第29話 久々の迷宮へ

「だから、私はただ気になっただけだって。いきなり滑走路ができて、迷宮っぽいものが出現したら、誰だって驚くでしょ。しかも、タイミングよく飛行機で飛んできたのがあなたたちだよ。どう考えたって、関連があるでしょ!!」

 折りたたみ椅子に縛り付けられたマールディアが、ジタバタしながら半泣きで叫びながら、アリスとビスコッティをみた。

「ちょっと、いい加減可哀想だよ。何時間やってるの!!」

 私はビスコッティとアリスにゲンコツを落とした。

「うん、尋問ってのはこうやるんだ。何回も何回も同じ事を聞くんだよ。冷静にな」

「はい、そうですよ。それにしても、このまま解放してしまうと、今度はそこで待機している研究所チームに食われると思うが……」

 アリスとビスコッティが笑った。

 ビスコッティがいった通り、テントで寝ていたはずの研究所チームが、メモを片手に目をランランと開いて待ち構えていた。

「こら、今はゆっくり休ませないとダメ!!」

 私の声に研究所チームがテントに引っ込んだ。

「ったくもう……」

 私はマールディアを縛り付けていたロープをナイフで切った。

「もう拘束はしないよ。あっ、やってなかったね」

 私は冒険者ライセンスを取りだし、マールディアに提示した。

「……わ、笑ってるし、も、もういいんだよね。私はこれ」

 マールディアが恐る恐るという感じで、自分の冒険者ライセンスを提示してきた。

「おっ、同じプラチナレベル。仲良くしよう」

 私は笑った。

「はい、ぜひ……」

 アリスとビスコッティをみて、マールディアはため息を吐いた。

「ああ、うちのパーティは悪乗りが好きでさ。リーダー的には時々困るんだよね」

 私は苦笑した。

「さて、もう夜更けだし、よかったら泊まっていく? テントの中はそれなりに広くて快適だよ」

 私は笑った。

「では、お言葉に甘えてお邪魔しようかな。縛ったりしないでね」

 マールディアが笑みを浮かべた。

「あの、温め直しですが、よろしかったらどうぞ」

 メリダが温かい食事をマールディアが座っている前のテーブルに置いた。

「あっ、これはどうも……。いただきます」

 マールディアは美味しそうに料理を食べ、笑みを浮かべた。

「ずっとみていたから、お腹空いていたんだよ。ありがとう」

「いえいえ、お口に合ってよかったです」

 マールディアの言葉に、メリダが笑顔で応えた。

「さて、寝ようか。アリスもビスコッティも寝なきゃ!!」

「うん、謎の監視者の正体も分かったし、これからは時間で交代して警備しよう。先に私な」

「分かりました。では、私は……」

 ビスコッティがテントに入り、アリスはゆっくり煙草に火をつけ、紫煙を楽しみはじめた。

「あっ、そうだ。リナ、アラームを直しに行こう。このままじゃ意味がないよ!!」

「そうだね。私としたことが……」

 スコーンとリナが懐中電灯の明かりを頼りにアラームの点検に出かけ、その護衛で煙草を吸いながら、アリスが二人についていった。

 しばらく待つと、白い光りだったアラームの線が、青く光りはじめた。

「私も迂闊だったな。こうじゃないと発動していないんだよ」

 私は苦笑した。

 程なく戻ってきたスコーンが、頭を掻いた。

「一区間抜けてた。これじゃ、発動しないよ」

 スコーンが苦笑した。

「まあ、これで大丈夫だね。さて、早く寝よう」

 私は笑みを浮かべた。


 テントに入ると、床にばら撒かれた虹色ボールをみて、マールディアがポカンとした。

「なにこれ。しかも、やたら快適……」

 私は小さく笑った。

「これはこのスコーンが作った虹色ボールだよ。今はこうだけど、入っていくと分かる通り、邪魔なボールが勝手に退いてくれるよ」

 私が率先して入っていくと、ボールが転がって退いていった。

「へぇ、面白い。失礼します」

 マールディアがテントに入ると、ボールが転がって場所を空けた。

「それ、明かり取りと空調の役目があってね。テント内が快適でしょ?」

「そうですね、快適です。これはあるいいかも……」

 マールディアが呟いた時、いきなりサングラスをかけた。

「お姉さん、このボールいいでしょ。今なら一個で七日間使えるタイプが、一ヶ月分セットでお買い得の一万クローネだよ。買う?」

 スコーンが綺麗に包装してあるまだ発動していない、虹色ボールを取り出した。

「うん、そのくらいなら買えるよ。とりあえず、ワンセット!!」

「毎度、これでビスコッティに蹴られない!!」

 スコーンが笑みを浮かべた。

「師匠、変な事いうと誤解されるのでやめて下さいね」

 寝袋に潜っているビスコッティが、寝ぼけた声で反論してきた。

「ちぇ、バレちゃった」

 マールディアに取り扱い説明書を渡してから、スコーンが笑った。

「もうちょっと暗い方がいいかな……」

 スコーンが魔法を操り、テントの置くに散らばっていた虹色ボールの光量を下げた。

「あっ、そんな事も出来るんですね。幻想的でいい感じです」

 マールディアが笑みを浮かべた。

「まあ、元々は明かり用だったからね。色々多機能になっちゃったけど」

 スコーンが笑った。

「へぇ、凄いね。これ」

