスを含めた部下たちは何も出来なかった。その時のことに関してはもう済んだことだからとニアールは笑っていたが、リリスはそれを忘れることは出来ない。
「リリス、あまり気にするのはやめなさい。あれは何十年も掛けて練られた魔法が功を奏しただけ。二度目はないわ――私を煩わせる相手はもう居ない」
「そう……ですね」
その強い言葉にリリスは心から安心した。
それもこれも導いてくれたのは隣で寝ているノアだ。見た目は平凡、その身に秘める魔力も大したことはない……本当にただの人間だ。
「……不思議な子」
そんな子が敬愛する主を救ってくれた……本当に感謝しかない。
「魔王様ではありませんが……本当に可愛い子ですね」
「でしょう? それに何より優しいんだから!」
絶対に他の部下に見せない純粋な笑みにリリスも頬を緩ませる。
眠るノアの頬に手を当てると、彼はくすぐったそうに身を捩った。そして何を間違ったのか、リリスの方に体を向けて抱き着いて来たのだ。
「あら……」
「あ……っ!!!」
リリスを抱き枕のように思っているのか、その豊満な胸元に顔を埋めるノア。そんなノアの後ろから睨んでくるニアールがおっかないことこの上ないが、リリスからではないのでどうしようもない。
「……羨ましいわね」
「魔王様、くれぐれも後日私に当たらないでくださいね?」
「分かってるわよ」
これで安心だと、リリスは安堵の息を吐いた。
そして、変わらずに抱き着いてくるノアを見つめた。気持ちよさそうに頬を擦りつけてくる彼の様子に、リリスはどこか母性を刺激された。
それに、あのチャームに流されまいと抗った姿……肩に手を置かれた時、ノアの必死な形相に実を言えば少しキュンとした。
「……ノア君……か」
自己紹介を終えて名前を呼び合うことになったが、礼儀正しく本当に良い子だ。出来ればニアールを相手にする時と同じように敬語は抜きでもいいのだが、流石にまだそこまでは無理だったようだ。
「これからよろしくねノア君」
ニアールを含め、これから楽しくなりそうだとリリスはクスッと笑うのだった。
「……ぅん……ニア」
「あ……」
ニアールの名を囁き、ノアはニアールの方へと体を向けた。リリスの視線の先でニアールが幸せそうに笑みを浮かべ、ノアの体を優しく抱きしめる。
「……ふん」
「むっ」
胸の中にあった温もりがなくなり寂しくなったリリスに対し、ニアールは鼻で笑うように挑発してきた。
その後、結局ニアールの胸に抱かれてノアは眠ったが……リリスは少し寂しい気持ちで眠ることになるのだった。
「……?」
「おはようノア」
「おはようノア君」
目を覚ました俺の目の前に桃源郷が広がっていた。
ニアとリリスさん、元の世界では決して見ることが出来ない極上の美女に見つめられての起床だ。他の男に殺されそうだが……俺は逆にビックリしたけど。
「……そうか。昨日ここで寝たんだっけ」
「そうよ。ノアの寝顔可愛かったわ♪」
ニアにそう言われ、俺は少し顔を逸らした。
するとまさかのリリスさんの腕が伸び、その胸元に抱きしめられた。
「おはようノア君」
「お、おはようございますリリスさん」
僅かに残っていた眠気を吹き飛ばすリリスさんの抱擁に顔は熱くなる。
「リリス、わざわざ抱きしめる必要はないでしょう?」
「いいえ魔王様。こうして抱きしめておはようというのがサキュバスの常識なんですよ」
「嘘を言うんじゃない!!」
俺の頭の上で言い合いをする二人だが、そこで扉が開いた。
「おはようございます魔王様、リリス様。そしてノア様も」
ルミナスさんが部屋に入ってきた。
二人に挟まれる俺を見ても彼女は特に表情を変えず、てきぱきと散らかったモノを片付け始めた。
「お二人とも、ノア様がお困りですから言い合いはその辺で」
「……そうね」
「……分かったわ」
ルミナスさんの言葉により何とか解放された。
それにしても……これが魔王とその臣下、そう思うと何ともアットホームな場所だなと思う。ただの上司と部下ではなく、どこか家族のような繋がり……俺はそれを感じるのだった。
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