第21話 買い物デー

 翌日、前回の売られた喧嘩を買ったついでにアジトで、ごっそりお宝を奪い取ったお金はかなりのもので、私のポケットに入れるには大きすぎた。

 パーティの共有資産箱が一杯になってしまい、ダ○ソーで買ってきたカゴに積み上げていると、ビスコッティに頭を叩かれた。

「そんなものに入れないで下さい。金庫ならあります」

 ビスコッティは空間ポケットを開き、中から大きな金庫を取り出した。

「これは単純に鍵があれば開くタイプです。この鍵はリーダーであるあなたが持っていて下さい。スペアキーは金庫の中において、念のため一本はあなたが空間ポケットにでも入れておいて下さいね。これで、あなた以外開けられません。ついでなのでさっそく詰めかえましょう」

 ビスコッティは笑みを浮かべた。

 今までは、いかにもなにか入っていそうな、みるからに宝箱っぽいボロいチェストを使っていたが、これでようやくまともな状態になった。

 チェストから金庫の現金を移し、私がこの前稼いだお金を入れると、ちょうど紙幣の束で半分くらい埋まった

「結構貯まりましたね。では、リーダー。これの精算をお願いします」

 ビスコッティが笑みを浮かべ、ぺらっと紙をみせた。

「へぇ、やっぱり仕事だったんだね。無駄に飛んでいくとは思わなかったけど」

 私はその紙を受け取り、ビスコッティが自分の空間ポケットからせっせと札束を金庫に収め、私がビスコッティの差し出した紙にサインした。

 そう、逆なのだ。本来、ビスコッティもアリスもこのパーティのために闇仕事をしているのだ。

 経費を差し引いて、残りを半々にしてパーティに収める。

 これが、当初からの約束だった。

 まあ、きっちり厳密に半々はしていないが、そこは個人の気持ちに任せていた。

「うーん、かなり資金が集まったし、少しは設備や道具の新調をしてもいいかな。無線機もいい加減ボロいし、衛星電話機はいいや。あとは、なにかあるかな……」

「この家に固定の無線機をおいてみては。据え置き型のトランシーバなら、アンテナを立てればかなりの距離で通信できます」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「非常用にそれもいいか。あとは、スコーン、リナ、アリスに好きな魔法書を買ってもらおうかな」

 私が笑みを浮かべると、ヤカンを持ってウロウロしていたスコーンが、テーブルの上に丁寧にヤカンを置き、目を輝かせた。

「ホント、なんでも買っていいの。高いよ!!」

「いくらくらい?」

 私は笑みを浮かべた。

「えっと、一千万くらいだったかな。すっごいレアでいいことが書いてあるって評判なのを、たまたまなんでも屋でみつけたんだよ。お金もらえたら、今からいってくる!!」

 スコーンが笑顔になった。

「念のため、二千万持っていっていいよ。こういうのって、時価だからね」

 私は金庫の中から札束を金額分取りだし、スコーンに渡した。

「優先権はスコーンにあるけど、パーティの所有物だからみんなで仲良くね!!」

「分かった。いってくる!!」

 スコーンが玄関の扉を開けて、外に飛び出していった。

「しっかし、魔法って高くつくね」

「はい、魔法薬の材料も高価ですよ。まあ、高い分だけの価値はありますが」

 ビスコッティが笑った。

「それじゃ、アンテナを立てようか。なんでも屋でいいか」

 私は笑みを浮かべた。


 てっきり、いつものなんでも屋に行くかと思ったら、ビスコッティはガレージに向かっていき、一台の大型軍用トラックに乗り込んだ。

「どこにいくの?