 マールディアが笑った。

「うん、もっと欲しかったら、サービスするよ!!」

 スコーンが笑った。

「さて、商談はあっとにして、もう寝よう。夜明けまで、もう間もないよ」

 私は苦笑して、薄暗い方に寝袋を敷いた

 マールディアが、年季の入った自分の寝袋を空間ポケットから広げ、床に敷いて中に収まった。

 少し深酒だったようで、早くに寝てしまっていたリナとララの脇に私は寝袋を敷き、私はそのまま寝袋に入った。

 外で片付け作業をしていたメリダがテントに入り、慣れない様子で寝袋に収まると私はそっと目を閉じた。


 翌朝、私は早く起きてまず島のマッピングからはじめようとした。

 すると、やはり早起きのマールディアがテントから出てきた。

「おはよう、早いね」

 私は笑みを浮かべた。

「おはよう。なんだか寝付けなくて……」

 マールディアが苦笑した。

「これから、この島のマッピングをしようと思っていたんだよ。まず、ここがどうなっているか調べないと……」

「ああ、それなら私なりにマッピングした情報があるよ。本職には負けるけど!!」

 マールディアが私にマッピングしたノートを手渡してきた。

「へぇ、これなら本職になれるよ。この『D』って書いてあるポイントは?」

「そこが、今までなかった迷宮だよ。この狭い島で見落とすはずがないんだけどな。しかも滑走路までできちゃって、わけが分からないんだよね……」

 マールディアは頭をガリガリ掻いた。

「そ、それは奇妙だね」

 私はなるべく動揺が表に出ないように、手をパタパタ振った。

 ……ちょっと、無人島じゃなかったの?

 ……うむ、人が住んでいない島を選んだのだが、まさかこうなるとはな。まあ、なんとかしよう。

 心の中で闇の精霊と会話を交わすと、一瞬でマールディアの姿が消えた。

 ……心配するな。隣の島に移動させただけだ。

 ……それだめ、大混乱になっちゃう。

 ……では戻そう。なに、まだ寝っている状態だ。今のうちにテントの中に戻せば、バレずに済むだろう。

  私はそっとテントの中を覗いてみた。

 すると、まだ寝袋に収まったまま、よく寝ているマールディアの姿があった。

「あとは、これを戻して……」

 先程のマッピングノートを彼女の脇に戻し、これでなんとかなるだろう。

「ふぅ、朝からこれだ。この先思いやられるよ」

 私は苦笑した。


 主義に反する事ではあったが、これ以上なにか起こると嫌なので、私たちは迷宮を目指すことにした。

 最初に約束したとおり、研究所チームと私たちは別行動となった。

 研究所チームは植物に興味があるらしく、そっちの案内はマールディアに任せ、わたしたちは、まさに新築そのものの迷宮にたどり着いた。

「なんだかこう、こう新築だとロマンがないね」

 私はその入り口に立って苦笑すると、扉を押し上げようとして思いとどまった。

 ……罠がある」

 直感的に感じ取った私はそのまま横手に回って、チョークで丸印を描いた。

「アリス。ここをぶっ壊せない?」

「ん、できるぞ。ただ、その円通りとはいかないがな。大体この辺りというくらいだ」

 アリスがさっそくC-4を仕掛けはじめた。

「よし、いいぞ。ちょっと離れて伏せて、目を閉じていろ」

 私たちは急いで離れ、地面に伏せた。

 アリスも離れて伏せると、すぐさま起爆させた。

 爆音と撒き散った石だのなんだのが降り注ぎ、やり過ぎだよ……と思った。

「うん、ちょっとでっかい穴が開いたな。行くか?」

 アリスが笑みを浮かべた。

「ま、まあ、大体希望踊りの大きさだね。よし、みんないこう」

 私はそっと穴を覗き、大丈夫と判断して一歩目を踏み入れた。

「みんな、いいよ」

 私が合図すると、みんなが入ってきた。

「あの、なぜ脇から……」

 メリダが不思議そうに聞いてきた。

「あっちにみえる入り口なんだけど、床が微妙に赤いでしょ。あれ、私が開発した魔法なんだけど、間違って罠を踏まないように目印をつけてあるんだよ。ねっ、正面からいったらなんらかの罠をまともに踏んでたってこと。危ないんだよ。さも堂々と入れといわんばかりの出入り口には罠は必ずある。そう思っていいよ」

 私は笑みを浮かべた。

「そうなんですか。勉強になりました」

 メリダが笑みを浮かべた。

「よし、私が先頭でマッピングしながら進むから、最前列はアリスとリナとララに頼んで、スコーンが中段で魔法ね。メリダはその後ろで最後尾はビスコッティね」

 私は笑みを浮かべた。

「あの、私が最後尾では?」

 メリダが不安そうに問いかけてきた。

「後方の守りが必要なんだ。敵が必ず前方からくるとは限らないからね。これで、前後の守りは万全だね」

 私は笑った。

「あの、私はお荷物……いえ、なんでもありません」

 予期していた事をいおうとしたメリダが、私の一睨みで黙った。

「さて、行くよ。どうも、ここには魔物のニオイが漂っているね。セオリー通りなら罠は少なめのはずだけど、気をつけてね」

 とりあえず、みんなに注意喚起をしてから、私たちはゾロゾロと迷宮を進み始めたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る