第22話 新しい住人
翌日、朝食もそこそこに、リナを連れてララが剣の鍛錬場に向かっていった。
「朝から元気いいね。いいことだ」
私は食休みも程々に、庭に出て新しくできたアンテナを見上げた。
「これはまた立派なものを……」
私は思わず笑ってしまった。
「はい、ケチっていませんから。無線は大事です」
家から出てきたビスコッティが、アンテナを軽く叩いた。
「まあ、いいけど。あまり目立っちゃうと、ちょっと困るかなって思っただけで」
「そうかもしれませんが、他にアンテナを立てている家もたくさんありますし、自警団の無線アンテナもあります。。そうそう浮いてみえる事はないでしょう」
ビスコッティが笑った。
「そういえば、魔法研究所がリニューアルされるそうです。王都の研究所が手一杯になってしまって、各地の分所にバラバラに異動になるそうで。ここは、魔法薬を専門に扱う魔法使いが多く配属されるそうです。所長はたしか……メリスさんという方です。魔法薬の権威ですよ」
ビスコッティが笑みを浮かべた。
「へぇ、あのボロい建物をにも人が入るんだね。でも、その情報はどこで知ったの」
「新聞くらい読んでください。一面トップですよ」
ビスコッティは町内新聞を私に押しつけてきた。
「あれ、本当だ。前もって研究者がくるんだね。楽しみ!!」
私は笑った。
目抜き通りにでて、寝ぼけてフラフラしていたスコーンをキャッチした時、朝一番の飛行機がアレクの空港に着陸してくるのがみえた。
「師匠、飲み過ぎです。加減を知って下さい!!」
気付けのつもりか、ビスコッティがスコーンの頬をビシバシ叩いた。
その間、なんとはなしに町の出入り口をみていると、連絡バスから降りた団体さんが現れた。
こんななにもない田舎町に、第一便でくる人などそうはいない。
みなさんの中で、とりわけ目立つ唯一白衣をきた女性が、私たちに近寄ってきた。
「あの、この度アレク魔法研究所所長に赴任する事になりました、メリス・サラドラムです。元着したら、パステルという冒険者を頼るようにという指示を受けています。どちらにお住まいかご存じですか?」
メリスさんは小さく笑みを浮かべた。
「はい、恐らくそのパステルは私です。なにも伺っていませんが……」
私をご指名なのはいいが、事前に連絡をして欲しかった。
「あら、連絡ミスでしょうか。パステルさんに、魔法研究所まで案内頂くようにという指示です。お願いできますか?」
メリスさんは笑みを浮かべた。
「はい、構いません。すぐ近くですよ。ビスコッティ、スコーンをよろしく」
「はい、薬を飲ませたので、すぐに元通りになるはずです」
ビスコッティが笑みを浮かべた。
「では、いきましょうか。ボロボロの建物なので、驚かないでくださいね」
私は笑みを浮かべた。
私は一行を連れて、魔法研究所に向かった。
「なるほど、いつ崩壊するか分かりませんね。これは、補修ではなく建て替えてしまった方が早いでしょう」
メリスさんがつぶやくと、助手なのか衛星電話を取りだした。
「あっ、それならなんでも屋を使って頂けると助かります。業者委託になってしまうとおもいますが、私を通せば仲介斡旋料を安くしてくれますから」
私は笑みを浮かべた。
「そうですか。では、お願いします。その前に、ちょっと用事を片付けてきます」
メリスさんがボロい扉を開けて中に入ると、まず白衣を投げ捨てて男の人が飛び出していった。
しばらく経つと、メリスさんが白衣を脱いで出てきた。
「前所長を追い出しました。ここは、正式に王立魔法研究所アレク支所として稼働を開始しました。さっそくですが、ここには攻撃魔法の試射スペースがあるとか。みせて頂けますか?」
メリスさんが笑みを浮かべ、私は一つ頷いて建物に入り、事務所で使用許可証をもらってくると、メリスさんが笑った。
「律儀ですね。そこが、信用される所以ですか。では、いきましょう」
メリスさんの声に頷き、私は長大な攻撃魔法試射場に向かった。
「すでに情報が入っていると思いますが、全長二十キロもあります。そこのコンソールで映像確認できますし録画も可能なので、私たちもたまに使わせてもらっているんです」
私は笑みを浮かべた。
「これは壮大な施設ですね。二十キロもあるなら、大抵の攻撃魔法は大丈夫ですね」
「はい、あとは壁や床などは結界で覆われているので、かなりの魔法でも大丈夫でしょう」
