第38話 魔法を作ろう

 翌朝早くから、アリスの声とビスコッティの怒鳴り声が聞こえ、私は目を覚ました。

「なんだろ?」

 私は廊下に出て、声の発生源を探したが、どうやらスコーンの部屋からだった。

「朝から元気だけど……」

 私はスコーンの部屋にいき、扉をノックしたが、応答はなかった。

「おーい、なんの騒ぎだ?」

 私は扉を開けて中に入ると、ベッドでスヤスヤ寝ているスコーンと、机で見覚えのある教科書を片手に、怒鳴り散らすビスコッティと、頭を掻いているアリスの姿があった。

「なぜ分からないのですか。これ以上丁寧な説明はないですよ!!」

「うん、なにしろ今まで縁がなくてな。もう一度頼む」

 どうやら、アリスに魔力制御を教えているようで、なかなか理解できない様子の彼女にビスコッティがヒステリーを起こしているようだった。

「なにやってるの。そんな教え方じゃ理解出来ないよ」

 私は苦笑して中に入り、スコーンが床に撒いたままにしている『イエッサー』ボールを踏み潰しながら、机に近寄った。

「なにも知らない初心者の私が教える。分からなかったらビスコッティに聞く。これでいいんじゃない?」

 私は笑みを浮かべた。

「……そうですね。知らないと分からないところが分かるでしょう。その間に、私はこのボールを全部踏み潰します。一回出すと消えないそうなので」

 ビスコッティがため息を吐き、ボールの処理に入ると同時に、私はアリスに説明をはじめた。

「そういえば、魔法を使えるようになったもんね。えっと、まずどこが分からない?」

「うん、ほぼ全てだ。魔力放出のイメージすらわからん。今までのは偶然だ」

 アリスが頭を掻いた。

「私はある程度使えたからね。体の中央に集中して、力を溜めるイメージで、それを一気に解放する感じかな。これ、感覚的なものだからやってみないと分からないな」

「そうか……。なんだ、この湧き上がる力は?」

 アリスが珍しく驚いた表情を

「それだよ。ここはドームじゃないからそこまでにしてね。それで、基礎に入るけど……」

 私は教科書を片手に、アリスに解説をはじめた。

「うむ、ビスコッティよりテンポが遅くて助かる。ついていけなくてな」

 アリスが笑みを浮かべた。

「ビスコッティ、ダメだよ。相手はズブの素人だよ。詰め込むのは無理だよ」

 私は笑った。

「そうですか……。つい、パステルの要領で」

 ビスコッティが、ボールを踏み潰しながら苦笑した。

「私は多少知ってるからだよ。さて、どんどんいくよ」

 私は笑みを浮かべた。


「はい、基礎は合格です。あとは、実際に出来るドームに行きましょう。師匠、起きて下さい」

 ビスコッティが笑みを浮かべ、ベッドで寝ているスコーンを揺り動かした。

「なに、やっと終わったの。変な事しないように、寝たふりをして監視していたんだけど」

 ベッドの掛け布団を跳ね上げ、ついでにおならもして、スコーンが笑った。

「うん、ドームか。なにしていいか分からん」

 アリスが首をコキコキ鳴らした。

「その指示はスコーンがモニターしながら教えてくれるよ。適性魔力の放出だけでも、結構大変だよ」

 私は笑った。

「そうか、さっそくいこう。なにか、出来そうな気がする」

 アリスが笑みを浮かべた。


 スコーンの部屋を出てドーム群にいくと、奥の方にある適当なところを選び、アリスが中に入った。

 スコーンが扉脇にある蓋を開けて、なにか機械を取り出すと、通話口に向かって魔力放出の指示を出しはじめた。

 程なくドームから魔力の悪臭が漂いはじめ、スコーンが機械を弄りはじめた。

「へぇ、凄いね。初めてなのに、もう適正値に近寄ってる。大体、最初は大ハズレするんだけどね」

 スコーンが嬉しそうな声を上げた。

「どんな感じ?」

 私はスコーンに問いかけた。

「うん、上出来だよ。これは、教科書じゃなくて実際に失敗しながら、自分で成長していくタイプだね。事故を起こさなように基礎を教えたなら、あとは自分でどんどん伸びるよ」

