第46話 大雨の一日

 そうと思えば逆にになる。

 大雨にならなければいいな思ったが、翌朝は見事に大雨だった。

 タープの脇に垂らした、目隠しを兼ねたビニールシートの中に置いた野外コンロで、メリダが鼻歌交じりに調理をしていると、迷宮の方角で爆音が轟いた。

「バカが暴走したらしい。テントをいくつも巻き込んで、爆発が起きた」

 外で防水ポンチョを着込んだアリスが、ひょいと顔をみせ、双眼鏡を手にした。

「それは酷いね。そんなのばっかりなのかな……」

「いや、さすがにそれはないだろ。あれ、C-4を十個近く使っていたな。そんな爆撃野郎マクガイバはごく少数だろうな」

 アリスが笑みを浮かべた。

「ついでだ、ビスコッティ。交代だ」

「はい、分かりました」

 同じように防水ポンチョを身につけたビスコッティが出ていき、アリスがテント内に入ろうとしたのを、スコーンが止めた。

「待って。えっと……あった!!」

 スコーンがアリスに虹色ボールを手渡すと、濡れた衣服や体が乾いた。

「おっ、これはいいな」

 アリスが笑みを浮かべた。

「もう一個思い出したけど、軽く結界を張って濡れなうようにするボールもあったって思いだした。ビスコッティに渡してくる」

 スコーンが外に出ていった。

『えっ、そんな便利なものがあったのですか。あっ、これお薬です。パステルにも渡して下さい。名前を間違えないで下さいね』

 テントの外から声が聞こえ、大雨で濡れたスコーンが戻ってきた。

 虹色ボールで自分自身を乾かし、スコーンはテントに入ると、虹色ボールの照度を上げた。

「えっと、こっちがパステルだ!!」

 スコーンは私に薬瓶を渡し、自分の分を一気に飲み干した。

「さてと、この微妙な苦さが癖になってきた」

 私は笑い、薬瓶の中身を一気に飲み干した。

 スコーンは再び虹色ボールの照度を少し下げ、落ちついた空間にした。

「……冒険の鉄則。悪天候の時は動くな」

 私は自分自身に言い聞かせ、小さく笑みを浮かべた。

「今日はどうなさるのですか?」

 ミス・パンプキンが笑みを浮かべた。

「この大雨が止むまで待機だよ。悪天候で無理して、消えていった冒険者は多いから」

 私は笑みを浮かべた。

「分かりました。それにしても、このテントは凄いですね。防刃加工はもちろん、拳銃弾程度なら弾き飛ばす防弾性能があると見ました。どうですか?」

 ミス・パンプキンが笑った。

「まあ、特注だったんだよ。最低でも四つは作らないと採算が取れないっていわれてね。高かったけど、最低限の防御はしておくべきでしょ」

 私は笑った。

「確かに。これなら、ちょっとした要塞ですね。安心です」

 ミス・パンプキンとハウンドドッグが笑った。

「うん、腹減った……」

 アリスが呟いた時、メリダが朝食を持って入ってきた。

「朝から重いかもしれませんが、カレーピラフにしました」

 メリダは器用に腕にまで乗せた紙皿を乗せた紙皿を配り、笑みを浮かべた。

「なるほど、紙皿なんですね」

 ミス・パンプキンが笑みを浮かべた。

「はい、水は貴重なので燃やして処理できる紙皿なんです。味も素っ気もないですけどね」

 私は笑った。

「いえ、この方が合理的でしょう。ところで、お隣のテントですがあちこち破けていますし、なにかあったのは確実です。ビスコッティとアリスも警戒しましたよね?」

「うん、無論だ。強盗の仕業か内輪揉めか……。まあ、中はロクなことになっていないだろうな」

 アリスが頷いた。

「では、私とハウンドドッグで見にいってきます。こんな時のための私たちですから。ハウンドドッグ、いきますよ」

「うん、分かった!!」

 二人で拳銃を抜き、ミス・パンプキンとハウンドドッグはテントから出ていった。

「これも、冒険なんだけどね。見たくはないな」

 私は本音を呟き、小さく笑みを浮かべた。

 隣のテントまでは約一メートルちょっと。

 昨日は夜だったので気が付かなかったが、いかな私とてこんな場所にテントを張りたくはなかった。

