第48話 迷宮探索開始!!
メリダが作ってくれた夕食を済ませると、なんとなく暇な時間が訪れた。
今のうちにと、私は書き溜めた資料を基に、この階層のマッピングをはじめた。
「パステル。なにしてるの?」
ハウンドドッグが笑みを浮かべ、横に並んで座った。
「マップ作りだよ。これが、私の本職だからね。まあ、この階層はなにもなかったし、隠し部屋もなかったから、簡単だけどね」
私は小さく笑った。
マッパーとしては、もっと複雑な階層の方が面白いのだが、不慣れなミス・パンプキンとハウンドドッグもいるし、素直に進めるのはいいことだった。
「そうなんだ。でも、楽しい!!」
「ならよかった。でも、楽しいのはこれからかもね」
私は笑みを浮かべた。
「そっか、なら期待しておく。ここでも見張りするんだね!!」
ハウンドドッグが笑みを浮かべた。
「うん、じゃないとアリスとビスコッティが納得しないんだよ。いつでも油断するなって」
私は小さく笑った。
「それいい。私とミス・パンプキンもやる!!」
ハウンドドッグが離れていき、アリスやビスコッティも交えて打ち合わせをはじめた。「お前たちは寝ていろ。対魔物戦の経験はないだろ。頭が急所とは限らないんだぞ」
「はい、お二人には慣れないミッションです。私たちに任せて下さい。見張りといっても、ただ立っているだけですし、なにかあったらたたき起こしますので」
アリスとビスコッティが、俄然やる気のミス・パンプキンとハウンドドッグに苦笑混じりに断った。
「それでもやります。それこそ、なにかあったらたたき起こすので」
「いや、だからな……」
これはなかなか決着が付きそうになかったので、私は仲裁に入った。
「迷宮内の見張りは、アリスとビスコッティって決めているんだ。二人とも外で適当に睡眠を取りながら立っているだけだし、みんなには余力を残しておいてもらわないと」
「大丈夫です。睡眠が取れるなら、問題ありません。そういうミッションはこなしていますので。迷宮の空気を肌で感じたいのです」
ミス・パンプキンが笑みを浮かべた。
「大丈夫。ダメ?」
ハウンドドッグが小首を傾げた。
「ま、まあ、そういうならいいけど、時間の割り当てが小刻みになって疲れちゃうよ」
「それは大丈夫です。慣れていますので。お願いできませんか?」
「わ、分かった。あとは、アリスとビスコッティと相談して決めてね」
私は苦笑して、打ち合わせの場を離れた。
「やれやれ、大変だね」
私は苦笑した。
基本的に迷宮の時だけ身につける腕時計をみると、時間は夜半過ぎになっていた。
ようやくケリがついたようで、結局見張りはアリスとビスコッティでやる事になったらしく、ミス・パンプキンとハウンドドッグは眠りについていた。
「さて、私たちも寝よう」
私は自分の寝袋に潜り、スコーンが虹色ボールの照度を落とした。
「それじゃ、おやすみ!!」
スコーンが自分の寝袋に入って……おならをした。
「ぎゃあ!?」
慌てて飛び出したスコーンが、寝袋の中の空気を入れ換え、また寝袋に潜った。
「私は平気だけど……。ビスコッティの薬が効いているのかな」
とりあえず問題ないと判断して、私はゆっくり目を閉じた。
ちなみに、スコーンの寝袋の脇には、牽制用でたまに使うショートソードが置いてあり、なにがあっても平気なようにしている。
私は拳銃、シノは座ったままコクリコクリとしていて、手にはお馴染み対物ライフル。リナとララはいうまでもないだろう。
メリダも小型拳銃ことPPK-Sを枕元に置き、可能な限りの自衛手段を取っていた。
しばらく横になったままテントの天井を見ていた私だったが、なぜか睡魔が訪れなかった。
「……臭うな」
私は寝袋から出て、拳銃を手にした。
「気づきましたか」
「さすが!!」
