第13話 護衛の後半
次の村までは、やはり車で数時間ほど。
この辺りは小さな村々が点在する場所で、私の記憶が正しければ次の村は人口が少なく、十数件の建物があるだけで、あとはどこにでもある公衆浴場があるくらいだった。
「人が少なくても、きっと商売するんだろうな」
私は小さく笑った。
「まぁ、それが仕事だからね」
ハンドルを握るリナが笑った。
「アレクの町まで買い出しにでたら、車を使っても一日がかりだからね。そうそう頻繁にいけるだけじゃないから、こういった商隊はありがたいだろうね」
アレクの町から近場といえば近場の村である。
なにかのついでにこの界隈の村は通過する場合が多いので、色々と状況は分かっていた。
「さて、儲かるといいけどね!!」
私は笑った。
私たちの隊列は街道をひた走り、特に問題なく次の村に着いた。
予想通り村の小さな広場にサランさんのトラックが乗り入れ、私たちも車を止めた。
それを待っていたかのように村の住人たちが集まりはじめ、これが当たり前のようにシノが周辺監視用の櫓に上っていった。
『無線チェック』
「感度よし。頼むよ」
シノに答え、私はそれとなく警戒に当たっているみんなを見回した。
どうやら取っておきの魔法書をみつけたようで、スコーンがそれを片手に財布を取り出し、中を改めてから小さくため息を吐いた。
「あっ、それですか。売れ残りの商品なので、三割引しますよ」
サランさんが電卓を叩き、スコーンが笑顔で魔法書を受け取り、代金を支払った。
他にはアリスとビスコッティが、この前使ってしまった対戦車ミサイルを補充し、ララが変な色の剣をみつけて食いついたが、サランさんの話をきいて小さなため息を吐いた。
「ララ、どうしたの?」
「はい、金色っぽい色をした剣だったので、よもやエクスカリバーだと思ったのですが、ただのイミテーションでした。残念です」
ララが小さく笑みを浮かべた。
……私が持ってるけどね。
心の中で呟き、私は笑った。
「イミテーションじゃ邪魔なだけだね。正直に語ってくれるなんで、サランさんは変わった商人だね」
「はい、普通は黙って売るものですが、嘘で儲けようとは思っていないのでしょう。いい商人です」
ララが笑みを浮かべた。
「さて、商売が終わったら次の村か。その前に、お風呂に入りたいね」
私は笑みを浮かべた。
立ち寄ったついでに公衆浴場で汗を流し、村人と代わって櫓から下りてきたシノが一番最後に入浴を済ませ、私たちは準備が整った。
商隊のみなさんも汗を流したようで、スッキリしてトラックに乗った。
「ここでの商いはこれまでです。次の町に向かいましょう」
サランさんの言葉に頷き、私たちはそれぞれ車に乗った。
この先には、アルカドという小さな町がある。
村より多少規模が大きいが、それでも人口数百人程度の典型的な田舎町だった。
今はもう夕方という時間ではあったが、頑張ればまだ夜には間に合うという時間だった。
「よし……」
私がいいかけた時、地鳴りのような爆音と爆風の波が押し寄せ、村の素朴な建物が一部壊れた。
「な、なに!?」
私が声を上げると、アリスとビスコッティが私たちの車の前にきて、双眼鏡を覗きながら警戒の色を示していた。
『ここからではなにも見えません。しかし、ただならぬ気配を感じます』
緊張した声で、ビスコッティが無線を入れてきた。
「……先にいってみよう。なにか分かるはず」
『分かりました』
アリスとビスコッティが再び後方の車に戻り、私はリナにゆっくり走るように告げ、隊列は夕焼けの中を進んだ。
街道をゆっくり進むうちに、街道パトロールのパトカーがもの凄い数で私たちを追い抜き、戦車隊まで通過していった。
「……ダメだ。これ以上はやめよう」
私はただならぬ事と判断し、このまま進んで夜を迎える方が危険だと、隊列を草原の上に導き、テントを張ることにした。
もう闇が迫っていたので、私たちは急いでテントを張り、夕食用の野外調理セットを空間ポケットから取り出しておいた。
ランタンを適当に並べたり吊したりして、明かりを確保した頃には、もうとっぷり日が暮れていた。