私は笑った。
「ま、間に合った!!」
スコーンとビスコッティが、急ぎ足で建物の中に入り、息が上がっているスコーンの頭を、ビスコッティが優しく撫でた。
「す、スコーンって、まさか!?」
一団から一人飛び出て、ポカンとしているスコーンの両手を握った。
「あっ、これは失礼しました。私はアイソナ・グランディといいます。攻撃魔法を専門にしているのですが、なかなか仲間がいなくて。スコーン先生の魔法書は全て揃っています!!」
やる気満々という感じで、元気なアイソナさんはスコーンと繋いだ手をブンブン振った。「そ、そうなの。勝手に値段を決められて、高いのもあったはずだけど……」
「高いとは思いません。あのグレンダ山脈を丸ごと吹き飛ばしたという、傑作エピソードが……」
「ダメ、いっちゃダメ!!」
スコーンが慌てて止めたが、ビスコッティがゲンコツを落とし、私が顔面に拳をめり込ませた。
「ダメです、いかなる理由があってもダメです!!」
「へぇ、まだ余罪はありそうだね」
私は笑みを浮かべた。
「そりゃあるよ。私だって、最初の頃はミスしたよ!!」
スコーンが怒りはじめた。
「そうです、ミスばかりなんです。私はまだ初任研究員なので、王都を吹き飛ばしそうになったり、爆風で地面に穴を開けてしまって……始末書の山を作っているんです。なんとかなりませんか?」
アイソナさんはスコーンに抱きつき、ガタガタ揺さぶりはじめた。
「な、なんともならないよ。失敗を重ねて強くなるんだって!!」
スコーンをさらにガタガタ揺さぶっていたが、やがて諦めたように床に崩れた。
「……そうですよね。失敗するしかないんですよね」
「そうだよ。近道なんてないよ!!」
スコーンが笑った。
魔法研究所から出ると、まずは研究所の建物をリニューアルするべく、いつものなんでも屋にいった。
「こりゃ珍しい客だな。どれ、あのぼろ屋の修繕か……」
「はい、建て替えも含めて検討しています」
メリスさんが小さく笑みを浮かべた。
「そうだな、ここは塩害も激しい場所だ。いっそ、その方が早いかもしれん。分かった、業者に声をかけてみよう。俺への手付けはサービスにしておく。金かかるだろうしな」
なんでも屋のオッチャンが笑った。
「えっ、それでは……」
鞄の中に手を入れたメリスが、困惑の表情を浮かべた。
「あそこに赴任って事は、もうこの町の住人なんだよ。それに、パステルの紹介だしな!!」
オッチャンは笑った。
「やはり、かなり信用されているようですね」
メリスさんが小さく笑い、鞄の中から十万クローネ取り出すと、そのまま店のカウンターにおいた。
「ほんの気持ちです。受け取って下さい」
「いらねぇって。もっと大事な時に使ってやれ!!」
オッチャンが十万クローネを押し返し、なにか仕事をはじめた。
「この町にも建築業者はある。まずはそこからだな。今はもう起きてるはずだ。よし、あとは任せろ!!」
「それじゃ、よろしく!!」
私たちはなんでも屋から離れ、通りを歩いた。
「そういえば、宿はどうしますか。私の記憶から抜け落ちる寸前なボロ宿が一件だけありますが、十人で定員だったはずです」
「はい、研究所の寮を使う予定です。しばらく使っていないそうなので、掃除が大変そうですが」
メリスさんが笑った。
「そうですか。もし使えないような状況でしたら、ご一報下さい。庭にテントになってしまいますが、敷地は結構広いので」
私は笑みを浮かべた。
「えっ、お家があるのですか。それなら話は早いです。実は寮が使える状態か不安だったのです。こう見えて、私たちは冒険者ライセンスを持っています。テント生活など慣れっこですよ」
「では、そうしましょう。寝室もあるのですが、数が足りないので」
私は笑みを浮かべた。
二十人の一行を引き連れて家に帰ると、洗濯物を干していたメリダが固まった。
「ああ、怪しい人たちじゃないよ。魔法研究所に赴任してきた新所長とその一団だから。宿がないからここにテントを張ってもらう事になったんだ。メリダにも覚えておいて欲しいから、ちょっと手伝って!!」
「は、はい、分かりました!!」
メリダが洗濯物を干す手を止めて、私の方にやってきた。
「特製の十人用の大型テントなんです。予備も含めれば二十人入りきれますよ。中は可能な限り広くしたので、それなりに快適だと思いますよ」
