第43話 パンプキン
翌朝、なんとなく眠い中、部屋を出て階下に下りると、門の向こうに赤い旗を立てたトラックが駐まっていた。
赤い旗は危険物輸送中を示すもので、基本的に武器屋を示すものだった。
「ん、なんだろ?」
門柱に隠れてよく見えなかったが、ミス・パンプキンとハウンドドッグがなにやら武器を購入しているようだった。
「いってみよう」
ちょっとした好奇心で、私は玄関の扉を開けて外にでた。
門扉までくると、やはりミス・パンプキンとハウンドドッグが買い物をしていて、手榴弾やら六連装グレネードという、凶悪なダネルMGLなどをポンポン買っていた。
「あっ、おはようございます」
「パステル、おはよう!!」
ミス・パンプキンとハウンドドッグが、にこやかに挨拶してきた。
「おはよう、なに戦争にでも行くの?」
私は苦笑した。
「いえ、逃げてきた時に拳銃くらいしか持ち出せなかったので、装備を整えているのです」
ミス・パンプキンとハウンドドッグが笑った。
「凄まじく重武装だね。そのうち、警備団に怒られるよ」
私は笑った。
「警備団の団長さんに許可はもらっています。あえて、私たちの素性を伝えた上で。それはそうと、この町に立派な射撃場があると聞きました。案内して頂けますか?」
ミス・パンプキンとハウンドドッグが頷いた。
「うん、あるよ。いつも使ってるけど、立派かどうかは分からないよ」
私は笑った。
「そうですか。では、拝見しましょうか」
ミス・パンプキンが笑みを浮かべた時、背後に気配が現れビスコッティの声が聞こえた。
「これが、パステルのスコアです。悲惨ですよ」
ビスコッティが、この前の絶不調スコアをミス・パンプキンに手渡した。
「あれ、これでは逆に始末されてしまいますよ。いけませんね」
ミス・パンプキンとハウンドドッグが笑った。
「ああ、これしばらく練習をサボった直後で……」
「そうですか。それにしても、控えめにいって酷いです。練習しましょう」
ミス・パンプキンが笑みを浮かべた。
「ビスコッティ、変なのみせないでよ!!」
「いいじゃないですか。二人とも銃のプロフェッショナルですよ。私のビシバシで済んでよかったですね」
ビスコッティが笑った。
「……ひでぇ」
私は苦笑した。
ついでだからと、私も手榴弾とC-4を買い込んで無料で配っている様子のカゴに入れて背後をむくと、アリスがズンと立っていた。
「うん、C-4まで買い込んでなにするつもりだ?」
「な、なにもしないよ!!」
アリスは頷き私のカゴからC-4だけ取って空間ポケットに放り込み、一緒になって買い物をはじめた。
「こ、こら、返せ!!」
私はアリスの体を揺さぶったが、全然相手にしてもらえなかった……。
「あっ、魔法書!!」
結局、この騒ぎでみんな起きてしまったようで、トラックに駆け寄ってきたスコーンが一冊の本を見て叫んだ。
「買うの?」
「買う!!」
スコーンが決して安価とはいえない魔法書を買い、さっそく開いて読み始めた。
とまあ、それぞれが実益を兼ねた買い物を楽しみ、私はちょっと冒険して対物ライフルの代表格バレットを買い、銃弾も買った。
「おいおい、そんなものどうするんだ。お前じゃ当たらないぞ」
さっそく、アリスのツッコミが入った。
「やってみないと分からないじゃん」
私は笑った。
「みなさん大きな銃がお好みですね。町ではなくフィールドで戦うせいでしょうか。確かに、対物ライフルの有効射程が必要な事もあるでしょう。分かりました、私が責任をもってしごきましょう。ビスコッティやアリスより、厳しい教育になるかもしれませんよ。腕一本で済みますかね。折れるの」
ミス・パンプキンが笑った。
「……返品しようかな」
私の背筋に冷たい汗が流れた。
「冗談ではないかもな。ミス・パンプキンの教えは厳しいぞ。だから、同業者でも教えて欲しいという者が多いぞ」
アリスが笑った。
「はい、実は私とアリスも教わった仲間同士なんですよ。丁寧で厳しいので、このアリスが泣いたほどです」
ビスコッティが笑みを浮かべると、アリスがビスコッティの頭にゲンコツを落とした。
「……うん、ごめんなさいは?」
「……ごめんなさい」
ビスコッティが頬を膨らませ、アリスが笑った。
「まあ、若い頃はハードだったかもしれませんが、今や三十代です。少しは丸くなったと思いますよ」