サランさんたちも慣れたもので、オレンジ色の小型テントをいくつか並べ、こちらも準備は万端のようだった。
「さて、あえて食材はサランさんから買おうかな」
私が笑みを浮かべた時、サランさんがやってきた。
「夕食はどうされますか。私たちはもうすぐ傷みそうで売り物にならない食材を使って、盛大にバーベキューを考えていますが、ぜひご一緒に」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」
私は笑った。
「では、みなさんおいで下さい。すでに準備をはじめています」
サランさんが笑みを浮かべ、賑やかになっている商隊のテントをみた。
「みんな、今日はたくさん食べよう!!」
私は笑った。
傷みそうな食材といえばまずは野菜類で、燻製しているとはいえ肉も危なかったようで、みんなでたき火を囲っての夕食は、この先の不安を一時的に忘れるほど楽しかった。
それが終わってたき火を消し、夜の夜中という時間になると、商隊のみなさんは早々にテントに入って休むようだった。
「私たちは警備だね。順番は……」
「いや、私とビスコッティでやる。一晩くらい寝なくても平気だ」
アリスが笑った。
「あまり無茶しないでね。それじゃ、おやすみ!!」
私は人数分入れる大型テントに入り、スコーンが光量を抑えた虹色カラーボールをばら撒いた。
「これで快適に眠れるよ。今夜はしっかり休んだ方がいいから」
スコーンが笑みを浮かべた。
「この空調付き虹色ボール便利だよね。そろそろ夏で蒸し暑いから」
私は小さく笑った。
「でしょ。私が作った中では傑作魔法の一つだから」
スコーンが笑った。
「うん、いいと思うよ。それじゃ、みんな寝ようか」
私は寝袋に入り、そっと目を閉じた。
翌朝、私が目を覚ました時にはみんな起きだしていて、夜間警備をしてくれたアリスとビスコッティが静かに寝息を立てていた。
「さてと、朝食はどうしようかな……」
私が呟くと、ララとリナが笑った。
「もう出来てるよ。白飯と味噌汁、あとは目玉焼きくらいだけど」
リナが笑った。
「そっか、それはいいね」
私は笑みを浮かべた。
「みんなもう済ませちゃったから、パステルだけ食べちゃって!!」
「分かった、食べるよ」
私はララがトレーに乗せて持ってきてくれた食事をとり、人心地ついた。
「さてと、アリスとビスコッティが起きたら、覚悟を決めて進みますか。サランさんの様子によるけど……」
私は小さく息を吐いた。
一晩中大変だったろうなと思いながら、アリスとビスコッティの様子をみていると、思いの外早く目を覚ました。
「はい、仮眠終了です。二時間も寝られれば十分です」
ビスコッティが笑みを浮かべた。
「まあ、徹夜でもよかったんだが、この先なにがあるか分からないからな」
ほぼ同時に起きたアリスが、小さく笑った。
「うん、これで全員大丈夫だね。テントを撤収しよう」
私たちはテントから出て、大型テントを畳み調理器具を片付けた。
全ての片付けが終わった頃、すでに出発準備ができている様子のサランさんが、私に声をかけてきた。
「準備はいいですか?」
「はい、大丈夫です。この先なにがあるか分かりません。気をつけましょう」
私は頷き自分の車に乗った。
車の往来がない街道に戻り、ゆっくり先に進んでいくと、もう間もなく町といところで、街道パトロールが規制線を張って通行止めにしていた。
パトロール隊員が一人近づいてきたので、運転席のリナが窓を開けた。
「なにがあったの?」
「はい、詳しい事は捜査中ですが、大爆発がおきて町が全て消し飛んでしまいました。鉄板で仮設迂回路を作りましたので、そこを通って下さい」
パトロール隊員は小さく敬礼した。
「町が一つって、ただならぬ事態なんだけど……」
リナが驚いた様子で返した。
「はい、詳しい事はまだ判明していません。迂回路はこちらです」
その隊員が赤い棒で示したところに、確かに草原に鉄板を敷いただけの簡易的な道ができていた。
気になったが、分からない事は分からない。
私はリナに進むように促し、鉄板の道に踏み込んだ。
「なんだか、シャレにならない事態が起きたね」
リナが苦笑した。