 しばらくすると、ずぶぬれのミス・パンプキンとハウンドドッグが帰ってきた。

「あっ、濡れない虹色ボール忘れちゃった。乾燥虹色ボールで……」

 スコーンが二人にボールを渡し、さっそく乾燥がはじまった。

「結論をいうと、中には争ったあとはありませんでした。恐らく、何らかの理由で帰れなくなったのでしょう」

 ミス・パンプキンが笑みを浮かべた。

「あっ、なるほど……」

 つまり、迷宮に入る方法を考えているうちに、出発したまま全滅してしまったということだ。

「縁起が悪いし不気味だから、テントの場所を移動したいんだけど……この雨じゃねぇ」

 私は苦笑した。

「みなさんの力でやればあっという間です。スコーンさんの濡れない虹色ボールを使えば、きっと快適に作業出来るはずです」

 ミス・パンプキンが笑みを浮かべた。

「それより簡単な方法があるよ。向こうのテントを燃やしちゃえばいい待ってて!!」

 スコーンが笑みを浮かべ、呪文を唱えた。

 前方に突きだした右手人差し指から、細い針のような火炎の矢が飛び出し、こちらのテントを傷つけることなく、隣のテントで火の手が上がったのが分かった。

「ビスコッティと共同開発したんだよ。暗殺に使える攻撃魔法。これはお手本で、ビスコッティは氷の魔法で同じ事が出来るはずだよ!!」

 スコーンが笑った。

「今のは素晴らしいです。ビスコッティが使えるなら、さっそく聞いてみましょう。射程距離は?」

 ミス・パンプキンとハウンドドッグが興味深げにスコーンに問いかけた。

「うーん、コンディションで変わっちゃうんだけど、千メートル先の的を射貫いた事もあるよ。ビスコッティはもっと研究して、まともな攻撃魔法にしているだろうけど」

 スコーンが笑った。

「これは、拷問してでも聞き出す必要がありますね。情報、ありがとうございます」

 ミス・パンプキンがスコーンに、一万クローネ札を三枚に握らせた。

「お金なんていいのに……」

 スコーンが苦笑した。

「いえ、これは私の気持ちです。あとは、ビスコッティを締め上げるだけです」

 ミス・パンプキンが笑った。

「さて、邪魔なものは始末しましたね。今日はどうするのですか?」

 ミス・パンプキンが笑みを浮かべた。

「まずは、この大雨が止むまで待つよ。荒天に無理に出発する事はないから。みんな、適当に過ごしていて」

 私は笑みを浮かべた。


 昼を過ぎても大雨が弱まる気配はなく、外気温はかなり低くなっていた。

「こりゃ、今日はここで足止めだね」

 私は苦笑した。

「そうですね。これはダメです」

 アリスと交代したビスコッティが、編み物をしながら笑った。

「そうですか。これも冒険ですか」

 ミス・パンプキンが笑みを浮かべた。

「そう、待つのも冒険だよ!!」

 私は笑った。

 たまに迷宮の方角から爆音が聞こえるが、爆薬か攻撃魔法か……いずれにしても、ここは迷宮から少し離れた場所なので、あまり関係はなかった。

「昼食です。待機日なので、少し奮発しました」

 外のコンロで調理していたメリダが、紙皿にステーキを乗せてテント内に入ってきた。「ありがとう。これしか楽しみがないもんね」

 私は笑った。

「はい、今のうちに体力を回復しておきましょう。では、みなさん。いただきます」

 メリダの料理はいつも美味しい。

 長い迷宮になると、この美味しい料理がありがたい。

 やはり、いつでも食べ物は重要だった。

「肉!!」

 いきなりハウンドドッグが声を上げ、ミス・パンプキンのゲンコツが落ちた。

「いえ、仕事中の私たちは滅多に食べないですし、肉などまずあり得ません。嬉しかったのでしょう。ところで、私たちも見張りチームに加えて頂けませんか?」

 ミス・パンプキンとハウンドドッグが頷いた。

「それもそうだね。申し分なく腕がありそうだし、二人でやった方がいいかもね」

 私は笑み浮かべた。

「いえ、一人ずつです。このテントの周囲程度であれば、それで事足りるでしょう。警備チームの休憩時間が増えますし、いいと思います。料金はご飯で」

 ミス・パンプキンが笑った。