 助手席に座った私は、ビスコッティに問いかけた。

「武器や防具はある程度町で揃いますが、そうでないものは市場で仕入れないといけません。すぐ近くです、いきましょう」

「市場、そんなのあったかな……」

 ビスコッティがトラックを出し、そのまま町を抜けて街道に出た。

 十五分ほど走ると道端に白い杭が立っていて、ビスコッティはその地点で左折した。

「えっ?」

「この行動には意味があります。そろそろ次の杭が……」

 程なく白い杭があり、ビスコッティがトラックを左折させた。

 まあ、この繰り返しで、街道から分かれていると思しき枝道にテントが立っていた。

「白い杭の意味が分かるって事は、初めてじゃねぇな。よし、身分証をみせてくれ」

 ビスコッティが冒険者ライセンス取り出して提示したので、私も一緒に提示した。

「よし、ちょっと借りるぜ。最近は偽造が多くてな」

 テントにいた強面のお兄さんが、手にした機械にビスコッティの冒険者ライセンスを差しこんで、なにかボタンを押した。

 ピロリ~ンと間抜けな音が聞こえ、今度は私の番らしく、助手席側にやってきたので、私は窓を開けた。

 窓から差し出した私のライセンスを差し出しと、ビスコッティと同様にピロリ~ンをやってお兄さんが頷いた。

「よし、いいぞ。これを貼っておく」

 お兄さんは、助手席側の前方ガラスに小さなシールを貼った。

「それでは、また……」

 ビスコッティがトラックを出し、そのまま道を走っていった。

「これ、どういうこと?」

「はい、これから向かうのは市場の裏口です。この手続きを踏まないと、大混雑の正面ゲートに回されてしまいます。そのシールは、検問を通ったという印ですよ」

 ビスコッティが笑った。

「ちなみに、毎回変わるのでマッピングしても無駄ですよ」

 ビスコッティが笑った。

「なんだ、せっかく頭でマッピングしたのに……」

 私は笑った。


 場所が場所だけに、市場は高く頑丈そうな壁に囲まれていた。

 その裏口とやらに向かってトラックが進んでいくと、門番をしている様子の屈強な男たちがチラッとこちらをみて、特に止められる事もなく市場に入った。

 中は冒険者たちで溢れかえり、ビスコッティは慎重にトラックを進め、空いている駐車スペースに駐めた。

「さて、着きました。絶対に私から離れないように。」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

 市場の中は混んでいて。オイルと火薬のニオイで満ちていた。

「まずは航空機ですね。アリスが常々二番機が欲しいよといっているので」

 ビスコッティが笑い、市場の奥の方にあるヘリだの固定翼機だのを扱っている店に立ちよった。

「はい、いらっしゃい。ご用件は?」

 お店の人が笑顔で店からでてきた。

 何機か飛行機やヘリが置いてあったが、これは見本だろう。

「……あっ、冷やかしです。ごめんなさい」

 ビスコッティが笑みを浮かべ、他の店に移動した。

「ねぇ、さっきの店なにかあったの?」

 私はビスコッティに問いかけた。

「まるで素人の三流店です。目を見れば分かります。新しくできたお店だったので、立ちよってみただけです。では、いつものお店にいきましょう」

 ビスコッティはいくつか並ぶ航空機店の前を通り過ぎ、見本もおいていない一件の店に入った。

「いらっしゃい……って、お前か。今度はなんだ?」

 出会う場所が違っていたら、どこかの盗賊かと思う暑苦しい店のオヤジが、カウンター越しに問いかけてきた。

「Ka-50です。数は一機。フル武装で」

「分かった。またレアな機種を欲しがるな。いいだろう、三日後に配達する」

 店のオヤジは、まるで肉でも買うようにビスコッティと話を進め、ここが常連の店だと分かった。

「それじゃ……。パステル、非常用金庫から二億だして」

「に、二億!?」

 そう、なにかあった時のために、空間ポケットに金庫をしまってある。

 まるで盗んでいるみたいだが、そんな意図はない。

 ただリーダーとして必要な事であり、このことは全員に伝えてあった。

「はい、二億です。それがここの店の買い方なんです」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「分かったけど、こんな往来で金庫をだすのは……」

「奥に更衣室のような部屋があるので、そこでこっそり出して床に置くだけです。二億です。多くても少なくてもいけません。私はパステルを信用しているので、ちゃんとやってくれると信じています」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「いいけど……。あとで共有財産の金庫から補充しないと」

