第8話 聖剣
二時間ほど仮眠を取って目を覚ますと、無事に復活したスコーンがユイとじゃれ合って遊んでいた。
「おっ、治ったね」
私は笑みを浮かべた。
「うん、治った!!」
いつもより元気な様子のスコーンが笑った。
「それならよかった。みんな、まだ起きないか……」
私は小さく笑った。
「あのさ、ここ分からないんだけど……」
魔法書を持ったスコーンが、珍しく私に聞いてきた。
「スコーンで分からない事って……ああ、精霊の話ね。『本人』に聞いてみたら?」
私は小さく笑い、小さく呪文を唱えた。
一瞬空間がボッと燃え、燃えさかる炎を纏ったトカゲのようなものが出てきて、テントの床に落ちた。
「おぎょ!?」
スコーンがびっくりした様子で、魔法書を取りだしだ。
「これは友人のユノ。火の精霊サラマンダーだよ。ああ、纏っている炎は引火したり、熱かったりはしないから安心して」
私は笑った。
マッパーという役割ではあったが、私は直製精霊と会話が出来る精霊使い『エレメンタル・テイマー』と呼ばれる能力があった。
「いきなり呼び出してなんだい?」
ユノが私に問いかけてきた。
「うん、友達が火の精霊について知りたいんだって。スコーン、本を見せて」
私は笑った。
火の精霊について書かれた本の内容を、本人が添削指導してくれるのだ。
これほど確実な事はないだろう。
「ん、僕について知りたいの?」
スコーンがポカンとしながら、本のページを繰って問題の場所を提示したようだった。
「うーん、なにこれ。全然違うよ。正しくは……」
正気に戻った様子のスコーンに、ユノが解説を始めた。
「それにしても、お姉ちゃんは僕の力を強く引き込んでいるみたいだね。僕の力は便利で不可欠だけど、破壊力も強いから強いから気をつけてね。それじゃ、まだ語り切れていないから、このまま続けるよ」
ユノはスコーンに色々と解説をはじめた。
「なにせ、この精霊の力が魔法の原動力っだからね。聞いておいて損はないよ」
私は笑った。
みんなが目を覚ますと、この際だからと四大精霊全てを呼び出してみた。
風の精霊はいわずと知れたシルフのユイ、火の精霊はサラマンダーはユノ、水の精霊ウンディーネはユリ、土の精霊はノームのユキ。催促されたので、全て私が名付けたものだ。
「はい、あなたは私の力を引いているようですね」
ユリが笑みを浮かべた。
「うむ、ワシの力も少しあるな。スコーンとビスコッティとやら、少し話そうか」
さらにユキも加わり、精霊力の講釈をはじめた。
こうして、一気に賑やかになったテント内は、精霊たちが自分が持つ力を各個人に解説して回る場になった。
その結果、空間ポケットと明かりの魔法くらいしか使えなかったアリスが、眠っていた土の力を目覚ましてもらい、一気に魔法のレパートリーが増え、魔法とは縁がなかった本人が一番焦っていた。
「これは、しばらく落ち着かないね。先に進むのはもうちょっと経ってからだね」
私は苦笑した。
一通り精霊たちが講釈を終えると、私はユイだけ残して元いた場所に帰ってもらった。
なぜユイが私に懐いているかというと、とある迷宮で落とし穴の罠を跳び越えたとき、着地点にいたユイをまともに踏んづけてしまい、なぜか気に入られてずっとくっつくようになったのだ。
本人曰く、『人間で私を踏みつけた事に気づくなんて、素敵な方』だそうだが、そこはよく分からない。
さて、みんなが落ち着いた頃合いをみて、私たちは先に進むことにした。
テントを撤収し、スコーンが命がけとほぼ同義で手に入れてくれた情報を基に書いた資料をクリップボードに挟んでから、私はいつも通り隊列の先頭を歩きはじめた。
通路にはポポポポポがまき散らした種が山ほどあったが、それは無視して先に進んでいくと、元は隠し扉だったと分かる先に四層へ下りる階段を見つけた。
「こんな場所にあったなんてね。完全に見落とした……」
私は小さく息を吐き、そっと室内に足を踏み入れた。
ここは未踏のエリア。狭い小部屋ではあったが、どこに罠があるか分からないので、まずは私だけ入って、丹念にチェックをした。