さすが気が付いたようで、ミス・パンプキンとハウンドドッグも起きて、手に拳銃を持った。ビスコッティはいうに及ばず、アサルトライフルを持っていた。
「敵襲!!」
外にいたアリスが叫び、私たちは一気にテントの外に飛び出た。
すると、下層へ向かう階段からなにかがゴソゴソ、音を立てて接近してくるのが分かった。
「お前は下がってろ。アドバイスしてくれ」
アリスの笑みに頷き、私は少し下がった。
前にはアリスとビスコッティ、ミス・パンプキンとハウンドドッグがそれぞれ銃を持って構え、その時を待った。
「ミス・パンプキンとハウンドドッグ、武器をライフルに変えて。多分、拳銃じゃ倒せない」
音から判断して大型のなにかと判断した私は、即座に二人に声をかけた。
なにもいわず、ミス・パンプキンとハウンドドッグは武器をアサルトライフルに変え、いつの間にか私の隣にシノがきて、伏せ撃ちの体勢を取った。
「さて、なにがくるか……」
こういう場合、私は戦力外なので、明かりの魔法の呪文を唱えた。
「よし!!」
気配で階段を上りきったと分かった私は、光量を極限まで抑えた明かりの光球を放った。
これで、暗視装置を使っているみんなも、よりよく見えるだろう。
私は暗視機能付きの双眼鏡で、階段をみた。
「な、なんだ、あれ!?」
そこにいたのは二体のゴーレムだったが、どれも全身からチロチロと炎を漏らした、紛れもない石炭だった。
「うん、石炭だな。下手に撃つなよ。擦過熱で炎上しかねん」
アリスが銃を構えながら、緊張した声を上げた。
「パステル、どうしますか?」
ビスコッティが銃を構えながら問いかけてきた。
「うん、石炭なら銃器は使用禁止。二体ともビスコッティの氷の魔法で仕留めて」
「分かりました。その前に、テントの結界を強くしておきましょう」
ビスコッティが素早く呪文を唱え、テントと共に私たちにも防御膜を張った。
「では……」
ビスコッティが呪文を唱えると、二体の石炭ゴーレムが自分の体を構成している、火がついた石炭を投げて攻撃してきた。
「なるほど、そういう攻撃か……。自滅を待つのもいいけど、やっぱりビスコッティに頼もう。よろしく!!」
「はい、分かりました」
ビスコッティが呪文を唱え、お気に入りなのか針のように細い氷の矢を飛ばした。
それが一体に命中し粉々に打ち砕くと、もう一体に変化が現れた。
全身を赤く燃えたぎらせ、体当たりを試みてきた。
「おっと……」
私はRPG-7を取り出すと、肩に構えた。
「みんな、一斉射撃。こうなったら、爆発の心配は少ないから!!」
私の声と共に、シノが発砲して片足を吹き飛ばした。
私は対戦車弾頭を装備したRPG-7を発射し、爆発で石炭ゴーレムの一部を吹き飛ばした。
「ったく、変なゴーレム作って……」
私は毒づきながら、突っ込んできたゴーレムを避けた。
テントを守る結界に弾かれ……ゴーレムは私の方に吹っ飛ばされたきた。
「ぎゃあ!?」
私は逃げようとしたが、間に合うはずがなく、私の周りを取り巻く防御膜にへばりついた。
そこに、みんなの一斉射撃が襲い掛かり、私だけ……ちょっと悲しかった。
「おい、撃つな。パステルが死ぬ」
アリスの声が聞こえ、全員が射撃をやめたが、私の結界膜にしがみついたまま離れない石炭ゴーレムを見て、私は嫌な予感がした。
「みんな、離れて!!」
私の声でみんなが一斉に離れると、石炭ゴーレムは派手に自爆した。
「ゲホゲホ……。みんな無事?」
結界膜が解けてしまい余熱に炙られながら、私は歩きながらみんなに近寄った。
「はい、無事です。怪我は?」
ビスコッティが私の具合をみた。
「多分平気……髪の毛燃えてない?」
私は笑った。
「はい、熱でボサボサです。火傷もあちこちありますし、テントの中で様子をみましょう」
ビスコッティが笑みを浮かべた。