ミス・パンプキンが笑った。
「私もパステルに教える!!」
ハウンドドッグが笑顔を浮かべた。
「あなたは、まだ教えられるレベルではありません。一緒に勉強しましょう」
ミス・パンプキンが穏やかな笑みを浮かべた。
「うん、分かった!!」
ハウンドドッグが笑った。
「ところで、対物ライフルなど撃てる場所があるのですか。三千メートルくらいないと危険ですよ」
「射撃場にあるよ。二千五百メートルまで撃てて、あとは土塁に弾丸がめり込むようになっている」
私は笑った。
「それは豪華な射撃場ですね。ぜひ、案内をお願いしますね」
「分かってる。ちなみに、地下は模擬夜戦ができるよ」
私は笑みを浮かべた。
「それは凄いです。かなり利用料が高そうですね」
「それが無料なんだよ。元々自警団の訓練用に作られたものだけど、今は一般にも無料開放してるんだって」
私は笑った。
「そうですか。あとで自警団に寄付しておきましょう。無料というのは落ち着かないので」
ミス・パンプキンが苦笑した。
「そっか、きっと喜ぶよ。最近は少し財政難みたいだから」
私は笑みを浮かべた。
武器屋のトラックが去り、入れ替わるようにメリダがすっ飛んできて、朝食の準備を開始した。
「今日はご飯です」
メリダは笑みを浮かべ、炊飯器に大量の米を入れて炊飯をはじめた。
「今日はご飯、味噌汁、アジの開き、ほうれん草のゴマ和え、ひじきの煮物、香の物です。タマゴもありますので、卵かけご飯もできますよ」
メリダは嬉しそうに笑った。
「これは豪華ですね。楽しみにしておきましょう」
ミス・パンプキンとハウンドドッグが笑った。
しばし談笑していると、久しぶりに頭に声が届いた。
『失礼する。対グモルグの予防策で一つ力を借りたい。ガーディアン二人にも同じ声が届いている。一瞬で終わるぞ』
私はリナとスコーンをみた。
二人が頷いたのを確認すると、短く明らかに意図して発音できない言葉が口から漏れ、室内が一瞬光った。
『よし、問題ない。助力感謝する』
思わず小さな息を吐くと、ミス・パンプキンとハウンドドッグが拳銃を抜いてテーブルに置いていた。
「ど、どうしたの?」
「はい、異質な力を感じ、部屋が光ったので、万一のために用意しました。なにか、みえない敵と戦っているようですね」
「まあ、戦っているにはいるんだけど……説明よろしく。長いよ」
『うむ、任せろ』
私は苦笑して、肩の上に闇と光の精霊の姿が現れた。
「な、なんですか!?」
あまり見ないミス・パンプキンの驚き顔と、目を丸くしたハウンドドッグが素早く拳銃を構えた。
「うむ、安心しろ。害意はない。まあ、説明すると長いのだが……」
米が炊けるまでちょうどいい。
私は小さく笑みを浮かべ、闇と光の精霊の説明を聞いていた。
「そうですか、とんでもない重責ですね。私たちは、パステルさんだけではなく、この家のみなさんを守ります。その程度しかできません」
ミス・パンプキンとハウンドドッグが苦笑した。
「うむ、頼んだぞ。我々はなかなか手が離せない。魔法での援護も限界なのだ。では」
闇と光の精霊の姿が消え、ご飯が炊けた。
「ちょうどよく食事の支度が整いました。どうぞ」
メリダがキッチンで笑みを浮かべると、エメリアが配膳して回った。
「ありがとう。それじゃ、いただきます」
私は笑みを浮かべ、みんなで食事をはじめた。
少しは余裕ができたのか、メリダやエメリアも同じテーブルを囲み、ゆっくりと朝食を取った。
食事が終わると、片付けはエメリアに任せ、リビングに移動した。
「一休みしたら射撃場に行こうか。気に入るといいけど」
私は笑った。
「そうですね、ありがとうございます。パステルさんをビシバシ鍛えなくては」
ミス・パンプキンとハウンドドッグが笑った。
「お、お手柔らかに」
私の顔は、多分引きつっていたと思う。
射撃場までは少し距離があるので、車で行こうと提案したのだが、この町の距離感を知りたいミス・パンプキンとハウンドドッグから反応があり、私たちは射撃場に向かった。
私、ビスコッティ、アリス、ミス・パンプキンとハウンドドッグという感じでブラブラ歩き、そこそこ時間が経ったところで射撃場に到着した。
「素晴らしいです。これほどの射撃場は、めったにありませんよ」
少し興奮した様子で、ミス・パンプキンが笑みを浮かべた。
「まあ、結構年季が入って、雨漏りとかするけどね。行こうか」
