繋がる我が家とニアの部屋

「ねえねえ聞いた? 私を見てノアのお嫁さんって! あの門番は見る目があるわ。人間も捨てたもんじゃないわね」

「あはは……まあ周りの視線は痛かったけど」


 あれからニアを連れて街に向かったのだが、それはもう視線がヤバかった。門番のおっちゃんを始めみんな驚いていたが、やはりニアのような美人と一緒に居るとジロジロ見られるのはどの世界も共通なんだろう。


『なんとまあ別嬪さんじゃねえか。兄ちゃんの嫁さんかい?』


 おっちゃんの言葉におにぎり目当てで集まった人たちがざわめいた。

 勘弁してくれと言いたかったが、更に火を注いだのがニアだった。


『あら、分かるかしら? 最近知り合ったのよ私たちは。ねえノア?』

『え? あぁはい……あれ?』


 流れるようにニアがそう言って周りにはそう受け止められた。

 結局ニアがお嫁さんということをあの場で否定しなかったけど……いやいや、こんな俺にニアのような美人が嫁さんって釣り合わないどころじゃないって。


「……はぁ。明日は何を言われるんだろうな」

「どうしたの?」

「……何でもないよ」


 元凶たる魔王様は不思議そうに首を傾げているだけだ。

 その様子に溜息を吐きつつ、俺とニアは街の外れに向かい休憩していた。


「ノアはこうやって生計を立てているのね」

「そうだな。一応こっちにはない食材を使ってるからかみんなこぞって買ってくれるんだ」

「それはそうよ。あのウメボシ? あれヤバいわね。クセになる美味しさだわ」


 ニアに気に入ってもらえたなら何よりだ。

 おにぎりだけでなく、他にも何か簡単に作れる菓子なんかも良さそうだ。


「……アバランタ……ね。こうしてここに来るまでは名前すらも知らなかったわ」


 アバランタ、それがこの街の名前になる。

 俺からすればこの世界の街は全て新鮮に映るが、ここは大きいがどちらかと言えば田舎らしい。都市はもっと大きいとのことで、王都なんてものは比べ物にならないくらいに賑わっているらしい。


「そんなに話題にもならない場所なんですか?」

「そうね。他国と戦争なんかになったら真っ先に捨てられる場所じゃない?」

「……なんと」


 戦争……か。

 なるほど、確かにこういったファンタジーの世界ならある意味付き物か。飛行機に乗って爆弾を落としたりするのが現代の戦争なら、こっちは強力な魔法で制圧しつつ白兵戦で進撃する感じなのかな?


「なんにせよ怖いね」

「大丈夫よ。あなたは私が守るからね。何があっても、あなたに害する存在は全て私が消し飛ばしてあげるわ」


 ……ほんと、魔王ってのが信じられないくらい良い人だよニアは。

 でもそうだな、俺は少し気になっていたことがあったので良い機会だし聞くことにした。


「そう言えばさ。なんで俺の居場所が分かったんだ?」


 そう聞くと、ニアは待ってましたと言わんばかりに教えてくれた。


「ノアの魔力が体の中に残っているからよ。どんな性質のものか、それさえ分かっていれば後は探すだけだから」

「そう……だったんだ。凄いんだな」

「ふふ……まあ本当はノアの魔力を内側に閉じ込めていたかったからなんだけど」

「え?」

「何でもないわ♪」


 妙に楽しそうなニアを見ているとこちらまで笑顔になる。

 というか、よくよく考えるとこの世界で今一番親しいと言えるのはもしかしたらニアなんじゃないか? あんな出会いがあって今に繋がっているわけだけど、まさか魔王とこんな風に話す仲になるとは思いもしないだろう普通は。


「ニア」

「なに?」

「……正直さ、色々と心細いことはあったんだ」

「……うん」


 食材が無限に生み出せるから餓死の心配はない。けれどもこの世界で俺を知っているのは俺だけだ。あの女神はあれから現れないし声も聞こえない……街の人たちはみんな良い人たちだけど、所詮それまでだった。


「こうしてニアが傍に居てくれて安心する。ありがとう、優しい魔王様」

「あ……っ~~~~~~~~~!!」


 あ、ニアが下を向いてプルプルとしだしたぞ。

 しばらくそうしていたニアだが、バッと顔を上げて俺をその胸に抱きしめた。


「もうもう! なんでノアはそんなにいい子なの!? 私は魔王なのよ? この世界で恐れられる魔王なのよ。それなのに優しい魔王様ってきゃあああああ!! そんなこと言われたら嬉しくなっちゃうじゃない!!」

「むがっ!?」


 もっと強く抱きしめられた。

 くぅ……それにしてもなるほどこれがおっぱいってやつか。元の世界で彼女なんて居たことなかったから触ったことはないし見たことは……母のがあるけどそれくらいだ。だからこそ俺には刺激が強すぎる!!


「ねえノア、迷惑じゃなかったら私にある考えがあるんだけど」

「考え?」

「えぇ。取り敢えずもう街での用は終わり?」

「うん。今日はもうないけど」

「分かったわ」


 パチンとニアが指を鳴らすと気づけば自宅のリビングに居た。

 転移魔法なのかな? でも魔法陣とかはなかったし、魔法が発動した瞬間も全然分からなかった。これが魔王か……また一つニアを凄いと思った。


「そうね……この辺で良いかしら」


 あまり家具の置かれていない場所に立ったニアが手を翳すと、その場に一つの魔法陣が描かれた。


「それは?」

「これは私の部屋とを繋ぐ転移陣よ。これがあればわざわざ外から来なくても大丈夫だし、なんならノアの方からこっち側に来ることが出来る」

「へぇ……でもいいのかな?」

「全然いいわ。むしろノアの方こそ迷惑じゃない?」


 迷惑なんじゃないって……迷惑どころかここを通るとニアの部屋に繋がる。その事実にドキドキしてしまうくらいなのだから。


「ノアが呼べば私はいつでも現れるけど、もし私の方に来たいと思ったら遠慮なく来てちょうだい。心細いと思ったらおいで、私の胸でまた包んであげるから」

「……っ」


 ……ヤバい、顔が熱い。

 そんな俺の様子に気づいてるかどうか知らないが、ニアはずっとニコニコしたままだった。こうして俺の部屋にニアの部屋とを繋ぐ魔法陣が構築された。更にこの魔法陣は結界の役割も担ってくれるらしく、危険が近づけばそれだけでニアに伝わるのだとか。


「何なら今日から来てもいいわよ? それじゃあノア、またね?」

「あぁ。ありがとうニア。またな」







「……しゃああああああああああおらああああああああああああ!!」

「魔王様? ついに頭がイカレましたか?」

「うるさいわねルミナス! ってそれよりも聞きなさい! 私の部屋とノアの家が繋がったのよ! これってもう半同棲状態じゃない!?」

「……また病気が出てしまわれましたね」

「ふふ……ふふふ……これでまた一歩だわ。もっと、もっと……あはははっ!」

「はぁ……これは本当にノア様が大変そうですね」

 

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