「分かった。ねぇ、ビスコッティ。次の交代は?」

「二時間後です。いったんアリスを下げて、細かく打ち合わせしましょう」

 ビスコッティは編み物をやめ、無線でアリスを呼び出した。

『うん、そういう事なら助かる。今戻るぞ』

 無線機から声が聞こえ、すぐにアリスが戻ってきた。

 スコーンがテントを改良して、出入り口立つと自動で乾燥の虹色ボールが作動するようになったので、アリスがびしょ濡れでテントに入る事はなかった。

「では、打ち合わせをしましょう。最初に……」

 テントの片隅で、ミス・パンプキンたちが打ち合わせをはじめ、すぐに結論がでた。

 一人六時間で二十四時間監視すると決まり、これまでの続きでアリスが外に出ていった。

 このシフトは、次から適用らしい。

 一人十二時間に比べたら、その疲労度は段違いだろう。

「これで、私はハウンドドッグも役に立てますね。タダ飯は性に合わないのです」

 ミス・パンプキンが笑った。

「パステル。頑張る!!」

 ハウンドドッグが笑った。

「うん、ゴメンね」

「謝る事ない。これが仕事!!」

 ハウンドドッグが笑った。

「次は私の番です。少し休みますね」

 ミス・パンプキンは床に敷きっぱなしの寝袋の上に横になり、軽く寝息を立てはじめた。

「ん……。強盗の気配がする。三人か四人」

 隣のテントを燃やして目立ったか、私でも分かるほどの殺気立った連中が、どこかに潜んでいる事を察知した。

「三下だよ。心配しないで」

 ハウンドドッグが一応拳銃を抜き、テントの出入り口に立った。

 そのうち発砲音が聞こえ、敵弾がテントに命中して弾かれたようで、大きく揺れた。

『すまん、一人隠れていた。クリアだ』

 胸ポケットの無線機から、アリスの声が聞こえた。

「なるほど、テントの防弾性能はバッチリですね。あとは、アリスにお説教するだけです」

 ミス・パンプキンが笑った。

「き、厳しい……」

 私は苦笑した。

「当然です。敵の武器が拳銃だからよかったものの、より大口径の銃だったらどうしますか。小言の一言も言いたくなります」

 ミス・パンプキンが笑った。

「そ、そう……。アリスも災難だね」

 私は苦笑した。


 アリスと入れ替えで、ミス・パンプキンが警備のために外に出ていくと、メリダが豚汁を配りはじめた。

「ミス・パンプキンさんの分はあとで配ります。だいぶ気温が下がってきたので、体を温めて下さい」

 メリダが笑みを浮かべた。

「確かに冷えてきたね。スコーン、温度上げられる?」

「うん、大丈夫だよ。えっと……」

 スコーンが呪文を唱えると、テント内が暖かくなった。

「まさか、雪なんて降らないよね。そこまでは寒くないと思うけど」

 私は苦笑した。

「うん、それはないと思うよ。まだ、外気温が十度近くあるから」

 テント装着してある温度計をみて、スコーンが笑みを浮かべた。

 ちなみに、テント内の温度は二十五度。外の警備に当たっているミス・パンプキンには、申し訳なかった。

「あっ、そうだ!!」

 スコーンがなにか思いついたようで、テントから出ていった。

 しばらくすると戻ってきて、満面の笑みを浮かべた。

「テント周りに光らないようにした黒いボールを撒いてきた。雨は防げないけど、気温はテント内と同じくらいになったかな。少しは楽でしょ」

「それはいい事を考えたね。そうだ、ビスコッティ。テントを結界で覆ったら。警備の必要はないと思うけど……」

 私の提案に、ビスコッティはクスリと笑った。

「それは素人考えです。もし、結界の周りを囲まれたらどうしますか。危なくなるなる前に排除する。それが基本です。さて、できましたよ」

 ずっと編み物をしていたビスコッティが、私にマフラーを手渡してくれた。

「あ、ありがとう……」

 思いもよらなかったプレゼントに、私は頭を掻いた。

「これから寒い時期ですからね。みんなには内緒ですよ」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「わ、分かった。ありがとう」