 ちなみに、この非常用金庫には四億クローネ詰め込んであり、その額は私だけの秘密だった。

 狭い店内を通って、私は奥の更衣室みたいな部屋に入ると、私はカーテンを閉めて床に札束を積んでいった。

「ふぅ、これでよし。数はあってるね」

 念のため、私は札束をの数をかぞえ、間違いなく二億クローネある事を確認した。

「さて、このままでるか」

 私は更衣室のような部屋から出て、店の中を通って外にでた。

 すると、ビスコッティが笑みを浮かべ、店のオヤジが頷いた。

「お嬢ちゃん、札束を数えるときは、もう少し声の音量を下げてくれ。誰かに聞かれていないか心配だぞ」

 店のオヤジが笑った。

「……しまった」

 私は思わず口を押さえた。

「手遅れです。ビシバシの刑です」

 ビスコッティが私に、お得意の高速往復ビンタを数発入れた。

「まあ、これはいいでしょう。頼みましたよ」

「ああ、待ってろ。今から手配する」

 ビスコッティが手を上げて答え、店のオヤジが発行した領収書を手に取り、ビスコッティが歩きはじめたので、それにくっついて歩いていった。

「この領収書は大事なんです。これがないと、ここから出る時に手間取ります。現品がなくても、買ったという記録は残りますからね。今頃、あのお店には調査員が向かったと思います。大商いですからね。誰でも目引くでしょう」

 ビスコッティが笑った。

「さて、あとは適当に歩いてみましょうか。アリスのわがままは片付けた事ですし。二番機がないと不安で……と騒いでいたのです。戦闘ヘリには珍しく一人乗りなので、アリスとタッグも組めますし、この程度はいいだろうと思いませんか?」

 ビスコッティが笑った。

「エラく高いわがままだけど、ビスコッティが私を連れてきたって事は、意味があるって事でしょ。買えるなら無理もするよ」

 私は笑った。

「はい、無意味ではありません。あっ、そうでした。無線のアンテナを立てる計画でしたね。普段使っているお店があるので、いきましょうか」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「なるほど、常連さんか。いつも、どこから買ってくるんだろうって疑問が、ようやく解けたよ」

 私は笑みを浮かべた。


 無線機セットの調達も終え、私たちはついでだからと、店を色々みて回った。

 みんなが持っている銃の弾薬を大量購入してはトラックに詰め込み、一発だけ面白い銃弾をみつけた。

「.五十口径DS弾……。ドラゴンスレイヤー弾?」

 私は赤く塗られた弾頭の弾丸をマジマジみつめた。

「恐らく、ドラゴンを倒せるほど強いよという意味でしょう。あの竜鱗を五十口径で抜けるはずがありません」

 ビスコッティが笑った。

「それもそうだね。でも、面白いから買っていって、シノとアリスに渡してみよう」

 私はそれを二箱購入し、領収書と説明書を受け取った。

「さてと、私もなにか銃を買っていこうかな。あると便利な銃……ん?」

 その店では、なにか特殊な銃でも売っているのか、人だかりができていた。

「さて、なんでしょうか?」

 人混みを切り裂くように進み、ビスコッティが愕然とした。

「だ、WA2000。世界に百六十七丁あるかどうか分からない狙撃銃が、なんでここに。でも、値段はそれなりに高いですね。実用しても元が取れるかどうか……」

 などとビスコッティがブツブツやっている間に、私はさっさと購入してしまい、空間ポケットにそれを放り込んだ。

 それに合う弾丸を買っていると、ビスコッティに派手なゲンコツを食らった。

「か、買いましたね。買っちゃいましたね。このバカ、よこしなさい!!」

 ビスコッティが私の口を無理やり開いて、中を覗き込んだ。

「そ、そこにはないよ。空間ポケットだよ!!」

「あっ、そうでした。あれ、もう一丁あるようですね……」

 正気を取り戻したビスコッティが、いきなり値段が倍額まで跳ね上がり、『本当にこれが最後です。早い者勝ち』

 そんな札が掛かった瞬間、ビスコッティが速攻で現金をカウンターに叩き付けて購入してしまった。

「これで落ち着きました。さて、買い物を続けましょう」

 ビスコッティが笑った。


 結局、市場でなんだかんだ散財し、トラックの荷台一杯に積まれた荷物を確認すると、私たちは市場からの出口に向かった。

 ビスコッティのいうとおり、出口では領収書のチェックが行われていた。

「これ、盗賊などの組織に武器が渡らないための措置なのです。領収書がないと列の脇に弾かれて身分証のチェックをしますし、領収書があっても明らかに怪しい人はやはり脇に弾かれて、今度はそれを売った店をここから閉め出すのです。そうなりたくないので、どの店も人をみられる店主が、真面目にやるんですよ。常連さんでも油断するな。ここの標語です」

