第50話 長旅の成果
朝食が終わり、テントを畳んでなるべく早く出発準備を整えた私たちは、引き続きこのフロアの探索を開始した。
全神経を張り巡らせて、罠や魔物の遭遇に注意して進んでいくと、ほぼ一本道の通路の先に、ストーンゴーレムが一体立っているのがみえた。
「よし、敵だよ」
私は叫び、明るさを増した魔法の光球がより詳細に見えるようになった。
ストーンゴーレムとは、文字通り石が寄り集まった人形だ。
単純な命令しか実行出来ないのは、他のゴーレムと同様である。
「石で出来ているから前衛はひたすら盾になって、スコーンの魔法が頼りだよ!!」
私はやや後方に下がり、前衛陣が剣を構えた。
普段は使わないバスタードソードを構える姿は、やはりどこか違和感はあったが、私ははその腕を知っていた。剣一筋のララといい勝負ができる……かもしれない。
最初に動いたのは、ストーンゴーレムの方だった。
比較的広い通路を塞ぐように迫ってきたストーンゴーレムの振り下ろしパンチは、前衛陣の剣に当たって火花を散らし、三人が少し後退した。
「これ、半端なく強いです!!」
ララが声を上げマクガイバーを構え直した。
「こっちは剣が折れそうだよ!!」
リナが腰に刺している鞘から予備の剣を抜いた。
「こっちは問題ない。頑丈なだけが取り柄みたいな剣だからな」
アリスが笑った。
「こりゃ、長期戦はマズいな。スコーン、一発ぶち込んで。ビスコッティ……」
私は背後をみて、冷や汗が出た。
通路の向こうから、もう一体のストーンゴーレムが、重たい足音とともにやってきた。
「ビスコッティ、よろしく。一人じゃ太刀打ち出来ないから、ミス・パンプキンとハウンドドッグもよろしく」
私の声に素早く反応し、ミス・パンプキンとハウンドドッグが戦闘態勢に入った。
「やっと、ただ飯食らいから脱出出来ましたね。ハウンドドッグ、やりますよ」
「分かった。ビスコッティ。どう始末するの?」
ミス・パンプキンとハウンドドッグが笑みを浮かべ、ともにRPG-7を肩に担いだ。「はい、もう少し近寄らないと分かりませんが、額の部分が赤く光っています。恐らく、あそこが核だと思います。そこを破壊すれば倒せます」
ビスコッティもRPG-7を構えた。
「スコーン、こっちも同じ。頭ごと吹っ飛ばすか……」
「それじゃダメだよ。確実に核を破壊しないと……ファイア・ニードル」
スコーンの指先から、微かに赤く染まった糸のようなものが放たれ、それが正面のストーンゴーレムの額に命中した。
小爆発とともに、額の赤く光った部分を破壊されたゴーレムは、そのまま粉になって消えてしまった。
ほぼ同時に背後でも爆音が聞こえ、見ると三人のRPG-7が見事に額の赤い部分を破壊したようで、やはりゴーレムは砂のような粉になり、そのまま消えてしまった。
「この程度で満足出来ません。次ぎはなんでしょうか」
ミス・パンプキンとハウンドドッグが笑った。
「さて、なにが出るかな。とりあえず、下りようか」
私は笑みを浮かべた。
正面のゴーレムが門番だったらしく、その先には階段が見えていた。
全員の息が整うのを持って、私は変わらず先頭を歩きはじめた。
三層に向かう階段は、よほど重要なものでもあるのか、罠がてんこ盛りだった。
「こりゃやり甲斐があるね。えっとまずはここからやるか……」
私はみんなに小休止していてと告げ、罠との格闘を開始した。
ほとんどが機械式の単純なものだったが、複数の罠が連携していたり、近寄っただけで作動してしまうようなものだたったり……。とにかく、やたらと罠しかなかった。
「みんな、ついてきて」
ある程度進んだところで、私は無線でみんなを呼んだ。
みんながゆっくり下りてくると、私は頷いてゆっくり先に進んだ。
私はいつも通り、後続の一歩先を歩き、並みいる罠たちと格闘を続けた。
「よし、階段の罠は全部解除したよ。でも、行き先がこれとは……」
私は苦笑した。
