第198話 空を覆う闇

 荷馬車から通り過ぎる空の景色と、下に流れる広大な海の景色は、一見変わらないように見えているが、空を飛んでいる雲が目にも止まらない程の速度で走り去っていく。いや、俺達が猛スピードで走り抜けているのだ。


 精霊王である母さんの一番得意な属性は『風』だ。


 風魔法は使い方次第で移動にも使えるため、俺達はとんでもない速度で進んで行く。


 暫く飛んだ先に、凄まじく強い気配と共に白色と黒色の爆発が起きるのが見える。


 相当遠いはずなのに、ここまで光が鮮明に見えるのは、それだけ二人の力が凄まじい事を示す。


「どうやら始まったみたいだね」


「ああ」


 恐怖。


 あの二人のぶつかり合いから放たれた気配だけで、全身から冷や汗が流れ、手が震えるのが分かる。


 その時、俺の手に暖かい感触が伝わってきた。


「ソラ。大丈夫。絶対私が守るから」


「俺も強くなったんだぞ? 今回は俺が守る番だろう?」


「ふふっ。私を救ってくれただけで十分だよ。この戦いで誰一人死なせないから。絶対に」


「そうだな。誰一人死ぬ事なく、光の神に勝って終わろう」


 段々と白と黒のぶつかり合いに近づいていく。


 やがて、肉眼でその中にいる人の姿が見え始めた。


 黒の中には見慣れたサバト様が、白の中には初めてみる女性が見えていた。


 着物と頭には太陽を模して造られた王冠を被っている。


「サオリさん。あれをお願いします」


「ええ」


 サオリさんの特殊な力を使い、ツクヨミ様を降臨させる。


 短い時間とはいえ、ツクヨミ様が降臨すれば、大きな戦力になる。


 瞑っていた目を開くサオリさん――――いや、ツクヨミ様だ。


「ツクヨミ様。よろしくお願いします」


「遂に天照大神との最終戦か…………ソラよ」


「はい」


「必ず勝つんだぞ」


「もちろんです」


「うむ」


「では、カシアさん。予定通りお願いします」


 ずっと瞑想を続けていたカシアさんが目を開ける。


「任せておけ」


 ツクヨミ様の力を受けて、空中に浮かぶカシアさん。


 初めてでもしっかり飛翔が使えるのは、カシアさんの高い身体能力のセンスがあるからだろう。


 激しい激突をしている光の元にカシアさんが真っすぐ飛んでいく。


 小さな光の点となったカシアさんが白い光に激突する。


 触れた途端、とてつもない爆発が起きて、白い光を大きくノックバックさせる。


 どんどんカシアさんが押しのけて、黒い光のサバトさんの追撃も続いて白い光がどんどん押されていく。


 俺達はその足で神の島に急いだ。




 島に着くとミリシャさん達が迎え入れてくれる。


「みんな!」


「「「「おかえりなさい!」」」」


 フィリアが降りると同時にみんなの声が響く。


 そして、ミリシャさんが代表してフィリアを抱きしめた。


「フィリアちゃん。おかえりなさい」


「ただいま。ミリシャさん」


 二人の抱擁が終わると、空の向こうに禍々しい気配の波動が襲ってくる。


 視線の先、空の向こうに白と黒の光が激突を繰り返しながらこちらに向かって来た。


 カシアさんも懸命にサバトさんの援護を続けている。


 繰り返される激突はやがて島の上空にやってきた。


 それと同時に上空から弱弱しい光が地上に落ちて来る。


 ルリくんが受けにいき、落ちて来たカシアさんを受け止めた。


「カシアさん!」


「ソラ……すまん…………後は頼む……」


「ありがとう。必ずや!」


 全身がボロボロになったカシアさんを後方に寝かせる。


 サバト様の力を温存させながらアマテラスをここに連れてくるためにカシアさんは体を張ってくれた。


 それにも応えるようにこれから迎撃に出る。


「みんな! 対光の神――――アマテラス作戦を始める!」


 俺の言葉に続いて、メンバー全員が大きな声をあげた。


 上空で戦っていた二柱の神がどんどん高度を下げてきて、手を伸ばせば届きそうな高さまで降りて来た。


「対アマテラス砲――――発射!!」


 ミリシャさんの号令と共に、島中に待機しているメンバーから特大の闇魔法が発動する。


 『銀朱の蒼穹』メンバー達が全員賢者となり複数人数で大魔法を練る。


 その一組に付き一人、魔女が猫姿のまま特殊な魔方陣を展開させて、その魔法陣が大魔法を吸収する。


 吸収した大魔法は一つに混じり合い、特別な闇魔法となる。


 絆による闇魔法。


 それが対アマテラス用の大魔法である。


 神の島の至る場所から『銀朱の蒼穹』による闇魔法が空を埋め尽くす。


 真っ暗に染まったが神々に降りて来る。


 島の空に轟音が鳴り響いて、二柱の神が神の島に撃ち落とされた。


 全力を込めた闇魔法を繰り出した『銀朱の蒼穹』のメンバー達もまた、その場に倒れ意識を失うのだった。

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