 私は笑みを浮かべ、そのマフラーを試着してみた。

「ちょうどいい長さですね。幼なじみなので、大体の長さが分かるのです。胸以外は成長しましたね」

 私は反射的にビスコッティにパンチを放ったが、あっさり避けられた。

「胸以外ってなによ。いいの、冒険の邪魔になるから!!」

 私は怒鳴った。

 その時、見知らぬおじさんがテントの出入り口から顔を出し、ハウンドドッグが素早く拳銃を抜いた。

「これは失礼。ついさっき到着したばかりのアンドリューという者だ。挨拶にきただけだ。怪しい者ではない」

 アンドリューさんは小さく笑みを浮かべた。

「これはご丁寧に。私はこのパーティのリーダをやっているパステルです。一緒に頑張りましょう」

 私は笑みを浮かべた。

「では、失礼しよう。また、なにかあったらな」

 アンドリューさんは笑みを残し、テントの出入り口から引っ込んだ。

「……怪しいな。女の子しかいないから、狙われたかも」

 通常、よほどの事がなければ、テントの中まで見ようとしない。

 ミス・パンプキンとハウンドドッグは、その事を知らなかったとしても無理はないが、冒険者として考えると、非常識な行動だった。

 一応、ミス・パンプキンに言っておこうと、テントの出入り口から外のスノコの上に立つと、ミス・パンプキンが笑みを浮かべてやってきた。

「怪しいですよね。分かっています。あえて、泳がせておいたのですが、そっと仕掛けておいた盗聴器では、襲うテントの算段をしていますよ。このテントが第一候補のようです」

 ミス・パンプキンが笑った。

「やっぱりね。たまにいるんだ、こういうヤツ」

 私は苦笑した。

 タープの外に顔を出してみると、見慣れない幌馬車が一台駐まっていて、テントを張る気配もなかった。

 まあ、それ自体はこの雨なので分かるが、冒険者の経験が警戒を告げていた。

「ミス・パンプキン、一人で大丈夫。もう夕方だけど……」

「はい、十人はいないようです。それでしたら、一人で始末できます。万一の場合は、ハウンドドッグを呼びますので……」

 ミス・パンプキンが笑った。

 今のうちにやらないのは、もしかしたらハズレだった場合を考えたからである。

 そこはいわなくてもミス・パンプキンも分かっているようで、あえて手を出していなかったようだ。

「あれ、悪い人。おまけに臭い。何日も風呂に入ってない」

 私の脇からひょこっと顔を出したハウンドドッグが、本物の犬ならうなり声でも上げそうな視線で、幌馬車を睨んだ。

「これは確定です。ハウンドドッグの勘が外れた事は、今までに一度もありません。馬車を吹き飛ばす事は簡単ですが、中の様子を調べた方がいいですね。敵の数も分かりますし」

