第36話 町を守れ!!
昨日の暇を打ち消すように、いきなり深夜の町中に警報が鳴り渡った。
「おや、なんだ?」
私は自室で寝間着兼用の戦闘服の乱れを正し、無線機を手にした。
「こちら、PX-44J。団長、どうしたの?」
私は暗号化された自分の名前で、警備団の団長に無線連絡した。
『ああ、なんでもないといいたいが、ゴブリンとオークの集団が接近中だ。対処願う』
「規模はどのくらい?」
私は団長に問いかけた。
『ハッキリとは分からんが、ゴブリン三十体、オークを十体を確認した。この前、お前が調達してきた兵器類は、まだ配備中なんだ』
「調達したつもりはないんだけどな……。まあ、いいや。礼金期待しているよ!!」
私は笑って、無線機のチャンネルをシノに合わせた。
「シノ、みえる?」
『捕捉している。ちょうど帰宅しようと思っていたところだったがよかった。オークを十五体、ゴブリン三十体。指示を』
「よかった。狙えるなら、まずはオークを片付けて。近づかれると面倒だから」
『了解。攻撃に入る』
その声と共に、どこからか警鐘の音にも負けないほどの発射音が聞こえ、迎撃体勢に入った。
今度は疲れた様子のメリダに声をかけて、久々にフルメンバーで状況の対処に当たる事にした。
全員家から飛び出すと、迎えにきていた軍用トラックに飛び乗り、私たちは街の門に向かった。
シノが壁上から狙撃しているシノの姿が微かにみえ、スコーンがトラックから飛び下りてサポートのために壁上に向かう階段に向かっていき、いつも通り残りの他のメンツは町の外に出て、早々にトラックから下りて、私はこのまま町の中に入って門扉を閉めるように、運転席にいた警備団員に伝えた。
「さて、さっさと片付けるよ!!」
私は笑った。
「あの、私は拳銃だけです。大丈夫でしょうか?」
メリダが自信なさげに、拳銃を抜いた。
「十分だよ。まずは……」
私はグレネードランチャーを取りだし、信号弾を撃ち上げた。
すると、背後の壁上からスコーンの呪文を唱える声が聞こえ、いきなりド派手な光りの濁流が草原に向かって放たれた。
無数の光りの明かりでぼんやり浮かんだ草原からなだれ込んできたゴブリンは一掃されたが、頑丈なオークは手傷を負いながらも、生き残りの十体全てがこちらに向かって走ってきた。
「やっぱりきた。シノ、よろしく。みんな、いくよ!!」
私は声上げ、空間ポケットからアサルトライフルを取りだし、マガジンをセットした。 シノの対物ライフルの発射音が聞こえ、命中した足が吹き飛び、そこにスコーンが攻撃魔法を叩き込んだ。
その間に私たちは走り、アサルトライフルを撃ちながらオークたちを一点に追い込み、ビスコッティとスコーンの攻撃魔法が飛んだが、魔力干渉独特の金属音が響き、私たちが吹き飛ぶほどの爆発を起こした。
「いてて……。なにやってるの!!」
私はワタワタしているビスコッティの顔を、容赦なくビシバシした。
……いつもやれられてばかりで痛いので、少し気分がよかった。
「さてと……。ああ、ばらけちゃったか」
せっかくの一網打尽の瞬殺タイミングだったが、残り九体のオークは刻一刻と町に迫っていった。
「リナ、ララ、アリス。足が速いから、追いかけてぶった斬るなりぶん投げるなりして時間を稼いで。スコーン、魔力の生ガス噴射全開で。オーガはあの臭いを嫌うから!!」
私は無線で指示を出し、壁際から離れ脇に散ったオークたちを追いかけた。
その間、シノが素早く狙撃ポイントを変えたようで、発射音と共にさらに二体倒れ、追いついたアリスがオーガを見事に一本背負いでぶん投げると、リナとララが剣を抜いて投げられて倒れたその一体を思い切り叩き切った。
オーガの皮膚は頑丈で、5・56ミリはもちろん、7・62ミリライフル弾すら弾き飛ばしてしまう。
さすがに12・7ミリ弾を使う対物ライフル弾は効果があるが、決定的といえるダメージは与えられないという、物理的な攻撃で倒すのはむずかしいという難敵であった。
「固すぎて斬れない!!」
リナの声が聞こえた。
「分かりました。少し離れていて下さい」
リナが跳んで下がると、ララがマクガイバで空間ごとオークを切り裂き、そのオーガは真っ二つになって果てた。
「その剣貸してよ!!」
リナが笑った。
「……それ以前に、練習用の木剣ですよ、それ」
ララが苦笑した。
「えっ!?」
リナは自分の剣をみて、顔色が青くなった。
「しまった、最近あまり真剣を持てなかったから!?」
「慣れって怖いですね。というわけで、倒れているもう一体は……」
ララが呟くように、いった時強烈な悪臭が漂ってきて、倒れてもがいている一体が動なくなり、残る体も露骨に嫌な顔をして、そのまま逃げていった。
「うん、魔力ガス効果抜群だな。でも、臭い」
アリスが笑った。
「スコーンお疲。全員無事?」
みんなから無事の返事がきたが、メリダの応答がなかった。
「メリダ、無事?」
『はい、無事です。怖かったので、門の前で戦闘服の迷彩機能使って隠れていました。もう大丈夫ですか?』
「無事ならよかった。隠れるのも重要な能力だし、今後なにかの役に立つよ!!」
私は笑った。
深夜の戦いも終わり、私たちは自警団のお迎えトラックに乗り、家の前で報酬が入った袋を受け取り、みんなで家に入った。
「ごめんね、生臭くしちゃって。お風呂入ろう!!」
「うん!!」
私はスコーンの手を引いて脱衣所に入った。