私は笑って、みんなを連れて射撃場に入った。
中はいつも通り閑散としていて、なんでもやり放題という感じだった。
「素敵です。本当に、対物ライフル用のブースがありますね。通常の狙撃銃用のブースに、珍しくマシンガン用のブース……当たり前ですが、拳銃ブースもたくさんあります。これだけの設備があって、なぜ練習しないのですか?」
ミス・パンプキンが私をみた。
「色々あるんだよ。他に行くところがないとやってる」
私は苦笑した。
「それではダメです。まずは、拳銃からしごきましょう」
ミス・パンプキンが笑みを浮かべ、ハウンドドッグが笑った。
「え、えっと……」
「ほら、ブースに入って」
半ば無理やり拳銃のブースに押し込まれ、私はため息交じりに銃と弾薬箱をテーブルにおいた。
「ダメ、なぜ銃口を自分に向けて置くのですか。薬室が空でマガジンもセットしていない状態でもダメなんです。それなのに、フル装弾のマガジンをセットしているにも関わらず……言語道断です!!」
ミス・パンプキンが怒鳴った。
「は、はい!!」
「では次!!」
……まあ、こんな調子でミス・パンプキンの手ほどきは続き、暇だったのかハウンドドッグが隣のブースで拳銃を撃ち始めた。
そのうち異様な気配を感じ、私は思わず手を止めてしまった。
「今度はこちらですか。ハウンドドッグ、殺気を出さない!!」
「あっ、やっちゃった……いて!!」
ハウンドドッグにミス・パンプキンのゲンコツが落ちた。
「さて、私たちは関係ないな」
「はい、マイペースでいきましょう」
非情にも勝手に撃ち始めたアリスとビスコッティだったが、ミス・パンプキンはすかさず近寄って、二人をビシバシ鍛えはじめた。
「いやはや、積極的だね」
私は苦笑した。
拳銃を死ぬほど撃ちまくっていると、ようやく満足したようでミス・パンプキンが次は対物ライフルを撃ちましょうといいだし、私は買ったばかりのバレットを空間ポケットから取りだしだ。
「銃はなんでもそうですが、特に狙撃は個人の好みや癖などがはっきりでます。私は基礎を教えますが、その先は自分で研究してくださいね」
ミス・パンプキンが笑みを浮かべた。
「分かりました。しかし、重い……シノはよくこんなの振り回すな」
私は感心しながら銃をブースに置き、伏せ撃ち用の黒いパッドが敷かれた場所に伏せ撃ちの姿勢を取った。
「ストックを肩に押し付けるようにして、銃をしっかり固定して下さい。基本的な構えはできていますね。スコープの倍率はお好みで。まずは、千メートルを狙ってみましょう」
ミス・パンプキンとハウンドドッグが見守る中、私は遙か彼方のターゲットを狙って引き金を引いた。
轟音と全身に強力な反動がきて、ターゲットが粉々に吹き飛んだ。
「なるほど、筋はいいですね。では、次は千五百メートルいってみましょう」
ミス・パンプキンが笑みを浮かべると、なにかに刺激されたかハウンドドッグが私の横のブースに入り、空間ポケットから対物ライフルを取り出すと、二千五百メートルというこの射撃場の限界点にあったターゲットをあっさり撃ち抜いた。
「滅多に使わないけど、撃てるよ!!」
ハウンドドッグが笑った。
「あなたは撃てて当たり前です。パステルさん、気にせず撃ってください」
ミス・パンプキンが笑みを浮かべた。
……結局、私の限界は二千メートルだった。
対物ライフルは色々な意味で私にとっては重いので、近距離狙撃用のVSSを取り出すと、ミス・パンプキンとハウンドドッグの商売道具の一つだったらしく、どちらがが教えるかで揉めるという一コマもあったが、それはともかく、私たちは帰り道を変えてブラブラしながら帰った。
「なるほど、私が呼んだ者たちもちゃんと仕事していますね。あの街角で屋台を出してお菓子を売っているのは、『毒殺ポチョムキン』という名で呼ばれているプロです。他にもたくさんいますよ」
ミス・パンプキンとハウンドドッグが笑った。
「ど、毒殺……。お菓子は買わないでおこう」
私は苦笑した。
「さすがに、一般向けのお菓子には毒は入っていないと思いますが、お互いに接触しない方がいいでしょう。このまま家まで帰りましょう。全員で百名ほど配置してあります」
ミス・パンプキンが笑みを浮かべた。
「へぇ……みんな寝るところとか、食事はどうしているんだろ?」