 スコーンは笑みを浮かべた。

「へぇ、アリスもやるねぇ」

 私は笑った。

「パステルはなんとなく出来ちゃう天才形。私とビスコッティは、机上で理論を固める堅実型。魔法使いっていっても、色々あるんだよ」

 スコーンが笑った。

 それからしばらくすると、スコーンの手にある機械がピッという電子音を立てた。

「あっ、もう適正値だ。次のパターンにいこう」

 スコーンが通話口に、なんでもいいから思いつく魔法を使ってと指示した。

『一つしかないが、それでいいならな』

 通話口から聞こえたアリスの声は、どこかしら嬉しそうだった。

「いいよ、やってみて」

 スコーンの声からしばらくして、ドームが少し揺れた。

 再びスコーンの機械がピッと音を立てた。

「いいよ、成功判定がでた。おめでとう、魔法使いだよ!!」

 スコーンが笑い、ドームの排気量が多くなったようで、もう慣れつつある悪臭が盛大に吹きだした。

「腐敗魔力の濃度が低いから、そのまま出てきて!!」

 スコーンが笑うと、扉が開いてアリスが出てきた。

「うん、いい感じだ。やはり、実践あるのみだな。訓練も大事だが、戦場で創意工夫できる者は生き残る」

 アリスは満足げに頷いた。

「よし、これで新しく魔法を使えるようになった人の基礎練は終わりだね。朝ごはんを食べよう!!」

 スコーンが笑みを浮かべた。


 メリダが作ってくれた朝食は、ご飯、味噌汁、鮭の塩焼き、玉子焼き、お新香だった。

 それを食べて一息吐くと、ビスコッティがリビングで酒を飲みながら煙草を燻らせた。

「はぁ、徹夜だったので今から寝ます。なにかあったら起こして下さい」

 ビスコッティはグラス一杯だけ飲んで、煙草を吸い終わると、そのまま階段を上って自分の部屋に入った。

「アリスはいいの?」

「うん、ちょっと眠いが問題ない。シノと周辺警備にいってくる」

 肩にサブマシンガンを提げ、アリスはシノと連れだって外に出ていった。

 残ったメンバーはそれぞれの時間を過ごしはじめた。

 テレビの前に居座ったリナは、ララとゲームをはじめ、メリダは食堂に向かい、リナは魔法書を読み、実質徹夜のスコーンも自室に向かっていった。

 一人暇に鳴った私も自分の部屋に籠もり、今までのマッピングデータを整理する作業に掛かった。

「これが、なかなか面倒なんだよね」

 私はいつもクリップボードに挟んでいる紙の束を参照しながら、今まで整理していなかった分を次々とマップに変える作業を続けた。

「これが楽しみなんだよね」

 私は笑みを浮かべ、『完全攻略』と書かれた朱印を押した。

 この朱印を押す事が、私が持つ最大の楽しみだった。

「さて、次ぎ。この迷宮はしんどかったな。いいところでビスコッティがやられちゃって、戻れないし進めないしで、リナの回復魔法で無理やりビスコッティを回復させて、ゴリ押しで進んだっけ。最奥部でビスコッティが自然回復するまで一ヶ月間。よく耐えたなぁ」

 私はまたマップに朱印を押した。

 まあ、そんな感じで朱印を押していき、マップ置き場にそれを差しこんでいると、『黄緑の迷宮』とちょっと前に書いたマップが出てきた。

「あっ、これ。リナと出会った迷宮だ。あの時は大変だったな。罠に掛かって死にかけていたリナを救出したのはいいけど、ビスコッティも猛毒にやられてたし、私もヤケになってリナとビスコティを蹴り飛ばしたら、なぜか二人とも治っちゃって……あの時につま先から散った光りはなんだろ?」