「まず最初に、深くお詫びします。死角でみえなかったとはいえ、パステルさんに向かって発砲してしまいました……」
ミス・パンプキンとハウンドドッグがションボリしてしまった。
「死角で誤射は、よくある事だから気にしないで。これが迷宮の戦闘だよ。一筋縄じゃいかないでしょ!!」
私は笑った。
ビスコッティが結界を解いてテントに入ると、全員起きて驚いた様子だった。
「なに、なにが出たの!?」
スコーンがショートソードを構えながら、声をひっくり返した。
「とりあえず、そのショートソードは置いて」
私が笑みを浮かべると、スコーンをはじめとしたみんなが武器を置いた。
「信じられないと思うけど、石炭でできたゴーレムが出たんだよ。スコーンがいたら、きっとスケッチしただろね」
私は笑った。
「そんなことより、髪の毛がボサボサだし火傷してるよ。ビスコッティ早く治して!!」
スコーンが声を上げ、ビスコッティが私の服を脱がした。
「ああ、これは酷いですね。深い火傷はないようですが、広範囲に転々と……。痛みではなくて痒みがあると思いますが、回復しましょう」
ビスコッティが回復魔法を使ってくれて、一瞬痒みが起きたかと思うと、すぐに元に戻った。
「ど、どうしてこんなになっちゃったの!?」
スコーンが目を丸くして声を上げた。
「自爆を食らったんだよ。ビスコッティの防御膜があったから、これで済んだけどなかったら死んでるよ」
私は苦笑した。
「そうなの、そうなの。なんで起こしてくれないの!?」
「スコーンは寝たばかりだったし、なにがきてるか分からなかったから。結果論だけど、もしスコーンが出てきたら、当然火炎系魔法を使うよね。いきなり撃っちゃったら、どうなったか分からないよ」
私は笑みを浮かべた。
「そ、そんな、いきなり撃ったりしないよ。変なの好きだから、スケッチはするけど!!」
スコーンが笑った。
そこにハウンドドッグがやってきて、私の手を握った。
「今回は凡ミス。でも、嫌いにならないで!!」
「ならないよ。安心して」
私は笑みを浮かべた。
「なに、どうしたの?」
スコーンが不思議そうに聞いていた。
「まあ、私の指示ミスでもあるんだけど、自爆した一体に一斉射撃をしてもらったんだよ。そうしたら、私にしがみついたって気が付かないで、全員私の方に向かって射撃しちゃってね。すぐにアリスが気が付いて止めてくれたんだけど、結局自爆を食らって、無傷じゃ済まなかった。まあ、狭い迷宮内ではよくあるでしょ?」
私が苦笑すると、スコーンが小さく息を吐いた。
「確かによくある話しだね。怒らないけど、気をつけてね。迷宮独自の危険があるから」
スコーンはハウンドドッグの肩を叩いた。
「そっか。ありがとう。次ぎはないようにする。ミス・パンプキンはもう平気だって顔をしてるけど、内心は自分に対する怒りで怖いから、寝ちゃった方がいい!!」
ハウンドドッグが笑った。
「それじゃ、寝ようか。服を着ないと……」
私は服を着て、寝袋に潜り込んだ。
しかし、石炭ゴーレム。誰が作ったんだろう。
もし術者が生きていたら、とんでもない変人に違いない。
私は苦笑した。
不思議なもので迷宮に入ると、自然と朝が早くなる。
前日遅かったのに、起きて腕時計をみると、時刻はまだ午前四時だった。
ちなみに、迷宮に入るときだけ腕時計をするのは、外の様子が分からないので、体のサイクルを守るためだった。
便利ではあるが普段付けないのは、腕時計は高級品なので、こんなの日常的に付けていたら狙われてしまうからだった。
「四時じゃ早すぎるな。もう一寝するか……」
まだ誰も起きていないので、私はもう一度寝ようと頑張った。
しかし、どういうわけか目が覚めてしまい、ちょうど見張りの交代で入ってきたビスコッティが、小さく笑みを浮かべた。
「そんなに心配しないでいいですよ。私より鼻が利くアリスが、問題ないといっていましたので」