階段の行く先は、大きな石の壁だった。
「なんだろうね……」
スコーンが壁を蹴飛ばしながら、小さく笑った。
「さて、調べてみますか……」
私は壁を子細に調べはじめた。
「……これ、ただの壁じゃない。扉がある」
ほんの僅かではあるが、壁には隙間がある場所があった。
「みんな、扉を開けるよ。下がって!!」
私の声にみんなが素直に下がると、私は扉に薄いヘラのようなものを差しこんだ。
扉の高さはさほどでもなく、床からはじまってかまぼこ形の扉の扉を一周した。
「あれ、ないな。ならば……」
私は呪文を唱え、青く光った右手の平を扉に押し付けた。
すると、今までただの壁だった場所に大きな扉が現れた。
希にあるのだが、こうした扉に『幻影』の魔法をアレンジして、質感まで違和感なく仕上げる結界魔法がある。私が解除したのはこれだ。
「さてと、罠チェック……」
私は扉を軽く押したり引いたり、隙間に先程のヘラを差し入れて確認したり、あらゆる罠の可能性をチェックして、罠はないと判断した。
「ビスコッティ、軽めの結界お願い。先に進むよ」
ビスコッティが笑みを浮かべ、呪文を唱えた。
極薄い青色の結界が張られると、私は扉のノブに手を当てた。
そのままノブを捻って中に入ると、まるで図書館のような落ち着きがある、ゆったりした部屋があった。
私は一応床のチェックをしながら進み、部屋自体に罠はないと結論づけた。
「みんな大丈夫だよ。怪しいものがあったら呼んで、すぐ行くから」
私の声で全員が中に入ると、自動で扉がしまった。
「おい、閉じ込められたぞ。もっとも、不思議と不安はないがな」
アリスが笑みを浮かべた。
「悪意を感じたら、そもそも入らないよ。さて、ここはなんだ……」
見るからに広い図書館だったが、本が書架一杯に詰められ、入りきれないものは床に平積みされているという感じだった。
「えっと、適当に……うげっ、エルフ文字だ」
私は思わず声を上げてしまった。
「なになに、なんかあったの?」
スコーンが目を輝かせてやってきた。
「うん、これエルフ語で綴った魔法書みたいだよ。さっと読んだけど、難解で分からん!!」
私は笑った。
「どれどれ……」
スコーンがその書を受け取り、隅っこの床に座って真面目に読みはじめた。
『うむ、ここにあったか。これは、最初にグモルグと戦った時の記録だ。隅々まで読んでおいてくれ。雑記帳もあるので、タイトルが赤字で記されたものを重点的にな。緑は魔法書だ。魔法が使えるものは読んでおくといい。我々も探していたのだ。全知全能ではないからな』
頭の中に闇の精霊の声が響き、私は書架に移動した。
そして、片っ端から本を抜き取り、空間ポケットに放り込んだ。
「ここで読んでも集中出来ないから、帰ってから読もう。みんなも協力して!!」
私たちは、魔法書に没頭しているスコーンを除き、全員で本という本を回収していった。
「まあ、本を回収するのはいいが、なにか重要なのか?」
「うん、闇の精霊の声が聞こえて、ここにあるのは二千年以上前にグモルグと戦った記録と、多分その時に使った魔法なんだって。回収しておかないとダメでしょ」
私は笑みを浮かべた。
「なるほど、過去に学ぶのはいい事だ。よし、協力しよう」
アリスが空間ポケットを開き、本の回収をはじめた。
「師匠、なにやっているんですか。本を集めて帰りますよ!!」
「……」
本に熱中してビスコッティの声に反応しないスコーンを見て、ビスコッティは小さく息を吐いた。
「このまま回収しましょう。よいしょっと……」
ビスコッティが、スコーンを抱え上げて自分の空間ポケットに放り込もうと知った時、すんでの所でスコーンが我に返った。
「な、なになに。なにすんの!!」
スコーンが投げ捨てた本が、偶然にも空いていた空間ポケットに投げ込まれ、ビスコッティのビシバシが炸裂した。
「ダメです、お楽しみは帰ってからです!!」