詰め込めば十五人は入れるので、中にはかなりの余裕があった。
その代わり立てるのは結構時間が掛かり、一人でもできるが三十分は掛かる。
しかし、この人数でやれば、二つ合わせても十五分と掛からなかった。
「あっ、テントのお手入れ?」
どこかに出かけていた様子のスコーンが、駆け寄ってきて笑みを浮かべた。
「魔法研究所の研究者なんだよ。泊まるところがなくて、ここにテントを張る事にしたんだ」
「そっか、ならいつでも話せるね。ところで、今日は五個しか売れなかったんだよ。ビスコッティに怒られるかも……」
スコーンがお馴染みの虹色ボールを作って、両方のテント内にばら撒いた。
「あの、それは?」
メリスさんが不思議そうに問いかけてきた。
「うん、実は……」
スコーンが虹色ボールの効力を説明した。
「はい、分かりました。どうやって作ったのか、興味があるので研究してみます」
研究員の一人が、虹色ボールを一個取ってつぶさに調べはじめた。
「それ、教えたくても教えられなんだよ。新魔法の研究中に偶然出来ちゃったから。ホントはそれじゃいけないんだけど、便利だから使ってる。テントの中にばら撒いたけど、邪魔な場所のボールは勝手に退いてくれるし、我ながら変なのができちゃったよ」
スコーンは苦笑した。
「それでは、私は洗濯物干しに戻ります。まだ早いですが、今夜は期待して下さい。ささやかながら、歓迎パーティをやりたいので」
珍しく自分から提案してくたメリダに頷き、私は笑みを浮かべた。
「あっ、どうしました?」
どこかにいっていたビスコッティとアリスが帰ってきた。
私が事のあらましを話すと、ビスコッティが笑みを浮かべた。
「そうですか。扉の鍵は開けておきますので、トイレやシャワーはご自由にお使い下さい
「そうか、まあよろしく頼む」
ビスコッティとアリスが笑みを浮かべた。
「ねぇ、ビスコッティ。今日は五個しか売れなかったよ。どうしよう……」
「はい、そういう日もあります。今日は少し涼しいので」
困った顔をしたスコーンがビスコッティの服を引っぱり、ビスコッティが小さく笑った。
「あと、シノとララがいますが、まだ帰ってこない様子ですね。この町には射撃場と剣の鍛錬場があるので、そこだと思います」
ビスコッティが笑みを浮かべた。
「そうですか。そのような施設があるのですね」
メリスさんが小さく笑い、空間ポケットから屋外用コンロを取りだして設置し、テントの中に入った。
「なるほど、確かに涼しくて気持ちいいですね。みなさんも適当に割り当てて、中で休んで下さい。私も少し休みます」
メリスさんがテントの床に転がった。
そこは抜かりなく、メリダはさりげなく凝ったパスタ料理を中心とした、ささやかなウエルカムパーティを開いた。
ディナーはもっと気合いを入れるということで、昼食もそこそこにもう仕込みをはじめた。
「美味しいです。仲間に腕がいい料理人がいると嬉しいですね」
メリスさんが笑った。
「そうですね。メリダは料理専門ということで、パーティに加わってくれたのです。腕は確かですよ」
私は笑った。
「あら、賑やかだと思ったら……」
隣のトロキさんが出てきて、楽しそうに笑った。
「はい、今度この町の魔法研究所にやってきた研究員のみなさんです。トロキさんの家にいる方たちもぜひ。これなら、出やすいと思います」
私が笑みを浮かべると、トロキさんは少し考え笑みを浮かべた。
「そうですね。みんなに声をかけてみます。少し待って下さい」
トロキさんは笑みを浮かべ、家に戻っていった。
「出てくれるといいな」
その間に、メリスさんは仲間の輪に加わり、楽しそうに笑っていた。
「うん、なんなら窓ガラスを狙撃してやろうか。絶対出てくるから」
アリスがポソッと呟き、空間ポケット狙撃銃を取り出そうとしたところを、私が必死に押さえて止めた。
「そっか、いいアイディアだと思ったんだが……」
「ダメだって!!」
ちなみ、これはアリスのボケではない。ガチでそう思った時の反応だった。
「全く……。あっ、出てきた」
トロキさんを先頭に。眩しそうに腕で日を遮りながら、初めてみる九名が姿をみせた。「はい、みなさん。こちらがお隣のパステルさんです。優しくて勇敢な方ですよ」
「パステルです。よろしくお願いします!!」
私は一回頭を下げてから、笑みを浮かべた。