「今のところ……でしょ。迷宮で鍛えた私の勘も捨てたもんじゃないよ。寝られないって事は、なにかあるかもね」
私は苦笑した。
「確かにパステルの勘は鋭いですが、それは私たちもです。石炭ゴーレムは意表を突かれましたが、そうそう現れるものではないでしょう」
「どうだかね。この迷宮を作った人の心づもりが分からなくて」
私は笑った。
「そういえば、先程なぜ攻撃しなかったのですか。全精霊を味方に付けている以上、なんでもできそうですが」
ビスコッティが小さく笑みを浮かべた。
「なに、ここにきて先生やるの。精霊を味方につけたって、呪文がなければ意味がないでしょ。私は回復魔法主体だから、あんなの相手に下手に撃てないの」
「はい、正解です。さて、私は休みます。あなたも、もう少し眠って下さいね」
ビスコッティが自分の寝袋に入った時、テントの外からアリスの声が聞こえた。
「敵襲!!」
「ほら、きた」
私は拳銃を片手に、テントの外に飛び出た。
遅れて飛び出したミス・パンプキンとハウンドドッグ、スコーンとビスコッティが陣形を固めた。
私とスコーンは後衛で、あとは全員前衛という感じで並び、ガサゴソと音がする階段を見つめた。
すると、歩く巨大植物……エビル・プラントの一種が現れた。
「……ハエトリグサタイプか。これは焼いても大丈夫だから、スコーンの出番だね」
「分かった!!」
スコーンが呪文を唱え、無数の火炎の矢が飛んだ。
エビル・プラントは動くのは遅く、スコーンの攻撃魔法は外す事なく命中した。
通常ならこれで燃え尽きて終わるはずだが、今度は陰に潜んでいた巨大なスズメバチが現れ、ビスコッティが瞬時に結界を張った。
その結界目がけて、スズメバチが針を飛ばし、全て弾かれた。
「危なかったです。あれはキラービーですね」
「だね、全く……」
キラービーとは、見た目通り巨大なスズメバチのような魔物で、獲物を見つけるとこうして毒針を飛ばしてくる。
しかし、これも火に弱いので、スコーンの出る幕だった。
「スコーン、もう一発!!」
「うん!!」
その時、スコーンがおならをした。
「そ、そっちじゃない!!」
「わ、分かってるよ。たまたまタイミングが重なっただけ!!」
スコーンが咳払いをして、呪文を唱えはじめた。
今度は握り拳大の火球がキラービーに命中し、爆発が起きた。
それでキラービーは粉々になり、しばらくそのまま警戒したが、敵の気配は感じ取れなかった。
「よし、終わったね。これで、やっと寝られるよ」
私は笑みを浮かべた。
「正直にいいましょう。こんな怖いミッションはないです。どう戦っていいのかも分からない……今後の糧にしましょう」
ミス・パンプキンが苦笑した。
「怖い。でも勉強」
ハウンドドッグが笑った。
「高いお金を払っても、魔法使いを雇うパーティが多いんだけど、これが理由だよ。あの石炭ゴーレムだって、下手すれば死者が出ていた。エビル・プラントなんて、魔法じゃなかったら、食われちゃうほど接近しなきゃならない。キラービーなんて魔法じゃなきゃ倒せない。これが、迷宮なんだよ」
私は笑みを浮かべた。
テントに入ると、みんな起きていて、状況を伺っていた。
「もう大丈夫。単に私たちの気配感じて、下から上がってきただけだと思う。メリダ、料理できる?」
「は、はい、大丈夫ですが、ちょっと怖いです」
「そのための見張りだよ。アリス、ここからはツーマンセルで」
私は笑った。
ツーマンセルとは、二人組で行動する事だ。
これで、メリダの防御力はかなり高くなっただろう。
「うん、分かった。ビスコッティ、いくぞ」
「はい、分かりました」
アリスとビスコッティが、先にテントを出て周囲の状況を確認し、アリスがテントの出入り口から外に出ていった。
「ところで、そのコンロは魔力式ですか?」