私は疑問に思ってミス・パンプキンに聞いた。
「寝る場所は転々とある廃ビルや廃屋を使うか、裏路地に小さなテントを張ってそれぞれ確保しているはずです。食事は持参している携帯食やマーケットで購入でしょうが、たまには食堂にもいっているはずですよ」
ミス・パンプキンが笑った。
「だから、私たちだけいい思いをしてゴメンねって感じでさ。まあ、リーダー特権ってやつかな」
ハウンドドッグが笑った。
「そっか、大変だね。これが私を守るためだけだったら困ったんだけど、町を守るためなら納得できるよ」
私は笑みを浮かべた。
家に帰った時間は、もう昼をとっくに回っていた。
ダイニングに置いてあったメリダが作った料理を食べ、ハウンドドッグに庭にあるドームはなにかと聞かれたので、一緒にスコーンを誘い、私たちはドーム群に向かった。
「あのドームは、安全に魔法を試すためにあるんだよ。一人しか入れないけど、その方がいいからね」
スコーンが歩きながら笑った。
「そうなんだ。なにかのシェルターだと思った!!」
ハウンドドッグが笑った。
「まあ、シェルターといえばシェルターだけど、イメージは違うかもね」
私は笑った。
「そっか、じゃあ私には縁がない。でも見たい。いい?」
ハウンドドッグが笑みを浮かべた。
「いいよ、見られて困るものじゃないし」
スコーンが笑った。
私たちは一番近い一号機のドームに到着すると、スコーンが扉の脇にあるポッチを押してスライド扉を開けた。
「これがドームの中なんだね。凄い!!」
ハウンドドッグが、開いた扉の外から中を覗き込んだ。
「入らないの?」
「うん、これで十分だよ」
ハウンドドッグが笑った。
「あっ、ちょうどよかった。朝に買った魔法書を読んで、いくつか魔法を作ったんだ。つでだから試す!!」
スコーンは空間ポケットからノートと腕輪を取り出して、なにやらボタンを押しはじめた。
「えっと、推定破壊力はこうだから……」
手早く腕輪の設定を終えた様子で、スコーンが笑みを浮かべてドームの中に入り、扉が閉まった。
「はじまった。覚悟してね。かなり臭いから」
私は笑った。
そのうちカコンと音が聞こえ、強烈なニオイが鼻に突き刺さった。
「うげっ……」
何度嗅いでも耐えがたい悪臭に、私は思わず顔をしかめた。
「パステル、大丈夫?」
全く平気なハウンドドッグが、私に声をかけてくれた。
「だ、大丈夫。このあとがキツいよ。腐敗魔力になると、こんなもんじゃないから」
私は苦笑した。
「そうなんだ。臭いの好き!!」
ハウンドドッグが笑った。
「す、好きなの!?」
「うん、私自身が臭いから!!」
ハウンドドッグが笑った。
「そ、そう、臭くないけどな……」
私は苦笑した。
しばらくすると、いよいよスコーンが放った魔力が腐敗しはじめたようで、猛臭が漂ってきた。
「危険だから気をつけて。まともに食らったアリスが倒れたくらいだから!!」
「アリスに比べたら頑丈な方。この程度なら……」
途中までいいかけて、ハウンドドッグは白目を剥いて気絶してしまった。
「あれ?」
私は倒れたハウンドドッグを両腕で受け止めた。
「ここは風上なのに……。アリスより弱いかも……。じゃなかった、救援呼ばなきゃ」
私が無線機を手に取った時、こっちらにミス・パンプキン、ビスコッティ、アリスがやってくるのがみえた。
「凄まじい悪臭ですね。ああ、やっぱり気絶していますか。ハウンドドッグは鼻が敏感なので、ここまでとなると堪らないでしょうね。ビスコッティ、回復お願いします」
「はい……。でも、ここで回復させても、また気絶してしまうのでは?」
「いえ、慣れておく必要があります。この程度で気絶してしまうようでは……。そういえば、ハウンドドッグは対魔法使い戦の経験がありませんね。ついて回る魔力のニオイにも慣れさせないと。いい機会です」
ミス・パンプキンが笑みを浮かべ、ビスコッティが回復魔法を使った。
「ん……」
静かに目を開けたハウンドドッグの頬に、ミス・パンプキンがビシバシ平手を撃ちこんだ。
「なにをやっているのですか。これが魔力臭です。対魔法使い戦があれば、必ず嗅ぐニオイですよ。いちいち気絶する気ですか!!」
そして、ミス・パンプキンの怒鳴り声が響いた。
「……ごめんなさい」
普段元気なハウンドドッグが、いきなりしょんぼりしてしまった。