「さて、みなさん。パステルさんのお庭に向かいましょう。
トロキさんがみんなを引き連れ、庭に入ってきた。
「ぱ、パステル、なんで呼んじゃうんですか!?」
メリダがワタワタした。
「ん、それがいかんな。いくぞ」
アリスがジタバタするメリダを俵担ぎにして、恐る恐るという感のお隣さんご一行様の前にズドンと置いた。
「あれ、ハーフエルフの子だ。人間社会では滅多に見かけないのに」
誰かがつぶやいた。
「今日の料理はコイツが作ったんだ。まあ、美味いから食っていけ」
アリスが笑った。
「あ、あの、そんなコモンエルフの方々に囲まれると……」
「そんなに怖がらないで下さい。私たちは、厳密にいえばもうコモンエルフではありません。安心してください」
十人のうち一人が、小さく笑った。
ウエルカムパーティが終わると、私とメリダはマーケットで買い物をした。
夜は夜で本格的はパーティをやるということで、トロキさん宅のポストにはちゃんと招待状を入れ、夜が楽しみだった。
「それにしても、ちょっと多すぎない?」
荷物満載のリヤカーを二人で曳きながら、私は苦笑した。
「いえ、このくらいは必要です。早く帰らないと」
メリダは楽しそうに笑った。
マーケットから家に帰ると、さっそくメリダが調理をはじめた。
「ごめんなさい、どなたか手伝って下さい」
「はい、分かりました」
ビスコッティが笑みを浮かべ、メリダと一緒にキッチンに立った。
「あの、これをこうして……」
「はい、分かりました。大丈夫です」
ビスコッティがなにかを縫い合わせた、それを無駄に大きなオーブンに入れた。
「あとは、コモンエルフのみなさんには懐かしい味を。ここのマーケットで代用できる材料を買いました。人間のみなさんには、少し食感がよくないかもしれませんが」
メリダが笑った。
「いいよ。エルフ料理なんて、一度も食べた事がないから楽しみにしておくよ!!」
私は笑った。
夜になって、私はパーティドレスに身を包み庭に出た。
あちこちに淡い光を放つ、スコーンの虹色ボールが幻想的ともいえる光景を醸し出す、し、なかなかいい雰囲気だった。
「会場はバッチリだね。酒はビスコッティが管理してるし、料理も並んだし、あとは五分後の開場を待つだけだね」
私は笑った。
「もう門の前で待っている方もいらっしゃいます。少し早めに開場しては?」
やたらと似合う赤いドレスを着たビスコッティは、緊張しているのかピンクに白玉模様のパーティドレスを着て、近くをウロウロしていたスコーンをキャッチして、背後から抱きしめた。
「そうだね。もう開けよう」
私は青いパーティドレスの裾を翻て、門扉を開けに向かった。
……私だってパーティドレスの一着は持っているよ。
まず最初に来場したのは、お隣のトロキさんご一行だった。
実はこれだけの人数では寂しいと、町中の知っている人たちに声をかけて招待状を渡したのだ。
次いで、やってきたのは自警団の非番の人だった。
こればかりは、全員一緒とはいかないので、一定時間で入れ替えとなっていた。
普段は武骨な戦闘服だったが、パリッとしたスーツ姿でやってきたので、私は少し驚いてしまった。
「顔に出てるぞ。俺たちだって。スーツの一着くらいは持っているぜ」
たまたまなのか交代タイミングを合わせたのか、自警団の団長が笑った。
「それより、お前の変わりようの方が凄いぜ。馬子にも衣装とはよくいったものだな。ばっちりメイクだし、一瞬誰かと思ったぞ」
自警団の団長はそう言い残して、パーティー会場に進んでいった。
「なんだよ、全く……」
私は入り口にある出席表をチェックしようとして、『お気持ちで。死ぬなよ』と書かれた封筒が置いてあった。
中には三万クローネ入っていて、私は思わず笑ってしまった。
「ったく、律儀だね。だから、強固な防備ができるんだろうけど」
私は笑った。
こうして、招待状を出した全員が揃い、パーティがはじまった。
パーティといっても、味気ない言い方をすれば飲み食いしているだけで、誰が主賓という事ではなく、ゆったりした時間が流れていた。
「十二時の方向より飛来物。ドラゴンに似ているが、ドラゴンではない。敵意はない様子」
ちょうど隣にいたシノが、双眼鏡片手に声を上げた。
自衛団一行が一瞬どよめいたが、団長が手で押さえた。
「俺も敵意は感じない。むしろ、要救護な感じだな。ドクター!!」