 ビスコッティが笑った。

「へぇ、それで領収書が必要なんだね。私たちは大丈夫かな……」

「はい、私で大丈夫なくらいなので、パステルは問題ないでしょう」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

 ちなみ、今回は全員分のグレネードランチャーを買った。

 通常のグレネード弾も揃えたが、主に使って欲しい信号弾はかなり多く購入した。

 無線でやり取りするよりこちらが早い場合があるので、前々から欲しかったのだが、町のなんでも屋では入手できなかった。

「はぁ、買ったね。今回は、必要な出費だって思ってるよ」

 ノロノロ進む車列に少しうんざりしながらも、私はビスコッティに向かって呟いた。

「はい、私もです。アリスのわがままを叶えるために、この市場にきたようなものですからね」

 ビスコッティが笑った。

 やがて私たちの番がきて、ビスコッティが纏めて領収書を係員に手渡し、ほかの係員が荷台の荷物をチェックしたようだった。

「よし、大丈夫だぞ!!」

 背後から声が聞こえ、領収書のチェックをしていた係員が頷き、領収書の束を私たちに返した。

「本日はどうも。またきて下さい」

 笑顔の係員に見送られ、ビスコッティがトラックを枝道に出した。

 そのまま進み、街道と合流すると十五分ほどの時間で町に到着した。

 家に到着すると、いきなりの大荷物にみんながびっくりして集まってしまった。

「これなに!?」

 スコーンの声がひっくり返った。

「はい、武器市場にいってきました。アリス待望の二号機は三日後に到着予定です」

 ビスコッティが笑った。

「えっ、マジで買ってくれたのか。高いしダメだと思っていたんだが、それはありがたい」

 アリスが笑みを浮かべた。

「そうそう、面白い弾をみつけてね。これが現物と説明書!!」

 私は例の五十口径弾をアリスとシノに手渡した。

「なんだ、これ?」

 アリスが不思議そうに問いかけてきた。

「ドラゴンスレイヤー弾だって。実際には無理だろうけど、大袈裟な名前をつけたんだろうっていうのが、ビスコッティの見解だよ!!」

 私は笑った。

「また凄まじい名前だな。どれ……」

 アリスとシノが額を寄せ合って説明書を読み、眉間にシワを寄せた。

「……これ、マジでドラゴンを倒せるぞ。頭に小さな逆鱗っていう弱点があるのは知っていると思うが、そこを一点狙えばいい。ただ、かなりの強装薬だな。衝撃も強くなるし、これは腕がいるな」