「……分かったよ。それにしても、みんな本なんて集めてどうしたの?」
スコーンが不思議そうに問いかけた。
「パステルに闇の精霊がコンタクトしたようです。ここは、過去にグモルグと戦った時に記録された本が集められているとのことで、みんなで持ち帰って読もうという話しです」
ビスコッティが笑みを浮かべた。
「そうなんだ。それにしても、よく二千年以上前に書かれた本なのに、どこも痛みがないね」
スコーンが不思議そうに呟いた。
「ここ、時間が止まっているんだよ。だから、早く出ようって思ったんだ」
私は止まっている腕時計を示してみせた。
「うん、なるほどな。みんな、とにかくかき集めろ。外がどうなっているか分からんからな」
アリスが素早く反応し、程なく一枚のメモもなく本は全て回収した。
このどこか曇った空気も二千年以上前の空気。
そう思うとなかなか冒険心がそそられるが、今は脱出が先だ。
「さて、ここから出るには……ああ、あれか」
ご丁寧にも部屋の奥の方に『出口』と書かれた扉があり、開けるまでもなく扉がパタパタしていた。
「よし、行こう。外は何時かな……」
私は苦笑して、みんなと一緒に扉をくぐった。
すると、軽い酩酊感と共に、私たちはビスコッティが結界でガチガチに固められたテント前に到着した。
「あれ、ここに出ちゃったよ」
私は拍子抜けで思わず声を上げた。
「もう、用事は済んだという事でしょう。下りる、頂く、帰る。私たちの世界では、よくいわれていることです」
ミス・パンプキンとハウンドドッグが笑った。
「間違いありません。今は私たちが出発した夜です。この結界は張ったばかりで劣化していません」
ビスコッティが笑った。
「そ、そう……なんか虚しいけど、急ぎでやる事が出来たね。でも、今は夜だし疲れちゃったから、今日はテントで休もう。ビスコッティ、結界を解除して」
「はい、分かっています。もう少し待って下さい」
ビスコッティが呪文を唱え続け、全部で五枚あった結界が解かれた。
「あっ、食事を作ります。忘れていました」
メリダが笑みを浮かべ、さっそく屋外用コンロを作動させた。
火を使うタイプもあるのだが、そうなるとなにかと面倒なので、メリダが持ち歩いているのはスタンドで立てるタイプの魔力動作タイプだった。
だからこそ、こうした半密閉のような空間でも、安全に使えるのだ。
「あんまり無理しないでね。さて、私たちはテントに入ろうか。本の数が多いから、読むのは帰ってからね」
私は笑った。
「うん、当たり前だ。こんな場所で読んでどうする」
アリスが笑った。
「はい、ご飯を食べたら見張りに行く。ここなら平気!!」
元気なハウンドドッグが笑った。
「はい、私も参戦しますよ。ゴーレムより楽でしょう」
ミス・パンプキンが笑った。
「まあ、楽といえば楽だね。でも、一番怖いのは人間だよ。分かってるだろうけど、隣に新しく張られたテント。どうも気に入らない」
そう、もう帰ってこないだろうと燃やしたお隣に、もう新しくテントが立っていた。
その他、続々とトラックや列車でやってきた冒険者たちにより、大型テントエリアも急速に埋まりはじめたが、わざわざ燃えかすが残っているお隣を掃除して、テントを張る事もないだろう。
「いうまでもないけど、マークしておいてね」
「はい、心得ています。ハウンドドッグ、ナイフを使いましょう。銃声で迷惑をかけてはいけませんからね」
「分かった!!」
ミス・パンプキンとハウンドドッグが、腰のベルトにあった鞘からナイフを抜き、ハウンドドッグが笑みを浮かべた。
「こりゃ怖いな。こいつらのナイフテクは半端ないぞ。間違っても喧嘩売るなよ」
アリスが笑った。
「そうでもありません。さて、戦闘準備です。夕食を食べたら、仕事にかかりましょう」
そんなミス・パンプキンとハウンドドッグに笑みを浮かべ、ビスコッティが呪文を唱えた。
「人間くらい簡単に弾き飛ばす結界です。これがあれば、各方向からの不意打ちはありません」