「はい、それしか売っていなかったもので。この野外用の大型コンロもそうです」
ビスコッティとメリダの話し声が聞こえてきた。
「では、周囲を結界で閉じます。万一、匂いを嗅ぎつけた魔物がくるとまずいので」
「は、はい、分かりました」
こんな調子で朝食の準備は進み、テント内に美味しそうな匂いが漂ってきた。
「これは期待できるね。楽しみ!!」
私は笑った。
朝食を済ませた私たちは、早々にテントを撤収して下の階層を目指す事にした。
昨日の石炭ゴーレムやエビル・プラントはそうそう出ないだろうという読みたったし、このままここにいてもはじまらないという思いもあった。
出発準備を整えた私たちは、例によって私が階段周りの罠チェックをはじめた。
まあ、巨大なエビル・プラントまで通ったので、罠などほとんど破壊されているだろうと思っていたが、案の定見つけた罠はことごとく作動済みだった。
「こういう時こそ、気合い入れないとね」
私は気持ちを切り替え、慎重に階段を下りていった。
「おい、パステルから少し離れろ。危ないぞ」
私からちょっと近い場所にいたハウンドドッグの手を引っ張って、アリスが笑みを浮かべた。
「なにやってるのか見たい。ダメ?」
「ダメだ。パステルは仕事の最中だ。邪魔されたら嫌だろ。しかも、地味だが命がけだ」
アリスが小さく笑った。
「邪魔ダメ。始末する。どこ?」
「お前だ、バカ者」
アリスが笑うと、ハウンドドッグはショックを受けたようで、ミス・パンプキンにへばりついた。
「私が邪魔。どういうこと?」
「そのままの通りです。全神経を集中させているのが分かります。私だったら、あなたを射殺しているかもれません」
ミス・パンプキンが笑った。
「……分かった。我慢する」
ハウンドドッグが黙ったところで、私は中断していた作業を再開した。
「おっと……。やっぱり、あったか。動作不良っぽいけど、ぶっ壊しておこう」
私は道具を取りだし、結界を張って上手く隠してある石の蓋を開けた。
「……やっぱり動作不良だ。ぶっ壊れてるけど、念を入れておくか」
私は錆びて動かなくなっていた歯車を破壊し、動作しないことを確認すると、額の汗を拭った。
こんな調子で階段を進み、生きているもの死んでいるもの、罠はかなり数が多くあったが、私たちは無事に二階層に進んだ。
「さてと……」
クリップボードを片手に、私は先頭を切って歩きはじめた。
少し進んだが、今のところこのフロアは罠らしい罠はなかった。
「ん……ちょっと待った」
私は足を止め、拳銃を抜いた。
後ろでも銃を抜く音が聞こえ、私は暗視機能付きの双眼鏡で先をみた。
すると、なにか大きな人型のものが、接近してくるのがみえた。
「敵襲!!」
私は叫び、少し後方に下がって監視を続けた。
魔法の明かりでみえる範囲までくると、それは石で作られた人形……ストーンゴーレムであることが分かった。
「ストーンゴーレム。物理攻撃で倒すしかないよ。魔法は効かないから!!」
私が声を上げると同時に、ストーンゴーレムは巨大な腕を振り下ろし、リナとララがそれを剣で受け流した。
その隙にアリスがストーンゴーレムの腕をとり、見事な投げでゴーレムをひっくり返した。
「……すげ。今さらだけど」
私は苦笑した。
起き上がれずジタバタしているストーンゴーレムを素手で殴っては徐々に壊し、リナとララが呆気にとられている間に、アリスは額にあった核を破壊して倒した。
「うん、デカいから逆に隙だらけだ。大したことはない」
アリスが頷いた。
「あ、アリス、怪我してない?」
リナが恐る恐る声をかけた。
「怪我はない。もちろん、殴っていた手もな。コツがあるんだ」
アリスは笑みを浮かべた。
「す、凄いものをみました。まさか、投げるとは……」
ララが剣を収めて苦笑した。