 アリスが興味深そうに説明書を熟読しはじめた。

「これはまたマニアックな銃弾ですね。しばらく、撃ち込んでみます」

 シノが笑みを浮かべた。

「意外と使えそうだね。よかった」

 私は笑みを浮かべた。

 あとはほとんど弾薬で、全員にグレネードランチャーを配ると、メリダが困った顔をした。

「あ、あの、これはどうやって使えば……」

「これ、中折れ式だからこう開けて……」

 私は信号弾を一発装填し、ガチャッと中央で開いていた銃身を元に戻した。

 その後、上空に向かって一発撃った。

 銃とはまた違うズドンとでもいう感じで発射された信号弾は、長い事光を帯びながら上空目がけて飛んでいった。

「基本的な使い方はこうだね。この方が、はっきり目標物が分かるから便利だよ」

 私は笑みを浮かべた。

「分かりました。空に向けて引き金を引くんですね」

「そういう事。非常用に持っていて!!」

 私は笑みを浮かべた。

 少し悩んだが、私はメリダにグレネード弾は渡さなかった。

 下手に使われて怪我でもされたら困るし、実は私も含めてグレネード弾はもっていない。

 万一に備えて、全てをビスコッティとアリスに渡したのだ。

「ほう、こりゃまた珍しい武器に手を出したな。グレネード弾もあるし。いうことないな」

 アリスは笑った・

 ちなみにグレネードとは、よく手榴弾を遠くに飛ばすような兵器といわれるが、実際そういう認識で間違ってはいない。

 要は炸裂弾を放つ兵器だが、弾薬を取り替えるだけで、様々な用途に使える便利なものだった。

「あとは、なにを買ってきたんだ?」

 アリスの言葉に。私とビスコッティは顔を見つめ合ってから笑みを浮かべ、同時に空間ポケットからWA2000を取り出してみせた。

「な、なに!?」

 アリスが珍しく取り乱し、近くをウロウロしていたスコーンを捕まえ、小脇に抱えると頭を撫で撫でしはじめた。

「たまたま二丁も売っていて、速攻で買ってきたのです。あの市場は、こうやって掘り出し物がたまにあるので、面白いですね」

 ビスコッティが笑った。

「それどっちかくれ。くれないと、スコーンを丸刈りにするぞ!!」

 ……どういう脅しだ。

 素直にそう思った。

「あげてもあなたの銃コレクションに加わるだけでしょう。私は嫌です」

 ビスコッティが変な笑みを浮かべて、バリカンを取り出した。

「はいはい、分かった分かった。要するに、こうしたいんでしょ?」

 私は苦笑して、自分のAW-2000をアリスに手渡した。

「うん、ありがとう……」

 すっかり可愛くなってしまったアリスがスコーンを解放し、私の方に近づいてきた。

「これ、なにに使うの?」

「うん、中距離の狙撃に使おうと思ってる。裏仕事用だけど、迷宮でも使えると思うよ」

 アリスが頷いた。

「じゃあ、いいよ。ポケットマネーだから、無料ってわけにはいかないけど……四千万でいいよ」

 私は領収書をアリスにみせた。

「おいおい、そりゃないぞ。一億でも安い。まあ、一億にしておこう」

 いきなり通常状態に戻ったアリスが、空間ポケットから札束を次々私に手渡し、私は自分の空間ポケットに札束を入れていった。

 銃を手にしたアリスが各部のチェックをはじめ、笑みを浮かべた。

「ずっと欲しかったんだよ。この精度はなかなか出せるものじゃないからね」

 アリスが笑った。

「まあ、よかった。私も自分用の狙撃銃買ったよ。M40A3だったかな。市場でも珍しいって聞いたし、撃ちやすそうだったから買ったんだけど……」

 私が空間ポケットから銃を取り出すと、アリスが固まった。

「そ、それ、どこで?」

「うん、市場のマニアックそうな店だよ。なにか変なの?」

 私は銃を構えてみせた。

「なかなか様になってるな……じゃなくて、それ軍隊の特殊部隊が隊内で作っている、めったに表に出ないものだぞ。あの市場、侮れないな」

 アリスが笑った。

「へぇ、レアなんだ。知らなかったよ」

 私は笑った。

「レアどころじゃないんだが……。まあ、いい。荷物の撤収をしようか」

 アリスが笑みを浮かべた。


 荷物を物置に入れ、ビスコッティがトラックをガレージに戻した時、スコーンと連れだって家を出ていくアリスをみかけた。

「あれ、どこかいくの?」

「うん、目の前のビーチでサンド・ゴーレム作りをやるんだ。私もやった事ないから、ゴーレム生成の呪文はできているんだけど、できるかどうか……」

 スコーンが笑った。

「ゴーレムか。私も作ったことないな。むしろ、破壊する方が多いから」

 私は笑った。

「うん、それじゃいってくる!!」

 スコーンが元気に手を挙げ、アリスを引っ張ってビーチに向かっていった。

「事故を起こさなければいいけど。さてと……」

 私は買ったばかりの狙撃銃を、伏せ撃ちのポジションで構えた。

