第189話 暗殺女王と白虎
エド城の攻防戦が繰り広げられている間。
3階では和服を着こんでいる可愛らしい少女と、メイド服の可憐な少女が対峙していた。
「指名してくれてありがとう? 私はルナだよ」
「…………
「ビャッコちゃん? ごめんね。女の子の名前にしては不思議だね」
「…………女じゃない」
「…………」
白虎の言葉に一瞬ルナの思考が停止する。
「ええええ!? ほ、本当!?」
ルナの質問に白虎は小さく頷いた。
「うちの大陸でも女性服を着た男性もいるだろうし、そういうもんかな。でも可愛らしくてびっくりしちゃった」
「…………君の方がかわいい」
「えっ!? えへへ~ありがとう」
可愛いと言われるのが最も好きでもあるルナは、満面の笑みを浮かべた。
だが、次の瞬間。
白虎の目が大きく見開いた。
「僕は可愛い女の子をなぶるのが大好きなんだ~!」
突然の大声と共に、白虎がルナに飛び込んだ。
白虎の素早い動きは、どこかルリにも匹敵するかのような速さを感じたルナだったが――――
「残念。速さで私には勝てないよ?」
白虎の手に持っていた藁人形で殴りつけたのだが、その場にルナの姿はなかった。
「…………ちっ」
「舌打ちなんて、可愛らしい外見なんだから、もう少し言葉使いを」
「黙れ!」
振り向いた白虎から大きな炎の玉が飛んでくるが、容易く避ける。
「やっぱり、君って戦士タイプじゃないでしょう」
「ふん。これから僕がなぶってやるんだから!」
左手に持っていた藁人形を地面に叩きつける。
それと同時に懐から小槌を取り出して、力強く藁人形に叩き込んだ。
藁人形の中心を貫いている大きな釘に小槌がぶつかった瞬間に周囲に不思議なオーラが現れ、様々な動物の形を成していく。
何度も叩き込み――――30体にも及ぶオーラの動物を作り出した。
「さあ! あの女を捕まえてこい!」
白虎の命令で一斉に走り込む動物。
それぞれがオーラでできているはずなのに、動く音じゃ地面を蹴り上げる音が響く。
真っ先にルナにたどり着いた虎が噛みつくが、間一髪の差で避けるルナ。
次々噛みつきや爪の引っ掻きを避けていると、上空から大きな鷲や鴉がやってきて虎と連携攻撃が始まる。
お互いに意思疎通が取れているかのように連携が続く。
少しずつルナの衣服が破けていく。
けれど、一撃たりともルナを捉える事はできず、ぎりぎり避けられていく。
その姿を見た白虎が怒りだした。
「もう! 何してるんだよ! 女一人まともに捕まえられないのか!」
30体にも及ぶ動物達の連携を当たりそうになりながらも寸分違わない距離で避けていくルナ。
「だがそいつらは疲れない! このままではお前はいずれ捕まるぞ!」
「そうか。じゃあ、消してしまおうか」
「……は?」
白虎が間抜けな言葉を発した次の瞬間。
オーラでできた動物達が一斉にその場で散っていった。
「まぁ、こんなところかしら」
「っ!? …………糸?」
「へぇ、戦いの時は意外と冷静なんだね」
「なら、これはどうだ!」
左手に持っていた藁人形を宙に投げて落ちるタイミングに合わせて、右手に持っていた小槌で藁人形を叩き込んだ。
叩き込まれて吹き飛ばされた藁人形から白いオーラが溢れる。
「神廻解放! 白虎!」
藁人形には虎の形を持ったオーラの鎧が作られ、まるで生きているかのような虎となり、ルナに襲っていく。
その場から逃げるルナだが、思いのほか素早い動きに少しずつ距離が縮まっていく。
「あはははは~! どうだ! 僕の最強の力なんだ! このまま君をなぶり殺してやる!」
白虎の自信満々の高笑いが響くと同時に、ルナが虎の前脚で叩き込まれ、そのまま壁に直撃した。
「くっ…………」
致命傷は避けられたものの、右手を負傷したルナが急いで起き上がる。
その目の前で虎が容赦なくルナに襲い掛かる。
ルナの反撃も空しく虎には一切攻撃が効かず、逆に虎の猛攻にルナは傷を増やしていく。
「仕方ないね。これ以上だと、本当に私、死んじゃうから。はぁ……力は温存しておきたかったんだけど」
「負け惜しみを! すぐに僕がなぶってやる!」
「そうね。思っていた以上に君が強くてびっくりした。でも私もソラお兄ちゃんから最強の双璧の称号を貰っているからね。ここで負けるわけにはいかない」
「ふん! 今すぐそいつを叩き潰せ!」
白虎の命令に虎は大きな咆哮を放つ。
圧倒的な力により、空気すら周囲に圧されて衝撃波となり広がっていく。
そんな中、高笑いを続ける白虎。
虎の最後と思われる攻撃が始まった。
その刹那、ルナの身体に禍々しいオーラが一瞬立ち上る。
「
ルナを叩きつける虎の前脚。
だが、その攻撃がルナに届く事はなく、ルナは虎の鼻の上に立っていた。
「私の力は限定的だけど、力を発動した半径百メートル以内なら――――神速になれる」
虎は自身の顔に両手を叩き込むが、叩き込んだ両手の上にルナが立つ。
「残念。もう攻撃は当たらないわよ?」
全身から禍々しいオーラを放つルナは、視線を白虎に戻す。
高笑いから余裕がなくなり、目を凝らして自身を見つめていた。
その姿に、普段はプライドが高く見えて、実は冷静沈着な彼の性格に小さく笑みがこぼれた。
子供だからこその性格なのだと思うルナ。
瞬きすら許されない刹那。
ルナは
白虎も虎もまるで時間が止まったかのように動かない間を、ルナは一歩ずつ歩いて白虎に近づいていく。
きっと、今の白虎に自分の
だからこそ、目を凝らしている白虎の顔を覗き込んで小さく笑みを浮かべた。
「残念。さよなら」
ルナの言葉が彼に届く事はない。
止まった世界で、白虎の命は尽きたのだから。
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