いくつか残っていた単純な罠を破壊して、私はハンドシグナルで中にこいと、みんなに合図を出した。
「ここはもう大丈夫だよ。階段は気をつけて」
私は唾を飲み込み、巧妙に階段に仕掛けられた罠に気を配りながら、ゆっくり下りていった。
程なく四層に到達すると、私は息を吐いた。
「さて、ここからはマッピングだよ。戦闘はよろしく」
私は新しい紙をクリップボードに挟み、まずはこのフロアの全体像を捉えるべく、みんなで歩いた。
「ちょっと、ストップ」
そこそこ進んだところで、気になるところをみつけ、私は足を止めた。
そこはなにもない壁だったが、罠の破壊に使っている道具でコツコツ叩いてみると、石積みの一つが他と違う音を発した。
「うん、なにかあるな……」
私が自分に結界を張ると、ビスコッティが精霊から話を聞いたことで呪文を組み直したという、強固な結界で他のみんなを保護した。
道具でそっとその石を外してみると、中に石造りの大きなボタンのようなものが見つかった。
「罠か当たりか……」
私は小さく笑み浮かべ、そのボタンを押しこんだ。
ガコンと音を立てて壁がスライド式に開き、人一人ほど入れる空間が現れた。
「当たりだったね」
私は笑みを浮かべ、さすがにカンテラの明かりでは心許なかったので、明かりの光球を中に投げ込んだ。
明かりに照らされた室内には、中央部に祭壇のようなものが設えられ、そこに一振りの剣が安置されていた。
「……罠が多そう」
私は結界を張ったまま、胸の無線機を手にした。
「ビスコッティ、当たりだけど罠が多そう。しばらく待機していて」
『はい、分かりました』
ビスコッティから応答があり、私は無線機を胸のポケットに戻した。
「さて……」
私は床と壁を見ながら、ゆっくりと室内に入っていった。
「……やっぱり」
部屋の中はほとんど罠という凄まじいガードで、祭壇に近づけるかという気合いと執念がこもっていた。
「これはもう勝負だね。いいよ、受けて立つ……」
私は全ての道具を駆使して、片っ端から罠を破壊して周り、単純な機械式から高度な複合タイプまで全て排除していった。
「さて、これで全部だね。あとは、祭壇周りの結界か……」
私は息を吐いた。
祭壇の周りは薄い光りの膜で覆われ、結界で防御されているのは確実だった。
「私も結界破りの魔法は使えるけど……やってみるか」
私は結界に近づき、呪文を唱えながらそっと近寄った。
両手に光りを帯びた私は、その結界に触れた。
その瞬間、結界に弾き飛ばされ、私は反対側の壁にめり込むんじゃないかという勢いで衝突した……。
「……こ、これは効いた。骨が何本か持っていかれたな」
私はそのまま床に転落し、なんとか胸の無線機を手にした。
「ビスコッティ、罠はどうにかなったんだけど、結界破りに失敗した。多分、重傷……」
『はい、分かりました。今からいきます』
ビスコッティの声が聞こえ、私は肩の上に乗っていたユイの治療を受けた。
「あの、これは簡単に治りませんよ。少し時間を下さい」
ユイが必死の形相で、回復魔法を連発してくれた。
「やっぱりね……。あっ、ビスコッティ」
私は床にへたばったまま、室内に入ってきたビスコッティに苦笑した。
「全く、素人が下手に触るなとあれほどいっているのに。折れているついでに、もう一本骨を折っておきますか?」
ビスコッティが小さく笑みを浮かべた。
「それは遠慮しておく。それより、あれどうにかなるかな……」
私が聞くと、ビスコッティは結界の先にある剣を見つめた。
「火属性の珍しい結界です。これは、師匠の出番ですね」
ビスコッティが、一緒に連れてきたスコーンの肩をそっと押した。
「うん、確かに火の属性だね。ちょっと待って!!」
スコーンは祭壇に近づくと、結界の手前で呪文を唱えはじめた。
そっと結界の膜に手を当て、スコーンは呪文を唱えるのをやめた。
「ちょっと待って。結界を解析するから。予想とは違った!!」
スコーンが目を閉じて結界にてを当て、程なくスコーンは目を開けた。
