第199話 アマテラスの最期

 神の島に落とされた二柱の神を追いかけて山頂に向かう。


 ツクヨミ様の力で飛翔による移動は、今までの移動よりも遥かに早く、島随一の高さを誇る山頂にあっという間に到着した。


 俺達が到着した頃、山頂にはサバト様とアマテラスが睨み合っていた。


「人族か。忌々しい」


「ほぉ、一言も喋らないと思ったら、人族に対する怒りだけは残っているようだな?」


「ふん。人族は全て根こそぎ絶滅させねばならない!」


「くっくっ。やれるもんならやってみな」


 次の瞬間、二柱の神がぶつかり合う。


 周囲に圧倒的な力の波動の波が広がっていく。


 たった一瞬で無数の攻撃を繰り返す神々に、人族が付け入る隙はないと言わしめるかのようだった。


 そんな中、美しい金髪をなびかせたフィリアがゆっくりと二柱の神に近づいていく。


 まるで恐怖を一つも感じないかのように、微笑みを浮かべたフィリアは双剣を取り出すと共に、走り始めた。


 轟音が鳴り響く中、フィリアが一輪の花のように舞い降りる。


 突然の参戦にアマテラスも対応が遅れて傷を増やしていく。


 凄まじい剣戟がアマテラスを襲い、それを防ごうとすると、隣からサバト様の重苦しい攻撃が鳴り止まず、降り注いだ。


 次第に傷を増やしていくアマテラスだったが、次の瞬間、全身から黄金色の光を溢れさせる。


 先程と比べものにならない速度に上昇したアマテラスがフィリアとサバト様を襲い始める。


 どんどん圧されていくふたりだったが、どうしてかサバト様は口角をあげていた。


「くっくっ。飛鳥あすかよ。焦ったな?」


 サバト様のセリフと共に、重い殴りがサバト様の腹部を直撃して後方に大きく吹き飛んだ。


 続いて黄金色に輝く無数のビームのような攻撃を繰り出して、フィリアと俺達に向けて放してきた。


 少なくともアマテラスは俺達を嫌でも意識しているという証拠だ。


 ルリくんとルナちゃんが凄まじい速度でアマテラスに向かって走り出す。


 黄金の魔法を潜り抜けながら、一瞬で近づいて黒竜の糸と短剣で攻撃を繰り出す。


 二人の攻撃はアマテラスのバリアを破る事はできなかったが、動きを止める事に成功する。


 飛ばされたと思われたサバト様の姿が現れ、アマテラスを殴り飛ばした。


 隣のお父さんが剣に炎を纏わせる。


 母さんもまたその剣に力を与える。


 炎はやがて爆炎と変わり、赤色からより濃い深紅色に染まり、母さんの力を受けて緑色を吸い込み黒炎と変わっていく。


 地面に叩きこまれたアマテラスに向けてお父さんの巨大な黒炎の斬撃が降りた。


 爆炎と爆音が周囲に鳴り響いた。




「これでも倒せないか……さすがは神だな」


「ええ。こちらには神様が二柱もいるというのに……」


 サバト様にツクヨミ様まで力を貸してくれているのに、光の神アマテラスを倒す事ができずにいる。


 そんなアマテラスだが、サバト様曰く、もっとも厄介なのは火力や防御力よりも――――再生能力だという。


 そもそも人は動けば身体が疲れていくはずだが、神にそういったモノは存在しない。


 目の前のアマテラスはその能力がさらにずば抜けている。


 戦いながら傷を負っても、素のまま回復していく。


 それこそがサバト様がもっとも恐れている彼女の絶大な能力だ。


「大丈夫。回復が早いのなら、それを上回る速度で叩けば問題ないわ」


 山頂にフィリアの声が響く。


 何の根拠もないはずの言葉なのに、何故かそうだと答えてしまうくらい、フィリアの言葉を信じたくなる。


「私はソラの妻。絶対に世界を好き勝手にはさせない」


 フィリアの双剣が姿を変え始める。


 細く真っすぐな刀身が少しいびつな形に変わっていく。


 そして、不思議なオーラが灯る。


「みんな、いくよ!」


 音よりも早くフィリアがアマテラスに無数の剣戟を与える。


 防ぐよりも被弾が多い。


 続いてルリくんとルナちゃんの攻撃やサバト様の攻撃が続く。


 それと共に、俺とお父さんの左右に分かれた攻撃がアマテラスを襲う。


 必死に反撃を試みるアマテラスだが、その傷はより深いモノとなっていく。


 動きも段々遅くなっていくアマテラスに俺達は止まることなく、攻撃を続けた。




 再度アマテラスの全身が黄金色に光り輝く。


「くるぞ!」


 サバト様の言葉よりも先にアマテラスの攻撃が俺達を襲う。


 全身を叩きつける空気に吹き飛ばされていく。


 たった一撃で自分の全身がボロボロになるのが分かる。


 サバト様はこう攻撃にずっと耐えていたんだ。


 前線では辛うじてフィリアだけがその場に留まる事ができたが、すぐに片膝をついて血を吐くのが見えた。


 困った表情を浮かべたフィリアと目が合う。


 ――――そうか。守るために君は行くんだね。


 笑みを浮かべた妻は――――力を解放した。




 全身から真っ青に光り輝く力が溢れ、黄金色のアマテラスとぶつかる。


「!? スサノオ!?」


「スサノオの力には見覚えがあるのかしら」


「なぜあの子の力をお前なんかが!?」


「貴方を倒して欲しいらしくてね。でも長く使うと私の身体が持たないから、決着をつけさせてもらうわ」


 美しい黄金と蒼がぶつかり合う。


 神々の戦いは美しいとさえ思える。


 洗練された動き、圧倒的な力。


 たった数十秒の攻防だったが、時間が止まったかのように感じる程だった。


「おいおい、アマテラス。わしを忘れていないか?」


 ぶつかり合う黄金と蒼の傍から真っ黒が押し寄せてきた。


「サバトおおおおお! また私の邪魔をするかあああああ!」


「当たり前だ! お前を止めるためにここまで来たんじゃからな!」


「許せん! もう世界そのものを崩壊させてやろう!」


「そうはさせん!」


 黒と蒼が黄金を攻撃し続ける。


 悔しいが俺達は満身創痍でびくりとも動けず、ただただ神々の戦いを眺めるしかできなかった。


 その時、黄金から大きな力が溢れ、空に広がっていった。


「いかん! 娘! 止めるぞ!」


「了解しました!」


 二人の攻撃がますます重くなっていき、アマテラスの身体がボロボロになる。


 しかし、最後の力が空の彼方に消え、アマテラスは笑みを浮かべていた。


「く……は……は…………わた……しの……勝…………ち…………だっ」


「ちっ!」


 倒れるアマテラスから視線を外し、空を見上げた。


「サバト様。これから何が起きるのですか?」


「…………世界の滅亡だ」


 アマテラスを倒したはずなのに、世界は滅亡を目の前にした。

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