「分かりました。私たちは、隣のテントの同動を密かに探ります。結界の外に出ることは?」
「可能ですが、外から中に入る事が出来ません。なるべく、中で対処して下さい。そういう意味では、ナイフより銃の方がいいかもしれません。この結界は、銃声は微かな音が漏れる程度です」
ビスコッティが笑みを浮かべた。
「それならば、銃にしましょう。VSSがいいでしょう。これなら、元から静かなので」
ミス・パンプキンとハウンドドッグがナイフをしまい、空間ポケットから黒光りする狙撃銃を取り出した。
「私。それ持ってない……」
ハウンドドッグが悲しそうに呟いた。
「それは、持ち金を全て対物ライフルに注いだからでしょう。無用の長物とまではいいませんが、今すぐ必要なわけではありません。教えたでしょう」
ハウンドドッグを、ミス・パンプキンが窘めた。
「……うん、分かってる。私はサブマシンガンで勝負する」
早くも立ち直ったらしいハウンドドッグが、高性能サブマシンガンのMP-5を肩から提げた。
「さて、どんな夜になるやら」
私は苦笑した。
夕食が終わって片付けも終わり、テントの中は平和そのものの空気に包まれていた。
「しっかし、まさか出発前に戻されるとはね。今でも信じられないよ」
床に寝転がって、私はぼんやり呟いた。
「不思議な事もあるものですね。はい、薬です」
ビスコッティが笑いながら、私とスコーンに薬瓶を手渡してくれた。
「ねぇ、パステル。ものは相談なんだけど、この剣を直せる?」
リナが近寄ってきて、今にも折れそうなミスリルソードを差し出してきた。
私は上体を起こし、リナが差し出してきた剣を受け取って確認した。
「そうだねぇ。やるだけやってみようか」
私は剣を受け取って胡座で座ると、呪文を唱えて光る右手を剣に押し付けた。
「……大事な剣だね、これは。誕生日プレゼントがミスリルソードって、ちょっと変わってるけど」
私は小さく笑って、半分折れかかっている剣の根元に手を当てた。
最初に『鑑定』の魔法で剣の状態を確認したところ、過去に何回か魔法剣を行った形跡があった。
本当はクリーンな状態が一番なのだが、この程度なら問題ない。
「直せると思うけど、専門の職人じゃないから、期待はしないでね」
私は苦笑してから、ポケットから特殊なチョークを取りだし、床に敷かれた寝袋の上に魔法陣を描いた。
その魔法陣の中央にリナの剣をを置き、小さく呪文を唱えた。
すると、折れそうだった剣が徐々に姿を変え、しばらくすると元の直刀に戻った。
「あっ、直った!!」
リナが嬉しそうに声を上げた。
「形だけはね。あとはこの状態で……」
私は魔法を変え、形状固定の魔法で仕上げた。
「はい、終わり。ついでに、刃こぼれも直ったはずだよ」
私が払う仕草をすると、特殊チョークで描いた魔法陣がきれいに消えた。
「それは助かる。ありがとう!!」
リナが笑って床から剣を取り上げ、大事そうに抱えていった。
「パステル、なにしたの!?」
こういうのが好きそうなスコーンが、目を輝かせて問いかけてきた。
「うん、『鑑定』でコンディションチェックして、『物質錬成術』で形を取り戻して、最後に『状態保存』の魔法で固めておしまい。これ、迷宮探索の必須だよ。あんまり使う機会がないけどね」
私は笑った。
本来は遺物に対して使うのだが、これまたそう簡単に見つかりはしない。
だが、迷宮を専門にしているなら、これは必須ともいえた。
「しゅごい、しゅごい、教えて!!」
スコーンが私に飛びついた。
「教えるのはいいけど、コツが難しいよ。特に物質錬成はある程度経験がないと……」
「ちょっと待って。いい練習台がいる。アリス、ビスコッティを気絶させて!!」
スコーンが完全に研究者の目になって、アリスに声をかけた。
「ん、なにか始末する事でもあったのか?」
「ちょ、ちょと待って!?」
