サキュバスはエロかった
「……ニアとの部屋を繋ぐ魔法陣……か」
ニアが帰っていった後、その日の夜のことだ。
俺はニアが作成してくれた魔法陣から目を離すことが出来なかった。それはニアと会いたい……という気持ちがないわけではないが、やっぱり気になってしまう。
「ニア……優しかったな」
元の世界であんな風に誰かに優しくされたことはなかった。
正直今でもニアが本当に魔王なのか疑わしいほどだ。パッと見た感じだと普通に綺麗な女性にしか見えず、その身に恐るべき力を秘めた魔王だなんてとてもではないが信じられない。
「……それでも魔王なんだけど」
そう、それでも彼女は魔王だ。
あの時俺が救った人であり、勇者たちを倒した魔王そのものなのだ。
「ほんと、外見って当てにならないな」
そのまま俺はジッと魔法陣を見ていたがちょっと近づいてみた。
「これ、どうやったら発動するんだろう」
ただ乗ればいいのか?
それとも何か呪文のようなものが必要なのか……う~ん。ニアはいつでも来て良いって言ってたし、ちょっと物は試しってことで行ってみるか?
「アップルパイ作ったから持っていこう」
元の世界の知識を活用して作ってみたアップルパイ、ちょっと形は不格好だけど味は良かったから喜んでくれると思う。
「……ええいままよ!」
俺は思い切って魔法陣に乗ってみた。
するとその瞬間、眩い光に俺は包まれた。眩しすぎてつい目を閉じてしまったが、光が止んだ時俺の目の前の景色は全く別のモノに変わって……え?
「あら……あなたはだあれ?」
俺の家とは比べ物にならないほどに豪華な部屋だった。
そして、そこに一人の女性が居たがそれはニアではなかった。ニアも際どい服装をしていたが、それよりも遥かに布の部分が少ない。というか上と下の大事な部分しか隠れていない。
「……っ!?」
思わず視線を逸らした。
恰好だけではない……何故かこの人を見ていると変な気分になってくる。ニアに負けず劣らずの美女で、とにかくスタイルが凄まじかった。頭に二本角が生えていたのでこの人も人間ではない、それに背中に翼も二つ生えていた。
「……あぁ君がそうなのね。魔王様が気に入ったという」
目を逸らしている俺の元に彼女は近づいて来た。
……なんだ、この甘い香りは。良い匂いなのは間違いない、でも脳が痺れるような香りだ。
「こっちを見て」
「……あれ」
勝手に顔が彼女を向いた。
そうして見つめた彼女は本当に綺麗だった。そのつもりはないのに、目の前の女性を襲ってしまえと本能が囁いてくる。
「そのまま私に身を委ねなさい。ほら、私はここよ」
「あ……」
腕が伸びる。
俺を見つめて舌をペロッと舐めるその仕草は色気が凄まじかった。ボーっとする頭で腕を伸ばし……ふとニアの顔が浮かんで俺は舌を噛んだ。
「いたっ……」
鋭い痛みが走り俺は何とか自分を保つことが出来た。
伸ばしていた腕は彼女の肩に置かれたもののそこまでだった。とてつもない脱力感に襲われたが、俺は呆然と俺を見つめる彼女の表情が気になった。
「……ってごめんなさい!」
初めて会ったばかりの女性の肩に手を置いてしまうなんて何をやってるんだ! 目を丸くする彼女に俺は頭を下げた。
「本当にごめんなさい! 俺……その……」
頭がボーっとしてあんなことをしてしまった、そんなことを言っても言い訳にならないだろう。それがたとえその通りだとしても、俺はもう少しでこの人を本当に襲おうとしたのだから。
必死に頭を下げるが許してくれるかは分からない……だが、不思議と慌てたのはあちら側だったのだ。
「あ~……その、頭を上げてちょうだい。私が悪かったわ……ちょっと悪ふざけが過ぎてしまったわね」
「……え?」
さっきまでの妖艶な雰囲気は一切感じられず、逆に謝られてしまった。一体どういうことなのかと思っていると、部屋の扉が開いた。
「ノア! 来てくれたの……ね」
「……ニア!」
部屋に飛び込んできた彼女は目に留まらぬ速さで俺に抱き着いた。
さっきまでの妙な感情は一気に鳴りを潜め、ニアの胸に抱かれたことでとてつもない安心感に包まれた。
「まさか今日来てくれるなんて思わなかったわ。ごめんなさい、ちょっとお風呂に行っていたの」
「いや……その、魔法陣はどんな風に発動するのか気になって」
「ふふ、それで試したの? 相変わらず可愛いわね!」
スリスリと頬を俺の頬に当ててくるニアだけど、相変わらず目の前の女性は俺たちを見つめたままだ。
「……少し汗を掻いたの? それにリリスが居るってことは……まさかあなた」
「ち、違います! ちょっと揶揄っただけで――」
「揶揄ったじゃないのよ!!」
「あ~れ~!!」
あ、エッチな女性が吹っ飛んだ。
物凄い音を立てて壁に激突したが、壁には一切の傷はついておらず女性だけが目を回して倒れていた。
「このエロ娘は本当に……何もされなかった?」
「あぁ……ちょっと舌を噛んで正気を保ったっていうか」
「そう、ルミナス」
「お任せください」
舌を見せてほしいと言われ、俺は口を開けた。すると温かな光が当たったと思ったら痛みが消えていた。
「痛くはないですか?」
「あぁはい。痛くないです」
「良かったです」
ていうかルミナスさんも居たんだな。
離れたルミナスさんに入れ替わる形で再びニアが俺を抱きしめた。そして、俺の身に何が起きたのかを教えてくれるのだった。
「ノアはチャームに掛かってたのよ」
「チャーム?」
「そう、サキュバス特有の魔法よ。でもノアは舌を噛んで痛みによって無理矢理チャームを弾いたのね」
「……はぁ」
サキュバス……なるほど、夢魔と呼ばれているが大体はエロい魔物として描かれるあのサキュバスが彼女なのか。確かにエロい要素をこれでもかと敷き詰めた印象を受けたし納得した。
「彼女はサキュバスクイーンですが、そのチャームを払いのけるとは凄いですね。もしかして、魔王様のことでも思い浮かべでもしましたか?」
「っ!?」
一気に頬が赤くなった気がした。
するとニアが凄い雄叫びを上げて俺から離れなくなってしまった。まさか魔法陣を確かめる過程でこんなことになるとは思わず、俺は大きな溜息を吐くのだった。
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