「これ、私が作った魔法じゃ解除出来ないよ。しっかり固定されてるから。急いで新しい魔法を作るからちょっと待ってて!!」
スコーンはノートを取り出し、なにやら作業をはじめた。
スコーンの特技は、状況に合わせて素早く魔法を組み上げてしまう事だ。
このおかげで、今までに何度も救われていた。
「よし、出来た。さっそくやってみよう!!」
スコーンはそっと目を閉じ、薄赤い結界の膜に手を触れ呪文を唱えはじめた。
程なく結界の膜が明滅を繰り返し、音もなく消え去った。
「これでいいの?」
スコーンが笑みを浮かべて、私のところに戻ってきた。
「うん、これで大丈夫だよ。ありがとう」
私は笑みを浮かべた。
「それにしても、手ひどくやられましたね。ユイだけでは辛いでしょう」
ユイに加えてビスコッティが回復魔法で治療してくれ、なんとか立てる程度まで回復した。
「はぁ、強烈だったな……」
私は苦笑した。
「結界を甘くみてはいけません。分かっていると思いますが、精進が足りません」
ビスコッティが笑った。
「分かってるよ。さて、お宝を取ってきますか」
私は祭壇まで歩き、周囲の罠などを丹念に調べ、問題ないと判断して豪華な意匠が施された剣を手に取った。
「さてと、『鑑定』してみますかね……」
私は床に座り、呪文を唱えた。
こうする事で、そのアイテムの来歴や由来などを調べることが出来るのだ。
「……えっ!?」
私は思わず声を上げてしまった。
「どうしました?」
ビスコッティが笑みを浮かべ、スコーンが全員に入ってくるように無線連絡した。
「こ、これ、伝説の剣だよ。『聖剣マクガイバー』……こんなところにあるなんて……」
瞬間、ビスコッティの目が変わった。
「……寄越しなさい」
「イヤだ!!」
私は素早く自分のボロ剣を腰から外してビスコッティに渡し、マクガイバーを腰に帯びた。
「これではありません。そっちです」
ビスコッティが、私の腰に下がっているマクガイバーを指さした。
「だって、使わないじゃん。そのボロ剣だってミスリルを使ってるし、有名な職人が打ったものだよ!!」
私は慌てて立ち上がって、その場から逃げた。
「ダメ!!」
スコーンの右ストレートがモロにビスコッティの顔面にめり込み、やっと正気に戻ってくれた。
「あ、あれ?」
ビスコッティが鼻血をたらしながら、首を左右に振った。
「あれじゃないよ。まあ、こういう剣には人を惑わせる力があるものだけど」
私は苦笑した。
みんなが入ってきて、ララが私の腰に下げられた剣に触れた。
「いい剣です。銘は分かりますか?」
ララが笑みを浮かべた。
「うん、なんとあのマクガイバーだよ。知ってるでしょ?」
私が笑うとララは一瞬目を見開き、すぐに目を光らせて自分の剣を抜いた。
「勝負しましょう。勝った方のものということで……」
「うげ!?」
まあ、大体予想はしていたが、魔法剣士であるララが見過ごすわけがなかった。
「……これ欲しいしな。いいよ、勝負しよう」
私が笑みを浮かべると、ララが練習用の木剣を放ってきた。
まさか、真剣でやるわけにもいかないので、これは当然といえた。
「一本勝負です。やりましょう」
ララが剣を構え、私もそっと構えた。
マッパーとして最前列を歩くからには、一番最初に敵に当たることになる。
そのためには、それなりの戦闘術は必須だった。
「では、はじめましょう」
声と共に突っ込んできたララの剣を受け流し、私は自分の木剣でララの背後を狙った。
しかし、素早く反転したララが私の剣を受け止め、そのまま押し合いの降着状態になった。
「失礼ですが、意外とやりますね。普段、剣で戦っているところをあまりみないので」
ララが笑みを浮かべた。
「なかなかのものでしょ。大体、引っ込んでないと邪魔になっちゃうからね」
私も笑みを浮かべた。
「さてと……」
私は素早くララの胴体を蹴り飛ばし、倒れたところで畳み掛けた。
でも、これは読まれていたようで、ララは床を転がって避けて飛び跳ねるように立つと、私に鋭い突きを入れてきた。
咄嗟に身を捻って避けると、ララの剣先が私の革鎧を掠めた。