ビスコッティの声も虚しく、ビスコッティはアリスの張り手一発で床に昏倒した。
「よし、これで後は縛って……」
「それは縛れてないな。こうやってこう……」
結局、生け贄のビスコッティは、ものの数秒でまるで焼き豚のように縛られ、そのまま床に転がった。
「パステル、これをまともにする!!」
スコーンが笑顔を浮かべた。
「うん、分かった……って、人間に効くかい!!」
私はスコーンをビシバシした。
「えっ、ダメなの?」
「当たり前でしょ。人体改造はできないの!!」
私は苦笑した。
「そうなんだ……残念だなぁ。せめて、ビシバシだけでも直して欲しかったんだけど」
スコーンが笑った。
「直ったら苦労しない。私が生まれたばかりで、泣いたらビシバシされていたみたいだからね。どこで覚えたんだか」
私は笑った。
「そっか、幼なじみだもんね。直らないならいいや!!」
スコーンが笑った。
「まあ、虫歯は直せるけど、どうしようかな。ビスコッティ、起きてるでしょ?」
私は笑った。
「……はい、起きています。そして、師匠をぶっ殺します」
床に転がったまま、ビスコッティがどす黒いオーラを放った。
あーあ、と思っているとビスコッティがブチィ……と縄を千切り、スコーンをキャッチすると、足を持って上下逆さまにして、頭を床に叩き付けて放り投げると、ついでに唾を吐きかけてコキコキ肩をならした。
「あー、スッキリした。はい、それで久々にみましたね。パステルの三連コンボ」
ビスコッティが笑みを浮かべ、床に倒れて気絶しているスコーンを踏みつけた。
「ま、まぁね。スコーン、生きてる?」
「多分。加減はしましたよ」
ビスコッティが笑った。
「な、ならいいけど。気が済んだら回復魔法使ってあげてね」
私は苦笑した。
色々ありながらも、テント内は夜半過ぎの静けさとなっていった。
みんなが寝に入る中、最後までスコーンを蹴っていたビスコッティも、スッキリ笑顔で見張りのアリスと共に見張りの交代に、テントから出ていった。
私は傷こそ治したようだったが、泣いているスコーンをヨシヨシしながら、私は朝食の仕込みをしているメリダを見て笑みを浮かべた。
「メリダは真面目だからね……。さて、お隣はどうかな」
大騒ぎしながらも、私は怪しい隣のテントの気配を探っていた。
「……くるかな」
そっと呟いた時、外で微かな音が聞こえた。
同時に、バリバリとなにか引きずる音が聞こえ、私はそっとテントの出入り口から首を出して外をみた。
すると、死体が四つ地面に転がり、アリスとビスコッティがそれを隣のテントに放り込んでいた。
「うん、やはり盗賊だった。そっと忍び寄ってきたところを、これでな」
アリスがVSSを掲げて笑みを浮かべた。
「なるほど……。それで、死体を隠しているんだ」
「そういう事だ。仕上げに、ビスコッティがテントごと氷漬けにして結界を張る。誰も近寄らないだろう。当然の罰だ」
アリスが煙草を咥えて火をつけた。
「こら、ノンビリしていないでやって下さい」
ビスコッティがアリスに文句をつけた。
「うん、やる。よし、とっとと片付けよう」
ビスコッティとアリスが作業を続け、全ての死体をテントに引きずり込むと、そこでようやく一息吐いたという感じで、ビスコッティが小さく息を吐いた。
「では、さっさと済ませましょう」
ビスコッティが呪文を唱え、隣のテントが氷漬けになり、薄い結界壁が張られた。
「これで大丈夫でしょう。怪しすぎて近づかないでしょうし、近づいても結界が弾きます」
ビスコッティが笑みを浮かべた。
「よし、これで安心だ。お前も寝ろ」
アリスが煙草を吸いながら笑った。
「分かった、よろしく」
私は笑みを浮かべ、テントの中に戻った。
すると、ハウンドドッグが拳銃を抜いて寝息を立てていて、ミス・パンプキンもそっと拳銃を覗かせて穏やかな寝息を立てていた。
「起きてるのか、寝ているのか……」
私は笑みを浮かべ、まだ泣いているスコーンをあやした。