 ミス・パンプキンの声に頷き、私は探査系オーブを取りだした。

「えっと、いきなり詳細探査でいいね」

 オーブに手を当てると、虚空に小さなウィンドウが開き、幌馬車の様子が表示された。

「人は十人だね。でもおかしい。鉄格子みたいなのがあって、中に三人いる。人身売買だね。こりゃ、悪質だ」

 どおりで大型の馬車だとは思っていたが、強盗よりタチが悪いのがきてしまった。

「そうですか。仕掛けるのは襲ってきてからだと思っていましたが、これは早い方がいいですね。なにか、目立ない方法が……」

 ミス・パンプキンが小さく呟いた時、話しを聞いていた様子のビスコッティが、笑み浮かべながらスノコの上にやってきた。

「師匠がやると燃えてしまうので、私がやります。パステル、馬車の中をよりズームアップしてください」

 私は頷き、詳細探査魔法のギリギリまでズームアップした。

「分かりました。研究の結果、目標を氷結させて粉々にする事が出来るようになりました。では、いきます」

 ビスコッティが呪文を唱え、微かな魔力光と共にこの天候と夕方の光りでは、なにが飛んだか分からないが、荷馬車の幌が微かに揺れ、悲鳴も聞こえず事が済んだようだった。

「新技、アイス・ニードルです。師匠は嫌がったのですが、裏仕事で使える魔法をリクエストしたら、特別に助力してくれました」

 ビスコッティが笑った。

「これは仕事に使えます。素晴らしい」

 ミス・パンプキンとハウンドドッグが目を輝かせた。

「ビスコッティ。それどうやるの?」

「あなたは最低魔力を満たしてないので、魔法そのものが使えません」

 ハウンドドッグにビスコッティは笑みを浮かべた。

「全く、とんだ隠し技を持ったものですね。私も魔法が使えたら、真っ先に教わったでしょう」

 ミス・パンプキンが笑った。

「私は嫌だったんだよ。でも、ビスコッティが今日のおなら薬と引き換えとかいうから、仕方なくやったんだよ。ズルいよ。あんまりだよ。弱みを握っているからって」

 スコーンが苦笑した。

「そんな事いってません!!」

 ビスコッティがスコーンをビシバシした。

「近い事いったじゃん。もっとおならが出なくなる薬ができそうなんです。その前に、教えて下さいって。結局、その薬は失敗したけどね」

 スコーンが笑った。

「燃やすのも有効ですよ。いいですね、私たちは銃しかないので、どうしてもバレてしまうのです」

 ミス・パンプキンが笑みを浮かべた。

「魔法も同じだよ。これ、意外と魔力を使うから、魔法使い相手にするとすぐにバレちゃう。無敵じゃないんだよ」

 スコーンが笑みを浮かべた。

「さて、そろそろ救助活動をしよう。リナとララ出番だよ。もしまだ敵がいたら、ズバッと斬っちゃって!!」

 私は返事も聞かず、テントから飛び出た。

 リナとララを引き連れた私は、大型馬車に飛び乗って粉々になった輩の姿を確認し、奥の方にあった鉄格子に向かった。

「救助にきました。落ち着いて下さい」

 ざわついている三人の女性が落ち着くのを待って、私は魔法の明かりを点した。

「ここから出しますね。リナ、ララ、鉄格子を叩き斬れる?」

 私は二人に聞いた。

「私の剣じゃ難しいかな。普通のミスリルソードだし」

 リナが苦笑した。

「では、私の剣で……」

 気合いの声もなく、ララがサッと剣を振ると、鉄格子はあっさり切り裂かれてバラバラになった。

「あ、ありがとうございます。あの、本当に救援に?」

 よほどの目に遭ったか、一人の長身の女性が恐る恐る声をかけてきた。

 私は笑みを浮かべ、冒険者ライセンスを提示した。

「こういうのが嫌いな冒険者です。大丈夫ですよ」

 これで少し信用してくれたようで、女性は笑みを浮かべてみんなを連れて出てきた。

 よくみると、全員白衣姿で、どこかの研究員という感じだった。

「私ピオーネ。カラカル魔法研究所分室の主任です。他は私の部下たちで……。荷馬車など今時珍しいので、全員でスケッチしていたら捕まってしまったのです」

 ピオーネさんは笑った。

「……スコーンもよくやるけど、魔法使いってスケッチ好きなのかな。まあ、いいや」

 私は笑みを浮かべた。

「ところで、ここはどこですか?」

 どことなく面影がビスコッティに似ているピオーネさんが、小さく笑みを浮かべた。

「ここはコルシカだよ。カラカルまでなら、列車で二時間かな。そんなに遠くはないよ」

 私は笑みを浮かべた。

「そんなに近かったのですね。今なら帰れます。駅まで案内をお願いできますか?」

 ピオーネさんは笑みを浮かべた。

「うん、構わないよ。リナとララ、護衛よろしく。私も行くから」

 こうして、私は先頭に立って歩きはじめた。


 テント村から駅まではそれほどの距離はない。

 程なく駅に到着し、カラカルまでの切符を買って三人に渡すと、私たちは挨拶もそこそこに、再びテントに戻った。

 出入り口の乾燥機能でサッパリし、また編み物をしていたビスコッティが、不意にこちらをみた。

「どうでした?」

「うん、魔法研究所カラカル分室のピオーネさんだって。荷馬車が珍しくてスケッチしてたら、捕まったっていってたけど……」

「えっ、ピオーネって!?」

 ビスコッティが目を丸くした。

「えっ、なんかあったの?」

「なんかあったというか、回復魔法の権威ですよ。お話ししたかったです」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「そっか……あれ、スコーン。泣きそうだけどどうしたの?」

 スコーンの目には涙が浮かび、今にも零れ落ちそうだった。

「スケッチするの……私だけ。私だけだからね……」

 スコーンが私にへばりつき、エグエグと泣き始めた。

「はいはい、全員やるのかと思ったけど、デジカメの方が早いか」

 私は笑った。

 まあ、こうして大雨の一日は暮れていったのだった。

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