第187話 獣王と玄武
エド城の攻防戦が繰り広げられている間。
1階ではカシアと大きな身体を持つ男が対峙していた。
「私はカシア。見て分かると思うけど、獣人族だぞ」
「わしは玄武という。エド城四守護の一人じゃ」
「お前さんはここで何を守っているのだ?」
「ほぉ……それを見抜くか」
感心したかのように顎に手を当てて初めて見る獣人族の娘を眺める。
懐に手を入れて、何かを取り出す。
青色に輝く小さな宝玉を取り出す。
「これが守護宝玉の一つだ。全部で五つあり、これを全部手に入れたら天照大神様を止められるだろう」
「それを言う程に自信があるのか」
「もちろんだ。俺達守護は負けん」
宝玉を再度懐にしまうと玄武から圧倒的に力が周囲に広がっていく。
それだけで普通の人よりも数倍強いのがひしひしと伝わってくる。
最上級職能の中でも弱い部類と言われている獣王であっても、最上級職能である事に違いないカシアですら、その威圧に少し肌が震える。
銀朱の蒼穹の強者と何度も対峙してきたカシアは、感覚だけで目の前の相手が格上である事を察知した。
「来ないのか? 小娘」
「ふん。なめていると大怪我するぞ? おっさん」
カシアが先手を撃つ。
闘気を纏ったカシアのパンチが玄武に直撃する。
鈍い音が響き、音に遅れて周囲に爆風が散っていく。
だが、その攻撃をもろともせず、玄武は笑いを浮かべて見下ろした。
「ちっ!」
次々連続攻撃を仕掛けるが、玄武は眉一つ動かさず全て受けても傷一つ付かなかった。
「ふん!」
連続攻撃をかいくぐって玄武の重苦しい一撃がカシアの腹部に当たり、広間の壁まで吹き飛ばした。
頑丈な作りになっている壁にすら亀裂が走る程の衝撃が威力を物語っていた。
「そんなへなちょこパンチではわしは倒せんぞ? 小娘」
「がはっ…………」
大量の吐血がカシアの地を染める。
「そんなものか? 小娘」
「…………私は『銀朱の蒼穹』の幹部の一人だぞ。こんなものでは倒れない」
「ほぉ……」
「確かに普通の強さ以上のモノを持っているみたいだな。おっさん」
口元に流れる血を拭きとって、口の中に溜まった血が混ざった唾液を吐き出す。
両手を合わせたカシアから赤いオーラがあふれ始める。
「では、本番と行こう」
先程とはまるで違うスピードの動きに、一瞬玄武の表情が驚くが、驚く間もなくカシアの攻撃が次々飛んでくる。
防ぐ程でもなかった攻撃だったはずが、初撃から腕で防ぎ始める。
「防いだって事は、
「ふん! やるな、小娘!」
だが玄武も負けじとカシアの攻撃の合間に攻撃を差し込んでくる。
お互いに武器はなく、素手による殴りと脚による蹴り。純粋な肉体の力だけで戦いは、体だけとは思えない程の鈍い音を周囲に響かせる。
空を切る攻撃にすら風を叩く音が二人の高次元の戦いを物語っているかのようだった。
戦いは拮抗しているかのように見えていたが、オーラを発動させたカシアの方が一枚
数分にも及ぶ止まらない戦いが続いた後、二人は一旦距離を取って息を整えた。
最初とは違い、今度は玄武の方が傷だらけの姿になっている。
「…………いいだろう。こうなったのならわしも解放せざるを得ないか」
玄武がその場で跪き、右腕を地面に突き刺して目を瞑った。
「っ…………これはまずいな」
カシアは彼から感じられる威圧感に小さく言葉を投げ捨てる。
玄武が突き刺した地面から真っ青のオーラが溢れ、玄武を包み込む。
オーラは次第に形を持つようになり、玄武の身体には真っ青のオーラによる鎧のようなモノが灯るようになった。
「
言葉と共に周囲に衝撃波が放たれ、カシアの身体ごと吹き飛ばした。
「ちっ…………それが本当の力というわけか」
「そうだとも。寧ろ、この力を引き出した事を称賛しよう。我ら四守護以外でこの力を出せる相手が存在するとは思わなかった。だが、其方らがここまでたどり着いた事を思えば、不思議でもなんでもないか」
「へっ。小娘はやめたのか?」
「当然だ。其方はわしから神廻解放までたどり着いた者だ。認めざるを得ない」
「……ふっ。いいね。強敵をちゃんと認める所。そういうとこが敵なら私も嫌いじゃないよ。――――では私も
「ほぉ……」
壁に激突したカシアは何ともないと言わんばかりにゆっくりと前に数歩歩き、その場で目を瞑った。
その一瞬、玄武の超高速移動によりカシアの目の前にやってきた。
「敵を前に目を瞑るなど、愚か」
無防備なカシアの顔面を捉えた玄武の殴りが当たる直前。
玄武の身体が大きく後方に真っすぐ吹き飛んだ。
「!?」
「…………少しは紳士的だと思ってたけど、そうでもなかったな。おっさん」
力なく壁に激突した玄武が真っ赤に染まった目でカシアを見つめる。
「それはなんだああああああ!」
「へぇ。神廻解放とやらは感情でも高ぶるのか? それならあまり戦いに向いてないぞ。ほら、私とは真逆だな」
カシアの身体から溢れていた赤いオーラは色を変え――――金色に輝いていた。
「最上級職能の限界を超えた力――――それが『銀朱の蒼穹』の最凶の力、『
「り、リミットブレイク!?」
「ああ。私達のボスの力だ。魔女様曰く――――神すら殺せるらしいぞ」
「なんだと! 神の冒涜は許されない!」
「ふっ。もっと冷静に――――」
カシアの身体が一瞬揺らいだ次の瞬間に、玄武の目の前に現れる。
「――――なれよ」
カシアの言葉が終わる頃には玄武は目で捉えられないまま壁を突き抜けて外に投げ出された。
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