「うん、普通はあり得ないね。魔法使いが魔法の制御に失敗して、派手に自爆したならともかく……」
私は小さく息を吐いた。
鉄板の道をゆっくり進むうちに、元々町があったであろうところに、巨大なクレータができていた。
「火と水、両方の精霊力を強く感じます。今回の件で、精霊力が関わった事は事実です」
ユイがため息を吐いた。
「火と水、相反の力だね。誰かが魔法戦でもやったか、噂に聞く『魔力相反エネルギー爆弾』か……」
私は小さく息を吐いた。
魔力相反エネルギー爆弾とは、反対極性にある精霊力を無理やりぶつける事で、とんでもない破壊力を出す最強の爆弾だった。
無論、こんな危険な代物を一般人が手に入れるわけがないので、真っ先に思いつくのは密造していたという事だ。
町の中で魔力戦をやったと考えるより、こちらの方が可能性は高かった。
「まあ、みていて気持ちいいものじゃないね。少し急ごうか」
リナが頷き心持ち車のスピードを上げ、私たちは鉄板の道を走っていった。
鉄板の道から通常の街道に戻り移動自体は好調だったが、先の町で商品を仕入れる予定だったサランさんは、どうやらなにか考えているようで、時々無線を入れてきてはなにか確認している様子だった。
『パステルさん、カランザシティまではこの道だけですか?』
サランさんの声が、無線から聞こえてきた。
私はマップを辿って確認し、一人小さく頷いた。
「はい、この街道が最短で一番分かりやすいです。黄金街道を通るルートもありますが、町や村がほとんどないうえに、かなりの遠回りになってしまいます。どうしますか?」
しばらく無言が続いた後、サランさんの声が無線に入った。
『では、まずは黄金街道に入って下さい。すぐに町があるようなので、そこで仕入れをします。商売しようにもめぼしい商品は売り切れなので。あとは元に戻って、商売をしながら進みましょう』
「分かりました。もうすぐ黄金街道です」
私はマップを慎重にみつめた。
黄金街道は金鉱から精錬所まで、大型ダンプが行き来する落ち着かない道路だった。
確かにすぐに町があるので、そこで買い物をしたら、元の東西街道に戻るのが正解だった。
程なく車は黄金街道との交差点に差し掛かり、青信号を左折してすぐにあった町に、逃げるように飛び込んだ。
「ふぅ、この街道は一般車進入禁止にした方がいいよ。信号で並んでいたダンプの数、軽く十台は超えていたから」
私は苦笑した。
町の中は道が広く取られ、いかにも働く男たちの休憩所という感があった。
大型ダンプだらけの広い公共駐車場に車を駐め、私たちはそれぞれの買い物をする事にした。
とはいっても、私たちの買い物はさほどなく、サランさんたちが売り物の肉等を買い込み、トラックに次々と積んでいった。
少しばかりお腹が空いたので、サランさんに断って近くの定食屋に入ると、男たちが黙々ととんでもない量のご飯を食べていた。
「今日は肉野菜炒めだよ。七人前ね」
メニューすらないないなと思っていたらどうも一種類しかないようで、選択の余地はなかった。
今日はといっていた事から考えて、恐らく日替わりなのだろうが、とにかく食えればいいという豪快なお客さんしかこないのだろう。
しばらく待ってテーブルに運ばれてきた肉野菜炒め定食は、控えめにいってもボリュームたっぷりの量だった。
しかし、冒険者と魔法使いは大食いなのが定説。
ご他言に漏れず、私たちは山盛りの肉野菜炒めに挑み、茶碗からはみ出す勢いのご飯を食べ、丼のような大きなお椀につがれた豚汁を全て制覇した。
七人分の料金を支払い定食屋をでた頃には、サランさんの用件も無事に終わったようで、トラックの脇でニコニコしていた。
「お待たせしました。準備が出来たらいきましょう」
私は笑みを浮かべた。
「はい、問題ありません。では、いきましょうか」
私たちは再び車に乗り込み、町を出て街道の交差点を曲がり、元の街道に戻った。
「さて、旅の再開だね。寄り道はしたけど、このままなら明日にはカランザシティに到着できるね!!」
私は助手席で笑みを浮かべたのだった。
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