第5話 森の一軒家

 ヤスコはトイレに行きたくて夜中に目が覚めました。


 1LDKぐらいのレンガ作りの家ですが、浴室もトイレもちゃんと有ります。

 リビングから台所脇を通ってトイレに向かうと、台所に明かりがついていました。


 シャー、シャー、シャー

 っと、中から音が聞こえてきます。

 どうやらおばあさんが包丁を研いでいるようでした。


「こ、こんな深夜に包丁を研いでいますぅ!?」

「フフフッ、よく切れそうだわい」

「え……?」


 トイレの入り口の脇にゴミ箱と大きなかめがあり、ふたが少しずれていたので直そうとすると、

 ガラッ!

 と音を立てて蓋が下におちました。


 そーっと中を覗くと大きな骨が一杯に入っています。

「ヒィイイイイイッ! ま、まさか人の骨?」



 ギィィィッ!

 と後ろのドアが開いて、おばあさんが顔をニョッと覗かせました。


「シカやヤギの骨ですよ。近くに店が無いので、肉を食べるには狩りをして獣を捌くしかないのよ。だから毎日当たり前に包丁を研ぐのだけど、その骨は焼いて砕いて畑の肥料にするの」


 しかし、ヤスコは山姥やまんば伝説を思い出して、ガクブルと足の震えが止まりません。

(明日のメインディッシュは……もしかしてわたしでしすぅ?)



 ギィィィッ!

 おじいさんも起き出て来ました。


「その通りじゃ、お嬢さん。それに白い大きな犬を2匹飼っていて、肉を沢山たべるのじゃ。ゲィリィとフレィキィと言う名前じゃ」

「はい~、そういえば外で犬を見かけましたぁ」

 ブルブルブルッと、ヤスコは震えがまだ止まりません。


「犬の餌も当然肉だから、おじいさんはよく獣を狩ってきますのよ」

「そうじゃ、だから骨が一杯なのじゃ。王都みたいにゴミ収集は来ないからのぅ、焼いて砕いて畑の栄養として撒くしかないのじゃよ」


「はぁ、そうなんですねぇ……ガクブル、ガクブル」

 ヤスコは用を終えて布団に潜り込んでも、しばらく震えが止まりませんでした。

 ですが本当に田舎の一軒家なので、店が一切無いので水は川で汲み、必要な野菜も家庭菜園で作っていると言う事でした。




 翌日、ヤスコはおじいさんと一緒に狩りに出掛けます。

 小一時間程であっさりと、おじいさんが槍を投げて猪を仕留めました。


「ヤスコや、野生の獣にはマダ二が寄生しているんじゃ、大概は皮膚の柔らかい腹の辺りにおるから、のり移られないように注意するのじゃぞ。血を吸われてウイルスを貰うと、高熱が出て酷いと死んでしまう場合もあるからのぅ」

「はい、おじいさん」


「狩猟に出る時は皮膚に寄生されない服装を心掛けるのじゃぞ」

「はい、おじいさん」


 出かける前に、しっかりとそういう服装をおばあさんが着せてくれました。



 おじいさんは地面に穴を掘り、猪の後ろ脚を縛って枝に掛けて、引っ張って逆さに吊るします。

 そしてナイフで頸動脈を斬ると、スグに血が穴の中に滴り落ち始めました。


「コツはとどめを刺さぬことじゃ。心臓を止めない様にすれば早く血抜きができるのじゃ」



 猪の血抜きが終わる迄、2人はポットのお茶を飲んで一休みしました。


「それじゃあ、帰ろうかのぅ」

「はいぃ……? 1匹だけで良いのですか? まだお昼前ですけどぅ?」

「十分じゃ、必要な分だけで良いのじゃ。むやみな殺生は、せぬ事じゃ」



 ゲィリィとフレィキィが、猪を乗せた荷車を家まで引いてくれました。

 2匹は血抜きが終わるころ、ちょうど荷車を曳いてやってきたのです。

「まぁ、何て賢いのでしょう!」

「「ゥワンッ、ゥワンッ」」



 庭にはハーブやスパイスの木も有ります。

 おばあさんが猪肉を甘辛く香り豊かな料理にしてくれました。

 猪の肉は3人と2匹でも全然食べきれません。


「食べきれない肉は干し肉や燻製にして保存するのじゃ」

「はい、おじいさん」



(おじいさんは、ここ異世界での生き方を優しく教えて下さっているみたいですぅ)

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