「こういうの滅多にやらないからな……」

 私が試行錯誤を繰り返していると、サッと頭上に陰が走り、シノが笑った。

「今ので三回は死んでるよ。常に周辺警戒しながら構えること。これ、基本だからね!!」

 シノが珍しく楽しそうに笑った。

「はぁ、大変だねぇ」

 私は苦笑した。

「撃ち方を教えます。まず、その構えはバッドです。こうやって……立ち上がって見てください」

 シノが私の銃を構えてみせた。

「右手はストックを抱きかかえるようにして、その先にある引き金に指を添えます。左手は……」

 突然シノの講釈がはじまってしまい、私は苦笑してから同じように構えた。

「ちゃんと調整済みですね。ストックの長さがピッタリです」

 シノが嬉しそうに笑みを浮かべた。

「そういえば、シノって対物ライフルだけじゃないよね?」

「はい、狙撃銃に限定すれば、あとはVSSというマニアックな銃もあります。これ、発射音がほとんどないので、なかなか使えるんです」

 シノが笑った。

「……もしかして、国家指定冒険者ライセンス持ってる?」

「いえ、そんな面倒なものにはなっていません。音がしたら困る場面で、少し使うだけです」

 シノが笑みを浮かべた。

「そっか、確かに面倒だね。さて、射撃場にでもいく?」

「はい、例のDS弾の特性も知っておきたいですから」

 シノは笑顔を浮かべ、いつもの対物ライフルを空間ポケットから取り出した。

「それじゃ、いきますか」

 私が立ち上がった時、無線にスコーンの声が飛び込んできた。

『緊急事態だよ。アリスが砂に飲み込まれちゃった。私じゃどうにもできないよ!!』

 その声を聞き、私は空間ポケットから取りだした双眼鏡でビーチをみた。

 すると、ビーチは波のようにうねる砂の海になっていて、これは急がないと思った。

「パステル、ゴーレムの弱点は?」

 無表情の本気モードで、シノが自分の銃を構えた。

 核を狙えばいいよ。微かに赤く光っているから、なんとかみえれば……。

「了解。核を発見。攻撃する」

 いつも通り素早く自分のやるべき事をこなし、シノは躊躇いもなく引き金を引いた。

 派手な発砲音が響き、砂浜は元通り落ち着いた砂場に戻った。

「スコーン、収まったよ」

『うん、ありがとう。あとは、アリスを探さないと……』

 スコーンの泣きそうな声が聞こえてきた。

「待って、今から全員でいくから!!」

 私は緊急チャンネルで、みんなを呼び寄せた。

 周波数が同じなので、それを傍受したらしい自警団のみなさんも集まりはじめ、狭いビーチ全体が人で溢れるような騒ぎになった。

 砂の中に棒を突き刺し、それで当たりを探すという原始的な方法だったが、これが一番早かった。

 しばらく経つと、頭の中に呪文が浮かび、視界が真っ白になった。

 その中で一点だけ、オレンジ色の光がみえた。

「そこか?」

 私はオレンジ色の光の点を棒で突いた。

 すると、手応えがあり、私の視界も元に戻った。

「おーい、ここ!!」

 私が叫ぶと、みんなが集まってきて、スコップで掘る作業に入った。

 砂を甘くみてはいけない。

 たった数メートル埋もれただけで身動きが取れなくなり、呼吸もできなくなり、やがては死に至ってしまうほど、危険なものだった。

「……止めるべきだったな」

 私は深く後悔したが、今は落ち込んでいる場合ではない。

 みんなでアリスを砂の穴から引っ張りあげ、ビスコッティが回復魔法をかけると、アリスが咳き込んで苦笑した。

「サンドゴーレムはヤバい。体で覚えたぞ」

 アリスが笑みを浮かべた。

 私は自警団の代表に動いてもらったお礼を支払おうとしたが、全く受け取ろうとしなかった。

「お前たちには、助けられてばかりだからな。それに、ここはアレクの町だ。俺たちの仕事だからな。気にしなくていい」

 自警団の代表は、笑みを浮かべると、ビーチから立ち去っていった。

「かえって悪いな……。おっと、それよりスコーンだ!!」

 私は砂の上に崩れ、ひたすら泣いているスコーンに近寄った。

「……アリスが作った呪文に間違いはなかったんだよ。でも、やってみて術者に水の要素がないって気が付いたんだよ。水がなかったら砂が固まらないのに。ビスコッティも混ぜてやるべきだったんだよ」

「スコーン、失敗したらやる事は?」

 私が笑みを浮かべると、スコーンはハッとした。

「魔法無効化なら使える。これも失敗だよ……」

 スコーンがまた泣き出してしまった。

「そうじゃなくて……ダメだ。私じゃ繰り返すだけだ。ビスコッティ!!」

 私が呼ぶと、ビスコッティが小さく笑ってやってきた。

「サンドゴーレムをもう一度作りましょう。但し、直接やるのは私とアリスだけで、師匠は監視役です。失敗したらもう一回!! それが信条でしたよね。アリスは頑丈なので、もう復帰していますよ」