「分かればいいのです。それにしても、臭いですね。訓練にはもってこいです」
ミス・パンプキンが笑った。
結局、スコーンの魔法試験は夕方まで続き、ハウンドドッグは何回も気絶し、その度にビスコッティが回復し、ミス・パンプキンがハウンドドッグにスパルタ教育をするというルーティンが続いた。
「あの、そろそろ可哀想な……」
「パステルさん、この子はこうやって生き延びてきたのです。もう少しで慣れますよ」
ミス・パンプキンが笑みを浮かべた。
その言葉通り、徐々に気絶する時間が短くなり、顔を顰めながらもなんとか立ち上がる事が出来るようになった。
「うん、臭い!!」
「そ、そうだね……」
私は苦笑した。
そうこうしているうちに、ドームの扉が半分ほど開いて止まり、また閉まってしまった。
「あれ?」
ドームの出入り口をみていると、何度も同じ事が繰り返され、ドガンと凄い音がして扉が開いた。
スコーンが転がるように出てきた途端、扉が分解して果てた。
「ああああ、ぶっ壊れたぁ!?」
スコーンが頭を抱えた。
「あーあ、保証期間中だろうから、なんでも屋に連絡してみるよ」
私は無線機を手にした。
「あっ、この程度なら直せるかもしれません。扉は単純な機械式ですよね?」
「うん、そうだけど密閉度を高めるために特殊な機構なんだよ。素人に直せるもんじゃないと思うけど……」
スコーンが小さく息を吐くと、ミス・パンプキンはなにかの免許を取り出した。
「ど、ドーム建設技能者免許!?」
スコーンが声をひっくり返した。
「はい、こんな最新式は初めてですが、扉くらいなら直せると思います。では、ハウンドドッグ。手伝って下さい」
「うん!!」
ミス・パンプキンとハウンドドッグが倒れたドームの扉を確認し、なにやら作業をはじめた。
「ビスコッティとアリス、扉を立てて下さい。重すぎて、ハウンドドッグだけでは上がりません」
ミス・パンプキンがビスコッティとアリスを呼んだ。
「それなら、この方法がいいでしょう」
ビスコッティが呪文を唱え、倒れていた扉が立った。
「浮遊の魔法ね。よく考えた!!」
スコーンが笑顔になった。
「もとより、重量物運搬用ですからね。さて、上手くいくか……」
ビスコッティが笑みを浮かべた。
「もう少し右……はい、そのくらいです。あとは……」
ミス・パンプキンとハウンドドッグが、立てた扉になにか接続してナットで固定して、倒れていた外販を、再びビスコッティの浮遊の魔法で立ててビス留めして、作業が終わったようだった。
「さて……」
ドームに何度も出入りして動作確認をしてから、ミス・パンプキンとハウンドドッグが笑った。
「できました。最新式はいいですね。イルミネーションまでついて……」
ミス・パンプキンとハウンドドッグが、楽しそうな顔をした。
「あっ、お金……。これしかないけど」
スコーンが百万クローネをミス・パンプキンに手渡そうとしたが、そっと押し返された。
「これはプロとしての仕事ではありません。ハウンドドッグの調教に使わせていたお礼です。いい仕事でしたよ」
ミス・パンプキンが笑った。
「えっ、私はなんかやったの?」
「うん、実は……」
私は一連の流れを説明した。
「だ、ダメだよ。あんまりだよ。特に腐敗魔力は有毒だから、中の魔法使いは命がけなんだよ。そのくらいキツいのに……」
「はい、私も知識として知っています。ですが、この子はこのくらいしないと目覚めないのです。難儀な事に」
ミス・パンプキンが笑った。
「パステルもビスコッティもいるのに止めなかったの?」
「止める余地がなかったんだよ。そのくらい、ミス・パンプキンの剣幕が凄かったから、なにかあるんだなって様子をみてたんだよ」
私は怒りそうなスコーンに苦笑した。
「うん、マジ状態のミス・パンプキンにちょっかい出さない方がいいからな。下手に止めたら、今ごろ私は立っていない」
アリスが笑みを浮かべた。
「そっか……。まあ、直ってよかったよ。また業者呼ばなきゃってって思っていたから」
スコーンが笑みを浮かべた。
「はい、面倒ですからね。これくらいしかできません。さて、すっかり夜になってしまいましたね。家に入りましょうか」
ミス・パンプキンが、明かりの魔法の下で笑ったのだった。
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