「さすがにやるね!!」
それからは、お互いに剣の乱打戦になった。
しばらく続いたところで、一瞬の隙をみせたララの顔面目がけて木剣を繰り出し、寸止めをして笑みを浮かべた。
「一本、それまで!!」
いつの間にか審判になっていたリナが手を挙げ、大声で笑った。
「はぁ、負けちゃいました。剣士兼マッパーなんてイカしてると思いますが、どうですか?」
木剣を回収したララが笑った。
「やめとく。よし、これでこのマクガイバーは私のものだね」
私は笑って、鞘に収まっているマクガイバーを抜いた。
材質不明の綺麗な剣には、古代語で『全ての冒険野郎に捧ぐ』と彫り込みされていた。
「よしよし、これぞ冒険の楽しみだね」
私は笑った。
四層はまだ発見されたばかりで、そこら中に罠が残されていて、私たちはジリジリとフロアの全体像を掴む作業をしていた。
「魔物はいないか……。まあ、これだけ罠があったら、いるはずもないんだけど」
ゴッテリと罠がある階層に魔物などいたら、根こそぎ引っかかってしまって意味がなくなってしまう。
そういう意味では、この階層は比較的安全といえた。
「さて、もう半分くらいかな。気を緩めないでいこう」
私は半分は自分にいい聞かせ、通路に次の一歩を踏み出した時だった。
ガタンという音と共にいきなり足下の床がなくなり、先頭を歩く私だけが穴に転落してしまった。
「しまった……」
しばらくの落下の後、穴の底に転がると私はホッとした。
こういう落とし穴の場合、底に尖った杭などを設置しておいて、確実に罠に引っかかった者を殺す作りになっていたりするので、落ちた瞬間に覚悟を決めていたが、幸いその心配はなかった。
しかし、穴の深さはなかなかのもので、ツルツルの壁も相まって自力で登るのは不可能だった。
『大丈夫ですか?』
無線にビスコッティの声が飛び込んできた。
「なんとか無事だよ。ユイが風の魔法でクッションを作ってくれたみたいで、怪我はしてないけど、レスキューを要請するよ。これは深い……」
『分かりました。穴が狭いので小柄な師匠にいってもらいます。これだから、浮遊の魔法を作っておけといったのです。全く……ブツブツ』
なにやらお説教をはじめたビスコッティの言葉を無視して、私はスコーンが下りて来るのを待った。
しばらくして、魔力光を伴ったスコーンがフワフワと下りてきて、ニコッと笑みを浮かべた。
「助けにきたよ!!」
「ありがとう。じゃあ、出ようか」
私は笑みを浮かべた。
スコーンは私の体と自分の体をロープで巻いて離ればなれにならないようにしてから、魔法でフヨフヨ上がっていった。
今になって改めて気が付いたが、この穴の深さは二十メートルを超えるだろう。
杭なんかなくても、まともに落ちたら命はないだろう。
「スコーンは喜びそうだけど、一応『テレポート』って名付けた空間移動魔法は作ったんだけど、不安定過ぎて使えないんだよね。どこに出るか分からないから、マジで危なくて」
私は苦笑した。
「なにそれ、なにそれ。代わりに研究する!!」
スコーンは笑い、私は鞄の中に入れてある魔法研究ノートをスコーンに渡した。
「さすがに本職に渡したら笑われそうだけど、使えそうな魔法を研究した結果が書いてあるよ。ほとんど没だけど……」
「ん?」
スコーンがノートを受け取りさらさらっと読むと、笑顔で返してきた。
「ダメだよ、自分の魔法は大事にしないと。気軽に研究ノートなんか見せたら、パクられちゃうからね。でも、テレポートは教えて。これならいい!!」
スコーンが笑った。
「そっか、分かった。えっとね……」
上がる間に私は口頭で魔法の説明をした。
「分かった?」
「うん、大体は。なかなか面白い発想だよ!!」
スコーンが笑った。
「でもねぇ、私の知識じゃ……」
「だから、勉強して研究するんだよ。私は、ビスコッティにそういう教え方をしたよ!!」
スコーンが笑った。
「まあ、ビスコッティは魔法好きだからね。私は補助的に使えればいいと思ってるから、さほど熱心ではないかな」
私は小さく笑った。