 ビスコッティの言葉通り、アリスは立ち上がって両腕をグルグル回して、いつでもいけるよ……という体勢だった。

「そ、そんな、あんな目に遭ったのに!?」

 スコーンが目を丸くした。

「アリスの嫌いなことを教えましょう。中途半端です。これはもう、成功するまでやめませんよ。続けましょう」

 ビスコッティがスコーンを立たせ、そのままビーチの片隅まで移動していった。

 ここからだとよく聞こえないが、ビスコッティとアリスの呪文詠唱声が聞こえ、ビーチの一部が盛り上がり、巨大な砂人形ができあがった。

「おっ、やったな。砂でゴーレムなんて初めてみたよ」

 私は笑った。


 大騒ぎも終わり、家に入るとアリスは真っ先にシャワーに向かった。

 一度ついた砂は簡単には落ちないので、しばらくジャリジャリした感じに悩まされるだろう。

 さて、新しい武器を手に入れたからには、その使い方を知っておく必要がある。

「これがこうで……」

 なにかお気に入りになったようで、シノが私の横で逐一レクチャーしてくれた。

 普段は怖がって銃には近寄ろうとしないメリダが、私の隣でグレネードランチャーを弄っていた。

「スコープは標準装備のものですか。これは好みがあるので、色々試して下さい」

「うん、分かった。ありがとう」

 私は笑みを浮かべ、空間ポケットに銃をしまった。

 ビスコッティは例のレア銃を丁寧に拭き掃除しては、手持ちのスコープに変えて喜んでいた。

 そのまままったりの時間が流れ、あとはなんだっけ? と思っていると、玄関の呼び鈴がなった。

 私が扉を開けると、作業服をきたおじさんたちが立っていた。

「市場でアンテナ工事を引き受けたものだ。今から工事で大丈夫か?」

「あっ、そういえばそうだった。大丈夫ですよ」

 私が答えると、中と外を同時に工事するようで、家の中に三人入ってきて大型トランシーバの設置工事をはじめた。

「なに、そんなの買ったの!?」

 スコーンが笑みを浮かべた。

「うん、非常用にね。ビスコッティが選んだから、問題ないと思うよ」

 私は笑った。

「はい、中古にしようかと思いましたが、新品で揃えました。これで、色々助かると思いますよ」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「よしよし、いい感じになってきたね」

 私は笑った。

 よく分からないので、工事の監督はビスコッティに任せる事にして、私は自分の部屋に入った。

「しっかし、市場探索。これも冒険なのかな?」

 私は笑い、ベッドに横になって仮眠を取った。


 夜になって、無線の工事が完了したようで、ビスコッティがリビングに設置した大型トランシーバを調整していた。

「はい、大丈夫です。お疲れさまでした」

 ビスコッティが笑みを浮かべると、職人のみなさんが家の外に出ていった。

「ビスコッティ、どうだった?」

「はい、全て終わりました。これで、遠方の町や村で無線機が設置されていれば会話できますし、救援依頼も受信しやすくなりました」

 ビスコッティが小さな笑みを浮かべた。

「そっか、これより優秀なんだね」

 私は胸ポケットの無線機を取りだした。

「はい、性能が段違いです。まあ、それはみなさんで使うだけですので、そのままでいいでしょう」

 ビスコッティが小さく笑った。

「そうだね。あまり高性能でも困るし」

 私は笑みを浮かべた。

「同じ物が私の部屋にも設置されています。緊急連絡などは、逃しませんよ」

 ビスコッティが笑った。

「そんなに気合い入れなくても……。アンテナは庭?」

「はい、かなり高いアンテナを設置しましたが、高さの調整ができます。嵐対策ですよ」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「なるほどね。さてと、工事が終わったなら夕食にしよう……って、メリダがもうはじめていたか……」

「はい、急いで作ります。少し待って下さい」

 メリダがキッチンで素早く動き、おいしそうな匂いが漂ってきた。

「今日はシチューです。マーケットで、いいお肉が安く手に入ったので」

 メリダが楽しそうに笑ったのだった。

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