服を脱いで脱衣カゴに入れると、スコーンが虹色ボールを乗せた。
「これは洗濯機能があるよ。水は使わないんだけど、魔法できれいになるんだよ!!」
スコーンが笑った。
「へぇ、色々あるね。さて。いこうか」
私とスコーンは洗い場で体を洗い、渡り廊下を渡って露天風呂に入った。
魔力は放って置くと腐敗魔力になり、強烈な悪臭を放つようになる事は学んだ。
だったら、腐る前に洗い落とそうという、我ながら単純な考えだった。
「パステルの考えは分かってるよ。腐敗魔力対策でしょ。でも、これは汚れと違うから報酬さえ止めちゃえば、もう大丈夫だよ。これって、魔法の基礎知識なんだけど、ビスコッティから聞いてない?」
「……全然」
……あの野郎。
そう胸中で呟いた。
「なに、聞いてないの。ビスコッティに教わったんでしょ。だったら、お仕置きしないと!!」
スコーンは湯船から立ちあがった。
そこに、間がいいのか悪いのか。ビスコッティが湯船に入ってきた。
「あ、あれ、なぜ師匠が睨み付けて……」
一瞬たじろいだビスコッティの顔面目がけて、空間ポケットからバネ仕掛けでパンチンググローブが飛ぶ謎の道具を取りだし、いきなり引き金を引いた。
「な、なんですか。そんなのいつ作ったのですか!?」
「いつ作ったなんてどうでもいいよ。師匠として悲しいよ。なんで、パステルに魔法基礎の全てを教えなかったの?」
スコーンが平泳ぎでビスコッティの目の前に座った。
「そ、それは、とりあえず必要な事だけを教えただけで、その……」
「それは私が悪いんだよ。とりあえず、使える魔法を作りたいってせがんで、無理やり教わったんだ」
私が苦笑すると、スコーンが頭を横に振った。
「教えた以上、責任があるの。せがまれてやったら、中途半端な魔法だらけになっちゃうよ。ビスコッティ、朝になったらパステルを徹底的に教育して!!」
「はい、分かりました」
ビスコッティがこくりと頷いた。
「す、スコーン、急に鬼になったね」
「当たり前だよ。今までドームがなかったから我慢していたけど、環境が整ったんだから、使わなかったらもったいないよ。ビスコッティ、大丈夫?」
スコーンが立ちあがったままビスコッティを睨んだ。
「は、はい。でも、私が通っていたのは、村のボロッコイ魔法学校ですよ。どれほどのものか……」
ビスコッティが頭を掻いた。
確かに、実家がある村には、年季の入った魔法学校があった。
私は興味がなかったので通っていなかったのだが、今になって後悔していた。
「そんなの関係ないよ。基礎を教えない魔法学校なんてないから。教科書まだ持ってる?」
「はい、ありますよ。困った時に、辞書代わりに使っています」
スコーンがビスコッティを引っぱたいた。
「あるじゃん。なんで放っておいたの。お湯に浸かってリフレッシュして、一寝したらやるよ!!」
スコーンがやっと笑みを浮かべた。
お風呂から上がると、リナとララ、アリスとメリダが私たちとすれ違った。
「あれ、シノは?」
「うん、もうすぐ帰宅するらしい。さすがに、疲労が限界らしくてな。当たり前だ。無理するなと、無線で伝えておいた」
アリスが笑みを浮かべた。
「そっか、ありがとう。心配していたけど、メリダは大丈夫だね、朝食を作ってくれてる。この戦闘時のショックと空気に慣れておいてくれないといけないからね」
私は笑みを浮かべた。
「はい、意外と大丈夫でした。隠れているだけでしたが……」
メリダが笑った。
「それでいいよ。後ろにいるビスコッティを頼るといいよ」
私は笑みを浮かべた。
「はい、そうします」
メリダが笑みを浮かべた。
朝食を摂ると、私とビスコッティは意外と筋力があるスコーンに引っ張られて、その部屋に押し込まれ。
「私はみてるから、ビスコッティはちゃんと教えて!!」
スコーンは小さな椅子を並べて机前と背後において、机の方は私とビスコッティに割り振ると、楽しそうに虹虹色ボールの改造をはじめた。
「さて、パステル。筆記用具はありますよね?」
ため息でも吐きそうな感じで、私に問いかけてきた。
「もちろんあるけど……。新しい事を知るのは楽しい事だよ」
私は笑みを浮かべた。
「そうですか。あまり面白くないと思いますよ」
ビスコッティが空間ポケットから教科書を取りだし、私にボソボソ説明をはじめた。
「あっ、一緒に応用も教えて。パステルの魔力だと、そこまでやらないとダメだから!!」
なにか出来たらしく、虹色ボールを床一面にばら撒き、スコーンがビスコッティに笑みを浮かべた。
「それはいいとして、また虹色ボールのバリエーションを増やしたのですか?」
なんだかしょんぼりしている様子のビスコッティが、気休めといわんばかりにスコーンに声をかけた。
「うん、踏むと『イエッサー』っていうんだよ。それしかいわない!!」
すると、ビスコッティが椅子から立ちあがり、一個踏んだ。
妙にシブい声で、『イエッサー』という声が聞こえた。
ビスコッティは無言で次々に踏んでいき、なにかスッキリしたようで、笑みを浮かべて隣に戻ってきた。
「さて、やりましょう。まずは……」
なにがよかったのか分からなかったが、やっとやる気が出た様子のビスコッティが、私に魔法の教科書片手に基礎を教えてくれた。
こうして、ビスコッティ先生による、私の魔法学習がはじまったのだった。
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