第192話 転職士と弟神

 城の外に吐き出されたスサノオを追っていく。


 神術と思われるバリアを纏って落ちていくスサノオが空中を飛び、お城の屋上に向かう。


 即座に反応してくれたラビが間髪入れず、風魔法で俺を上空に吹き飛ばしてくれた。


 屋上では戦火の音と真っ赤に燃える炎の影が見えた。


「一つ良い情報を教えてやろう」


 スサノオは無表情のまま、周囲を眺め始めた。


「今の女王飛鳥は姉上によって支配されている。が、その姉上も本来の姉上ではない。真都エドを守る四守護と我が持つ宝玉5つを砕く事で姉上を復活させる事が可能だ」


「姉との約束でフィリアを連れて来たと言っていたな? どうして俺に教えるんだ?」


 ずっと無表情だったスサノオが初めて顔を崩して笑みを浮かべる。


「我は姉との約束を果たした。だがこの世界で成し遂げたい事がある。そのためにはこの娘の身体が必要なのだ」


「お前がどのような野望を抱いているかは知らない。でも妻を…………フィリアを返して貰う!」


「ふん。やれるもんならやってみるがいい」


 スサノオが右手を前にあげると同時に、見えない波動が俺を襲う。


 一瞬の出来事に避ける事ができず、もろに直撃を喰らって身体ごと空中に飛ばされた。


 それよりも威力が凄まじい。


 たった一瞬であの速度で見えない波動にたった一撃で全身が痺れる程に痛い。


「これは神術を超えた真神術である。人族が真神術を真似て使う神術とは次元が違うものである」


 宙に浮いた俺の身体に次の波動が襲ってくるが、間一髪でラビの風魔法でさらなる空中に飛ばされる。


 一気に上空に吐き出された俺の身体は空気圧と波動による痛みで一瞬動けないが、あの波動をもろに喰らうよりはマシだ。


 勇者のスキルによって、自然治癒力が増えていて、数秒で動けるようになったので、上空から大魔法を放つ。


 フィリアの身体だからと手加減できる相手ではない事は、最初から分かっていた。


 だから全力でスサノオを止めてフィリアを戻す事を決め込んだ。


 スサノオが上空を飛んで大魔法に触れた瞬間、魔法は魔力の残滓ざんしとなり周囲に広がった。


 理屈は知らないけれど、魔法を魔力に戻している感じか。


 超高速で俺に真っすぐ飛んできたスサノオの大きな太刀が俺を叩き切る。


 勇者のスキル『アルカディア』を発動させて翡翠の短剣に豪炎を纏わせてスサノオの太刀に対抗する。


 たった一撃ぶつかっただけで俺達の周りに空気を押しのける程の威圧感が広がっていく。


 今まで戦ったフィリアの戦闘スタイルとはまるで違う太刀による剣術の間合いが難しい。


 そもそも太刀は槍に近い長いリーチで、相手が剣の場合が多いので間合いが微妙に戦いにくい。


 本来ならこれだけ長いリーチなら懐に潜り込めれば簡単に勝てるのだろうけど、スサノオはそういう隙が一つも見えない。


 それに――――俺を援護してくれるラビとルーの魔法すら一瞬で無効化して、攻撃の手が一瞬でも緩むことなく続いた。




 数分の戦いを繰り返して、スサノオの叩き落としでお城に落とされ激突した。


 レベル10になり、職能も勇者や、サブ職能も賢者やアサシンロードになっているはずで、本来のステータスの数倍にも跳ね上がっているはずなのに、スサノオにはまるで歯が立たない。


 このままでは勝ち筋が見えず、挫けそうになるが、妻を前に諦めたくはない。いや、諦めない。


「ルー! 全力でいく!」


 俺の声に答えて鳴き声をあげたルーの全身から虹色の光があふれ出る。


 次に真っすぐ俺に向かって飛んできたルーが――――俺の身体に入っていった。


 ルーの最終奥義である同化によるステータス底上げだ。


 全身に不思議な虹色の光が纏う。




 次の瞬間。




 お城の下部から淡い水色の玉がスサノオに飛んで来て直撃する。


 魔法を無効化していたのだが、水の玉はそのままバリアで防いでいる。


 攻撃が行われた方向からは、一人の人影で上空に上がってきた。


「神スサノオ。私も相手になりましょう」


「ほぉ…………神ツクヨミか。珍しいな」


「珍しくもないでしょう。私はこの戦争を止めたい派ですからね」


「しかし、最初から出てこなかったのは、その身体に慣れてないからな?」


「残念。そういう訳ではないのです。ソラの覚悟・・を見届けるためです」


 そういい、俺を見つめるツクヨミ様は――――神田家のサオリさんだ。


 彼女は巫女であり、ツクヨミ様を身体に神降ろしの術を行使して、短時間とはいえ、世界に神であるツクヨミ様を顕現させる事ができるのだ。


 実は大都市大坂に滞在している間、サオリさんのレベルを1に戻して、経験値アップを利用して一気にレベル10まで引き上げていた。


 それによって特殊職能巫女の最強スキル『神降ろし術』を使えるようになったのだ。


「ツクヨミ様。助力ありがとうございます」


「構わん。傍観者でいるつもりはないのじゃ。ソラ。お主にも神術を分け与えよう」


 ツクヨミ様が俺に向かって手を振りかざすと、ルーの虹色とはまた違う力が感じられる。


 これは以前練習している神術『飛行術』である。これならラビの風魔法がなくても俺も上空を飛べるのだ。


 そうやってやってきたツクヨミ様と共に、圧倒的な力を見せているスサノオと対峙した。

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