第17話 次なる地に到着

 翌朝、朝食を済ませると、酒場で情報収集していたユイが帰ってきた。

「一件情報がありました。ギザール王国で遺跡が発見されたので、腕に覚えがある冒険者に探索を依頼しているようですが、なんの収穫もないそうです」

 ユイが笑みを浮かべた。

「そっか、いこうか。久しぶりの遠出だね。ビスコッティ、手配は頼んだよ!!」

「分かりました。一時間くらいで終わると思います」

 ビスコッティが笑みを浮かべ、家から出ていった。

「ビスコッティが帰ってきたら、すぐに空港に行くよ。ギザール王国なら飛行機で五時間だから!!」

 私は笑みを浮かべた。

「飛行機というと、あの空飛ぶ機械ですよね。乗った事がないので、不安なのですが……」

 メリダが顔を真っ青にして呟いた。

「大丈夫だよ。そう簡単に事故は起きないから」

 私は笑った。

「ですか……。緊張します」

 メリダが笑みを浮かべた。

「さてと、出発準備しようかな。メリダのパスポートつくらなきゃ!!」

 私は笑った。


 真新しいパスポートとあちこち見回しながら、メリダがソワソワしていた。

 それが、海外に出る特に必須の身分証だと教えておいたが、珍しいものは珍しかったようだ。

 なお、ギザール王国はフィン王国を中心にした周辺六国という条約を批准しているため、渡航のためのビザは不要だった。

「それにしても、ビスコッティが遅いね。もう二時間くらい経っているのに」

 リビングの壁にかけてある時計をみると、そろそろ夕方の便に間に合うかという時間になっていた。

 そのまましばらく待っていると、ビスコッティが玄関の扉を開けて入ってきた。

「困りました。いつものお店が逃げてしまったようで、代わりのツテでパスポートを作ってもらっていたのです。ジェシカ・ファンソワとサーシャ・ロリンズどちらがいいですか?」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「そうだな。ジェシカ・ファンソワにしておこう。サーシャ!!」

 アリスが笑った。

「あれ、パスポートって名前を……」

「変えちゃダメ。普通の人は!!」

 私はメリダの頭をコツンと叩いた。

 あまりに仕事をしすぎたため、アリスもビスコッティも渡航禁止命令が出ている。

 その目をかいくぐるため、こうして偽造パスポートが必要なのだ。

「さて、空港に急ぎましょう。今ならまだ間に合います」

 私たちは、すでに身支度して空間ポケットに放り込んであったが、ビスコッティはいち早く終わっていたようで、そのまま外にでた」

 庭を歩いていると、お隣のトロキさんが声をかけてきた。

「お出かけですか。お気をつけて」

 トロキさんが笑った。

「はい、いつも通りお願いします」

 私は数枚の札を入れた封筒を手渡した。

「今月分です。よろしくお願いします」

「はい、確かに受け取りました。掃除と洗濯はお任せ下さい」

 トロキさんが笑みを浮かべた。

「あの、これは?」

「うん、留守番を頼んでいるんだよ。いい人だよ」

 私は笑った。

「そうですか、分かりました」

 メリダが笑った。

「あら、新しい方ですね。名札で分かりました。ハーフエルフである事を示すのは、あまりお勧めしませんよ。私も……」

 トロキさんが髪を持ち上げると、紛れもなく尖った細長い耳をもったエルフだった。

「えっ、この気配はコモンエルフ!?」

 メリダがワナワナその場に崩れ落ちた。

「ほら、里落ちしたコモンエルフでさえ、なにもしなくてもこれです。自分で責任がとれるならいいでしょう。ですが、そうではない。久々に、コモンエルフとして命じます。その名札を外しなさい」

「は、はい!!」

 メリダが慌てて名札を外した。

「さて、これはこちらで預かっておきます。メリダさんですね。少しこちらに」

 あまりに怖かったのか、腰が立たないメリダを背負って垣根越しに名札を預けた。

「少しお待ちを……」

 トロキさんが自分の家に入っていき、一本の棍棒……じゃなかったメイスを持ってやってきた。

「少し重いかもしれませんが、これで戦わなくていいです。持っているだけで、多少の魔除け効果があります」

 トロキさんが、メリダに重たそうなメイスを渡した。

「私はバッティングセンタで使っていましたが、それよりはマシな使い方でしょう。えっと、これにはホルダがあって……」

 垣根を跳び越えてこちらにやってきたトロキさんが、メリダの太ももにベルトのような物を着け、最後にメイスをサクッとセットした。

「では、無事を祈っていますよ」

 ポンとメリダの肩を叩き、トロキさんが垣根を跳び越え……ようとして、足を引っかけてそのまま地面に顔面ダイブした。

「……格好良かったのにね」

 私は苦笑した。

「はい。でも、コモンエルフに掃除させるなんて……」

「だって、お隣さん自分でいい出したんだもん。お出かけ中に掃除でもましょうかって、今はもう鍵を渡している仲だもん。メリダは自分で自分を極端に卑下しているんだよ。おっと、救助しないと。ビスコッティ、回復魔法!!」

「はい、分かっています」

 ビスコッティが笑みを浮かべ、目を回しているトロキさんに回復魔法をかけ、うなり声とともに目を覚ました。

「イテテ……。これで分かりましたか。もし、ハーフエルフだと堂々といえるなら、里落ちしてなんの実権もない私になぜ腰が引けてしまうのですか。コモンエルフの里落ちなんて、最悪なエルフですよ。立場的にはあなたの方が上です」