「あれは魔力光といって、なにかしらの魔法が発動した時に出るものです」

 いきなり背後から聞こえた声に驚いて振り向くと、いつの間にか眠そうなビスコティが立っていた。

「ノックくらいしてよ!!」

「しましたよ。応答がなかったので入ってみたのですが、やはりマップ整理でしたか。このために冒険者をやっているようなものですからね」

 ビスコッティが眠そうに頭を掻いた。

「眠そうだね。もう少し寝たら?」

「そうします。その前に、病人を蹴り飛ばす悪い足を折っておきましょうか?」

 ビスコッティが変な笑みを浮かべた。

「そ、それもうやったじゃん。迷宮の中でなにするんだ、このバカくらいには思ったよ!!」

「そうですか、忘れていました。今だからいいますが、パステルは回復魔法が使えます。私が教えた以上、どうしてもそうなってしまうのは当然でしょう。結界も展開できます。あなたの研究ノートに研究開発する材料はありますよ。方法はともかく、一度使っていますからね。なにも開発していないのに発動できたのは、奇跡でもあり必然ともいえます」

 ビスコッティは笑みを浮かべ、部屋から出ていった。

「へぇ、回復魔法ね。今度やってみるか……」

 私は鞄の中にある、古びてボロボロの魔法研究ノートを取り出した。

「そういば、この迷宮から出てすぐの町の酒場兼食堂で、冒険者ライセンスを取り立てで、誰にも相手にされていないララをキャッチしたんだっけ。別の迷宮だけど、いきなりシノに拳銃の早撃ち対決を申し込まれた時は焦った。勝ったから私がいるわけで、焦ったらしいけどシノの弾丸は大ハズレ。私は致命傷を負わないように撃ったから、シノは助かったってこのパーティーに加わった。なにがあるか分からないね。さて、研究開発しますか……」