「さて、いこうか。パステル、なにボケッとしてる」
「あ、ああ、そうだね。いこう」
私は頭を振って、アリスが破壊したストーンゴーレムの脇を通り、元のペースで歩きはじめた。
通路を進むそのうちに、私は壁に違和感を覚えた。
「……よし、なにかある」
私は歩みを止め、壁の様子を確認した。
上手く隠されているが、私はほんのちょっとの隙間でも見逃さない。
隙間に薄いヘラのような道具を差しこみ、丹念に探って行くと一カ所だけ引っかかる場所があった。
「見つけた、ここが鍵だ」
私は近くの壁を探り、石の文様に溶け込ました小さな鍵穴を見つけた。
ここで、簡単に開けてしまうようでは、マッパー失格である。
伸るか反るかの賭けではない。今までのマッピング資料を基にして、あとは直感でこのまま通り過ぎるかどうか考えた。
「……開けるべきだね。例え魔物でも、なにか得るものがある可能性がある」
私はハンドシグナルで『下がっていて』と合図を送った。
すると、すかさずビスコッティが私に防御膜を張ってくれた。
「さて……」
私は鍵穴に道具を差しこみ、カチャカチャと解錠を試みた。
しばらく掛かったが、カチッと音がしてスライド式の扉が開いた。
中にはドラゴンがいて、こちらをチラッとみたが、やる気なさそうにそのまま横になってしまった。
「あ、あれ?」
私は拍子抜けして、みんなに警告を忘れた。
「うん、どうした?」
不思議に思ったアリスが、私に近寄ってきて笑った。
「なんだあのドラゴン。やる気ないぞ」
ドラゴンと聞いてみんな一斉に布陣したが、あまりにもやる気がなさ過ぎて拍子抜け棟感じだった。
「みんな、警戒して。こういう時が、一番危ないから!!」
私の一声でみんなの気が引き締まったようで、ビスコッティが結界魔法で私たちを覆った。
「なんだ、やる気か。悪ぃな、そういうの飽きちまった。まあ、なんか食わせろ。何千年だか何百年もここにいたから、さすがに腹減っちまってな。少しでいい」
ドラゴンが共通語で語ってきた。
「……飽きちゃったみたいだね。ビスコッティ、結界解除して」
「は、はい、なんだか、こちらまで怠くなりますね」
ビスコッティが結界を解除した。
「メリダ、食材大丈夫?」
「えっと、かなり買い込んでありますが、ドラゴン一体分となると……」
メリダが慌てて空間ポケットを覗き込んだ。
「だから、ちっとでいいんだ。スープ一杯でいい」
「そ、それでしたら……」
メリダが困ったように呟き、それでも小型携帯コンロで調理をはじめた。
「な、なにがあったの?」
私はドラゴンに聞いた。
「別になにもねぇが、盗掘に入ってくる輩を退治しろっていわれて、配置された場所がこの隠し部屋だ。誰もこねぇよ、こんな場所。どっかいくにしても、呪術でここに縛り付けられてるからできねぇし、やる気なんかすぐに失せたぜ」
ドラゴンが小さく息を吐いた。
「ドラゴン可哀想。なんとかして!!」
ハウンドドッグが私にしがみついた。
「うーん、私にいわれてもな……。あっ、そうだ!!」
私はドラゴンに近寄り、鱗に手を触れた。
『はい、分かりましたよ。舌を噛まないで下さい』
光の精霊の声が聞こえ、私の口から発音限界の言葉が囁かれた。
瞬間、ドラゴンの体が光り、バキンと音が聞こえた。
「おっ、体が軽くなったな。鎖を解いてくれたか。これは、礼を述べなきゃな」
ドラゴンは笑った。
「……パステル」
声をかけられそちらをみると、呪術にも詳しいビスコッティが、指を咥えてしょんぼりしていた。
「こ、これドーピングだから!!」
「……ズルい」
ビスコッティが私の胸ぐらをつかんで宙づりにして、グーで顔面にパンチを入れてきた。「な、なんですか。ムカつきます。ドーピングでも!!」
ビスコッティの立ち直りは、実は結構早い。
「し、知らないよ!!」