同じように双眼鏡で相手をみた自警団の団長が声を上げた
「はい、すでに準備はできています」
この町で唯一の診療所の医師が、ドレス姿の看護師たちが点滴セットなどを用意するという、なかなかレアな光景が展開された。
「まさか、そんなのを持ち歩いているとは……」
私は苦笑した。
「あなた方のためですよ。いつ帰ってくるか分かりませんし、特にビスコッティさんとアリスさんが派手に怪我をしているので、一刻を争いますからね」
医師は小さく笑った。
「そ、それはどうも……」
私が苦笑した時、空から降ってきたのは、まだ小さなドラゴンという感じで半分は人間という変わった種族だった。
「ドラゴニアですね。大人しい種族ですよ」
トロキさんがそっと呟いた。
「ドラゴニアかぁ、はじめてだな」
ドラゴニアとは、こんな海沿いではなく、寒い高山を選んで集落を作る種族でなにかあったのは間違いなかった。
「衰弱が酷いですね。とりあえず、栄養剤を点滴しましょう」
医師の診察がはじまり、私は邪魔にならないように三歩ほど離れた。
「ドラゴニアは人間のよう姿と、ドラゴンのような姿になれます。このように両者が混ざったような、中途半端な姿にはなりません。よほど疲弊していたのでしょう」
ビスコッティがドラゴニアの子に手をあて、小さく呪文のようなものを唱えると、ドラゴニアの子は飛行中だったので、そのままドラゴンの姿に変わり、大きく一礼した。
「恩に切ります。急ぎの用事の途中につき、これにて失礼します」
ドラゴニアの子は状況を察してくれたようで、家の外に出てから羽ばたいて飛び去っていった。
「急ぎの用事か。今度はゆっくり会いたいね」
私は笑みを浮かべた。
パーティ会場からは三々五々人が散っていき、残ったのは研究所チームとトロキさんチームだった。
「はぁ、こういうのもいいね!!」
私は笑った。
「そうですね。スコーンさん、記念に花火で打ち上げませんか?」
アリソナさんが笑った。
「ダメだよ。この町はなにか事情でもない限り、攻撃魔法は禁止!!」
スコーンが苦笑した。
「そうなんですね。残念です」
「最初にガイドブックを渡したでしょ。スコーンさん、失礼しました」
メリスさんがアリソナさんに、往復ビンタをかました。
「メリスさん、それではダメです。本当のビシバシはこうです」
ビスコッティが慌てて逃げようとしたが、そのビスコッティの隣に座っていたアリスがビスコッティの額にデコピンをかまし、ビスコッティは声もなくのたうちまわった。
「うん、こっちの方が効くぞ。スコーン、こっちこい」
アリスが笑っても、スコーンは動かずに額に汗をかいていた。
「なんだ、ついでにやってみようと思ったんだがな。まあ、冗談だ」
アリスは手に持っていたグラスの酒を煽った。
「さて、そろそろ深夜だし、撤収しようか。片付けが大変そうだ」
私は笑みを浮かべた。
「私たちお手伝いします。その前に、この希少な食材を多数使った料理が美味しくて……。なんだか泣けてきてしまったので、満足したらお手伝いします」
トロキさんが鼻をグズグズいわせながら呟いた。
他の十人も同じような状態で、私は笑みを浮かべた。
「ゆっくりでいいよ。思うところも多々あるでしょ」
私はトロキさんの肩に手を乗せた。
盛大に広げてしまった屋外用テーブルや椅子の片付けをして、器の片付けや残った料理は明日の朝食に回しすことにして冷蔵庫に入れていった。
ここで活躍したのが魔法研究所チームで、魔法で冷蔵庫に入れるものはそのままで、洗う器は徹底的に洗浄し、きれいに食器棚にしまっていった。
「さ、さすが、魔法使い……」
自分が楽したい魔法を作る。これは、当然といえた。
対して、外の掃除はトロキさんチームが手早く片付け、折りたたみ椅子とテーブルを畳んでは端に置き、私は外に出て空間ポケットに放り込んでいった。
こうして、みんなで片付けを終えトロキさんたちが自分の家に帰ると、庭に張ってあるテント二つに、十人ずつ入ることにしてようで、用意がいいことに全員分の寝袋があり、それぞれ自分のものに入って就寝する事にしたようだった。
「よし、私たちも寝よう。明日はなにか情報あるかな!!」
私は笑みを浮かべたのだった。
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