 私は回復魔法と攻撃魔法の研究開発をはじめた。


 結局、午前中は魔法開発に勤しみ、いくつか呪文ができた。

 それをドームで検証するのは後回しにして、私は自室から階下にいき、ちょうどメリダが料理を作っているところだった。

 なんともスパイシーな香りで、すぐにカレーだと分かった。

「昼食は野菜ゴロゴロカレーです。これ、食堂のランチメニューなんですよ」

 メリダが笑った。

「へぇ、そうなんだ。ところで、いつオープンなの?」

「はい、まだ予定ですが三日後です。今から楽しみです」

 メリダは笑みを浮かべた。

「そっか、オープンしたら食堂でご飯を食べるよ。往復が面倒だろうし、少しは売り上げに貢献したいしね」

 私の言葉にメリダが首を横に振った。

「大した距離ではありませんし、仲間からお代を頂くわけにはいきません。このままで大丈夫です」

「分かった、大変だろうけどよろしくね」

 私は笑った。

 程なく出来上がったカレーには、カボチャやジャガイモ、人参などがゴロゴロ入っていいた。

「美味しそうだね。頂きます」

 私はカレーに手をつけた。

 スパイスの配合が絶妙で、ピリッとくる辛さがアクセントになって、とても美味しかった。

「うん、おかわりだ」

「私も!!」

 アリスとスコーンが声を上げた。

 結局、全員がおかわりをして、三杯目のおかわりをスコーンが頼んだ時、メリダが申し訳なさそうな顔をした。

「家庭用炊飯器では、あまりご飯が炊けません。ソースならありますが、ライスがありません……」

「じゃあ、ソースだけでいいよ。ちょうだい!!」

 スコーンが笑った。

「うん、私も頼む」

 アリスも頼んで笑みを浮かべた。

「分かりました。二杯分でちょうどなくなります」

 メリダは笑みを浮かべ、カレーのソースだけ皿に盛って持ってきた。

「この野菜がいいんだよ。カボチャも美味しいしジャガイモはホクホクだし!!」

「うむ、美味い。それだけだ」

 スコーンとアリスが笑顔になった。

「はぁ、食べたなぁ。ごちそうさま」

 私は一息吐いて、うっかり持ってきてしまったボロボロの魔法研究ノートを開いた。

 エメリアが食器を回収して、メリダと協力して洗う中、私はリビングに移動した。

 ソファでテーブルの上にノートを乗せ、私は呪文を作る作業をはじめた。

「なになに、魔法研究?」

 スコーンが近寄ってきて、私の隣に座った。

「研究ってほどじゃないけど、思いついたルーン文字を書いているだけ」

 私は笑みを浮かべた。

「どれどれ、マナー違反だけど隣からみてる」

 ソファに座ったまま、楽しそうに前後に体を揺らして、スコーンが笑った。

「うん、そこにいて。なにするか分からないから」

「『風』の精霊でしょ。攻撃より回復の方が得意なはずだよ。生命を育む力だからね」

 スコーンが笑った。

「そっか、それで攻撃系が上手くまとまらないんだ。試しにやってみたんだけど、どうも途中でおかしくなるんだよ」

「そうだねぇ、パステルがたまに使うエア・エッジは真空の刃を飛ばして切り刻む魔法でしょ。あの刃を増やす方向で考えた方がいいよ。あとは暴風とか……」

 スコーンが笑った。

「ねぇ、過去もみたい。これ魔法使いの間では失礼なんだけど、過去になにを開発したか知りたい」

 スコーンが笑みを浮かべた。

「いいよ。ヘボいと思うけど」

 私はノートをスコーンに渡した。

「ありがとう。えっと……」

 スコーンが真顔になって、ノートのページをゆっくり捲りはじめた。

「……なるほどね。ビスコッティの悪弊が見事に出てる。この途中で止まっちゃってる呪文だけど、水の精霊ならこれでいいんだけど、風の精霊ならこうだよ。ペン持ってる?」

「うん、あるよ」

 私がペンを渡すと、スコーンがルーン文字の並びを修正しはじめた。

「よし、これでビスコッティ並の回復魔法を一つ作れるよ。あとは、ビスコッティに聞けば教えてくれるよ」

 スコーンは私にノートを返し、再び前後に揺れながら私のノートを脇でみた。

「あれ、パステルが魔法作りするとは珍しいですね」

 ビスコッティが笑みを浮かべて寄ってきて、スコーンの反対隣に座った。

「このノート、まだ使っていたのですね。そろそろ新調したらどうすか」

 ビスコッティが笑った。

「分かってないなぁ。このくらいボロくないと、雰囲気が出ないじゃん!!」

 スコーンが笑った。

「うーん、難しい。風の精霊力を使った回復魔法。元々、水より弱いからね」

 私は頭を捻りながら、考え付くままにルーン文字を並べていき、ノートをビスコッティに差し出した。

「文法あってる?」

「はい、問題ありません。でもこれ、攻撃魔法ですよ」

 ビスコッティが苦笑した。

「えっ、みる!!」

 スコーンがビスコッティからノートを受け取った。

「……うん、確かに途中から攻撃魔法になっちゃってるね。これじゃ、傷つけてから回復するって面白い魔法になっちゃうよ!!」

 スコーンが笑った。

「そ、それはいかん。回復系は苦手なんだよね。攻撃系も大した事ないけど」

 私は苦笑して、さらに頭を捻った。


 夕方近くになって、私は三つの呪文を作り上げた。