その後はなにもなく時が流れ、朝を迎えると私たちメリダが作ってくれた朝食を食べ、私たちは撤収作業にかかった。
テントを畳んでスッキリ片付くと、私たちは帰路につくいた。
ビスコッティが帰りの手配をして、まずは行きに乗れなかった小型プロペラ機で一気にファン王国王都行きに飛び、そこからファン王国王都行きの便に乗り継ぎ、さらにそこからアレク行きの便に乗るという大移動だった。
スコーンが列車を希望したが、ビスコッティが時間が掛かりすぎると却下して、私たちは慌てて作りましたという感じの、空港というよりは飛行場に駐機中の小型プロペラ機に搭乗した。
私たちの他は攻略を諦めたのか、疲れ果てた冒険者とすぐに分かる姿をしたパーティたちが乗り込んできて、程なく飛行機はほぼ満席になった。
しばらく駐機した後、飛行機の扉が閉められ。エンジンが始動した。
こうして、帰路のまず一歩を、私たちは踏み出した。
小型機で三十分ほど。飛行機は、すぐにファン王国王都の空港に到着した。
ここからがちょっと苦労して、フィン王国王都までの座席を確保するのに手間取り、ビスコッティお得意の交渉術を使っても、三時間後の便になった。
「三時間ありますね。免税店で買い物でもしましょう」
ビスコッティが笑みを浮かべ、みんなでセキュリティを通過して出国手続きを終え、出発ロビーに立ち並ぶ免税店で買い物に走った。
私はスコーンとハウンドドッグを率いて、アクセサリショップをみて回った。
「あっ、このピアス。パステルに合うと思うよ」
ハウンドドッグが笑みを浮かべた。
「残念。これイヤリングなんだよ。ピアスは面倒だしね」
私は笑った。
「あっ、これルーン文字のペンダントだ。金ピカで格好いいけど、これメチャクチャだよ。ダメだよ。こういうのみると直したくなるんだよ」
スコーンがその金ピカペンダントを購入し、ノートにサラサラと正しい形に直しはじめた。
「うん、特に意味はないね。安全!!」
スコーンが笑った。
「まあ、魔法使いの証としてつけておけばいいよ。さて、私は……なんじゃこりゃ?」
そのアクセサリショップのど真ん中に、『純金製』と札が立ち、ショーケースに収められたカボチャのような形をしたオブジェが置かれていた。
「やっぱり高価だね。持ち帰るのが大変だから、興味はあるけど買わないでおこう」
私は苦笑した。
「芸術作品。よく分からない」
ハウンドドッグが笑った。
「まあ、どっかの大金持ちが、物好きで買っていくんじゃない。次はなににしようか」
私は笑みを浮かべた。
免税店でお土産を買い込み、やがて飛行機の搭乗時間になった。
みんなで集まってゲートを通過し、いつも通りエコノミーの席に座ると、これまたデラックスエコノミーだった。
「これならエコノミーも悪くないね」
私は笑った。
「私はビジネスクラスがいいなぁ。一回しか乗った事ないじゃん」
隣に座ったスコーンが文句をいった。
「住めば天国座ればハッピーだよ。どこだって同じだよ。どうせ寝ちゃうし」
私は笑った。
シートに座って待っていると出発の機内アナウンスが流れ、飛行機がゆっくりプッシュバックされ、エンジンが始動する音が聞こえた。
気流の具合にもよるが九時間か十時間か……。この旅程では最大の移動がはじまった。 目の前のモニター映し出されたこの飛行機の外部映像では、駐機場からゆっくり誘導路に入り、滑走路を目指して進んでいく様子が見えた。
「さて、今回の収穫は大きかったかもね。グモルグの正体に近づけそうだし、スコーンは魔法書を手に入れたし」
私は小さく笑った。
「そうだね。早く帰って読みたいよ!!」
スコーンが笑った時、飛行機は滑走路に入り、勢いよく離陸滑走をはじめた。
「さてと、ちょっと寝るかな。機内食がきたら起こして」
私は欠伸をしてから目を閉じ、軽い睡魔に身を任せた。
飛行機は十時間近くかけて、フィン王国王都の空港に着陸した。