スコーンと一緒に落とし穴から出ると、この道はもう使えないので、書いているマップにバツ印をつけた。
「よし、ガンガンいこう!!」
私たちは四層をゆっくり慎重に隅々まで調べながら進んでいった。
「……おかしいな。五層への階段がない」
私は顎に指を当てて考えた。
ここまで調べた結界、マップは完成していると思うが、そのどこにも階段がありそうな空間はなかった。
「よし、大休止にしよう。いったん寝てから考えよう」
私は肩をグリグリ回し、小さく息を吐いてから空間ポケットから、テント一式を引っ張り出した。
みんな慣れたもので、テントの設営を終えると簡単な食事を作って食べ、テント内に寝袋を敷いた。
「……楽してるみたいで嫌なんだけど、もしかしたらまた詳細探査の出番かもしれない。ユイ、この情報を買ったのは誰?」
私が問いかけると、ユイは笑みを浮かべた。
「はい、ジャックというあまりみない顔でした。安かったので、その情報を買ったのです」
ユイの答えに、私は思わずテントの天井を見上げた。
「そいつ、ガセ情報を売る事で有名な悪徳情報屋だよ。恐らく、この四層が見つかった事で、それを誇張して六層までなんて情報を流したんだと思う。スコーンの出番かな」
私はため息を吐いた。
ユイは普通の人には姿が見えないが、望めば姿を作って誰でも見えるようになる。
酒場に行くときは人間の女性の姿で入るので、変な情報屋に見つかるのは当たり前だった。
ちなみに、この姿は長くはもたないらしく、普段は私の肩に乗って蝶のような姿をしていて、パーティメンバーだけには見えるようにするという、器用な事をやっていたりする。
「スコーン悪いけどもう一回詳細探査で階段を探して。今、マップを出すから」
私は四層のデータを書いた紙に手を当て、ユイがそれを立体地図にして虚空に表示させた。
「分かった、やってみる!!」
スコーンは静かに目を閉じて呪文を唱え、私の記憶から描いた立体地図に様々な点が表示された。
「緑は私たちと同じ、このフロアにいる冒険者。黄色はテント。敵対する存在は赤だけど、幸いいないみたいだね。階段はないよ」
早くしないと、スコーンの魔力が切れてしまう。
私は素早く手元にあるマッピングデータを参照して漏れがないことを確認し、スコーンに礼をいってやめてもらった。
「はぁ、この魔法は要改良だね。もう限界……」
スコーンがひっくり返り、ユイが魔力譲渡をはじめた。
「まあ、これでガロンゾの迷宮も攻略になるのかな。何番目かは分からないけどね」
私は苦笑した。
みんなも疲れているし、スコーンが当分動けない事を考えて、私たちはここでしばらく休む事にした。
ここは、上の三層への階段より少し離れた場所で、他にもいくつかテントが並んでいた。
「みんな、お疲れ様。寝ちゃっていいよ」
私は笑った。
「はい、そうします。帰りがありますからね」
ビスコッティが笑みを浮かべ、自分の寝袋に収まった。
みんなもそうして休み、私はユイが治療中のスコーンの様子をみた。
「ユイ、大丈夫かな?」
「はい、安定しています。私が魔力譲渡を繰り返せば、問題はありません」
ユイが笑みを浮かべた。
「分かった。それじゃ、頼むよ」
私は笑みを浮かべ、自分の寝袋に入った。
どれほど経った頃か、私が目を覚ますとスコーンを含めて、みんながちょうど起きたようだった。
それぞれの寝袋を各個人で空間ポケットに放り込み、テントを撤収して出発準備を整え、私たちは三層へと上っていった。
相変わらず多いテントの間をすり抜けるようにして歩き、そのまま二層、一層と抜け、私たちはちょうど昼頃の外に出た。
闇に慣れた目には日の光が眩しく、私たちは町の外れに陣取っていた大型テントを目指した。
テントに着くと、ビスコッティが結界を解き、中に入って一休みを決め込んだ。
「もう少し休んだら、駅に行って切符を買ってくるよ」
私は小さく笑い、空調用の虹色カラーボールをテントにばら撒く姿を見つめたのだった。
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