 三つとも回復魔法で、一つは骨折も治せるような、非常に強力なものだった。

 完成かどうかは、例によってドームじゃないと分からないということで、私とスコーン、ビスコッティは庭のドームに向かった。

 私は適当なドームに入って扉を閉じ、一つ目の呪文を唱えた。

 魔法は途中で自動的にキャンセルされ、未使用の生ガスが噴射されるニオイが漂った。

「使い方を覚えて欲しいから、あえていわないけど、今のは成功か失敗か分かる?」

 通話口からスコーンの声が聞こえた。

「えっと、カチッと音が聞こえなかったから成功?」

「その通り。それだけ分かれば、あとはドームを使うだけだよ。次の呪文!!」

 スコーンに急かされ、私は苦笑して次の呪文を唱えた。

 再び魔力が空噴射され、音がしないので完成である事が分かった。

 最後は、私にとっては大技で、今のところ最強の回復魔法だった。

 呪文を唱えて魔力を放出すると、カチッと音が聞こえた。

「惜しいね。気合い入れすぎだよ。魔法は逃げないし、力を抜いて!!」

 スコーンの声と笑い声が聞こえた。

 私は深呼吸して、イメージを浮かべた。

 従来の自己治癒能力を加速度的に上昇させる方法と違い、実家で仕込まれた医療的知識に基づいて、痛んでいる箇所のみを治す魔法。

 これなら、回復魔法に付きものの回復痛も圧倒的に低減でき、ついでに健康診断までできるという、自分でいうのもアレだが画期的な回復魔法だった。

「えっと、いくか」

 私は呪文を唱えた。

 再びカチッと音が聞こえ、私は息を吐いた。

「ダメか……」

「諦めちゃダメだよ。せっかく作った呪文が可哀想だし、パステルも可哀想だよ。どんな魔法か分かってビスコッティがジタバタしてるから、魔法のロープで縛っておいたよ!!」

 スコーンの笑い声が聞こえた。

「こらぁ、パステル。変な魔法作ったでしょ。いい加減にしなさい!!」

 遠くからビスコッティの声が聞こえ。私は笑った。

 それでリラックスした私は、また呪文を唱えた。

 今度はカチッという音が聞こえず、魔法が完成したことを示した。

「おめでとう。いい魔法が出来たよ。ドームの外でも、魔力パターンでどんな魔法か分かるから。だから、ビスコッティが顔色を青くしたんだよ」

 スコーンの笑い声とおならの音が聞こえてきた。

「はぁ、この魔法は疲れるな……」

「うん、モニターしてたけど、もう限界だね。これを、どうやって省エネするかが研究なんだよ。今は排気中だからちょっと待ってね」

 スコーンの声が聞こえ、程なく扉が自動で開いた。

 生臭い臭いは相変わらずで、かなり限界まで攻めたせいか、今日は一団と濃度が濃かった。

「パステル、ビシバシしますよ。私に教えなさい!!」

 私をひとしきり引っぱたいたあと、ビスコッティが私の胸ぐらを掴んだ。

「教えるって……どうやって?」

「そ、それは……研究ノートを貸しなさい!!」

 ビスコッティが私の手にあった研究ノートを奪い取った。

「ビスコッティ!!」

 スコーンの怒りの声が飛んだが、私は片手で制した。

「私以外は分からないと思うから、大丈夫だよ」

「そっか、ならいいけど、簡単にみせちゃダメだよ」

 スコーンが私の手を引っ張った。

「な、なんですか、この『イメージ』というのは!?」

「イメージはイメージだよ。これでも、検体希望の患者さんが亡くなったとき、解剖して病巣部の摘出とかやっていたんだからね。将来の練習とかいわれて今よりお子様だったから、正直嫌だったけど」

 私は苦笑した。

「そ、そうなんですか。私は魔法薬しか……」

 ビスコッティがしょぼんとしてしまった。

「ほら、いちいち落ちこまないの。もっと凄い回復魔法を作ればいいじゃん」

 私は笑った。


 いつの間にか夕方になり、二日に及ぶ魔法練習は幕を閉じた。

 スコーンからは、研究して、分からなかったら教えるからといわれ、刺激になったかビスコッティは違う方向からプローチして、より優れた回復魔法を作ると躍起になっていた。

 ドーム群を抜けると、門の前に警備団の車が止まっていた。

 私は車に近寄り、助手席から下りてきた団長に声をかけた。

「なに、また盗賊団?」

「いや、この家から悪臭が漂っているので、様子をみて欲しいと通報があってな。何をしているんだ?」

「ああ、魔法の練習。消臭器を付け方がいい?」

「ダメ、あるにはあるけど、すぐに詰まっちゃって使えなくなっちゃう!!」

 スコーンが私と手を繋いだ。

「なんだって、悪臭は謝っておかないといけないけど、今さらなしに出来ないんだよ」

「そうか、分かった。苦情ではないのだ。なにか分からない機械のようなものが増えて、悪臭がするので、なんだか確認して欲しいというだけだ。必要なものと分かれば話しは早い。町の全員が持っている無線機で情報を流すだけだ。また、なにかったらくる」

 団長が笑みを浮かべ、車の助手席に乗って、そのまま走り去っていった。

「普段の行いって重要だね。これ、クレームになってもおかしくないよ」

 私は笑ったのだった。

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