第191話 時間稼ぎ

 最終戦争が続いている間。


 上空では光の神と闇の神が戦い続けていた。


 防戦一方であるサバトに容赦なく雷神術を続けて浴びせていた。


 その時。


 上空の下部から台風に近い風の魔法が光の神を襲う。


 それと共に、ずっと閉じこもっていたサバトが闇のバリアを解いて、球体上のバリアが消え去る。


「やっときたか。精霊の王よ」


「お待たせしました。サバト様」


「良い。それに向こうだって本調子ではないみたいだしな」


 台風に囲まれていた光の神だったが、数秒後白色の炎が溢れ台風を飲み込み消し去った。


「飛鳥め。完全に飲み込まれているな」


「そうみたいですね。光の神の力を全部引き出すには、あれが一番なんでしょうけども……」


「ふん。意識すらなくなったら、せっかく得た力も無意志さね」


「そうかも知れませんね。サバト様! 来ます!」


 精霊王イザベラの言葉通り、飛鳥の神術による攻撃が二人を襲う。


 雷と白い炎が交互に二人に叩きつけられるも、二人もそれぞれの魔法で迎撃していく。


 相殺される事なく、ぶつかり合った魔法と神術はその場で大きな爆発を起こしていく。


「イザベラ! 合わせな!」


「かしこまりました!」


「闇魔法、ディメンションオフゲート!」


 三人のさらなる上空に禍々しい大扉が現れる。


「風神結界!」


 イザベラとサバトを美しい翡翠のバリアで包み込むと、飛鳥の神術が激突してもぴくりともせず耐える。


 その間に、上空の大扉が完全に出現して、開き始めた。


 飛鳥の視線が大扉に向いて、危険を感じたのか、すぐに神術を放つ。


「そうはさせません! 精霊達よ!」


 上空の下に広がっている雲の中から竜巻が現れ、その中に色とりどりの精霊達が飛鳥の周囲に広がった。


 そして、精霊達が一斉に魔法を放ち飛鳥に攻撃を続けていく。


 飛鳥のけん制も空しく、大扉を止める事はできずに完全に開いた。


 中には禍々しい空間が広がっていて、海のように波が見えていた。


 そして、中から無数のどす黒い触手が無数に溢れ、一斉に飛鳥に向かう。


 飛鳥は自分を襲う触手を全て避けながら神術でけん制を続ける。


「これで数刻は持つはずじゃ。イザベラ。次の作戦を実行するぞ」


「かしこまりました!」


 上空に開かれた大扉から放たれる無数の触手が飛鳥を追う間、サバトとイザベラは戦線を離脱した。


 それに気づいた飛鳥だったが無数の触手から逃れる事ができず、避け続けるのであった。




 ◇




 エド城の最上階。


 俺の前にはフィリアの身体を乗っ取っているスサノオが見えていた。


「お前は一体どういう存在なんだ?」


「ここまでたどり着いた其方の勇気を称えて教えよう」


 サオリさんに聞いたことがある。


 中央大陸には侍という剣士が存在しているが、侍は忠誠心が強く、自分が一度主と決めた存在には一生仕える定めとなっているそうだ。


 彼らはそれ程までに気高く、大陸中で最も栄誉があり、憧れでもある。


 それらを総じて武士と呼び、武士は誇り高い存在であると。


 目の前のスサノオからもどこか誇り高い気配を感じられるのだ。


「我はスサノオ。光の神、天照大神あまてらすの弟に当たる」


「という事は、お前も神なのか?」


「如何にも」


「神がどうしてフィリアの身体を乗っ取っている?」


 そもそもフィリアに乗っ取られる理由がないはずだ。


 きっと誰でも良いはずではないから。


「この娘の正体・・は知らないようだな」


「正体?」


「娘がどういう生まれで、どういう存在なのかすら知らずに、愛だの口にしているのか。我からすれば滑稽の何モノでもない」


「…………」


 スサノオの言う通り、俺はフィリアの出生について何一つ知らない。


 俺達が育ったセグリス町で孤児であったフィリア。幼馴染である事で、長い時間共にしていたが、その前の事は知らない。


 それは――――彼女自身も知らないはずだ。


「お前はフィリアの出生の秘密を知っているんだな?」


「もちろんだとも。我はそこにこそ存在する神である」


「…………なら、それを教えて貰える存在だと証明すればいいんだな」


 スサノオが笑みを浮かべる。


「力を示せ。我を超える事ができれば、娘の過去を話してやろう」


「いいだろう」


 俺はラビとルーを呼び出し、剣を握りしめた。


 目の前には最愛の妻フィリア。


 彼女とは何度も稽古を行った経験がある。


 でも、今の彼女からは本気で俺を殺そうとする殺気を感じる。


 それ程にスサノオは俺を本気で殺すのだろう。


 神と名乗っているスサノオは、フィリアとは違う強さを感じる。


 きっと、この世界で使われている神術の類なのだろう。


 スサノオが右手をあげて、俺に向けて指を動かして挑発してきた。


「フィリア。必ず助ける。待っていて――――ラビ! ルー! 行くぞ!」


 俺の号令と共にラビとルーも展開してスサノオに襲い掛かった。


 メイン職業は勇者に切り換えている。


 最上級職能の中でも、最も強いとされる勇者は、そのステータスだけでなく、数多のスキルが発動して今までの俺とは比較にならない程に強くなれる。


 しかし、それ程までに強くなった俺の一撃をスサノオは簡単に止めてしまう。


 俺の手が止められている間に空中からラビの風魔法がスサノオを襲う。


 しかし、もう片方の左手で神術を発動させて風魔法を相殺させる。


 その隙にスサノオの腹部に蹴りを入れ込むも、既に動きが読まれていて簡単に避けられた。


 ラビとルーと連携しつつ、スサノオに攻撃を続けていくが、どれも有効打にはならず、全て避けられる。


 全ての攻撃がまるで読まれているかのように避けられる事に一つ違和感を覚える。


 それは、スサノオに近づくと肌にまとわりつく空気感だ。


 恐らく、その空気に触れる事で、俺達の行動を読んでいると思われる。


「ラビ! ルー! 遠距離!」


 ラビとルーが広間の端に移動して大魔法を唱え始めた。


 俺もスサノオから距離を取って、サブ職能に同クラスの職能を設定できるようになった賢者の力を使い、大魔法を発動させてスサノオに放った。


 三位一体の魔法の攻撃にさすがのスサノオも避けられず、不思議なオーラのバリアを展開する。


 大魔法がスサノオに直撃して、大きく吹き飛んだスサノオは壁を突き抜けて外に吐き出された。

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