乗り換え時間に考慮して、アレクに向かう最終便になったが、もう帰ってきたという安心感が湧いてきた。
私たちは入国手続きを終え、カウンター上にあるパタパタ看板で目的地のアレクに向かう便を確認した。
「あと三時間あるね。国内線ターミナルにいこう」
私は笑みを浮かべ、みんなと一緒に広い空港内を進んだ。
時刻はもう夜。空港内は閑散としていて、国際線のピークは過ぎたようだった。
私たちは一度ターミナルビルを出て、国内線のターミナルに向かう無料の連絡バスに乗った。
三十分ほどで国内線ターミナルに着くと、私たちは早々にアレク行きの便に乗るために手続きを行い、セキュリティを通過して、出発ロビーに出た。
「飛行機に乗っちゃえば、二時間くらいでアレクに着くよ。買えるまでが冒険だからね」
私は笑った。
「うん、疲れたが久々に長距離移動したな。たまにはいい」
アリスが笑った。
「じゃないと腐っちゃうよ。さてと、帰ったらシャワーを浴びて寝よう。ちょっと疲れた」
私は小さく笑った。
「これが冒険ですか。面白いですね」
ミス・パンプキンが笑みを浮かべた。
「うん、楽しかった!!」
ハウンドドッグが笑った。
「ならよかった。少し、ベンチにでも座って話しをしようか」
私は笑った。
飛行機で王都の空港を発ち、アレクに到着した時にはもう深夜近い時間だった。
「さて、帰ろうか。ついでだから、メリダの食堂で夕食を食べようかな」
私の提案に、メリダが笑みを浮かべて首を横に振った。
「トロキさんとの約束事があるんです。私がいないときは、食堂は夜八時に閉めるという感じです。そうでないと、いくらタフなトロキさんでも倒れてしまいます。もう閉まっている時間です」
メリダの言葉に、私は頷いた。
「まあ、別の機会でいいか。お腹空いたから、家に着いたら料理お願いできる?」
私の問いに、メリダが頷いた。
「はい、そのためにいるようなものなので。さっそくメニューを考えます」
メリダがブツブツ呟きはじめ、私は笑みを浮かべた。
「そんな凝ったものじゃなくていいよ。時間も時間だし」
「そうですか。分かりました」
メリダが笑みを浮かべた。
私たちはゆっくり家にに向かい、懐かしいとすら海辺に向かう道を歩いた。
ミス・パンプキンが呼び寄せた、明らかにプロと分かる人たちもちらほらいたが、事情を知っているのでなんとも思わなかった。
程なく家に到着すると、私は門扉を開けて門柱に仕込んであるアラーム防犯システムを解除するためにカード状の解除キーを押し当てた。
すると、家を取り囲んでいた微かな白い光りが消え、家に入っても無用な警報は鳴らないようになった。
私たちは玄関扉に向かい鍵穴に鍵を差しこんで解錠し、扉を押して中に入った。
「あっ、お帰りなさい。特に問題はなかったです」
エミリアが笑みを浮かべて出迎えてくれ、すぐにアラームの結界を再起動した。
「ありがとう。さて、メリダの出番だね」
私は玄関扉を閉めて鍵をかけ、一息ついて空間ポケットに詰め込んだ書物などを取り出そうか悩んだが。そんな事をしたらリビングが埋まってしまうので、隣にある滅多に使わない広い納戸の扉を開けた。
生真面目にもこのなにもない部屋もエメリアが掃除してくれているようで、床に埃の一つもなかった。
「みんな、とりあえずここに手に入れた書物を置こう。多分、全部入るから」
仕分けは後にして、私たちは空間ポケットから迷宮から持ち帰った書物を、なるべく整理して床に積み上げていった。
そのうち、何冊かあった魔法書は、スコーンが研究のために手元に置きたいとの事だったので、それの管理を任せる事にして、私は一息吐いた。
「さて、あとははメリダの夕食を待とう。今回は迷宮もそこそこ敵が出たし、やり甲斐はあったね」
私は笑みを浮かべ、全員が笑ったのだった。
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