 トロキさんが笑った。

「あのさ、里落ちってなに?」

 スコーンがそっと問いかけた。

「簡単ないってしまえば、自分の里から逃げてしまった者を指します。こうなると、里がないただの野良エルフになってしまうんです。コモンエルフというのはエルフ族のトップですから、そこから逃げたとあってはいい笑いものです。当然、エルフ社会にはいられず……まあ、ここに落ち着いたのです。家には、同じ里抜けしたメンバーが十人住んでいますが、基本的に表に顔を出すのは私だけです。バレてしまうと厄介なので」

 トロキさんが笑った。

「へぇ、お隣さんが凄かったとはね。人間社会で苦労したでしょ?」

「まあ、それなりには。しかし、ここに家を買ってからは平穏です。これがいいのです」

 トロキさんは遠い目をした。

「それで、いつ帰ってもきれいなんだね。たまに一日で帰る事もあるのに、ピカピカだもん」

 私は笑った。

「全員で清掃員っぽい服をきて、みんなで掃除するのであっという間ですよ。これなら目立ちませんし、みんな外に出られるので助かっています」

 トロキさんが笑った。

「なるほど、それじゃそろそろ行きます。よろしくお願いします!!」

 私は笑った。

 空港までは結構距離があるので、私たちは町の出入り口にちょこんとある連絡バス乗り場に向かった。

「ビスコッティ、飛行機は押さえてあるよね?」

「はい、ギザール国際空港行きの最終便を押さえました。便数が少ないので、これを逃すと一度王都に飛んで乗り換えになってします。四時間は損しますよ」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「それはラッキーだったね。早くバスがこないかな……」

 私は呟いた。


 空港連絡バスで空港までいき、出発ロビーに入ると、ちょうどこれから乗る便の搭乗手続きが開始された事がアナウンスされた。

「それじゃ、さっそく登場手続きを済ませてしまいましょう」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

 私たちはカウンターに行き、パスポートとビスコッティが差し出した航空券をみせた。「私たち、八人パーティなので」

 私が浮かべると、カウンタのお姉さんが笑みを浮かべた。

「かしこまりました。少々お待ちください」

 全員分の服のパスポートをチェックしてから、必要な武器類は空間ポケットに放り込んであるめ、大した量ではない手荷物を預けた。

「あの、失礼ですがその銃はお預かりしましょうか?」

 どうやっても空間ポケットからはみ出てしまう対物ライフルと格闘していたシノが、大きくため息を吐いた。

「そうします。弾丸は抜いてありますので」

 シノが諦めて対物ライフルを預かり荷物に入れた。

「それじゃ、いこうか!!」

 私たちはセキュリティゲートを抜け、出発待ちロビーに入った。

 すでに飛行機はスポットに着いていて、搭乗開始を待つばかりだった。

「えっと……ちゃんとエコノミーだね」

 搭乗券をみて、私は小さくわらた。

 これは航空会社によるが、冒険者ライセンスを持っていると三割から五割も値引いてくれるのだ。

 但し、エコノミー限定になってしまうが、ただの移動手段なので、私は別に気にしていなかった。

「たまには、ビジネスクラスに乗りたい……」

 スコーンは不服なようで、なにかブチブチいっていた。

「そんなの無駄遣いだって。たった五時間だよ!!」

 なにしろ、大洋越えの十数時間を冒険者価格のエコノミーで移動する事もあるのだ。

 それに比べたら五時間など、どうということはなかった。

「うん、我慢する……」

 スコーンが暇そうにお土産コーナーを眺めはじめた。

 ここは事実上の国外である。

 税金が掛からないため、売っているものが格安だったりする。

 その他のメンバーも買い物を済ませた様子で、出発準備が整った。

「いつの間にか、搭乗がはじまってるよ。急ごう!!」

 こうして、私たちは飛行機に乗った。


 フライトは順調に進み、私は副リーダのビスコッティと一緒に、今後の動きを考えていた。現地到着時にはもう夜なので、空港近隣の町までタクシーで移動して一泊してから、レンタカーで目的地の遺跡に向かう事にした。

「空港に着いたら、さっそくレンタカーの手配をしないと……」

「それはお任せ下さい。それより、今日の宿ですが温泉付きが一軒だけあります。そこにしましょうか」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「分かった。そこにしよう。そうなると、目指す町はサイゼだね」

 私はマップを開いて、小さく頷いた。

「遺跡から近いし、その町は好都合だね。レンタカーの手配は任せた!!」

 私は笑みを浮かべた。

「はい、分かりました。なにか、収穫があればいいですね」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

 しばらくすると、スコーンが困り顔でやってきた。

「あのさ、少し寝ようと思って背もたれを倒して音楽を聴こうと思って、椅子のポッチを押したら大音量のヘヴィメタになっちゃったんだけど、どうしよう……」

 スコーンがため息を吐いた。

「分かりました、みてみましょう」

 ビスコッティが笑みを浮かべ、シャカシャカ音がここまで聞こえている後方に向かい、なにか弄っていたが、ようやく直ったようで席に戻ってきた。

「直ったの?」

「はい、ただの操作ミスです。いきなり大音量の音楽が流れたら、誰でも驚くでしょう」

 ビスコッティが笑った。


 約五時間のフライトを終え、空港から二台のタクシーに分乗して、サイゼの町にあるという温泉宿に向かった。

 大体三十分くらいで到着すると、立派な造りの温泉宿に入った。

 部屋代だけだったが結構な値段を取られたものの、最上階に近い展望がいい部屋だったのでよしとした。

「よし、温泉に行こう!!」

 元気なスコーンがマイ洗い桶とタオル、着替えなどを持って声を上げた。

「はい、いきましょう」

 ビスコッティもマイ洗い桶を持ち、やる気満々で笑った。

「み、みんな気合い入ってるね……」

 私は苦笑した。

「入浴は大事です。パステル、早くして下さい」

 ビスコッティが笑った。

「はいはい、急ぎますよ!!」

 私は笑みを浮かべたのだった。

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