そんなビスコッティの背後に、笑みを浮かべたミス・パンプキンが立った。
「ぎゃあ!?」
「今、なにをしましたか。ハウンドドッグ、同じ事をしてあげなさい」
「うん!!」
やたら嬉しそうなハウンドドッグが、ビスコッティを吊り上げて、思い切り顔面にパンチをめり込ませた。
「ほぐっ……」
短く声を上げて、ビスコッティは気絶してしまった。
「あっ、強すぎた!!」
「そのくらいで、ちょうどいいでしょう。さて、うるさいのを始末したところで、パステルさん、今はなにを?」
ミス・パンプキンが興味深そうに聞いてきた。
「このドラゴンは呪術……まあ、魔法とは違うけど、そういう感じのもので、ここにいるように強制されていたんです。本当はビスコッティが活躍する場面だったのですが、呪術の解呪はまず成功しません。それで、私が光の精霊の力を借りて解いたんです」
私は笑みを浮かべた。
「そうですか、それはいいことです。でも、どうやってここから……」
ミス・パンプキンが不思議そうに呟いた。
「ああ、任せろ。呪縛さえ解ければ俺はここでいい。動く度にチクチク痛くて、なにかと鬱陶しくてな。気が向いたら、こんな迷宮なんざ破壊してどっかにいくさ。まあ、雨風しのげるここは、これで居心地は悪くねぇよ。さて、スープはできたか?」
よっこらしょと、ドラゴンが身を上げた。
「はい、できました。お口に合うか分かりませんが……」
メリダが恐る恐る紙皿を差し出すと、ドラゴンは器用にかぎ爪に乗せてそっとそれを受け取り、皿ごと一気に飲み込んだ。
「美味いな。これで元気が出たぜ。ここには、他になにもねぇ。中から扉を閉められるようになっているから、気が済んだらみんな出てくれ。閉じ込めるわけにはいかねぇからな」
ドラゴンが笑みを浮かべた。
「分かった。それじゃ、昼寝の邪魔をしたら悪いから、みんな行くよ」
気絶したままのビスコッティを背負い私は笑った。
「じゃあな、気をつけろよ」
私たちが全員出ると扉がスルスルと閉まり、先程まであった鍵穴も消えてなくなった。「これは、一応マッピングデータに書き込んでおくか」
私は笑みを浮かべ、クリップボードの紙にサッとメモを取った。
「それじゃ、みんな行くよ。適当なところでテントを張ろう」
腕時計をみると、すでに夕方の時間になっていた。
つまり、私たちは昼食を抜いてしまったわけだ。
これが迷宮では怖い。下手をすれば何日も起きてしまい、いざという時ヘロヘロだったりする。
これが、私がわざわざ腕時計を持ち込む理由だった。
「ここも直線的なフロアだね。よし、さっきいった袋小路なら目立たないね。戻ってそこにテントを張ろう」
私はビスコッティを背負ったまま、ついさっき行き止まりを確認した袋小路に戻った。 そこでビスコッティを床に寝かせ、みんなでテントを張った。
「さて、そろそろ起きてもらわないと困るな」
私は苦笑して、気絶したままのビスコッティに回復魔法を使った。
すると、顔面をさすりながら、ビスコッティが目を覚ました。
「イテテ……酷い目にあった。あれ、もうテントの時間ですか?」
ビスコッティが不思議そうに聞いてきた。
「すでに夕方だよ。ほら、結界張って!!」
「はい、イテテ……」
まだ痛そうなビスコッティは、それでもちゃんと結界を張り、テントを保護した。
「ここは魔物がいるフロアだよ。分かってると思うけど……」
「もちろん、外からでは私たちの気配を感じないでしょう。そういえば、あまりにも交代が頻繁で落ち着かないので、今回からツーマンセルでやる事になっています。その方がいいでしょう」
ビスコッティが笑みを浮かべた。
「そうだね。さて、夕食が楽しみだな。今日、昼食抜いちゃってるよ」
私は笑ったのだった。
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